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不吉な噂

ギルドの新入りが有能すぎて垢転生の疑いが濃厚でござる

 迷宮予報士サラサ・オーリンは、見せて貰った地図の正確さに息を呑んだ。


 

 この試練の迷宮では、二層までの地図は申請すれば簡単に閲覧できる。

 だが三層からは自らで迷宮を歩き回り、その手で製図しなければならない。


 理由は至極簡単である。

 深層に挑戦する際に、地図の有無は生死を分ける非常に重要な要因ファクターとなりうる。

 だが未踏破層の地図は、必要だと言っても天から降ってくるようなモノでもない。

 誰かがソレを作る必要がある。

 三層からの地図作りは、そのための訓練の始まりであった。


 サラサの頭の中には、五層までの正確な構造配置図に加えモンスターの分布データまできっちりと詰まっている。

 それと照らし合わせても目の前の地図は、抜けが多いが間違っている箇所は一つも見当たらなかった。


「ふーん、なかなかよう出来てるやん」

「そうですか。ありがとうございます」


 丁寧に頭を下げる少年の声からは、嬉しそうな響きが隠せてない。

 そういう素直な部分は、なかなか好感が持てる。


「しっかし、ホンマに骸骨倒せてるんやね」

「教えて貰った矢のお蔭です」


 確かに矢を替えてみればと提案したのはサラサだ。

 だからと言って、短弓だけで三層の骸骨をサクサク倒せるなんて微塵も考えてなかった。

 サラサとしては、少年がどこかの小隊パーティに誘われやすくなればくらいの気持ちだった。


 だが少年はそんなサラサの予想をあっさり裏切り、たった二人で三層を闊歩してるのだ。どうやって倒せてるのかこっそり尋ねたところ、少年曰くスケルトンは腰椎を一撃で破壊できれば簡単に倒せるとか。

 

 それを聞いたサラサは、内心で激しく突っ込んだ。


 素早く動き回るモンスターの小さな弱点を、ピンポイントで狙撃して倒す。

 それは理想ではあるが、現実的な手段ではない。

 視界の悪い迷宮の中で、自分を殺そうと迫ってくる恐ろしいモンスター相手である。

 一度外すだけで死が待ち受ける重圧の中、そんな精密動作を強いられるのは高レベルゴールドプレートの連中でも首を横に振るだろう。

 しかも一体ではない。

 数体の骸骨剣士スケルトンウォリアー相手にやってのけているのだ――レベル3になったばかりの少年が。



 尋常な話ではなかった。



 正直、初めて聞いたときはらしくないしょぼい吹かしやなと、がっかりしたサラサであったがどうも嘘をついてる感じではない。

 何度も聞いてると本当に二人で三層骸骨を倒しているようで、とうとう本日頼み込んで制作中の地図を見せて貰い、少年の言葉が真実であったと改めて思い知った経緯であった。

 顔に出ないように内心の驚きを隠しながら、サラサは目の前の少年を改めて眺める。


 清潔感のある短めの髪と、やや痩せ気味な体付き。

 愛嬌ある垂れ目に反して、強そうな意思を思わせる口元。

 あとたまに見せる少年らしさが欠片もない諦め顔。

 その老けた顔付きを見るたびに、サラサはまだ十代と言い張る少年の歳を疑ってしまう。 

 それを除けばどこにでもいるような、ごく普通の若者であった。

 

 この少年が浅層の宝箱発見数の記録保持者レコードホルダーだと言っても、誰も信じないかもしれない。


 だがギルドに保管された記録は、少年の異常な数の宝箱発見数を裏付けている。 

 当初は色々と考察されたり疑われたものだが結局のところ誰一人、彼の特異性に納得できる説明を付けられる者はいなかった。

 そして最終的に『超幸運』しかないと、投げやりな結論に落ち着いた。

 それも骸骨を一撃で仕留める技量が明らかになった今なら、違った解釈になるかもしれない。


 もっとも迷宮予報士のサラサ・オーリンにとって、少年がどうやって宝箱を見つけ出しているのかはそれほど興味がなかった。 

 大事なのは宝箱が出たというデータだけである。

 いつどこで出たかによって、宝箱の次の出現位置はどんどん絞られていく。


 そのデータ集めに、この幸運児は物凄く役立っていた。

 だからこそ、そろそろ銀箱の予想にも貢献してほしい。  

 と願うのは迷宮予報士の性であり、仕方ないことであった。

 

