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レベル上げ開始

姫様と従者プレイはやってみたら意外とハマるでござる

 朝目覚めて軽く伸びをしてから、中庭の井戸で顔を洗い歯を磨く。

 タライに水を汲んでミミ子のベッドまで運び、眠ってる少女の顔を拭い歯を磨く。

 ついでに寝癖を撫でつけ、パジャマから迷宮用装備に着替えさせる。


 ミミ子の装備は布の服上下にローブのみ。

 ただしこの『防刃のローブ』は、均衡キープの法術が授与アワードされており、かなりのダメージ軽減力を誇る。

 魔法具アーティファクトとしてはそこそこのモノだが、僕のお下がりなので安くついた。

 それにミミ子の目立つ容姿を隠すのにも、このフード付きローブはぴったりだ。

 亜人であの美貌で奴隷と絡まれる要素てんこ盛りだし、そもそも素性を隠すのはミミ子からの希望だった。

 

 僕の方は迷宮蜥蜴メイズリザードの皮鎧一式を、緩みや傷みがないかチェックしつつ身に付ける。

 この皮鎧は魔法具アーティファクトではなく只の鎧だ。しかもそこそこ安い。

 どんな防具でも使用すれば、それなりに損耗してしまう。

 二層ごときで貴重な魔法具アーティファクトを身に着ける気はさらさらない。


 血止め薬と痛み止め、解毒薬などの薬品ポーションが入ったポーチを腰につけ、発光石のランタンを二つ、ロープ、水筒と非常食の乾パン等をリュックに詰める。

 半分起きたミミ子に靴を履かせリュックを背負わせると、そのミミ子を僕が背負う。



 しっかりと鍵を掛け、僕らは迷宮に向けて出発した。



 毎朝、家を出るたびに少し感動してしまう。

 確かに街の端っこの方だから、金貨7枚とかなり安い家だった。

 でも、低レベル時代のすし詰め状態だった下宿生活を思い返すと、今の暮らしは天国のようだ。

 

 ときたまふと、あのまま田舎でくすぶっていたらと思うことがある。

 きっと今でも芋を掘ってるだろうな。

 でもここに来たお蔭で、この歳で家を持つことが出来た。

 可愛い奴隷もいるし、あとはミミ子の胸がもうちょっと育ってくれたらいうことなしだ。


「ミミ子、今日は何食べたい?」

「う~ん、甘いスープが飲みたい」

「じゃあ、ミラさんのお店行こうか。今週は白雛豆のスープだったはず」


 僕の朝ごはんはずっと黒パンと水だったが、ミミ子に与えたところ三日目で食べなくなった。

 狐耳のくせに猫みたいなやつだ。

 仕方ないので朝食は迷宮への道すがら、ミミ子が気まぐれで選ぶお店で食べる習慣になった。


「戴きます」

「いただきま~す」


 ミラさんのお店は、横幅の広いおばちゃんがオーナー兼シェフの店で、売りは幅広い食材をちょっとひと手間かけましたってとこかな。

 今日の白雛豆のスープも豆特有の臭みは微塵もなくなっており、甘くすっきりした味わいに仕上がってる。

 ふわふわの白パンと一緒に食べると凄く美味い。

 まあモサモサな黒パンも僕は嫌いじゃないけどね。

 

 カラフルな見た目の具だくさんポテトサラダや、黄辛子マスタードがたっぷり添えられた特大黒ソーセージを見ると、この都市は本当に豊かだなと感動する。

 芋しかなかった僕の田舎とは大違いだ。

 この街は毎日、大量の食材が運び込まれ消費される。

 そして迷宮から出た大量の素材が加工されて、運び出されていく。

 その渦の中に自分がいることが、たまに少し不思議になる。


「ミミ子、しっかり食べて早く大きくなれよ」


 そう言いながら僕は自分のポテトサラダの皿を、そっとミミ子のプレートへ移した。

 こんなに種類が豊富なのになんで毎回毎回、芋が出てくるんだろうな。

 


 食事を終えて迷宮組合ラビリンスギルドのロビーに着くと、朝のラッシュが終わったのかそれほど混雑していなかった。

 だが奥の壁の掲示板前は、相変わらず人が多い。

 

 特に素材掲示板は、かなりの人だかりで近寄ることも難しい。

 皆、今朝の素材の買取り指数に夢中のようだ。

 ちなみに素材掲示板は欲しい素材の要望が載ってるとかではなく、各素材の需要を数値化した買取り指数一覧が貼り出されているだけだ。

 この買取り指数というのは、各職能ギルドの素材買い取り額から算出されており、数値が高いほど高く買い取って貰える。

 もっとも大量に持ち込まれた場合は割りと簡単に値下がるので、駆け引きや推量が必要となってくる。


 その横の募集掲示板は流石にこの時間、人影は疎らだった。 

 こちらは文字通り、小隊パーティ徒党リングの成員募集を貼り出す掲示板だ。

 他人の集まりにあまり興味がないので、僕はじっくり見たことがない。


 そしてそこそこ人が固まっていたのは、一番端の予報掲示板だった。 

 

「おはようさん、今日も眠そうな目してんなぁ」

「おはようございます、サラサさん」


 掲示板の傍に立って難しい顔をしていた妙齢の女性が、僕を目ざとく見つけて声を掛けてきた。

 サラサ・オーリンさんは迷宮の情報を分析して、お知らせしてくれる迷宮予報士をしている。勿論、迷宮予報士は歴としたギルド職員であり、彼女の宝箱予想はよく当たると評判だった。でも僕からすれば、レベル1のころからよく話しかけてくれる気さくなお姉さんといった印象の人だ。

