救出
PT入ったら自分以外♀キャラでウキウキしてたけど、言葉遣いがみんな男らしさ満開でござる
慣れ親しんだベッドの感触を背に受けて、僕は生の有難みを改めて感じ取る。
鬱屈した迷宮の暗闇は、遥か遠くに消えさった。
ここはもう既に温かく柔らかで安全な場所だ。
毎回、巻き戻しの度に、ここから動きたくない衝動が胸に渦巻く。
このまま二度寝したら、さぞ心地いいだろうな。
だが、そういう訳にも行かない。
柔らかい朝の日差しを存分に堪能しながら、僕らは普段以上にしっかりと身支度を整えた。
いつもより早めに出発し、朝ごはんも手早く屋台で済ませて迷宮組合へ急ぐ。
まだ営業が始まっていないギルド前には、人だかりが出来ていた。
美味しい狩場は早い者勝ちだ。
持たざる者が少しでも良い場所を取るためには、朝早くから並ばねばならない。
「いた! あそこの三人組」
僕に寄りそうに立っていたミミ子が、素早く目的の人物を見つけ出す。
こういう時は流石、獣っ子だなと感心する。
「よしプランその1でいくぞ」
「らじゃ~」
ほとんどボロに近い服装の少女たちに、僕はとびっきりの営業スマイルを浮かべながら話しかけた。
「やあ、良かったら今日一緒に稼がないかい?」
ここはギルドの建物外なので、パーティ勧誘はセーフのはずだ。
だがなぜか周囲の話し声がぱったりと止まり、注目が一斉に集まる。
しばらく無言の状態が続いたあと、少女の一人が堅い声で応えてくれた。
「間にあってますので結構です」
そんな馬鹿な!
完璧なお誘いだったはず。
「いやそんなこと言わずに、一緒に狩りしない? 大丈夫、ほら僕ら強いから安全だよ」
「止めてください」
「えっ? いや一緒にやったほうが……」
「おい、兄ちゃん。いい加減にしとけよ!」
突然、横からハゲのオッちゃんが口を挟んでくる。
「どうせ囮にしようって腹づもりだろ。低レベルだからって馬鹿にするな!」
「えっ? いや誤解ですよ」
「銀板が、何様ってんだよ!」
「朝っぱらから気分悪いぜ!」
「帰れ、帰れ!」
「カ・エ・レ!」
「カ・エ・レ!」
えっ? えっ?
巻き起こった帰れコールの大合唱に呆然とする僕の肩を、誰かがポンと叩く。
振り向くとそこに居たのは、憐れみの眼で僕を見つめるミミ子であった。
黙って首を横に振られる。
僕はどうしようもない敗北感を抱えたまま戻れと呟いた。
「何で助けようとして、断られるんだよ!」
「あれはゴー様が不審すぎたのが敗因だと思う」
「完璧なスマイルだったろ!」
「なんか目が全開になってて、気持ち悪かった」
傷ついた僕は何も言えず、ベッドの上で失意のポーズをとった。
そんな僕の肩を、ニヤリと笑みを浮かべたミミ子が再びポンと叩く。
「まあプランその2にお任せあれ~」
さすがミミ子だ。こんな時は何か頼りになる気がする。
「それはそうとさ~」
「うん?」
「誰が太ったのかな~?」
そのまま狐っ子は僕の上に圧し掛かってきた。
そして悪戯な笑みを浮かべたまま、柔らかい感触を僕の胸にぐりぐりと押し付けてくる。
ミミ子の獣耳が動くたびに、ふわりとした風が起こり頬にあたる。
僕に全てを預けてくる女の子の重みと匂いが合わさって、その全てが物凄く心地良い。
寝起きでやられると、これはたまらないモノがあるな。
そもそもミミ子は基本受け身なので、こうやって自分からじゃれてくるのはレアなのだ。
うん。ここはちょっとイチャイチャしてから、もう一回巻き戻せば良いか。
てなことを考えたら、ぺちっと額を叩かれました。
お見通しか。
▲▽▲▽▲
朝一番の迷宮組合のロビーは、恐ろしい程の混雑だった。
掲示板前は人が多すぎて、覗き見るどころか近寄ることも難しい有り様だ
許可申請書の順番待ちでは、用紙の取り合いや並び順で揉めて、あちこちで怒声が上がっている。
まさに混乱そのものであった。
「ゴー様、こっちこっち」
端っこの方でぼんやりと口を開けていた僕を、遠くでミミ子が呼び寄せる。
近づいてみると、ミミ子の側に三人の女の子が立っていた。
「こっちがうちの隊長のゴー様」
