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遭遇

レベル上げでうっかりネームドモンスターを釣ってしまい、死闘の果てに倒した時の盛り上がりは異常でござる

 四層の地図作りは続いていた。

 今日も水没していない通路の先を、片っ端から調べて回る。



「ここで行き止まりのようですね」

「結構、奥まで来たのかな? 流石に下の層は広いな」



 長方形の大きな角石の組み合わせだった壁や床が、唐突に途切れて土が剥き出しになっていた。

 四層南通路の終着点はどれも似たような造りで、人工的な迷宮から天然の洞窟にいきなり切り替わる。

 この広場も天井はかなり高く、土壁は微発光する苔で覆われていた。

 

 奥の方に濁った水を湛えた泉らしきモノが見える。

 広場に足を踏み入れかけて、僕は見慣れない存在に気が付いた。


 泉の水面から、突き出した木の枝のような何か。

 水草が盛り上がっているようにも見えるが、それにしてはちょっと不自然だ。


 静かに手を上げて、皆の注意を引く。

 そのまま怪しい突起物を指差す。


 主旨を理解したミミ子が、僕の背中に乗ったまま幻影を生み出す。

 僕の似姿は恐れを見せる素振りもなくすたすたと泉へ近づき、立ち止まることなく水面を歩き出した。

 とても便利だとは思うが、あれは少し不自然すぎないか。


 水面を歩き回る僕の幻影は、無事散歩をすませてこちらへ戻ってくる。

 視覚感知じゃないのか、もしくは只の水草か。


 四層辺りからは金板ゴールドプレートとなるレベル5への昇格が絡んでくるため、ギルドの階層情報に露骨に制限が掛かってくる。

 モンスターや地形情報も一部が伏せられるようになり、試練の意味合いが強くなる仕組みだ。

 この辺りで用心を徹底的に身に付けないと、深層へ進むのが難しいのだろう。


 あれが情報のないモンスターなら、ここは確認しておくべきか。

 今日はまだほとんど地図の更新がないので、これくらいなら記憶を頼りに書き足して貰えば済むはず。



「――いくよ」


 

 僕の小さな声に、リンが盾を持ち上げて了承を示す。

 静かに息を吸い込んで弓を構える。

 

 放たれた矢は、一直線に泉へと飛んでいき不審物に命中した。

 熱を帯びた矢が派手な音を立てたが、怪しい木の枝は何も言わず静かに水中へ姿を消す。

  


 そして即座にそれが反応した。



 突如、馬鹿でかい何かが空中に突き出され、そのまま倒れ込んで水面を二つに割る。

 激しく水滴が飛び散るなか、僕はその丸太のような何かが、鼻先に木の枝状の突起物がついた巨大な顎だと理解する。

 

 そしてそれに続くように、水中から恐ろしい姿が現れた。


 鋭い牙が並ぶ長く飛び出した顎。

 平たい頭部と側面についた大きな眼。 

 全身を硬い鱗板に覆われた長い体躯。



 それは巨大な白いワニだった。



 乳白色に濁った鱗が、灯り苔の燐光に照らし出される。

 巨体に相応しいゆっくりとした動きで、ワニは水面からその全身を持ち上げた。

 その異様な姿に僕は思わず息を呑む。

 足が多い。ワニの身体からは八本の足が生えていた。


 白ワニはその多足を器用に動かして、のそりと僕らへと向き直る。

 呆けている場合じゃない。


「来るぞ! モルムは恐怖フィアーを。リンは近付いてくるまで我慢だ。キッシェは僕と一緒に撒き散らせ!」


 矢継ぎ早に命令を下し、僕は角の矢ホーンアローに手を伸ばす。

 コイツは何か不味い。強い奴の持ってるヤバい臭いがする。


 泉からここまでは約20歩。

 近寄られる前に、出来るだけ矢を叩き込む。



 『ばら撒き撃ち改(バラージ2)』を『二連射ダブルショット』。



 大量の矢がワニへと飛来する。

 それはモンスターに衝突する前に、一瞬で全て掻き消えた。


 驚きで口を大きく開けたまま、僕は急いで何が起こったかを確認する。

 少しでも情報を持ち帰らないと。


 矢を消したモノの正体はすぐに判明した。

 

 光を薄く反射する球状の群れが、モンスターの頭上に浮かんでいるのが見て取れる。

 それは宙を漂う水の塊たちだった。

 いつの間にかワニの周囲を取り囲むように、無数の大きな水の塊が浮遊していた。

 あれに矢が当たって、相殺されたのか。


「あれって、まさか――」

「水の精霊術のようです! 旦那様」


 これは全くの予想外だ。

 でかいだけじゃないとは思ったが、モンスターの癖に術を使うのか。

 本当に下層は侮れないな。


 モルムが描き終えた『恐怖フィアー』の呪紋を気に留める素振りもなく、無機質な目で僕らを見遣ったワニはその顎を大きく開く。

 同時にワニの傍らに浮かんでいた水の塊が、かなりの速さで僕らの方へ続けざまに飛んで来る。

 なんとなく来るんじゃないかと思っていたが、本当にそうなるとは。


 僕の前に飛び出したリンが、その水塊たちを盾で受け止める。

 そしてあっさりと弾き飛ばされた。

 

 レベル2に上がった彼女は、鬼人の血脈のせいか既に僕の膂力を超えていた。

 それがこんな簡単に吹き飛ばされるのか――。



 空中に浮かぶリンに心の中で手を合わせながら、僕は巻き戻しロードを選択した。




この後のお楽しみはノクターン出張版に移動しました。


「あなたの年齢、十八歳以上ですか?」「はい/いいえ」


内容的には息抜き場面となりますので、本編に絡む要素は全くありません。

苦手な方は飛ばして頂いても、支障はありませんのでご安心ください。



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