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継承の勇者  作者: 黒井へいほ
第五章 英雄
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第十九話

 将軍位を剥奪されたガレスは、シルベア王女と自分の孫を連れ命令通りにツヴァイド王国を目指すこととした。

 勿論、王の命を無視し戦おうともしたのだが、その命は全軍に伝わっておりすでにどうすることもできなかった。

 そしてアインツ王国が最後に見渡せる丘の辺りまで離れたところで、二人を馬車から下ろしアインツ王国を見返した。


「シルベア様、ゲラード。 良く見ておくんだ。 必ずあそこに戻るということを忘れてはいけない」


 ガレスの指示により二人は城を見る。

 城からは煙が上がり、町からは炎が出ていた。

 そう、アインツ王国は陥落したのだ。


「お父様は? クレイル兄様は?」


 ガレスは声もなく、二人の子供の肩を強く優しく握る。


「じいちゃん…。 人も、魔族も。 あそこでたくさん死んでるんだろ? 何で仲良くできないのかな」


 ゲラードの言葉にガレスは何も返せない。

 人と魔族はずっと争い続けてきた、手を取り合うことなど考えたこともなかったからだ。

 だが一つだけはっきりと分かっていることがある。

 今まで長き戦いの終わりは見えていなかった。

 だが、人間が滅びることによって終わりを告げるかもしれない。

 ゲラードの言う手を取り合う優しい世界なんてものは来ないだろう。

 それでも、その夢は尊く、暖かいものだと思う。


「きっといつか、そんな時代が来るかもしれない。 だがそのためには、まず皆が手を取り合って現状を打開しなければならないんだ」

「打開って?」

「今まで魔族は攻め込んでくることはなかった。 つまり、前線基地を維持しつつ休戦を結ぶという手もあったのだろう。 お前の言葉で始めてそう思ったよ」


 ガレスの言葉は難しかった、その言葉を二人はよく考える。

 その答えをすぐには出すことはできなかった。


「さぁ馬車にお戻りください。 こちらにも魔族が来る可能性は十分あります。 急ぎツヴァイド王国のホーク様のところに向かいましょう」


 その時、青き流星が天高く王国より登る。

 そしてその流星はシルベアの元へと降り注いだ。


「シルベア様! 御無事ですか!?」

「なにこれ? とっても綺麗…」

「本当だ。 すっごい青いな!」


 子供達は星が降ってきたと喜んでいる。

 だがガレスは気が気ではない。

 星が降ってきて無事なわけがないからだ。

 だが、その星に見覚えがあることに気付く。

 その星は青の首飾りであった。

 これは、王が代々の勇者に受け継がせていたものでは?

 ガレスは、これは王族にまつわる何かがあるのだろうと判断する。

 だが今ここでそれを調べることはできない。


「さぁ星の話は後です。 急いでください」


 慌て、二人は馬車に乗り込む。

 最後に一瞥したアインツ王国の姿を胸に秘めたまま。

 ツヴァイド王国へ向け、馬車は街道を進んで行った。




 ツヴァイド王国に辿り着いたガレスに待っていたのは、第一王子ホークによる叱責だった。


「この老いぼれが! 父や国民を見捨て、おめおめとどの面下げてここに来た!」

「返す言葉もございません」

「それでもアインツ王国の将軍か! 恥を知れ!」


 ホークの叱責を、ガレスは甘んじて受けた。

 だがその叱責を止める者があった、シルベア第一王女である。


「ホーク兄様待って! お父様がガレス将軍に私を連れて行くよう言ったの! だから将軍は悪くないんだよ」


 涙を零しながら自分が悪いと、年端もいかぬ少女に言われてはホークもそれ以上の言葉を紡ぎだすことはできなかった。


「分かった、もう良い。 ガレス、私は三カ国同盟軍を率いてアインツ王国を取り戻す。 お前にはこのままシルベアの護衛を任せる。 良いな!」

「仰せのままに」


 ガレスはホーク王子に頭を下げると、シルベアと共にその場を後にした。

 例えどの様な理由があろうとホーク王子の言うことは事実であり、ガレスには何も言い訳はなかった。

 そしてガレスはシルベア王女、そして孫のゲラードと共にこの地に滞在することとなった。



 そして数日後、ホーク王子は同盟軍の総指揮官としてアインツ王国へと迫っていた。

 目の前に聳え立つは懐かしき故郷。

 だが今はその面影もないことが、遠目からも確認できる。

 郷愁の思いを捨て、ホークは全軍での城の攻略を始める。


 同盟軍の全戦力を率いての戦闘により、同盟軍は善戦を続ける。

 しかしアインツ城の四つの門を守りし、魔王軍四天王を破ることができない。

 そのため同盟軍は四天王の一人、黒壁の守る南門に戦力を集中させる。

 その激しい猛攻により押し込めるとまで思えたが、黒壁の圧倒的な防御力により門を破ることができずに梃子摺ることになる。

 それでもこのままいけば押し切ることが可能だと思われたところで、予想外のことが起きる。

 前線基地を抑えていたはずのラォーグ率いる軍勢が同盟軍の本陣を襲撃したのだ。


 これは事前に同盟軍が城を攻めていることを知っていての行動だったのであろう。

 攻めていることを知らなければ、ラォーグたちが辿り着くのは城を取り戻した後のはずだった。

 だがこれを好機と四天王たちも城を出て攻勢に転じる。


 結果、善戦していた同盟軍は壊滅。

 人間の保有していたほとんどの戦力はここで散り、総指揮官であった第一王子ホークは討死するという最悪の結果となった。


 だが魔族も損耗が激しかったのか、これ以上の侵攻を行ってこなかった。

 魔族がいつ攻めてくるか分からないという、奇妙な緊迫感を持ったまま大陸は落ち着きをみせる。



 そして、10年の歳月が流れた…。

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