迷い
進みが遅い上に更新が遅くてすみません。
少しでも気に入って頂ければ、嬉しいです。
「エイシャ?本当に貴方が?」
想像していたのよりも遥かに若く美しいエイシャを疑わしそうに見た。
「ええ、本当よ。それで、貴方の名前は?」
子供の目の前にある椅子に優雅に、まるで蝶が花に止まるようにふわりと座った。
「……ティルト」
「ティルトの頼みは妹さんを探すこと?」
静かなエイシャの声にティルトは目を見開いた。
「なんで、知ってるの?」
小鳥の様に首を傾げ、ティルトを見つめた。
「さあ?どうしてかしらね。それで、ティルトの願いは妹さんを探すことでいいのね?私に頼むかどうかは貴方の自由よ。ゆっくり考えなさい」
ティルトに笑いかけるとコクリと自らが持って来た紅茶を飲んだ。そんな僅かな何気ない動きのひとつひとつが流れるように優美で無駄がなく、洗練されていた。
エイシャはただティルトに微笑むだけで決して急かそうとはしなかった。
不意にふわりとエイシャが立ち上がった。真っ白で傷一つない形の良い手で空になったティルトのカップに紅茶を注ぎ、蜂蜜を混ぜた。
「ティルト。私はしばらく部屋の外にいるわ。考えが決まったら、呼んで下さいな。焦ることはないわ。ゆっくりでかまわないから、良く考えなさい。後悔しないように」
「貴方なら、キサナを助けられる?」
僅かに震える不安げな声が問掛ける。
ティルトの問いにエイシャは思案するような表情を浮かべた。
「そうね。絶対、とは言い切れないけど、貴方の妹さんを見つけることは出来るわ。助けられるかどうかは分からなけど、全力は尽すわ」
それだけ言うとそっとティルトの手元に紅茶を置くと、エイシャは静かにドアを開け、部屋から出て行った。
キサナを助ける。それがティルトの誓い。両親や兄姉が諦めても諦めきれなかった。自分のせいでキサナはいなくなった。他の誰が否定してもティルト自身はそう思い、自分を責め続けた。誰もティルトを責めないぶん、より強く。
だから、夜中にこっそりと家から抜け出した。特にアテがあった訳ではない。けれど、そうせずにはいられなかった。
探して探してようやく見つけた力になってくれる人。
此処に来るまでティルトの胸はようやく見つけた手掛りに期待が溢れていた。
しかし、出会ったエイシャがあまりに若かった。キサナを助けてくれるのか不安になる。
「……エイシャ。妹を助見つけてくれる?出来るのか」
エイシャが嘘を言ってるとは思えなかった。そう無条件で信じられる何かをエイシャは持っていた。
いや、より正確に言うならば、エイシャにまかせれば、大丈夫だとエイシャなら何とかしてくれると信じられる何かがあるのだ。
「ティルト、答えは明日でいいわ。先にお風呂に入って来てちょうだい。夕食の準備をしておくから」
ドアが開き、エイシャが顔を出した。言われて気付けば、お腹は空いていた。。小さな干し肉の欠片だけでは3日も満足に食べていないティルトには到底足りるものではなかった。さっきまでは、緊張と不安と希望でそれどころではなった。さらに、ふと自分の姿を見下ろしどれだけ汚れているのか今更ながらに気が付いた。ぐ〜。お腹が空いていることに気付いたとたん、お腹が鳴った。顔を赤くしたティルトにクスクスとエイシャの笑い声が聞こえた。
「お風呂に案内するわ。着替えは用意してあるからそれに着替えてね。今着てる分は洗っておくから」
周りを見渡すと、かすかに湯気を立てるお湯に満たされた湯船が目に入った。温度の違う湯船が3つあり、好きな所に入れるようになっていた。
一つ一つがかなり広く、何人でも入れそうだった。
とても地下とは思えない広さと高さがあった。
あの後、ティルトはエイシャに連れられ、地下にやって来た。
「ティルト、こっちに入ってね。こっちは女の子用だから」
そう言われ、扉を開けたティルトの目に飛込んで来たのが先ほどの光景だった。
「ゆっくり入って来てね」
中の物は好きに使ってかまわないわ。
それだけ言うと言葉が出て来ないティルトに着替えを渡すと扉を閉め、エイシャは姿を消した。
「…とりあえず、中に入ろう」
ティルトの決断は?