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継承の勇者  作者: 黒井へいほ
第二章 初戦
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第五話

 四人は宿をとり、食事を済ませ部屋に戻っていた。

 二人部屋を二つ取ろうとウィーゼルは思っていたのだが、極力出費も減らすべきだと女性陣に押し切られ、四人部屋を一つ借りていた。


「宿の主人に話を聞いたが、近くでゴブリンの姿が目撃されているらしい。 良い事ではないんだろうが、俺達には丁度良いタイミングだったな」

「数は2体いた所を目撃したらしいわ。 その事を踏まえ他の目撃情報と合わせて考えると…5体いるという事になるわ」

「なるほど、うまく敵の戦力を分散できれば無理なくやれそうだね」


 明日は朝からゴブリン退治に出る運びとなっていた。

 近隣の森の中にいた所を目撃した人が数人いる。

 地図や情報を照らし合わせた結果、森林のその方角側に小さい洞窟があるらしく、そこを寝床にしている可能性が高いとウィーゼルは判断した。


「分散するにしても、2体が別行動をしていたのは何故ですかね?」


 レイシスが首を傾げる。


「恐らくは斥候、もしくは合流する前だったんだろうな。 もしも後者だった場合は、分散させる方法も考えないといけない」


 オーラスの言う事に賛同した四人は、その方法を考える。

 5体いると仮定した場合、同時に相手にする事は、初戦の自分達には危険だろうと判断していたからだ。

 