「初めましてです! リンです!」
「…………モルムだよ」
「よろしくお願いします、キッシェと言います」
キッシェと名乗った少女は先程、僕の誘いを断った子であり、甲虫に襲われていた子でもあった。
訝しげな目で僕とミミ子を交互に見つめている。
少しキツイ目鼻立ちは、可愛いよりもカッコいい部類に入ると思う。
今も油断なく僕を睨み付ける視線はかなり鋭い。
服装は裂けたのを何度も繕ったが、それも限界が来てるような布の服とズタ袋のみ。
切り揃えた黒髪も艶がなく、何日も洗ってないようだった。
その横の一回り大きな赤毛の子はリンだっけ。
すこし緊張しているのか、顔がやや強張っている。
ぱっちりした目と高い鼻筋からは、将来美人になりそうな片鱗が窺えた。
それと唇の下のほくろが、ちょっとキュートだ。
最後の子、モルムは大人しそうな少女だった。
挨拶のあと、リンの後ろに隠れるように引っ込んでしまう。
くるりとカールした茶色のくせっ毛と愛らしい顔立ちだったが、そこには怯えがハッキリと浮かんでいた。
この子は一番小さく、少しばかり年下のようだ。
僕はミミ子を脇に連れて行き、小声で尋ねる。
「どうやったんだ?」
「サラサに仲介頼んだだけだよ~」
「その手があったか!」
迷宮予報士は、一般探求者からすれば非常に信頼されている存在だ。
とくにサラサさんは茶箱の的中率に定評があって、見た目も相まって非常に人気がある。
感動している僕に、少女の一人キッシェが声を掛けてくる。
どうもこの子が三人組のリーダーのようだ。
「あの! 小隊を組んで下さると言われたんですが、なぜでしょうか?」
どストレートな質問だ。
「うーん、たまにはそういうのは良いかなって」
「レベル3の貴方に、私たちレベル1と一緒に行動するメリットはないと思いますが」
「そうだね」
「でしたら、どうして?」
それは君たちが今日、この迷宮で死ぬからだよ。
君が上げた悲鳴が、まだ耳の奥に残っているからだよ。
それを消すために、僕らは自分の一日を投げ捨ててココに居るんだよ。
なんて言えないしな。
ここで下手な嘘をつくと、察しの良い子のようだし逃げ出してしまいそうだ。
「僕も低レベル時に、先輩探求者にお世話になったことがあるんだ。色々教わったし助けて貰ったよ……そんな先輩も、先月帰らぬ人となってね。だから僕は先輩の遺志を継いで、少しでも受けた恩を返したくてやってるんだよ」
「そうなんですか……」
って信じたよ。
僕は架空の先輩に心の中で敬礼した。
「まあ詐欺だと疑う気持ちもよく判るよ。だからほらココを見て」
僕が差し出したのは、小隊申請書だった。
この用紙は、パーティを組むときに提出する義務がある。
その一ヵ所、パーティメンバーの戦利品配分比率を指差す。
これは臨時パーティなどで獲得したモノの売却金を、解散時に分配するさいにその比率を予め決めておくものだ。
通常は盾役や斥候などの危険度が高く損耗が激しいポジションは、やや高めに設定するのが定例になっている。
「えっ? なし? 戦利品放棄ですか?!」
「そうだよ。これに名前を書いてくれたら、そのまま受付に出す。これで信用してもらえるかな」
僕とミミ子の取り分の欄には、既になしの二文字が書き込んである。
信じられないといった顔つきでキッシェは、僕と用紙を何度も見比べた。
実は戦利品の分配はあとで幾らでも好きなように出来るんだが、ややこしくなるので今は黙っていよう。
「それと君たち、防具はないのかい?」
その問い掛けに、少女たちの頬は赤く染まる。
まあ判ってて訊いてるんだけどね。
「ないなら、先にそっちを揃えようか」
布の服だけで前衛やろうなんて、流石に無謀すぎる。
「こ、この服で大丈夫です」
「大丈夫じゃないよ。そんな普段着で何言ってるんだ」
そのまま僕はギルドの防具販売カウンターへ足を向ける。
少女たちは顔を見合わせて立ち竦んでいたが、ミミ子が背中を強引に押して連れて来てくれた。
あのぐ~たらなミミ子がである。僕はちょっと感動した。
