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今後の相談

 地上に戻った僕たちは、迷宮組合ラビリンスギルドの二階の一室に集まっていた。

 

 

 査問会で使われた会議室とは違い、こちらは十人も入れば窮屈に感じるほどの部屋だ。

 迷宮深層の情報を外部へ漏らすことは、固く禁じられている。

 この小部屋は気兼ねなく攻略の相談等が出来るようにと、組合から提供されているうちの一室だった。


 無料で借りられる上に組合の食堂から軽食を出前できるので、それなりに人気が高く予約は週末まで埋まっていることが多い。

 今回借りられたのは、金板ゴールドプレートお二人の存在が大きかったのかもしれない。



「……で、どう思う?」

「確かにこれは怪しいな」

「ふぉむ。ワシには違いがよく分からんのう」

「いや、これは間違いなく黒だと思う」

「おいおい、お前ら。それは今、大事なことなのか?」

 

 髭にクリームをつけたまま、ドナッシさんが呆れた声で呟く。


「ギルドの不正という点では、非常に大事だと思うぞ」

「そうじゃのう。確か店で買えば六個詰め銅貨20枚。食堂の取り寄せが25枚。銅貨5枚が闇に消える計算じゃ」


 パーティメンバーたちの反論に、ドナッシさんは備え付けのテーブルを拳で強く叩く。

 そして力強く正論をぶちまけた。



「どうでも良いだろ! シュークリームの値段なんて」


 

 全く以てその通りだ。


「でも、これやっぱり迷宮堂のシュークリームと同じ味だぜ」


 出前で取り寄せた食堂のデザート、シュークリームと香茶セットを味わいながら、セルドナさんが不満げに声を上げた。

 迷宮堂とは迷宮都市グルメマップリポートによると、この迷宮都市がまだ街レベルだった時からの老舗で、古くからのファンも多い星三つのお菓子屋さんだ。


「で、どうなんだ? ミミ子」  


 僕の膝の上で、大人しくシュークリームを食べていたミミ子に尋ねる。

 クリームが後ろからはみ出さないように、予め少しだけ吸い取ってから食べるその姿勢はプロ意識の表れだろうか。

 嬉しそうにもぐもぐしていたミミ子は、耳を少し倒して面倒臭そうに僕を見上げる。


「本家に比べると、ちょっとクリームのコクが足りないかも。でも皮の薄さは遜色ないし、たぶん職人を引き抜いたんじゃないかな~」


 しっかり答えてくれる辺りに、ミミ子の拘りみたいなモノを感じる。


「ミミ子ちゃんがそう言うなら、あってるんだろうな」

「うーむ。本家より高くなるのは納得いかんのう」

「ところでないって言えば結局、六層階段の鍵もなかったな」


 あ、そこに繋げるのか。

 六層への階段は、実はあっさり見つけていた。

 いや階段を見た訳ではないので、正確には階段があるだろうと思える場所だけど。

 

