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査問会その1

リアル知り合いが始めたと聞いてゲーム内で出迎えたら、キャラ名が本名そのままだったので慌てて注意したでござる。

 迷宮組合ラビリンスギルド本部、二階にある会議室では今まさに本日、三度目・・・の僕の糾弾が始まっていた。


 

 部屋の入り口側に置かれた椅子には、僕とミミ子が当事者として座らされている。


 僕から見て楕円形のテーブルの右側には、職能ギルドの代理人たちの顔触れが並ぶ。

 彼らは迷宮から生み出される富に大いに関係しており、その利害得失には非常にうるさい方たちである。

 今回は敵でも味方でもない、微妙な立ち位置の人たちだ。


 対してテーブルの左側に座るのは、ギルドで実務を担当している職員の方々。

 見知らぬ人もいるが、だいたいは顔を見かけたことがある人たちばかりだ。

 と言うかがっつり知り合いの方も、真面目な顔で座っていらっしゃる。

 今回の僕の味方となる人たちだ。


 そして楕円形のテーブルの一番奥、こちらに正面を向けて座る二人。

 一人はこの迷宮都市の護法僧院の代表者の一員であり、探求者倫理査問会の議長を務めるロンダン中僧正。

 もう一人は、西区の創世教会を代表するカリナ・セントリーニ司教。

 副議長を務める彼女こそが、今回の僕の強敵だった。


 

「さて被告の問題行為として、まず挙げられるのが三ヶ月前の探求活動だ」


 ロンダン議長が淡々と、僕の過去の過ちを述べていく。


「当時の彼はレベル3に昇格して僅か二ヶ月。にも拘らず四層での活動を始めている」

「それは別に問題には、ならないのではなくて?」


 カリナ副議長の指摘に、議長は重々しく頷いて言葉を続ける。


「確かに五人小隊パーティなら、何ら問題はないでしょう。だがその時、被告と行動を共にしていたのは彼の所有する終身奴隷一名のみだ」


 静かになったテーブルを見渡して、議長は余計な情報を付け足していく。


「レベル3の被告に追従していた亜人奴隷の少女のレベルは1。彼ら二人だけで、四層の一角猪ホーンボアー相手に戦闘行為を仕掛けていたと報告が上がっている」


 職能ギルドの方たちの席から、小さくどよめきが漏れる。

 少し懐かしく、あの頃を思い出した。 

 そうあれは角の矢ホーンアローが安く欲しくて、ミミ子と二人で四層に角取りに行ったんだっけ。

 まだカマキリ弓を持ってなくて、ちまちま矢を撃って倒してたから苦労したなあ。


「つまりレベル3とレベル1の二人だけで、四層のモンスターに挑んだという訳ですか?」

「ええ、そうなります」

「あり得ない話だが――」

「それは余りにも無謀すぎるのでは――」


 職能ギルドの方々が、口々に感想を述べ始める。


「たまたま絡んできたのから逃げてたのを、見られたとかじゃないかしら? 確か一角猪ホーンボアーは、階段からかなり近い場所に居るはずですわ」

「残念ながら、そうではないようだ。リンザ経理部長、報告を」


 名指しされた経理部長は、ズリ落ちそうな眼鏡を持ち上げて手に持った資料を淡々と読み上げる。


「えー、被告からの、えー一角猪ホーンボアーの、角の納品数は、えー48本ですね」


 またもどよめきが上がる。


「ギルドの買い取り記録に改竄がなければ、被告が少なくとも48匹の一角猪ホーンボアーを狩った事実は明らかだ。レベル3とレベル1の二人だけで長時間の無茶な戦闘行為を繰り返した被告の安全軽視な行動を、私は断固として許すわけには行かない。そしてその戦闘に拒否権を持たない終身奴隷を無理やり従事させる行ないこそ、奴隷虐待の決定的な証左とみなし、よって私は彼を告発せざるを得ない」

「お待ちいただけますか、議長」

「ああ、君は――」

「被告の受付担当を務めておりますリリ・エンリッチと申します」

「ふむ。申し立てがあるのかね?」

「はい。被告の四層での戦闘行為を無謀とお考えのようですが、私は彼らの実力なら申し分ないと思いその申請を受理しました」

「根拠を聞かせてもらえるかね」

「被告の所有する奴隷、ミミ子さんは希少な精霊使いエレメンタラーの中でもさらに珍しい幻影使いです」


 驚きの声が職能ギルドの席から湧き上がる。


「彼らは当時すでに二人だけで三層の半分以上を踏破しており、その地図の完成度の高さや幻影使いの能力も踏まえて、四層でも十分通用すると私は考えておりましたし、今もその判断に間違いはなかったと確信しております」