「すみません、彼女たちの採寸お願いできますか」
「かしこまりました」
ギルド職員さんがキビキビと三人を試着室の方へ連れていく。
その間に僕は、受付のお兄さんと彼女たちの防具の相談を始めた。
「僕と同じ迷宮蜥蜴の皮鎧で揃えようかと思ってます」
「それですと、少々刺突系の攻撃に不安が残りませんか?」
「今日は一層探索予定だし、コウモリ、トカゲは良いけどカブトムシが危険ですかね」
「カブトムシにはカブトムシで、黒殻甲虫の堅鎧はいかがですか?」
「それはちょっとあの子たちには重すぎないですか?」
「その辺りは試着で調整してみましょう」
お兄さんのアドバイスを受けつつ、三人に色々着せてみる。
結果、大柄なリンには黒殻甲虫の堅鎧一式を。
素早そうなキッシェには迷宮蜥蜴の皮鎧一式を。
非力なモルムは、迷宮蜥蜴の皮鎧の胴着と革靴のみとなった。
迷宮蜥蜴の皮鎧はその名の通り、迷宮蜥蜴の皮をつなぎ合わせた鎧だ。
革の柔軟性を生かして、全身にぴったりとフィットするデザインになっている。
女性が身に着けると胸やお尻のラインが強調されるので、是非着てほしい一品だ。
もちろん襟部分や胸部、手甲の急所部分は膠で強化された小札で補強されており、守りもそれなりに安心できる。
黒殻甲虫の堅鎧はその補強に黒殻甲虫の甲殻を利用した鎧だ。
ベースは迷宮蜥蜴の皮鎧だが肩や肘、胸部に黒い甲殻がプロテクターのように取りつけてありダメージに更に強い造りになっている。
ただ重量がそれなりに増える為、もっぱら攻撃を受けやすい盾役用の装備である。
試着を終えた三人は、新しい装備に戸惑いながらも軽く体を動かして、その感触に目をキラキラとさせている。
あの笑顔を見れただけで、銀貨五枚は安いものだ。
ホント言うとちょっときついけど。
「さて次は武器だな」
彼女たちが使っていたのは、銅の小剣と木の小盾だったが、あれは初心者用のレンタルセットだろう。
武器を持ってない初心者探求者に、ギルドが有料で貸し出しているものだ。
最初はレンタルで武器や防具を借り、お金が貯まれば自分専用のを購入する。
宿屋も安い下宿から高い賃貸へ移り、最終的に自分の家を持つ。
多くの探求者は、順調にレベルが上がれば大体この流れを踏襲する。
「リンさんはコレがいいかな」
武器カウンターで、預けてあった魔法具を引っ張りだしてもらう。
『分断の両刃片手斧』は保全の法術が授与されており、切れ味が落ちない優秀な武器だ。
それに『静穏の菱盾』。こっちは不変の法術のため、頑丈さは折り紙つき。
ちなみに盾は攻撃にも使用できるので、武器の類として扱われている。
「キッシェさんにはコレを」
『貫通の短剣』はその刃に過剰の魔術が呪紋されており、攻撃力が高い。
さらに予備の武器として『弾切れ知らず』を渡しておく。
この『弾切れ知らず』は小型の石弩で、自動で石弾が補給され装填される便利な古代工芸品だ。
欠点としては、石の装填に三十秒掛かること。それと石以外の矢弾が使えない不便さがある。
女性でも楽々扱えるのは良いが、その威力が通用するのは精々三層までである。
「モルムは……コレかな」
『喚起の投矢』を手渡す。正直、子供が使えそうな武器はこれくらいしかなかった。
これは熱狂が呪付されており、その名の通り投げるとそちらに注意が向く仕掛け付きだ。
もっともそれほど強い魔術ではないので一瞬気が散るくらいではあるが、命中させる必要がないので補助武器としてはそれなりに優秀である。
武器と防具を身に着けた三人を、改めて眺める。
黒い堅鎧で全身を固めたリンは、盾役として。
短剣と弩のキッシェは遊撃手だな。
それに皆の後ろに隠れているモルムは、弱体役か
それに攻撃手の僕と、囮盾のミミ子。
なかなかバランスの良いパーティになったかな。
「それじゃあ一層の探索を始めますか」
『保全』―護法士の第三階梯真言。劣化しないよ
『不変』―護法士の第一階梯真言。心が変化しにくいよ
『過剰』―魔術士の第三階梯呪紋。マシマシになります
『熱狂』―魔術士の第一階梯呪紋。気を取られます