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召喚獣の異世界物語  作者: 黒太
第1章 いつもと違う「日々」の始まり
33/71

1-31 謎解き

「ヒビヤさんはどう思います?」


 夕食を終え、食器を洗っている最中。話題を振ったのはリリアの方だった。


「何がだ?」


 曖昧な質問。リリアが何について問うているのかある程度は把握しているつもりだが、日々也はあえて聞き直す。


「リュシィさんが言ってたことですよ。ほら、イラクサさんが襲われたって………」


 返ってきた答えは予想通りのものだ。引っかかっていることでもあるのか、リュシィから話を聞いたときからリリアはずっとそのことについて考えているようだった。


「どうって言われてもな」


 対して日々也はさも興味なさげに洗い物を続ける。彼からしてみれば、自分たちに関係のないことを考えてもどうしようもない、と言ったところだろう。そもそも、何故そこまで気にするのかが不思議でならない。これが少しでも疑問に感じたら解明せずにはいられない魔法使いの性、ということなのか。


「だって、おかしいと思いませんか? ホオズキさんと同じ場所で襲われた、なんて………。ヒビヤさんなら、前の日にお友達が襲われた場所にわざわざ近寄ります? それも夜中に一人でですよ?」


「まぁ、確かに変っちゃ、変だけどな」


 リリアの言うことにも一理ある。日々也自身、その点に関しては違和感を感じていたところだ。

 だが、


「それを僕らが話し合ってどうなるっていうんだよ?」


「う……それは………そうですけどぉ………」


 呆れたような日々也の口調にリリアも歯切れが悪くなる。既に完全下校時刻は過ぎており、そろそろ見回りが始まる時間帯だ。今更何かが分かったとしても、それを伝えるような余裕はない。第一、連日の事件のこともあって、今は生徒が放課後に校舎内へ入ることは禁止されているため、教師たちと直接会うことことすら困難な状況だった。


「で、でも、ほら! もしかしたら、私たちの噂が根も葉もないものだって証明するための手がかりになるかもしれないですし!」


「……………まぁ、いいけどな」


 どうしてもイラクサの件が腑に落ちないのか、なおも食い下がるリリア。そのあまりの執着っぷりに日々也はため息をつきながら会話への参加を表明し、早々に濡れた手を拭ってテーブルの前へと座り込んだリリアの対面に腰掛ける。


「とりあえず、分かってることから整理していきましょうか」


 そう言うと、リリアは鞄からノートとペンを取り出して書く体制を整えた。日々也が『その熱意をもっと他のことに向けた方がいいんじゃないか?』というような目をしていたが、無視して筆を走らせていく。


「まず、一昨日の夜にホオズキさんが襲われたんですよね。時間帯は………えっと、晩ご飯を食べて、屋上に行って、戻る途中でしたから確か……………」


「八時くらいだな」


 左腕に巻き付けられた時計を見やる日々也。あの日の帰り際も、こうしてなんともなしに時間を確認していたので間違いはないだろう。


「そうでしたね。それで、場所が西館の七階、と」


「で、昨日がイラクサか。でも、場所はホオズキと同じだって言ってたけど、時間までは分からないんじゃないか?」


「その点は心配ご無用です! さっき、通信魔法でリュシィさんに確認しましたから!」


 得意げにリリアが取り出したのは自分用の携帯型通信魔法機。一体、いつの間にそんなことをしていたのか。無駄な手際の良さには呆れを通り越して感心すら覚える。

 というか、わざわざ事前にその情報を用意していた辺り、どう答えようともこの話をするつもりだったなと日々也は目を細めた。


「それでですね、リュシィさんによると、イラクサさんのときも襲われた時間はホオズキさんとほとんど同じだったそうです」


「時間も?」


 ノートに書き加えられていく内容に日々也は眉をしかめる。リリアも疑問に思っているのか、自らの口元にペンを押しつけながら渋い顔だ。


「変ですよね。場所も時間も、だなんて」


「何か理由があるってことか?」


「それを今から考えるんです!」


 ふんすと鼻を鳴らして意気込むリリアだが、逆に日々也はどんどんやる気をなくしていく。そもそも、この程度のことしか分かっていないのに何を話し合うというのか。正直なところ、全てが無駄に終わる気しかしなかった。

 そんな思いとは裏腹に、リリアは落書きと大差ないものとにらめっこを続けながら真剣に考え込んでしまっている。面倒くさいという感情を押し殺し、日々也もひとまずはそれに付き合う姿勢だけを保つ。


「でも、犯人はどうしてわざわざ先生たちが見回りをしているような時間帯を選んだんでしょうか?」


「選んだも何も、二人が学校にいたのがその時間だったってだけじゃないのか?」


「さっきも言いましたけど、不審者がいることを知っていたイラクサさんが一人で学校をうろつくなんて絶対変ですよ。その上で二人が襲われた時刻が一緒だったということは、多分、偶然なんかじゃなくて犯人に呼び出されたんじゃないでしょうか?」


