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四層第三の隠し通路と第三の番人

 

 新年も一週間が過ぎ、僕らにも迷宮の日々が戻ってきた。


 短い休みは闘技祭の虹色カラーズ級の人外な戦いぶりを観戦したり、屋台巡りを楽しんだりであっという間に過ぎ去ってしまった。

 でも、とても充実した休暇だった。

 女の子たちとは前よりも仲良くなれた気がするし、色々と楽しい思い出を作ることが出来た。


 ちびっ子たちなんて仲良くなりすぎて、今日から仕事始めだって宣言したら、とても寂しい顔をされたのはかなり堪えた。

 涙目のマリちゃんに服の裾をぎゅっと掴まれて、早く帰ってきてねって言われた時は、思わず休もうかと思ったくらいだ。



 だが働かざる者は、食っていけないのだ。 

 

 

 現在のレベルで狩れるモンスターの素材を、今のペースで迷宮組合ラビリンスギルドに卸していけば生活費に困ることはない。

 キッシェたちのレベルが上がれば、一段と効率よく狩れるようになり倒せる数は増える。

 もっとも一定数を超えれば買取金額は下がっていくので、収入は一定ラインで留まってしまう。


 そしてさらにレベルが上がり、苦労してきたモンスターを鼻歌交じりで倒せるようになると、下の階層への移動を余儀なくされる。

 さらなる強敵と化したモンスターを相手するためには、より強力な装備を整え、組合に授業料を払って先人の技能を学ぶ必要が出てくる。


 お金を稼ぐために潜るのだが、結局、自己投資に費やす羽目になる。

 強くなれば稼げるが、稼ぐために強くならざるを得ない。

 つくづく迷宮は、蟻地獄のようだと思う。

 

 そして強さを求めすぎて限界を突破すると、人間を半分やめて迷宮に篭もる廃人生活となるわけだ。

 キッシェたちに虹色カラーズ級になれると応援されたが、僕はそこまで自分を評価していない。


 現在の僕の目標は、レベル5以上の金板ゴールドプレートだ。

 六層より下からは貴重なドロップアイテムが多いらしく、かなりの買い取り額となる。

 その上、値崩れを防ぐために一日潜ってアイテム回収して、翌日はゆっくり休むのが当たり前となってくる。

 つまり週三日の探求でかなり贅沢な生活に加え、武器防具や薬品ポーションの補填も余裕で賄うことが可能なのだ。


 さらに金板ゴールドプレートとなると、組合からの優遇がますます良くなってくる。

 一等地に家を持てる上に、公共施設の利用が無料になったり、娯楽施設のサービスの優先権が貰えたりと。

 公の場に出る義務も生じるが、税金も大幅に免除されるし良いことずくめだ。


 そうだ、税金もあったな。

 銀板シルバープレートになった探求者シーカーは、迷宮都市の市民権を得る代償に市民税の納付義務が生じる。

 僕は普段の素材納品額から、少しずつ天引きして積み立てる納税方式にして貰っているのでそんなに焦ることはないが、年末にキッシェとリンもレベル3になったことだし天引き額が一気に増えることになる。

 それにミミ子の奴隷税は購入一年目に発生するので、こっちも今から少しは準備しておかないと。


 僕の装備も買い替えると宣言してしまったし、ますますお金がいる状況なのだが……。



「…………兄ちゃん、隠し扉あったよ」  

 