 今日も綺麗な黒髪を束ねてポニーテールにしており、黒縁眼鏡がよく似合っている。


「今日も絹糸狙いなん?」

「最近ちょっと下がってきたので、今日は止めときますよ」

「そっかー、それなら猫か鳥がおススメやね」


 サラサさんはこっそりと、僕に迷宮情報を耳打ちしてくれた。

 なぜか彼女はこんな感じで、たまにお得データを教えてくれる。

 猫は剣歯猫サーベルキャットで、鳥は大闇烏ダーククロウを指す。

 猫の方は嗅覚追跡もあるので、ここは鳥一択だな。


 お礼を述べた僕はミミ子を引っ張って、中級レベルの受付カウンターへと向かう。

 おんぶするのは移動中か迷宮内だけで、こういった場所では手を繋いで歩くようにしている。目立つからね。

 

 レベル3になって良かったと思ったことの一つは、この受付の区分けだった。

 専属担当がつかないレベル2までは、迷宮探求許可申請書を自分で書いて出さなければならない。

 さらに混んでる時間だと、その受理に延々と並ぶ羽目になる。

 その上、読み書きができないと代筆料まで取られてしまう。


 だが今は担当のリリさんがいるので、その手間はすべて過去のモノとなった。


「お早うございます、本日はどうされますか?」

「今日は二層で大闇烏ダーククロウを狙う予定です」

「そうですか。そろそろ三層への挑戦はいかがですか? 午後からでしたら空きのある小隊パーティをご紹介できますが」


 リリさんはこうやって、ちょくちょく三層へ行くことを勧めてくれる。

 ギルド的にはさっさと下層へ潜って、もっと高価な魔法具アーティストや素材を集めて欲しいんだろうなぁ。


「いえ、お誘いは有り難いのですが、もう少し地力をつけてからと考えてますので」

「分かりました。では本日はお二人での二層探索で処理いたしますね」

「お願いします」


 申請が終わった僕たちは、迷宮入り口前の武器預かりカウンターへ向かった。

 カウンターの職員さんにレベル3からシルバー製になった探求者認識票プレートを示し、預かって貰っていた弓矢を受け取る。

 

 この迷宮都市では、普段時の武器の所持は都市警邏隊しか認められていない。

 他所から来た場合でも、門衛所に武器を預けないと入街できないようになっている。

 

 探求者たちの武器も、すべて迷宮組合ラビリンスギルドが管理するよう定められており、迷宮を出入りする際はこのカウンターで預かってもらう。

 代わりに武器のメンテナンスはやって貰えるし、矢の補充までしてくれる。

 そこら辺は、別途お金が取られるけどね。


 武器を受け取った僕は、リュックを背負ったミミ子を引き連れて迷宮の門をくぐった。

 そうそうミミ子は一応、荷運び係ポーターで申請している。

 精霊使いは数が少ないから、目立ってしまうのだ。


「今日も稼ぐぞ、ミミ子」

「今日もガンバらないぞ~」

「頑張ろうよ」


 やる気が全く見えないミミ子をなだめすかしながら、奥の狩場へ向かう。

 だいたいお昼前には着けるだろう。もし先客がいたら、芋虫かトンボに変更しますか。

 その前に昼食を取るのも良いな。

 

 お昼のお弁当は、ミラさんのお店で買っておいたサンドイッチだ。

 僕はずっと乾パンでも良かったんだけどね。

 

 正直、ミミ子が来てから食費がかなり掛かるようになった。

 安いミラさんのお店の朝定食でも銅貨15枚、サンドイッチも銅貨10枚する。

 ちなみにそれまで僕が食べていた黒パンは銅貨1枚で、乾パンなら銅貨2枚だ。


 それに今はミミ子の経験値稼ぎがメインになってるので、宝箱狙いのお金稼ぎも中断している。

 奴隷を買うために使った金額は、家の購入金貨7枚、『天資の宝珠』金貨15枚、ミミ子のお代が金貨12枚で計金貨34枚。

 二年間の稼ぎはあらかた消えた計算になる。


 現在手元には、当面の生活費として残した金貨2枚。

 奴隷と契約したら装備させようと残しておいた魔法具アーティファクトが17点。

 それだけしかない。


 最近の儲けは黒絹糸の買取で一束が銅貨100枚。

 一日頑張って二十束くらいが限度の為、稼ぎは銅貨2000枚だ。

 銅貨100枚で大銅貨になって、大銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨40枚で金貨1枚換算のため、単純計算で二十日で金貨1枚は稼げる。

 武器や防具の損耗補填、道具の補充、怪我の治療費なんかを考えると儲けはザッと見積もって一ヶ月で銀貨25枚と言ったところか。

 それにあんまり売りすぎると黒絹糸も値下がってしまうし、狩場がたまに埋まってる場合もある。

 次の奴隷が買えるのは、やはり少し先の話になりそうだ。


 まあ素材を売れば生活には困らないし、どうしてもお金がいるなら残してある魔法具アーティファクトを売ればいい。


 今の僕はあくせく稼ぐよりも、この巻き戻しのない日々が凄く気楽で楽しかった。

 ミミ子と二人でのんびりやってるのが、こんなに心が落ち着くとは思っていなかった。



 でも楽しい時間は長くは続かないものだ。

 その事件はある日突然、僕の平穏な生活に訪れた。




均衡キープ』―護法士モンクの第三階梯真言。ダメージを全体に割り振る

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