「呼び出された………か」


 今回の事件に対して取り組む本気度の違いか、日々也では思い至りもしなかったことを口にするリリア。その推理は少々乱暴ではあったが、リュシィが言っていた通り内部犯の犯行であるならば不可能ではないだろう。

 ただ一つ問題があるとすれば、


「で? 結局、理由は何なんだよ?」


「そ、それはまだ分かりませんけど………」


 仮にリリアの推測が正しかったとして、どういった目的があってなのかという疑問が解消されるわけではない。やはり、あまりにも情報が不足しすぎている。


「と、とにかく! 見回りの時間を狙ったのには何か意味があるはずなんです!」


「だから、それが分からないんだろ?」


「う………ええと、じゃ、じゃあ、この件に関してはいったん保留にしましょう! 次は場所についてです!」


 言葉に詰まり、リリアはテーブルをべしべしと叩きながら無理矢理な話の転換を図る。予想通りの展開に日々也のため息もさらに深くなっていった。この話題に関してもこれくらい簡単であれば苦労はしないのに、と頭の中で愚痴らずにはいられない。


「場所って言っても、別に何の変哲もなかったと思うけどな。ごく普通の石造りの廊下だっただろ」


「私たちが例の不審者と出くわしたときに、おかしなものとか見ませんでした?」


「特に覚えはないな」


「むぅぅ……」


 にべもない受け答えに、とうとうむくれだすリリア。だが、そんな顔をされたところでどうしようもないことも事実だ。


「あぁ、そういえば……………」


「何か思い出したんですか!?」


「いや、そうじゃなくて……あの日のことなんだけどな、お前、誰かに話したりしてないよな?」


「してませんよ? そもそも、理事長さんに口止めされてるじゃないですか」


「んー、でもなぁ………」


 一体どうしたのかと小首をかしげるリリアに、納得がいかないと言いたげに呻る日々也はとあることを告げた。

 その内容にリリアの目が見開かれる。

 それは、彼にとってはほんの些細な、ただのちょっとした疑問でしかなかった。

 しかし、たった一言二言の言葉によってリリアの中で点と点が繋がり、一本の線となっていく。


「ヒビヤさん。一応、確認しておきたいんですけど、ヒビヤさんが他の人に伝えたりとかは……………」


「だったら、こんなこと聞いたりするはずないだろ?」


「そう、ですよね………」


 縋るように絞り出した質問をあっさりと否定され、リリアが唇を強くかみしめる。

 信じたくはなかった。

 だが、日々也の言っていることが真実だとすれば、自らのたどり着いた推測にも合点がいく。

 そして、日々也には嘘をつく意味も利点もなかった。


「見回りの時間帯を狙ってたわけじゃなくて、それが一番都合がよかったんですね………。場所も、あの廊下だったから……………」


「リリア?」


 不意に、ノートに記された情報を眺めながら呟きだした少女を怪訝な表情で見つめる日々也。それすら気づいた様子もなく、リリアは独り言とともに筆を持つ腕を動かしていく。

 鬼気迫る顔でありながらどこか悲痛な姿は、まるで自分の想像が間違っていることを願っているようでもあり、いやに痛々しい。

 次第にその動きが緩慢になっていき、やがて完全に止まると、リリアはため息とともに目を閉じた。

 たどり着いたのは残酷な一つの真実。受け入れがたいそれに小さく体を震わせる。


「おい、どうしたんだよ? 変だぞ、お前」


「…………………………ヒビヤさん」


 ようやく呼びかけに応えたリリアの瞳が揺れる。そこにあったのは、どうしていいのか分からない不安と戸惑い。さすがの日々也も何かただならぬ状況なのだと察して眉をひそめる。

 だが、それも長くは続かなかった。

 真っ直ぐ自分を見据える心配そうな視線を受け、リリアは頭を振って恐怖を振り払うと、覚悟を決めて立ち上がる。

 そして、


「ヒビヤさん! ついてきてください!」


「お、おい、どこに行くんだよ!?」


 有無を言わさず、強引に腕を引くリリアに日々也が困惑する。つい先程まで怯えたような表情をしていたかと思えば、唐突に目つきが変わったりとわけが分からない。焦った様子のリリアとは対照的に日々也はその場を動こうとはしなかったが、何も説明を受けていない状態では当然と言えるだろう。

 そんな日々也に軽い苛立ちを覚えながらも、リリアはぐい、ともう一度だけ力強く引っ張り、告げる。


「分かったんですよ! 犯人が! だから、早く止めないと!」

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