 僕らは四層の隠し通路の先に、またも来ていた。

 うん。お金を稼ぐのも大事だが、貴重な経験を得るほうがもっと大事だと思ったのだ。


 ここに来るのは去年の暮れに、低級悪魔レッサーデーモンを長期戦で倒して以来となる。

 前回は長丁場に疲れきってドロップアイテムを回収したら、さっさと引き上げてしまったので、今回は隠し通路の探索からだった。


 今までの場合、新しい部屋に行くまでの通路に厄介な仕掛けはあったが、モンスターは一体も出てこなかった。

 次の通路も同じようなパターンの可能性が高い。

 が、迷宮内での決め付けや思い込みは、死に近付く行為だ。


「よし、一応リンは前に出て、キッシェは壁際へ。準備いいかな?」

「はい、任せてくださいです」

「私も大丈夫です」

「じゃあ、モルム開けてくれ」


 僕の合図で巻き毛の少女は、隠し扉の下の方を触る。

 何かがはまる音と同時に、只の壁だった部分が上へと押し上がる。


 それと同時に扉の向こうから、いきなり強烈な光が溢れだした。



「うわ! 眩しっ!」



 新たに現れた通路は、発光石が全面に敷き詰められた光の道であった。



   ▲▽▲▽▲



「どうするです、あれ?」

「…………目が開かないよ」

「私も少し辛いですね」


 慌てて部屋の奥に逃げ込んだ僕たちは、額を突き合わせて相談していた。

 新しい通路は、天井、壁、床の全てに発光石が埋め込まれているようで、滅茶苦茶に明るい。

 明るすぎて、覗き込んでいるだけで目が痛くなってくる。

 

「まあ、眩しいだけなら何とかなりそうだな。モルム、アレをお願い」

「…………うん、分かった。アレだね」


 僕の意図を瞬時に汲み取った少女は、帽子の鍔を弾きながら赤い悪魔の指を持ち上げた。

 クレヨンで描くように宙に縁どられる呪紋は、『盲目ブラインド』。

 

 練習中の呪紋のために、その効果の全ては発揮されず半端な結果となる。

 だが今はそれが、逆に都合がいい。


 薄闇に包まれた視界に満足しつつ、僕は隠し通路へと視線を移す。

 予想通り光量が半減した状態なら、発光石まみれの通路は丁度良い明るさに変わっていた。


「よし、ばっちりだ。早速、行ってみるか」

「…………でも、兄ちゃん」

「心配いらないよ、兄ちゃんに任せておけ」


 不安そうに僕を見上げる少女の肩に軽く手を置いて、僕は輝く通路へと踏み込んだ。


 

 ――――五分後。



「目がぁぁ! 目がぁぁ!!」



 モルムの『盲目ブラインド』は、短時間しか効かないのを忘れてた。

 両目を押さえて通路から転がり出て来た僕を、リンが優しく抱き留めてくれる。

 

「酷い目に遭ったよ。これは一回巻き戻して遮光ガラスでも取ってくるか……いや、用途を訊かれると不味いな」

「はい、できたよ~」

「何これ?」


 ミミ子が手渡してきたのは、地図用の紙を短冊状に切って二ヶ所に細かい穴を空けたものだった。

 

「こうするんだよ、ゴー様」


 ミミ子は目隠しをするように、目の周りに細長い紙を巻き付けてみせる。

 すっぽりと両目を覆った紙は、ちょうど目の部分に小さな穴たちが当たるようになっていた。


「ふーん、おもちゃかな。悪いけど今は遊んでる暇は――」

「すごい! 全然眩しくないですよ、隊長殿」

「しかも普段より良く見えますね。とても不思議です」


 振り向くとミミ子製の目隠しをつけた二人が、光り輝く通路を平気な様子で覗き込んでいる。

 視線を戻すとミミ子が、自慢げに顎を持ち上げて僕を見返していた。


 何だかすごく悔しかったので、ミミ子の狐耳を両方とも裏返しにしてやった。

 

 ピンホールの技術を応用した簡易眼鏡で、視界に入る光量を制限できるようになった僕たちは、もくもくと通路を進む。

 光が除かれると、ちょっと入り組んだ迷路でしかないようで、結構簡単に通り抜けることが出来た。

 対照的な暗闇通路と比べると、いや比べるのもおこがましい難易度だ。


 通路の終わりには、お馴染みになった番人部屋が広がる。

 こっちは普通の明るさだった。

 変な紙切れマスクを外して、みんなでそっと覗き込む。



「丸いですね、旦那様」

「うん。しかも白いね」

「…………美味しそう」

「あ、そうだ!」

「何か分かったの? リン」

「今日はオムレツにしましょうか?」


 リンの気持ちもよく分かる。

 番人部屋の奥に浮かんでいたのは、人の背丈ほどの巨大な卵だった。



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