 これまで色々アドバイスしてきたのも、こっそり裏で便宜を図っていたきたのも、その為である。

 ゆえに少年がせっかく三層へ行く気になってくれた今、もう少し欲張ってしまうのも仕方がないことである。


「ま、上手くいってるようで何よりやね。ところでぼちぼち、小隊参加者パーティメンバー増やしたらどないなん?」

「それについては色々考えてるんですけど、どうもしっくりこなくて……」


 相変わらずこの話題になると、少年の口は重くなる。

 どうもその辺りに少年の秘密がありそうだとサラサの女の勘が告げていたが、それよりも利益が優先される。


「なんやったら、ウチの知り合い紹介しよか? ちょっと無口やけど性能スペックは太鼓判押すで」

「え、あ、その……えっと」

「もう全部、ウチに任してみいひんか? 今なら色々サービス付いててお得やで」

「ちっ近いです、サラサさん」

「お話まだ~? はやくコロッケ食べに行こうよ」


 あと一息で首を縦に振りそうな時に、後ろに控えていた少女が繋いでた手を引っ張って少年の注意をそらしてしまう。

 サラサは内心で惜しかったなと舌打ちしつつ、亜人の少女に視線を移した。


 真っ白な髪に、側頭部から飛び出した大きな獣型の耳。

 縦に割れた金色の瞳孔と相まって、見る者の視線を吸い寄せて離さない異彩を放っている。まだ少女と呼べる年齢でありながら、その美貌は将来を容易く予想させるほど魅力にあふれていた。

 だが儚げで神秘的な見た目とは裏腹に、その口振りは気が抜ける緩さであった。 


「待たせてごめんなぁ、ミミ子ちゃん。お詫びに美味しいコロッケのお店教えてあげるわ」

「ほんと? サラサ大好き」

「サラサさんだろ、ミミ子」

「ええんよ、ミミ子ちゃん可愛いから許す許す」

「うんうん、カワイイから仕方ないよ~」

「いつもすみません、サラサさん」


 慌てて頭を下げる少年を、サラサは値踏みするように見つめた。

 やはり彼は、この少女の噂を全く知らないようだ。



 白狐の探求者シーカーと言えば、この迷宮都市の古参で知らない者はいない。

 


 現在、この試練の迷宮のトップ探求者シーカーである虹色カラーズクラスでも、その挑戦は八層が限界だ。しかし迷宮都市が生まれた当初、もっと深い層へと挑み続けていた小隊パーティが存在した。


 その小隊パーティの一人に、九つの真っ白な尻尾を持つ獣人がいたと伝えられている。

 九尾ナインテールが綺麗に渦巻く様から、その白狐の探求者シーカーには『大輪牡丹』の異名があった。


 様々な伝説を残した彼らの消息は、ギルドの公式記録にも残されていない。

 ただ一説には、迷宮を踏破して神々の戦場へ召されたと言われている。

 しかしもう一つの言い伝えがあり、白狐の探求者シーカーの裏切りにより小隊パーティは深層で絶滅したともある。


 それ故、白狐の探求者シーカーは少々敬遠される不吉の象徴でもあった。

 

 レベル3になった少年が連れてきた奴隷は、当初ただの荷運び係ポーターだと思われていた。

 だがある日突然、奴隷少女はそのベールを脱ぎ捨てる。

 それが不吉とされる白狐族の少女であったのは驚きだが、彼女が非常に珍しい火の精霊使いエレメンタラーであったのも大きな驚きであった。


 この少年には、どうも特殊な存在を引き寄せる何かがあるらしい。


 サラサは評判の高い芋料理専門店までの道筋を、メモの片端にしたためる。

 少女とじゃれ合う少年は年相応の幼さで、そこに特別なモノは見当たらない。

 ぶっちゃけ奴隷と主人だと言われても、どっちがどっちか判らない有り様だ。

 

 なんとも言えない可笑しさを感じてしまったサラサは、微笑みながらメモを少年に差し出した。宝箱発見の記録だけじゃない、もっと大きな事をしでかしてくれそうな予感を楽しみにしつつ。



「期待してるで、新人ルーキーくん」




虹色カラーズ』―レベル7以上の探求者シーカー。上級ジョブ持ち


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