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召喚獣の異世界物語  作者: 黒太
第3章 撃鉄はいつ起きるのか
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3-4 迷子の迷子の

 振り返ってみれば、そこには予想通りの金髪を揺らす軍服少女が一人。親しげに手を上げながら近寄ってくる、あまりにも奇天烈な格好をしたその人物は間違いなく先程出会った女の子だ。まさかこんなにも早く再会するとは思ってもみなかった。


「よう。さっきぶりだな。学園の方の用事はもう終わったのか?」


「む。いや、それなんだが、実はまだ学園には行けていないんだ」


「は?」


 これはまた、おかしなことを言うものだ。

 『コノハナ』までの移動に買い物。サクラやアオイとの雑談で、道を教えてから優に数十分は経っている。なのに、学園へ行けていないとは一体どういうことなのか。独特な表現の仕方も妙に気になる。

 気まずそうな少女の態度に日々也はしばし思考を巡らせ、やがて一つの可能性に至った。


「………あー、もしかして、説明が分かりづらかったか?」


「そ、そんなことはないぞ! 少年の教え方はとても丁寧だった!」


 日々也の疑念を慌てて否定する少女。しかし、明らかに気を遣っているその態度は逆に確信を与えるだけだった。

 おそらくは学園に辿り着けず、今の今まで街中をさまよい続けていたに違いない。

 慣れない土地で独り。どれほど心細く不安だったことだろう。少女の心情を考え、日々也は申し訳なさから自分の頭を乱暴にかきむしる。

 何だか今日は自己嫌悪に陥ることばかりだ。


「その、悪かったな。困らせたみたいで」


「お、落ち込まないでくれ! 少年に非があるわけじゃない! そ、そうだ! よければもう一度道を教えてくれないか? 今度こそ、きっと大丈夫だ!」


「……………まぁ、そっちがそれでいいなら」


 少女に励まされ、再び学園までの道順を伝える日々也。その内容を彼女は何度も口の中で繰り返し、脳内で反芻していく。

 そして、


「よし、しっかりと覚えたぞ! これで問題ない。ではまたな、ありがとう少年!」


「あぁ、気をつけてな」


 にこやかに手を振りながら少女が歩き去って行く。本来であればついて行った方が確実ではあるのだが、いかんせん日々也も用事を全て終わらせたわけではない。仮にも病人を待たせている以上、あまり出会ったばかりの少女一人にかまけることもできず、ただただその後ろ姿を見送るだけだった。

 とはいえ、やはり一抹の不安は残る。

 既に一度失敗してしまっているだけに、彼女が上手く学園に到着できるかどうか気になって仕方がない。しかも、現在地は最初に会った場所よりも目的地まで距離があるため、難易度も些か上昇している。

 だが、こうして別れてしまったからにはどれだけ心配したところで無駄であるのもまた事実。後は彼女が自力で何とかするのを祈るしかないだろうと、日々也もリリアへの土産を求めて別の店に向かい始める。

 問題が起こったのは、それからほんの数分後のことであった。

 少しばかり贅沢に加工品にでもするべきか。はたまた、お手頃な果物にしておくべきか。冷やしたリンゴをすりおろしてやれば、病人にはそれなりのごちそうにはなるだろうなどと日々也が思案しながら雨で濡れた道を進んでいた最中、


「む? もしや、そこにいるのは少年か?」


「……………は?」


 唐突に、声をかけられた。背後から。

 声のした方へ目を向ければ、今しがた通り過ぎた曲がり角から出てきたらしき軍服姿の金髪少女がこちらを見ている。

 初めは他人のそら似かと思った。しかし、彼女の発言からして眼前にいるのは今日知り合ったばかりの少女その人であることは疑う余地がない。そう認識した瞬間、日々也の脳内を様々な疑問がものすごい速さで駆け巡る。

 何でここにいるんだ? 学園とは全然方向が違うよな? どうして毎回、後ろから現れるんだよ?