「私からも宜しいですか?」


 リリ嬢の言葉を受け継ぐように声を上げてくれたのは、モンスター生態調査部の部長リーガンさんだった。

 議長の促しに対し、額に浮いた汗を拭きながら僕の援護を申し出てくれる。


「みなさん御存知の通り、この度九年ぶりに三層で新種が発見されました。三層の厄介者である巨大蟷螂ジャイアントマンティスの上位種、真紅蟷螂レッドマンティスの発見に尽力して頂いた…………ま、ぶっちゃけると発見者は彼です」


 ぶっちゃけられてしまったが、その辺りはギルドの守秘義務とかじゃないんだろうか。

 たぶん遠回しに言おうとしたけど、面倒になったんだなリーガンさん。

 ざわめくテーブルを見渡しながら、リーガン部長は満足気に頷く。


「彼はレベル2の時点で、すでに巨大蟷螂ジャイアントマンティスの討伐にも参加しており、その上位種もほぼ彼一人で討伐したと報告が上がっております。つまり彼の実力は申し分ないレベルであり、ギルドとしても折り紙付きで保証させていただきますよ」


 大変ありがたいお言葉なんだが、今持ち上げ過ぎるのは勘弁して欲しい。

 この流れ・・は、非常に不味い。


「レベル3でジャイアントマンティス以上を? にわかに信じられませんな――」

「いや幻影使いと言うのは、恐ろしい力を秘めていると――」


 雑談が始まってしまったテーブルを見渡して、議長はおもむろに咳払いをする。


「次に挙げたいのは、またも四層での彼の軽はずみとしか思えない行為だ。先週、彼らは五人だけで四層の最南端へ到達している。レベル3が一名、レベル2が三名、そしてレベル1が一名だ。この数字だけだとやや伝わり難いと思われるが、被告の小隊パーティは彼を除き全員が女性だ」


 またもテーブルの右側から、口々に声が上がりだす。

 メンバーが体力的に劣る女性探求者シーカーだけというのは、世間的に見てかなり驚きを与える事実らしい。

 実際の彼女たちを知って貰えれば、そんなことは微塵も感じなくなる筈だけどね。

 

「これに関しては証人を召致してある。ニニ僧官、発言を許可する」


 名指しされた大鬼オーガの女性が、僕の横の椅子から立ち上がる。

 彼女もある意味、今回の可哀想な被害者だ。


「秩序を護る法を乱すことなく、私は真実を証言すると宣誓致します」

「そんな堅苦しい挨拶は不要だ。君は参考人として来て貰っている。感じたことのみを述べてくれればいい」

「承りました、ロンダン中僧正猊下。先日、我々が四層の南端の広場で狩りをしておりましたら彼がそこの少女を連れ立って現れ、用件を問いただすと見学と答えました」

「被告と奴隷以外は、居なかったのかね?」

「いえ、他に亜人の女性が二名と幼い少女が一名です」

「彼女たちに異常は見られなかったかね?」

「はい、特には。ただそこの少女は、彼に背負われておりました。怪我をしたのかと思い尋ねると、疲れたから休ませていると」

「あらあら、優しいわねぇ」


 カリナ副議長が、意味ありげな笑みを浮かべて口を挟んでくる。


「はい、非常に優しさを感じました。その後、彼女の尻尾に触る許可を貰い、触れてみたのですが素晴らしい毛並みでした。ピータに勝るとも劣らない感触に私は深い感動を――」

