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行間 赤く染まる視界
ベタベタして気持ちが悪い。
一番初めに感じたのはそれだった。
次に何かに包まれる柔らかな感触。にもかかわらず、体の節々が痛い。
――――――――――何だったっけ?
ぼんやりとした頭でこれまでのことを思い出す。
そうだ、体調を崩したんだった。
それから、確か――――――――――。
どろり、と何かがまぶたの上を流れ落ちる。
それが頭の痛いような、熱いような感覚のある場所から溢れてくることに気づき、無意識のうちに触れる。
確認した手は、べったりと血に塗れていた。
ぐるりと首を巡らせる。
赤、赤、赤。
どこかで見たことのあるような、そうでもないような景色の中、全てが鮮やかな赤色で彩られていた。
(…………………………真っ赤っか)
どこか幻想的な光景にそれだけ思うと、少年はゆっくりと目を閉じる。
今はただ、徐々に失われていく自らを包み込む暖かさを少しでも長く感じていたかった。
5年前、居眠り運転のトラックが引き起こした乗用車との衝突事故。
ひしゃげた車体から救助されたのは、守るように母親の腕に抱かれた当時まだ11歳の男の子一人だけだった。