 五層の終世神の神殿裏手に回ると階層の壁に扉があり、ご丁寧に注意書きが添えられていたのだ。

 正規の鍵以外の使用を禁ずると。それもわざわざ、迷宮組合の署名付きで。


「つまるところ、あそこの鍵を手に入れないと下へ進めないって事だな」

「ニニさんとメイハさんは、お持ちじゃないんですか? 鍵」


 僕の質問に、優雅に香茶の香りを楽しんでいたメイハさんが、困ったような笑みを浮かべる。


「残念だけど、昔の私が行けたのは第三回廊までなのよ」

「そうですか。ニニさんはどうですか?」

「私も鍵は見たことがないな」

「となると、やはり――」

暗闇空間ダークゾーンの奥が怪しいな」


 ソニッドさんが僕の言葉を引き継いで結論を述べる。

 まあ、あの場所以外の心当たりもないので当然の帰結という奴か。


「しかし、あれをどうすれば突破できるんだ……」

「それですが、何とかなるかと思います」

「本当か!!」

「ってミミ子が言ってます。任せたぞ、ミミ子」


 身を乗り出して顔を寄せて来たソニッドさんに、僕は膝の上のミミ子を軽く持ち上げて盾代わりにする。

 なぜかニニさんが、横から両手を差し出してきたので無視する。

 この部屋に入った直後も、さりげなくミミ子を膝に抱っこしようとして、逃げられたのに懲りてないな。


「う~ん。たぶん行けるはずだよ~」

「どう行けるんだ?」

「こないだ寝てる時に、これ思い出したから」


 そう言ってミミ子は小さく指を鳴らした。

 いや、鳴らしたつもりっぽいが音はしてない。

 握力が足りてないので鳴らないんだろうなと思っていたら、その指先から小さな光がふわりと現れる。


 フワフワと浮かぶそのオレンジ色の光は、ミミ子の指の動きに合わせて空中をゆっくりと泳ぐ。


「これは?」

「『狐火フォックスファイア』だよ、ゴー様」

「明かりは意味がないんだぞ」

「うん、見てて~」


 宙をさまよっていた狐火は、やがて部屋の壁まで辿り着く。

 そのままぶつかって消えるかと思ったが、器用に寸前で止まりそのまま壁に沿って動き続ける。

 クルリと部屋を一周してきた灯は、僕の前まで飛んできた。


 手の平を差し出すと、狐火は指一本ほどの隙間を空けてその上に留まる。

 ろうそくの火のようなほんのりとした暖かみを感じていると、ゆっくりと灯は消え去った。


「ふむ。そうか熱か」

「そうだよ~。明かりがなくても暖かさは感じるでしょ?」


 今の挙動を見ているとミミ子の『狐火』とやらは、障害物を避ける性能があるらしい。

 つまり暗闇の中でも、真っ直ぐに回廊の出口まで案内できるという訳だ。

 ただ納得いかないのは、技能を思い出しただけでなんで尻尾が増えるんだ。

 順序が明らかにおかしいだろ。この件は後日、きっちり問い詰めねば。


「それを頼りにすれば良いってのは分かったが、亡霊ファントムの方はどうすんだ? そっちの方が大変だろ」


 一度見ただけで理解してくれたのは、流石のリーダーだと思う。

 ソニッドさんの問い掛けに、僕は暗闇に足を踏み入れたあの時のことを思い出しながら答える。


「それは僕が大丈夫だと思います」

「本当か?!」


 またもアップで顔を寄せて来たソニッドさんを避けるために、ミミ子を持ち上げてガードする。

 ニニさんの手は無視する。


「その……僕は、親しい人を亡くした経験がないので……」

「そういや坊主は、全然悲鳴あげてなかったな。リーダーと違って」

「おっ、俺は背負ってきたもんが色々あんだよ! そっか、小僧はまだ若いからな」


 あっ。

 今、メイハさんの周囲の空気の温度が、明らかに下がった気が。


「そんなことないですよ。皆さんもまだまだお若いですよ」

「ふぉっふぉ。世辞と分かっていても嬉しいものじゃな」


 いやラドーンさん、まだ五十代だったような。その変な笑い方が駄目だと思う。


「よし、真っ暗回廊を抜ける算段は何とかなりそうだな。あとはその先か……」

「やっぱり、何かあるんでしょうね……」

「ああ、用心ってのは幾らしても無駄にならないからな。ちょっとしつこいくらいで丁度良いんだ」


 という訳で、編成と準備の相談に入る。

 小隊パーティは基本五人までなので、今回は僕とミミ子、ニニさんとメイハさん、それとソニッドさんの五人で挑戦となった。

 入手できる鍵が一回で一個だけなら、後日僕らとソニッドさんたちで再挑戦するということで話はついた。

 

 それと火力不足の心配は、リーダーが何とかしてくれるそうだ。

 ただ三日ほど、時間が掛かるのだとか。 

 なので五層奥への挑戦は、週末の決行となった。


 久しぶりに女の子たちと、のんびりするのも良いかも。

 

 なんてことを考えていたら、部屋を出る前にニニさんに呼び止められた。

 そんなにミミ子を抱っこしたかったのかと思っていたら、耳元にさりげなく口を寄せられる。



「――少し、話を聞いてくれるか?」



狐火フォックスファイア』―精霊使いエレメンタラーの火精使役術。障害物を避ける習性がある追尾弾。レベルが上がると強力な火に

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