「ニニ僧官、ピータとは何かね?」

「私が所有する白犬であります。今年で二歳ですが、とてもお利口でお留守番も――」

「その私見は今は結構だ。その後どうなったかね?」


 ロンダン議長の呆れたような口振りに、少し肩を落とした孤高の闘姫だが顔を持ち上げて話を続ける。


「その後は、私の小隊メンバーと少しやり取りがあり、狩りの差支えに成り兼ねないと判断して退去をお願いしました」

「揉め事があったと?」

「以前から彼の小隊に所属する有角種の血筋を持つ女性を、我々の徒党リングへ勧誘しておりまして」

「そうか。亜人の女性に関してトラブルがあったと言うことだな」

「その点は問題視されるほどとは思えません。こちらからも強引な誘いかけがあったと把握しております」

「ふむ、ありがとう。もう結構だ、ニニ僧官」


 議長の声に従い、ニニさんは椅子に座り直す。

 お礼の代わりに頭を小さく下げたが、彼女の視線は僕にではなく明らかにミミ子に向かっていた。

 そんな僕たちを無視して、議長は糾弾を再開してくる。


「そしてつい昨日、被告の小隊に所属する魔術士ソーサラーの少女が魔力酔いで治療室へ搬送された報告も上がっている」


 これを出されると、僕は何も言えなくなる。

 本当にモルムには、酷いことをしてしまった。あとで本屋巡りにたっぷり付き合って上げようと誓っておく。


「少女の年齢はまだ14歳で、由々しき事態と捉えてもいい。これらの無謀な行為や奴隷や小隊メンバーに対する過酷な処遇を考え合わせて、私は被告の三ヶ月間の迷宮出入り禁止命令と、奴隷の即時解放の勧告を提言する」


 ここまでは流れ・・通りだ。

 三ヶ月は少し長いが我慢できなくはない。

 ミミ子に関しては、元から奴隷扱いなんて考えていなかったので解放でも何でもいい。

 これからも僕の側にいてくれるのは、間違いないので安心だ。

 

「待って下さい、議長」

「異議があるのかね? サラサ予報官」

「はい、この子の貢献を考慮に入れてやって欲しいんです」

「具体的に述べてくれると助かるんだが」


 その一言に、サラサさんの眼が光ったように思えた。


「この子にはギルドでアダ名が付いてまして。ご存じですか?」

「いや生憎だが」

「超幸運児って呼ばれてます。由来はめっちゃ単純でこの子、二年間の茶箱発見数が87個なんですよ」


 そんな風に呼ばれていたのか。初めて知った。

 しかし会議室中の視線が物凄く集まってくるので、サラサさんのフォローは出来ればもっと手短にお願いしたい。


「それでここからが本題なんですが。この子がミミ子ちゃんを仲間に入れて、三層に行きだしたのが四ヶ月前です」

  

 そこで少し溜めるように周りを見渡すサラサさん。

 ちょっと、いやかなり首根っこあたりが熱くなってきた。


 

「5個です」


 

 続きを待つ皆の沈黙に、するりとその言葉が入り込む。 


「この四ヶ月でこの子が発見した銀箱の数は5個です。ちなみに歴代記録は一年で3個なんで、もうあっさり抜いちゃったりしてます」


 今までで最大のどよめきが上がった。

 皆の見開いた眼がこちらを凝視してくる。

 庇ってくれるのは十分嬉しいが、流石にこれは居心地が悪すぎる。

 自分で頼んでおきながら、こんなこと言うのもアレだけど……やり過ぎです、サラサさん。


「そんな子を三ヶ月も迷宮から隔離って、勿体なさ過ぎじゃないでしょうか?」

「ふむ、一理あるな。では尋ねるが、その銀箱から出た魔法具アーティファクトのうち、ギルドに販売譲渡された数は幾つだね?」


 さすが議長、抜かりないな。


「それはっ、その…………零です」

「つまり一つも売り払ってないと。考慮に入れるには十分な論拠だが、無罪は流石に勝ち取れんな。ここは一ヶ月の立ち入り禁止と奴隷解放と魔法具アーティファクトの一部売却勧告で手を打ちたいと思う」


 迷宮組合ラビリンスギルドに於いて、儲けの中心を占めるのは魔法具アーティファクトの取り扱いだ。

 これらは迷宮都市外へ持ちだされると、凄まじい価値を生み出すケースが非常に多い。

 例えば僕の持つ『蟷螂の赤弓』、これをそれなりの使い手が戦場で使えば一騎当千もお伽話ではなくなる。


 莫大な影響力を持ち帰ってこれるからこそ上位探求者は優遇され、宗教関係者たちも多大な協力を惜しまないのだ。

 

 それを僕にもちゃんと果たせと。

 その代わり無謀なレベル上げには目をつむってやる。あと亜人奴隷は風評が悪いので、正式な探求者シーカーに格上げしろ。

 って感じか。上から押し付けられるのは、少し腹立たしいが飲めない条件じゃない。



 そう、僕はこれで良いと了承する気だったのだ。


 

 だがその流れ・・は前の二回と同じくあっさりと、彼女によってひっくり返される。



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