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遅い目覚め/十六周目


 

「ややこしくなってきたので、ちょっと整理してみるか」


 

 枕元で役割を放棄したままの砂時計を眺めながら、僕はこれまでに得られた数々の情報を思い返してみた。


 まずは六層の攻略手順から。

 進める順は南から東、西、そして最後に北区へ行くのが正しいらしい。


 南区、訓練場と呼ばれている最初のエリアで、通路の影兵士から鐚銭を回収しつつ、最奥の兵士長を倒すと東区の鍵が拾える。

 鍵を取ったら次に飼育場と呼ばれる東区で、ネズミを倒し尻尾を少し入手しておく。


 ここでの注意点は、決して深入りしないこと。

 建物が密集しているせいで鐘塔が見えず、奥へ進むのは危険すぎるのだとか。

 それは身をもって経験したので、よく分かっている。


 廃棄場と名付けられた西区は、鐚銭を払えば入場できる。

 他にも廃棄場内で拾ったアイテムを、色々交換して貰えると聞いた。

 

 西区での目的は、奥の広場に居る管理人兄弟に会いに行くことだ。

 広場手前で鎖に繋がれた番犬もとい番芋虫を、ネズミの尻尾で釣って門を開けさせ、奥の管理人たちに打ち勝てば北区へ進む通行証が手に入る。


 そして北区の市街地から、ようやく中央塔へ辿り着けるという感じか。

 北区については世襲組のニドウさんにさりげなく尋ねてみたが、内部が複数のエリアに区切られているとしか教えて貰えなかった。


 かなりの収穫があったのだが結局、塔まで辿り着くことが出来なかった。

 ゴールがすぐそこに見えているのに、手が届きそうになると指先からすり抜けてしまう。

 まるで全てが霧で出来ているかのような手応えに、僕の奥歯が一瞬だけ軋みを上げる。


 いやいや、ここは深呼吸だ。

 ……平常心を維持しなければ。


 今回の収穫は、攻略ルートがかなり判明したこと。

 あと世襲組の人たちとは、無理に敵対するような間柄ではなかったことだな。

 

 僕らが出発する時点で、六層探求希望は二小隊だった。

 一組がニニさんたちなら、塔の鐘を鳴らしていたもう一組が妨害者であると考えていた。

 

 だが出会った世襲組の人たちは、そもそも北区通行証を持ってないので塔に行けるはずがないのだ。

 だとしたら消去法で鐘を鳴らしてるのは、ニニさんたちとなる。


「疑ったりして悪いことをしたな……。ま、次に会ったら愛想よくしよう」

「ふぁぁ。どうせ巻き戻しロードたら、覚えてないよ」

「そうれもそうか。しかしそうなってくると、やはり塔に居るのがニニさんたちなのかな?」


 脳内の地図の更新が終わったらしいミミ子が、可愛らしいアクビをしながら僕の独り言に混じってきたので、疑問を投げかけてみた。


「だとしたら間抜けな話だよねぇ~」

「助けに行こうとしたら、まさか救出される側が妨害してくるとか。でも、それならそれで、鳴っている間は無事な証でもあるか」


 僕らが鐘塔と呼ぶ街の中央の塔は、経験値稼ぎで人気の場所だそうだ。

 塔の天辺の鐘を鳴らすと、六層全てのモンスターが一斉に復活する仕組みとなっている。


 上の階を目指しながらモンスターを倒していき、天辺まで辿り着いたら鐘を鳴らす。

 そして今度は階段を下りながらモンスターを倒し、地上まで下りる。

 あとは階段をまた上がって、鐘を鳴らすの繰り返しなんだとか。

 何とも足腰が鍛えられそうな狩場だ。


 塔の各階には細い窓が四方に空いており、そこから漏れる灯りで経験値稼ぎ中の小隊パーティが今どの辺りに居るか把握できる。

 各区を探求中の小隊パーティは、ランタンの位置から鐘が鳴りそうな時間を予想して行動するのだとか。

 だから塔がハッキリ見えない東区は、罠エリアと呼ばれている。


 そして逆に塔からは霧が邪魔して、街の様子は分からないと聞かされた。

 僕らが妨害だの悪意だのと言っていたのは、本当にただの偶然でしかなかったようだ。

 

 しかし実際に鐘が鳴ることで、探求が進まないのも事実なわけで。

 たまたまとかホント困りますよね、で済む話でもない。


「鐘塔で経験値稼ぎ中に、何か事故が起こったってことか……」

「そうかもしれないけど、違う気もするんだよねぇ~」


 僕の推測に引っかかる点があるのか、ミミ子が三角耳をピコピコ揺らしながら大きく伸びをする。


 考えられるのは僕らが出発したあとで、さらに六層探求に参加してきた小隊が居る可能性だ。

 実は東区の鍵と北区通行証は地上へ持ち帰れるアイテムなので、一度入手すれば簡単に北区へ直行出来る。

 僕らが南区や東区でせっせと戦ってる間に、悠々と中央塔へ辿り着けるという寸法だ。


 さらには六層への探求許可申請書を出していたところで、絶対に六層へ行く義務もない。

 狩場が混んでいたり、予期せぬアクシデントが発生した場合など、理由があれば目的地を変更するのは許されている。

 だからニニさんたちが、四層や五層に行っている事態も十分に考えられるのだ。


 西区まで探しても見当たらない時点で、そっちの探索に切り替えたほうが良いのかもしれない。

 しかしニニさんたちが、北区の攻略まで進んでいる可能性も否定しきれない。

 確率で言えば両方とも、五分五分といった感じなので判断が難しい。


「せめて確証が取れたら、迷わずに済むんだけど……」


 つくづく北の門番で、巻き戻しロードを九回も消費したのは痛手だったと思う。

 さりげなくニドウさんに訊いてみたら、あれを倒すなんてあり得ないって態度をされたし。

 勝負を挑もうと考える事自体、間違ってる強さだとか。

 うん、確かに強かったな。次はニニさんたちと是非、挑んでみたい。


「北区探索にどれくらい時間を取られるかだよな、問題は」 

「それ以外にも、気になることがあるよ~」


 眠そうな眼を擦りながら、ミミ子が言葉を続ける。


「何で最初の時だけ、鐘が鳴らなかったのかな~?」


 言われてみればその通りだ。

 ミミ子の指摘に、僕は思わず少女の膝を叩いた。

 

 一番最初に六層に行った際には、地上に戻るまで一度も鐘は響かなかった。

 だからこそ東区で鳴らされた時、誰かの仕業だと早合点したんだったな。


「最初って、二回目からと何か違うことしたっけ?」

「なんだろうね~」 

「もう十五日も前だからな……」

「う~ん、昼ごはん食べてギルドに行って、ゴー様が指輪を拾って、そのあとお喋りしてたね~」


 そうそう、ダプタさんの信頼の指輪を拾って、みんなの好感度を確かめたり……。


「あっ、それだ! ……なんで今まで気付かなかったんだ! 指輪だ。指輪って手があったな!」


 ミミ子の言葉が天啓のように、僕の脳裏に閃きを生み出す。


「この時間なら、まだ間に合うな。急ぐぞ、ミミ子!」

「は~い」

 

 返事だけで自ら動こうとはしない少女を抱き上げて、ベッドから飛び降りる。

 慌てて部屋から飛び出そうとした僕は、さらに思いついたことのために枕元まで引き返す。


「そろそろ、お前も役に立ってくれ」


 そう言いながら僕は、今まで役立たずだった砂時計を引っ掴んだ。




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