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三題噺もどき―はっぴゃくななじゅうに。
家の中には掃除機の音が響きわたっている。
今どこに母が居るのか分かるくらいの音量で掃除機が音を立てている。
今日この時間、日曜日の午前中という時間に、部活で部屋を開けている妹の部屋に掃除機をかけているらしい。
「……」
部屋に勝手に入られることが嫌ではないが、入ったことも言わずに掃除機だけかけていくのが家の母だ。ありがたいが、たまに変にモノを動かしたりするので困ることもある。
2人の妹の内1人は、そういうこだわりがあるのでたまに母に文句を言ったりしている。
私は床にモノを置いたりしないので、掃除機をかけられても何も文句を言う事もない。
「……」
まぁ、勝手に部屋に入るのはいかがなものかと思うが。
そこはそれ。家族である以上、プライベートというモノはあってないようなものだ。
隣の部屋の音なんてよく聞こえるし、掃除機も勝手にかけられるし、窓も勝手に開けられるし、気づけば部屋が謎に綺麗になっているのだ。
「……」
私と言えば、今日は土曜授業もないので部屋のベッドでダラダラとしている。
多分、昼前になれば妹たちを迎えに行ってそのまま昼食を食べに行くはずだ。
それまでは自由時間というか、暇な時間というか、何もできずに手持ち無沙汰にダラダラとするだけの時間だ。
「……掃除機しましょうか」
スマホをいじりながらゴロゴロしていると、ノックもなしに開かれた扉から母の声がした。
掃除機のスイッチを切り、今にも部屋に侵入しそうな勢いで立っている。
私の部屋の床にはタイルマットが引かれているので、定期的にコロコロで掃除したりしている。だからまぁ、今日はいいかなと言う……後普通に掃除機うるさくて苦手なんだよな。
「大丈夫、今度する」
「……昼前に出るから準備しててよ」
「はーい」
そう言い残し、1階のリビングへと戻っていく。
母は普段スリッパを履いて動き回るので、足音がよく聞こえる。
リビングに降りたところで、物置に掃除機を直し、扉を閉め、今度はキッチンか浴室。
……おそらく、キッチンだろう。
「……」
つい先ほど、叔父の家から百合が送られてきたのだ。
母の実家は百合を作っていて、時期になると送ってきてくれるのだ。母は家を継がず、叔父が継いだという事だ。
白くて、綺麗で、リビングに飾ってあると映えもするし、匂いもよくする。
……去年から、花を飾ることが当たり前になっているもので。
「……、」
余計なことを考えそうになったので、むくりと体を起こす。
ベッドの上に座り、宿題を開いたままにしていた机をぼうっと眺める。
昨夜、なんとなく持ってきたましゅまろの袋が開きっぱなしになっていた。食べながらするのはあまりしないのだけど、昨日は甘いものが欲しくてリビングから持ってきたのだ。
「……」
来週学校に持って行って、あの子に食べてもらおうと思っていたのに。
アレは、あの子に教えてもらったましゅまろだ。それなりに美味しい。
甘いものはあまり得意ではないので、そこまで量は減っていない。どうせ余るだろうから、持っていけばいいんだけど。なんとなく、それは違う気がする。
「……」
今日買い物にでも行くときに買っておこう。
ついでにリップクリームも買って置かないと……一昨日帰りに買う暇がなくて、昨日詰められたのだ。ああいう時のあの子はほんとに怖い。嘘はつくものではないな。
「……」
遠くから、サイレンの音が聞こえる。
この辺りはほんとに定期的にパトカーか救急車の音が聞こえる。
少し離れたところに病院があるのも原因だろうが、それにしても頻繁に聞こえすぎな気がする。
「……」
サイレンの音は、少し苦手だ。
あの夜を思い出すから。
そういう運命だったとか、言われても。
未だにどうしてだろうと不思議で仕方ないのに。
どうしていないんだろうと思ってしまうのに。
帰宅して声が聞こえなくて姿が見えなくて、不思議に思うのに。
飲み込めているようで飲み込めていないのに。
あの時こうしていたら、あの時ああしていたら、もっと、違う、
「……」
「……」
「……、」
死にたいなんて、思いたくもないのに。
死にたいと、思ってしまう。
お題:ましゅまろ・運命・百合