「出来るだけ余裕のある状況を作って戦いたいね。 敵の装備については何か分かっているのかい?」

「いや、見つけた人も遠目に見て逃げちまったらしいからな。 恐らくは戦闘中に南部側に逃げてしまったんだとは思うが…」

「確か、ゴブリンの一般的な装備は斧や弓だったはずだけど、それ以外の武器を使う場合もあるの?」


 ルイナの質問に、二人も過去戦ったゴブリンの事を思い出す。


「鉈とか剣を持ってるやつもいたよな? 槍とか長物を持ってるやつは見たことがねぇなぁ」

「後は盾を持ってるやつもいたよね? オーラスが鍋の蓋かよって叩き割ってたのを覚えているよ」

「なるほど。 ゴブリンは魔法も使えないし、遠距離攻撃は弓だけ警戒すればいいわね」


 その後もゴブリンのへの対策を三人は話し合っていた、だがレイシスが黙ったまま参加してこない事に気付く。


「どうしたのレイシス? 何か気になる事でもあった?」

「す、すみません、話に集中していなくて。 明日の戦闘とは直接の関係は無い事なんで大丈夫です!」


 あわあわとレイシスは慌てていたが、しっかり話に参加しようと、顔を引き締めた。

 だが、その様子が気になったのか、ルイナは彼女に問い質した。


「今更私達に遠慮する必要がある? 気になる事は聞いた方がいいわ」

「…そうですね。 気になっていたのですが、何故色々な所に魔族達の出現情報があるんでしょう? 元の領土の戻ればいいと思うんですが…」

「なるほどね、確かに気になる所ね…二人とも、どうしてなの?」


 ルイナはあっさりと二人に答えを任せた。

 彼女は様々な知識を持っているが、分からない事は素直に他に任せる。


「まぁ、乱戦で南部に少数で抜けちまったんだろうから、自分達だけじゃ戻れないからじゃねぇか」


 レイシスはその答えに不満があったのか、眉間に皺を寄せ唸っている。


「でも、わたしがそうなったらですけど、また乱戦の最中に北部に戻ろうと思います。 その為には南部に深く入らない方がいいと思うんです」


 彼女の答えに三人は、はっと息を呑む。

 確かにレイシスの言う通りだ、わざわざ味方のいない南部を進み、入り込む必要はない。


「つまり、何かしらの目的を持って南部に入ってきている…?」

「情報収集の斥候、もしくは色々な場所に人を割くためか?」

「それならいいわ。 でももしこちらに気付かれぬ様に、南部側に戦力を少数ずつ送り込み、集めているんだとしたら…」

「でもそうだとしても、わたし達の言う事を信じて対応してくれる人なんて…」


 部屋の中に静寂が訪れる。

 もし本当にその予想が当たった場合、四人で対応できる問題ではない事は明確だからだ。

 だが証拠もなく、可能性があるから対応を、などと言った所で信じる者はいないだろう。

 そこでウィーゼルは気づく、一人信じてくれるかもしれない人がいる事に。


「ガレス将軍なら、信じてくれるかもしれない」

「おいおい、アインツ王国のやつなんて信用できるのかよ」


 オーラスの言う事も最もであった、だがあの王城で自分の事を本当に信じてくれていたのは、シルベア王女とガレス将軍だけだったのではないかと、彼は思う。


「僕は信じられると思う…いや、信じたい(・・・・)んだ」


 ウィーゼルの顔は悲しげであるにも関わらず、その瞳はとても優しかった。

 騙され、裏切られ、捨て駒だとまで言われ、それでもなお信じたいと言う。

 その姿を、三人は否定する事はできなかった。

 やる事は増えていく、魔王を討伐するだけなら、南部での侵略の心配をする必要はない。

 こちらだって命がかかっている、そんな事は王国の人間達に任せればいい。

 だが、そんな事はできない。

 それがウィーゼルという男である事を、彼らは理解していたし、誇りに思っていた。


「…とりあえず、連絡をする為にも、今後は敵の動きも調べる必要があるわね」

「そうですね。 その為には明日のゴブリン退治をしっかりやらないといけませんね!」


 四人は決意を新たに、明日の為の作戦を練り直す事にする。

 その話し合いは夜遅くまで続いた。



 朝。

 起きた四人は身支度を済ませ、軽めの朝食を済ませると、足早に目撃情報のあった森林へと向かう事にした。


「ここまでは開けた地形だったからいい。 だがこっからが本番だ、気を抜くなよ」


 オーラスの言葉に三人は緊張の面持ちで頷く。


「一番前にオーラス、少し後ろを僕が、その後ろを二人が着いてきてくれ。 予定通り僕はどちらの援護にも入れる位置を維持する」

「おう!」

「分かったわ」

「分かりました」


 初めての戦闘、初めての命の獲りあい。

 二人の顔に笑顔はなく、余裕も無かった。


「斥候を見つけた場合は、様子を見てから各個撃破でいいんだな?」

「あぁ、少しでもリスクを減らしながら戦おう。 その為にも気づかれない事を優先し、ゆっくりと洞窟に向かおう」


 一番前を歩くオーラスは、鉈を片手に草木を薙ぎ払いながら歩く。

 洞窟までの道は、バイアス村の人が休憩場所に使っていたという話で、多少切り払うだけで容易く進む事ができた。

