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揃ったメンバー

長々とボス戦前に説明したのに、聞いてない子が一人いてあっさり全滅したでござる

「さて、これからのことを決めようか」



 ベッドの上に輪になって座る面々を見渡す。

 白狐族のミミ子、竜鱗族リザードマン混じりものハーフキッシェ、牛鬼ミノタウロス混じりものハーフリン、普通な子供のモルムの四人だ。


 さすがに今日は迷宮探索は休みにした。

 昨日の夜は色々あって皆の疲れも抜けてないし、出来れば汚れたシーツも今日中に洗濯したい。それに住人が一気に増えるとなれば、色々買い足しや細かいルールも決めておいた方が良いだろうし。

 迷宮探索だけではなく生活全般においても計画、実行、検証、改善の流れは、物事をスムーズに進めるには理にかなったやり方だ。


「まずみんなには、僕と固定パーティを組んでほしい」


 僕の言葉に少女たちは頷いてくれる。

 

「僕は今レベル3だけど、4に上がれば下の層へ行かなくちゃダメになる。だから今から信頼できる人たちとパーティを作っておきたいんだ。その為に君たちのレベル上げを支援したいと思ってる。寝泊りはこの家を使ってくれていいし、装備もバックアップさせてもらう。パーティの戦利品分配も公平に行きたいって考えてる」


 そこで一旦、話を切って三人の反応を窺う。

 キッシェは真面目な顔で、僕の話を反芻しているようだ。

 眉毛がキュッと上がってとても可愛い。

 リンはかなり興奮した様子で、僕の言葉にいちいち頷いていた。

 その度に胸が大きく揺れるので、気が散って仕方がない。

 モルムは半分眠っていた。後で聞いたがどうも朝に弱いらしい。

 ついでに言うとミミ子も眠っていた。耳が動いてないし、たぶんガチ寝してる。


「それで今後の探索プランなんだけど――」

「待ってください」


 キッシェが手を挙げて発言する。優等生な感じも可愛い。


「何でしょうか?」

「パーティを組む前に、私たちと奴隷契約をしてもらえないでしょうか?」

「えっ?」

「御主人様の提案は、私たちが奴隷となればもっとスムーズに行くと思います」

「ちょっと待って! ――今更だけど僕、御主人様派より旦那様派なんだ」

「それに私たちには、お金が必要なんです。えっ?」

「その辺りをまずは話してくれないかな。いきなり奴隷だの旦那様だの言われても混乱するしね」

「わかりました……」


 事情を聴いてみたところ、よくある話だった。

 実は彼女たちは、この迷宮都市出身だったらしい。

 といっても城壁の中ではない。

 壁の外に作られた貧民街スラムの生まれだそうだ。

 

 これだけ大きな都市になると色々あるし、ましてやこの市は迷宮の利権が絡んでいるので各業界の摩擦も大きい。

 そういった歪な部分が溢れて、街の外に生まれたのが貧民たちの街だ。

 そこは逃亡者や落伍者、犯罪者たちが隠れ棲むには相応しい場所だった。


 彼女たちは、その貧民街に棄てられた孤児たちの一人らしい。

 亜人との混じりものハーフの扱いなんて、亜人差別の激しいこの国では想像するに難くない。

 彼女たちも本来なら、10歳まで生き伸びるのも難しい筈だった。

 だが瓦礫の街にも、正しい人はいた。


 彼女たちの母親代わりとなって、孤児を引き取って育てた人物だ。

 創世教の司祭であったその女性は、孤児院というほどの規模ではないが身寄りのない子どもたちを集めて育てているそうだ。

 だが世間知らずな面が祟っていろいろと借り入れた分が積み重なってきており、現在彼女たちの実家は立ち退きを迫られているという訳だ。


「それでキッシェたちは、迷宮に出稼ぎに来たってこと?」

「はい、私たちが一番の年長組なんです。正確には上にもう一人、姉がいますけど……」

「言いにくい話だけど、他に方法はなかったの? その例えば娼館だとか。創世教の人なんでしょ?」

 

