希望
次でエイシャが出て来ます。
「そうか」
店主はそう言うと犬を見た。
「なぁ、坊主。まだ時間あるか?」
「時間?あるよ。おじさん、何か知ってるの?」
勢い込んで尋ねる子供に苦笑する。
「手助けしてくれそうな人をな」
これでも食って待ってな。そう言って店主は干し肉を手渡した。
店の隅に座って食べていると疲れが出て来たのかいつの間にか寝てしまっていた。
「坊主、起きな」
ゆさゆさと店主に起こされる。
「う〜ん」軽く目を擦りながら、伸びをした。
辺りはすっかり暗くなっていた。それでもカグナレを歩いている人は数が減っているとはいえ、未だに途切れていなかった。
「ミト、今日もご苦労さん。エイシャのとこに坊主を案内してくれな」
店主の言葉に答えるように犬ーミトは頷いた。
「坊主、ミトに付いて行きな。エイシャのとこまで連れてって来れる」
「エイシャ?その人なら、妹を、キサナを助けて来れるの?」
必死な様子の子供の頭を店主はぽんと手を置き、撫でた。
「大丈夫だ、坊主。エイシャなら、絶対、力になってくれるからな」目を合わせ、安心させるように笑いかけた。
「おじさん、ありがとう」
先を歩くミトに遅れないようにしながらも、店主に頭を下げた。最初とは対照的な明るい声に店主の顔にも笑みが浮かぶ。
「おぅ。気ぃ付けてな。エイシャによろしく言っといてくれ」
ミトは後ろから付いて来る子供より少し先を歩くように歩調を落としていた。いつもなら、走って帰る。エイシャの元に少しでも早く帰る為に。
ミトが歩む先は、主道のカグナレから細くなって行く脇道。
迷うことなく歩いて行くミトの後を追い掛けながら、子供はキョロキョロと辺りを見回した。
元々、王都から荷車で2、3日はかかる場所に住んでいる子供にとって、王都は滅多に来れない場所だった。
さっきまでは妹を捜しすことに精一杯で王都を見る余裕はなかった。
しかし、今はようやく妹を捜しすのに力を貸して来れそうな人が見つかり、辺りを見回す余裕が出てきた。
辺りには帰りの道を急ぐ様々な人がいた。中には、お使いの帰りなのか荷物を持った子供もいる。そのせいかミトと共に歩いていても、見られることはなかった。
しばらく歩くとミトの足が止まり、続いて子供の足が止まった。
子供の目の前にあるのは、三階建ての煉瓦造りの大きな家。
赤茶色のその家は周りの家に比べても一回り以上も大きかった。
家を更に大きく思わせるのが家より少し低い高さの真っ白な塀。
どこか貴族の家を思わせるその家は家々がひしめくその辺りにはひどく不釣り合いだった。
ミトが止まったことから、ここが店主の言っていたエイシャの家だと分かる。
しかし、思ってもいなかった大きな家に怖じ気付いた。
自分なんかが行ってはいけないような気がした。
ミトはしばらく子供を見ていたが、いつまでたっても動かないのにじれったくなったのか、ぐいぐいっと子供を押し、歩ませた。
大きな家に住む、ミトの主は?