 だがやはり森の中だけあり、視界は悪い。

 物陰に隠れていて、奇襲でもされればこちらの態勢は、一気に崩れるだろう。

 そのその事を理解しているオーラスは、警戒を怠らずにゆっくりと確実に進んでいた。


 森の中を一時間程進んだ頃だった、開けた場所が見える。

 三人はオーラスの指示に従い、身を屈めた。


「ドンピシャだな」


 小声でオーラスが言う。

 開けた場所には洞窟、その前に二体のゴブリンが立っているのが分かる。


「どうするの? ここから魔法を撃つ?」


 ウィーゼルは少し考えた後、首を横に振る。


「いや、ここからだと少し遠い。 それに二体とも一気にやらない事には、増援が出てくる可能性もある」

「二体を手早く倒して、俺が洞窟の入り口に立てるのがベストだな。 そうすれば洞窟から来るやつらを抑えられる」

「斥候などの可能性はないでしょうか?」


 周囲を四人は見渡すが、何かがいる気配や音はない。


「ゴブリンはそこまで知性が高くないと聞いているわ。 そう考えると斥候はいないんじゃないかしら? 目撃情報はやはり合流前だっただけと考える方が自然よね」


 ルイナの言葉に同意する。

 そうとなれば、ここに居続けて、自分達がいる事がばれる方がまずい。

 四人は、速攻で二体を倒し洞窟の入り口を抑える事に決めた。


「まず、一番動きの速い僕が右の奴を仕留める。 すぐに左の奴もそれに気づくだろう。 だが僕に攻撃して来る前に、ルイナの魔法で仕留めて欲しい」

「俺は仕留めそこなった時の為に二人を守る。 首尾良く二体を倒したら洞窟の入り口を抑える」

「わ、わたしはオーラスくんへの回復をすればいいんですよね?」

「ウィーゼルが斬り込んだら左のゴブリン…ウィーゼルが斬り込んだら左のゴブリン…」


 二人は目で見て分かる程に、テンパっていた。

 それを見たオーラスが、軽くレイシスの頭に手を置く。


「落ち着けって。 斬り込むのはウィーゼルだから、最初はウィーゼルの回復だ。 その後は流れに任せてやばそうな奴を回復してやれ」

「ルイナも落ち着いて、例え失敗しても僕とオーラスが何とかする。 心配しないで」

「…頭…何でもない、分かったわ」


 少し拗ねた様に、小声でルイナが何かを言っていたが、ゴブリン達から目を離さないように集中していたウィーゼルに届いてはいなかった。


 四人は出来るだけ距離を縮めようと、気づかれない様にゴブリンから見て、左側面へ移動をした。

 静かに一番前に出たウィーゼルが、剣を構える。

 もう片方の手を広げ、指を三本立てた、突入までのカウントダウンだ。

 その場に緊張が走る。


 3


 2


 1


 ウィーゼルが飛び出す!

 木々の中から突然現れた敵に、ゴブリン達は慌てている。

 その隙を逃さず、真っ直ぐ突き進むウィーゼルは、剣を右上段に構える。

 左側のゴブリンもそれに気づき、慌てて盾を向けるが…一瞬早く、ウィーゼルの袈裟斬りがゴブリンを左肩から切り裂いた。

 仕留めた! そう判断をしたウィーゼルは、残ったゴブリンに目を向ける。

 こちらのゴブリンも慌ててはいるが、既に剣を構えた状態で、こちらへの距離を詰めてきていた。

 想定より近い、このままではルイナが魔法を撃てない! 

 ウィーゼルは慌てて剣を構え直そうとしたが、オーラスの声が耳に入る。


「蹴り飛ばせ!」


 その言葉に、体が咄嗟に動く。

 崩れ落ちようとしていた、斬り倒したゴブリンの体を、もう一体のゴブリンの方に全力で蹴り飛ばした。

 距離を詰めていたゴブリンは、仲間の死体が壁となり動きが止まる。

 ウィーゼルは蹴った時の反動を利用し、後ろに飛ぶ。


『炎よ、舞え!』


 ウィーゼルが飛んだ瞬間、ルイナの放った火炎は轟轟と音を立てながら、真っ直ぐに突き進み、二体のゴブリンを吹き飛ばした。

 体勢を立て直したウィーゼルと、即座に前に詰めたオーラスは吹き飛んだゴブリンに向け構える。

 しかし、ゴブリンは少し蠢いた後に…絶命した。


 オーラスはすぐに洞窟の前に立ち構える、そしてウィーゼルはその援護に後ろに立った。

 だが洞窟内のゴブリンは気づいていないらしく、出て来る事はなかった。

 それに気づいた二人は、後ろを確認すると。

 魔法を放ったポーズのまま固まるルイナと、その前に立ち、盾を構えたまま固まっているレイシスがいた。


 普段ならその姿を見て笑う所だが、気を抜く訳にもいかず声をかけるに留める。


「二人とも、僕達から離れすぎているからこっちに来てくれ」


 その言葉で意識を取り戻したかのように、二人は慌ててこちらに寄って来ようとする。

 その時だった、洞窟内から足音。

 ゴブリン三体がこちらに向かって来る!

 それに気づいたオーラスは、待ってましたと言わんばかりに洞窟側へ集中する。

 

 後ろの二人の位置を確かめようと、一瞬ウィーゼルは後ろを振り返った。

 そして気付く。

 それは二人の後ろから、二体のゴブリンが走り距離を詰めてきている事にだった…。

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