 言い方が悪いがこの街では迷宮で野垂れ死ぬよりも、娼婦の方が遥かにましな生き方と言える。

 この都市の娼館はきっちりと管理されており、命に関わるような職場環境でもないし不当なピンハネもない。

 当然モグリの娼婦なんてしたら、即刻逮捕されてしまうほどの厳しさだ。

 ほぼ公娼のみに近い扱いなのは、がっちりと宗教が絡んでいるせいもある。


 四大神の一柱、創世の母神は創造を司り生誕を祝福する豊穣神だ。

 その教徒たちは、聖なる息吹の祝福を授け生命を育むことに尽力を惜しまない。

 具体的にいうと外傷や病気を治療できる治癒士は、全てこの創世教の信奉者なのだ。

 創世教の根源の教えは只一つ。


『意味なく命を奪ってはいけない』


 その教えに従い、彼女たちは戦場への随伴などには一切参加しないことで有名である。

 そして命を生み出す行為を非常に奨励していた。

 そのための性行為の研究場所であり、また無垢な命を消し去る堕胎行為を減らすための娼館経営は彼女たちの管理領分であった。 


「メイハ母さんは、まだ現役の治癒士なんです」

「えっ……お幾つですか?」

「たしか30手前だと。詳しく教えてくれませんでした」

「ギリギリだね。それで娼館のほうにも伝手がないのかな」

「それもありますが、メイハ母さんが愛のない営みはダメだって人で」


 産めよ増やせよの教えと矛盾しているが、基本治癒術を使う必須条件は処女おとめたれである。

 どうも出産することで治癒能力が生まれてくる子供に移行してしまうらしく、現役を続けるなら性行為に関しては一切の禁止が前提らしい。

 司祭としては避妊は教えに反するしで、どうにも面倒な宗教でもある。

 そのため大体の創世教の司祭たちは30歳までは仕事に勤しみ、30歳を超えると一転して妊娠出産人生を歩み始める人が多い。


「それに元より私たちのような見た目では娼館には入れないでしょうし、ましてや普通の仕事なんて」


 世間一般の亜人アレルギーは、僕が思っているよりもハードらしい。

 僕にとって彼女たちは、尻尾や角が生えてようと全く変わりなく美しいと思えるし良いのだが。

 いやむしろ、生えてる方が好きかもしれないと最近思えてきた。


「なるほどお金がいる事情はわかったけど、いきなり奴隷になるのは無理だよ」

「そうなのですか?」


 奴隷産業は売春業よりも、さらにややこしい利権が絡む業界だ。

 いきなり奴隷になったり、それを契約するなんてことは許されていない。

 奴隷になるにしても、まずは免許を持つ奴隷商の面接を通して査定と本契約の過程が必要だ。

 彼らが一番嫌がることは相場を無駄に荒らされる行為であり、いたずらに手を出す者には一切の容赦がない業界だと聞いている。


「それに本契約してもお金が入るのはかなり先だし、そもそも三人分も契約できるお金もないしね」


 奴隷本人の手元に契約金が入ってくるのは、契約期間が終わった後だ。

 僕の話にキッシェはガックリと肩を落とす。

 リンはそんなキッシュの背中に手を当てて励ましている。

 そしてまだあどけない二人は固まって眠っていた。ミミ子のもふもふ尻尾を、モルムが枕にして丸まっている有り様は心がほっこりする。


 しかし彼女たちが奴隷になる話は、それなりに便利な一面もあるのは否定できない。

 奴隷になるということは誰かの庇護下に入るということであり、かなりの安全が保障されるからだ。

 当たり前だが奴隷差別は亜人差別と同様、この国の住民意識に根強く残っている。


 だが探求者シーカーが奴隷の場合、その所有者はレベル3以上の探求者シーカーか上級市民だと決まっている。

 強力な後ろ盾があると分かっている者に、手を出す間抜けは例外を除けば殆どいない。

 レベル3にならないと奴隷を所有出来ない取り決めも、保護者としての資質として重要なんだろうな。


「それでその立ち退き回避料は、幾らでいつまでに払えばいいの?」

「金貨20枚で、今年いっぱいだそうです」

「高いね! あと半年でそれは確実に無理だな」

「分かっては居たんですが……出来るだけのことはやってみようって」


 うーん、ここで彼女たちと別れるのは非常に惜しい。

 かと言って彼女たちの望みを無視すれば、信頼関係が揺らいでしまうのは目に見えている。

 だったら僕が取れる解決方法は一つしかない。


「それならいっそ、みんなでここに移住するのはどうかな?」

「それは……」

 