 あまりの混乱っぷりに一つも言葉にならなかったそれらに対する答えはもちろん皆無だ。代わりに、嫌な予感が彼の頭に幾度もちらつく。


「………えっと、一応の確認なんだけどな。学園にはまだ……」


「う、む。まだ、行けていない…な」


 気まずそうに答える少女。当然と言えば当然であろう。この短時間で学園まで行き、用事を済ませて戻ってくるなど物理的に不可能だ。

 となれば、導き出される結論は一択しかない。

 また、迷っていたのだ。この短い間に。


「…………………………もう一回。もう一回、教えるな?」


「す、すまない。頼めるだろうか?」


 三度、学園までの道筋を口頭で伝えると、二人はそれぞれの目的地を目指して歩き出す。

 しかし、当たり前のように悪い出来事はそれで終わりはしなかった。

 角を曲がれば、


「やぁ、少年」


 土産を買うため店に入ろうとすれば、


「おぉ、少年」


 買い物を終えて退店すれば、


「あっ、少年」


「いや、いい加減にしろよ。お前!?」


 気がついたときには、日々也は己の顔を両手で覆って叫んでいた。

 既に五回。五回にもわたって道を教えているというのに、少女は決まって自分のところへやってくる。こうなるともはや軽いホラーだ。そういう類いの怪異か怪物かと、疑いたくなるのも致し方ないだろう。

 その異常性を理解しているのか、少女の方も渋い顔で腕を組み、


「分かる、分かるぞ少年。君の言わんとしていることは痛いほどよく分かる。何せ私はいつもこうなのだ。行きたい場所になかなか辿り着けない。本当に不思議な話だ」


「不思議でも何でもない! ただ単にお前が重度の方向音痴ってだけだからな!?」


「なっ!? 会ったばかりの相手に対して失礼だぞ、少年! 私は断じて方向音痴などではない! 他の人よりほんの少しだけ、道に迷いやすい体質なだけだ!!」


「それを方向音痴って言うんだよ! そもそも、こんな街中で一日に何度も顔を合わせてるのが動かぬ証拠だろうが!」


「ふむ、確かにその点は妙ではある。……はっ! もしや、幻惑系の魔法で感覚を狂わされているのでは!? 注意しろ、少年!! 私たちは何者かに狙われている可能性がある!!」


「止めろ! 変な妄想に僕を巻き込むな!」


 拳銃を抜き、周囲を警戒する少女に頭を抱える日々也。道行く人々から注がれる好奇の視線が恥ずかしい。悪天候故に数えるほどしかいないことが唯一の救いだが、当然のごとく彼の心は空模様と同じくどんどん曇っていく。

 まさか、関わった相手がここまで厄介な人物だとは思わなかった。予想を遙かに超えるド天然っぷり。マイペースなリリアとは違う方向性で扱いづらい。いっそ、『自分には関係ない』と切り捨ててしまおうか悩んだほどだ。


「…………もう学園まで送っていってやるから、とりあえず落ち着け」


「本当か!? 何から何まですまないな、少年!」


 しかし、ここまで来れば乗りかかった船。用事も終え、後は帰るだけなのだからついでに連れて行くのも悪くはないだろうと考えを改める。

 その後で、たっぷりとお礼をしてもらうことにしよう。


「そうだ、手に持ってるそれも早くしまえよ。モデルガンでも銃刀法違反になるらしいからな」


「……ジュートー法? とは、何だ?」


「……………何でもない」


 不思議そうな少女に対し、日々也はげんなりとした呟きを返す。

 思えば、この世界では魔法などというよほど物騒なものが一般的に普及しているのだ。刀剣や拳銃程度でいちいち取り締まっていてはキリがないのだろう。

 今更ながら、銃社会よりもずっとおっかない場所に来てしまったのだなと、少年は曇天に負けず劣らずの重いため息を吐き出した。

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