深夜のマッサージ
かわいい装備をゲットしたら、とりあえず自室にこもってカメラをぐるぐる回しつつ着替えを楽しむのが基本でござる
夜もかなり更けてきた我が家。
治療室には二つの人影があった。
「どうですか?」
「ああ、そこ良いです…………凄い気持ち……良い」
「かなり溜まってますね」
「ええ、最近かなり忙しかったので……ああ、堪らないです。メイハさん」
「無茶はやめてくださいね。私で良ければ、いつでもお手伝いしますから」
「助かりま――うっ…………はあぁぁ」
「スッキリしましたか?」
「はい! やっぱりメイハさんの回生は、効きが違いますね」
体に溜まった疲れがすっかり抜け落ちて、気分爽快になる僕。
うん。女性の柔らかい手ってだけで、癒やしの効果が倍になる気がする。
「随分お疲れのようでしたね。なにか揉め事があったと聞いてますが」
「はい……ご存知でしたか」
このところのロビーの様子と、四層の皿部屋であった会話を簡潔に説明する。
「あの子たちは……。男の方には気を付けるよう散々言って聞かせたのですが、本当にごめんなさいね」
「いえ。皆が悪いわけではないので、怒らないであげて下さい」
今回の件は、キッシェたちにあまり非はないと僕は考えている。
可愛い女性がいたら、声を掛けたくなるのは男の本能だし。
僕も美人なパーティメンバーが欲しくて、奴隷商さんのとこに通った経験があるので一概に責める気にはなれない。
だからと言って、彼女たちとパーティを組む権利を誰かに譲る気は毛頭ないけど。
しかし男連中からすれば、可愛い女の子たちを独占する僕のやり方は面白くないに違いない。
巻き戻しを共有できる仲間を増やした結果なんだが、その辺りの事情を察してくれなんて言うのも無茶がある。
かといってこのまま女の敵みたいな扱いはどうかと思うし、下手に刃傷沙汰なんて起きたら巻き戻しの無駄遣いになるだけだ。
深々と溜息を吐いてしまった僕を、横に座ったメイハさんが心配そうに覗き込んでくる。
薄いブラウス姿のせいで、豊かな双丘が重力に抗えず大きく揺れた。
「私に出来る助言が二つほどあるけど、聞く気はあるかしら?」
「是非、聞かせてください」
「まず徒党の勧誘だけど、これは貴方が新しい徒党を作ってしまえば、断れる理由が出来てちょっかいが減ると思うの」
僕もそれは少し考えていた。
迷宮組合に徒党結成を申請するには、二つの条件がある。
最低1名、レベル3以上の探求者が居ること。
それと党員を10名確保できていることだ。
条件がそれなりなのは徒党が乱立するのを防ぐ目的と、党員指輪の発注数が10個からという物凄い制作側の都合からだった。
徒党の大きな特徴は、その党員たちが特注の指輪を所持する点にある。
この党員専用の指輪は特殊な音叉で叩くことで振動が発生し、共鳴させることが出来る。
元は救難の知らせを出す目的で作られたのが、現在はその利便性から党員の連絡用として使用されるようになった。
同じ層であればかなりの距離まで届くため、狩場の交代を知らせたり荷物が多くて困った時など活躍の場は多い。
振動の大きさでだいたいの距離も測れるので、バラバラに逃走した場合なんかはコレの有る無しで生還率が大幅に変わるのだとか。
良いこと尽くめだが、僕が躊躇っている理由はもちろんある。
まず判り切った事だが、指輪がそれなりに高い。
詳しい値段は聞いてないが、古代工芸品の技術を転用しているらしく競合相手がいない分野なのでかなり値が張るとか。
それと当たり前だが、僕は親しい探求者が9人もいない。
斥候リーダー――ソニッドさんたちに頼めば、参加してもらえるかもしれないが、出来れば巻き戻しを共有できる人で固めたい。
「すみません。今はまだ徒党結成は早い気がしてます」
「それなら、もう一つのほうね」
「はい、聞かせてください」
「金板の探求者に仲間に入って貰うの。そうすれば――」
「ああ、フロアが違うんですね」
レベル3からは専用窓口になるように、レベル5からは専用フロアとなり出入り口も変わってくるのだ。
なるほど、あのごった返す低レベル用のフロアから抜け出せば、やっかみも減る可能性が高い。
しかし僕に、金板の仲間はいない。
これはつまり……期待した目で見たが、メイハさんは悪戯な笑みを浮かべたきりだ。
「一緒に迷宮へ潜って頂けるんですか?」
「残念だけど、約束はまだ果たされてないわよ」
「そうですよね」
だが入り口を分けるアイデアは使えそうだ。
全てを一気に解決できるようなやり方ではないが、少しずつ対応して最終的に解決出来れば良い。
金板の話になったので、ついでに前から疑問に思っていた点を尋ねてみる。
「メイハさんは、前は探求者でレベル5だったんですよね?」
「はい、そうですよ」
「その割にその、か弱いというか非力と言うか……」
ハッキリ口に出しにくいので、少し口籠ってしまう。
そんな僕の姿に、メイハさんは軽く首を傾げる。
「それがどうかしましたか?」
「えっ、いやレベルが上がれば、力が強くなったりするんじゃ」
「あ――ああ、仰りたい事がわかりました」
質問の意図を理解して貰えたようで、メイハさんは嬉しそうに自分の膝を打つ。
「レベルとはそういうものではないですよ」
「えっ?」
「迷宮におけるレベルとは、探求の具現化なんです」
「えっ? たんきゅうの……ぐげんか?」
いきなり予想外の単語が出て来て焦ってしまう。
そんなうろたえる僕の姿を、メイハさんは優しい眼差しで受け止めてくれる。
「そうですね。例えば盾持さんは、毎日迷宮でモンスターの攻撃から皆を守ってくれますね」
「はい」
「攻撃を受けながら盾持さんは、色々な工夫をしたり加減を学んだりして、盾の扱いを上手くなさろうと努力されます」
「はい」
「その積み重ねの先、自分が成りたい自分、探し求める自己の現れ。それがレベルアップなんです。だから盾持さんは力持ちで、押し負けない体になれるんです」
…………初めて知りました。
つまり盾を上手く使いたいって思いながら戦闘してると、それに相応しい筋力や持久力が身に付くってことか。
普通に当たり前のことなので、その因果関係にレベルが関係してたなんて考えたことなかったな。
ただ漠然とレベルが上がれば、強くなるものだとばかり。
「それでしたら、メイハさんは……?」
「はい。私は治療の術を極めたいと願ってましたから、それ以外はさっぱりなんですよ」
少し照れたような笑みを浮かべるメイハさんだが、その笑顔の下に並ならぬ自信が見て取れた。
なるほど。それ専門にやってきた人ほど、特化していくのがレベルなのか。
そう考えると職業を替えまくるのは悪手となる。
色々技能は学べるが、器用貧乏になってしまう可能性が高い。
以前、魔術士をレベルが上ってから転職して始める話を聞いたが、モルムに勧めなくて良かった。
ふと気づく。
僕の成りたい自分って、何だったんだろうか。
『回生』―治癒士の第七位叙階秘跡。筋肉に溜まった乳酸とかを消してくれる
この後のお楽しみはノクターン出張版に移動しました。
「あなたの年齢、十八歳以上ですか?」「はい/いいえ」
内容的には息抜き場面となりますので、本編に絡む要素は全くありません。
苦手な方は飛ばして頂いても、支障はありませんのでご安心ください。