 僕の提案にキッシェは絶句する。

 体を重ねたとはいえ、昨日出会ったばかりの男がそんなことを言い出せば驚くのも無理はない。

 でもこの家なら部屋はまだ余ってるし、それで足らないなら近所の家を買い足せば済む。金貨20枚を払うより現実的な提案だし、可愛い女の子たちとパーティを組めるなら安いくらいだ。


「それ凄く良いですね! さすが隊長殿」

「そんな訳には行きません。リン、いくら何でも甘え過ぎでしょ」

「遠慮は美徳だけど、現状で一番確実な方法じゃないかな」

「そうは言いますが、まだ小さい子もいますしご迷惑になるのは判り切ってます……大変ですよ」

「お金なら心配しないで。みんなで下層に潜れるようになれば、幾らでも稼げるようになるし」


 僕の言葉にキッシェとリンは、少し目を見張ってからお互いの視線を交わす。

 その落胆した表情を見るに、どうも言葉の選択が不味かったようだ。

 まあわざとそんな言い方したんだけどね。


「流石にその言葉は嘘っぽいです、隊長殿」

「一ヶ月しか経験してませんが、迷宮がそんな簡単な場所ではないこと位ちゃんと分かってます」


 さてここからが正念場だ。

 出来ることなら、僕だって彼女たちとはもっと長く一緒に居たい。


「それが可能って言ったらどうする?」


 真面目に出した僕の声に二人はもう一度、顔を見合わせる。

 最初に声を上げたのは、眉をひそめたままのキッシェだった。 


「信じられません……」

「リンはどう?」

「うーん、私は隊長殿を信じても良いかな」

「本気なの、リン?」

「隊長殿はこれまで嘘ついてこなかったしな。それにどっちかと言えば信じたいって気持ちの方が大きいし」

「私だってそうだけど!」

「それじゃあ、今から僕が絶対死なないってのを証明してみせたらどうかな?」

「そんなこと出来るんですか?」

「ただそれを証明するには、僕を心から信じてもらう必要があるんだ」


 そこまで言って、僕は両手を彼女たちにそれぞれ差し出した。

 リンは即座にその手を握ってくる。

 キッシェはかなり迷ったあと、ゆっくりとその手を重ねてくれた。

 二人の縋るような眼差しを受け止めながら、僕は祈るような気持ちで戻れと呟いた。



 そして巻き戻しロード



 僕と手を繋いだまま、彼女たちは寝起きの姿に戻される。

 突然全裸になった状況を理解できず、互いを見合わせた彼女たちは悲鳴を上げて胸を隠す。

 その声にモルムがビクリと体を揺らして目を覚ました。


 そして彼女たちは、もう一度驚きの声を上げた。

 今の状況と僕の能力が理解できたらしい。

 そう彼女たちは、僕と巻き戻しロードが共有できたのだ。


「信じてくれてありがとう」


 そう声を掛けると、二人はいきなり泣き出した。

 両手を広げると僕の胸に飛び込んでくる。

 色々な不安と酷い現実に、押し潰されそうになっていたんだろうな。

 泣いてる二人を見たモルムも、なぜか僕に抱きついてくる。

 裸の少女たちを抱きしめたまま、僕はミミ子の時にも感じた幸福感をたっぷり味わっていた。


「これからもよろしくね」

「はい、よろしくお願いします……本当にありがとう。私たちに出会って……助けてくれて」

「ありがとう、隊長殿。良かった、これでアイツらも助かるんだな」

「…………よくわからないけど…………よろしくね」


 涙ぐむ彼女たちを見て、僕の心もスッと軽くなった。

 残酷な仕打ちだが、一緒に巻き戻しロードが出来なかった場合、さっきまでの話はなかったことにするつもりだった。

 


 これでようやく僕のパーティが五人揃った……かな。



『四大神』―混沌の幼神、護法の男神、創世の母神、終末の老神

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