9.時にはすれ違う
ジョシュアが街に来てから1か月が過ぎた。2人の関係
曖昧なままである。
「ジョシュア、夕食はここにあるから。、私は診療所に行ってくるね」
「わかったよ」
診療所に向かう美里は着替えを済ますとすぐに医師の補助に入る。
「ミナトさん、こっちもお願い」
「はーい」
子供の処置中に聞こえる。
「ジョシュアさん、素敵よね」
「でも、ミナトさんの恋人でしょ」
「それが違うとミリーちゃんが言ってたわ」
「それで最近、鍛冶屋のミリーちゃんがアタックしてるのね。私も2人でいるのを何度も見かけたわ」
美里は街での噂に疎かった為に初めて聞くジョシュアとミリーと言う女性の噂に戸惑うのであった。
「ほら、ミナトさんは、あの行商人とも……」
「そうなの?」
「何度も泊まっているってミリーちゃんが言っていたわ」
「可愛い顔して中々やるのねミナトさん」
「………………私は」
グッと拳を握り一言言ってやりたい気持ちを抑え再び患者の元に向かうのであった。
その日、診療所は早くに閉めた為、大通りをあるく美里。
ふと目の前にはジョシュアと可愛らしい女性があるいているのが見える。
「あれがミリーさんかしら」
ジョシュアは荷物の配達なのだろうか大きな荷物を軽々と運んでいた。その時、ミリーが何かに躓いたのをジョシュアは片手で支える。ミリーは顔を赤くしお礼を伝えていたのであった。
ふと見えたミリーの髪留めにはジョシュアの色が入っていたのだった。
店に戻ると行商人とアイザックが来ていた。
「ミサトさん、商品の補充に来たよ……顔色が悪いよ。何かあった?」
「いや……あの……」
行商人は店内には人がいない為に『ミナト』ではなく、ミサトと呼ぶのであった。
「ジョシュアの事かな、少し休憩しても? 美味しいコーヒーが飲みたいな」
「わかったわ。中へどうぞ」
美里はコーヒーを淹れる。
「で、ミサトさん何があったの?」
「…………」
美里は今日聞いた事と街で見た2人の事を行商人とアイザックに話すのであった。
「ミサトさんは嫉妬したのかな?」
「嫉妬……」
少し考えて答える。
「嫉妬したのかもしれない。でもジョシュアがその女性と共にいたいのなら、私はまた消えないといけないわ」
「どうして」
「彼らの側で笑顔でいられる自信がないわ。ジョシュアだって、私に気を使って言えないのかもしれない。でももう少しなのよ」
「何がもう少しなの?」
美里は1度2階に戻り小さな箱を持ってくる。
「あのね……ジョシュアは魔力がないから、この家でも少し不便でね……いや違う。前から魔力が無いことに引け目を感じているようで……騎士を続けていくのにも魔力はあった方がいいと思っていてね。これを……」
「ミサトさん、これは……」
「魔力を魔石に込めているの。でも商人となったジョシュアにとっては不要かもしれない。ジョシュアがここに来てから辞めようかと思っていたけど……日課とは恐ろしものでつい……ずっと魔力をこれに溜めていたの」
「ミサトさん、これは魔石だけど特殊な物だね」
「えぇ、魔力の入れ方がわからないから私の血を一滴ずつ入れていたの」
「いつから?」
「ここに来てから毎日……。この石は女神様からもらったの。この世界のね。申し訳ない事をしたからと言ってお詫びの品よ。魔力の代わりに体液でもいいと教えてもらったから。血に含まれる魔力が貯まるのよ。血を貯めた物を渡されたら引くと思うから内緒よ。これしか方法がなかったのよ」
「ジョシュアは?」
「知らない、でもいらないかもしれないわ」
「ミサトさん、きちんと自分の気持ちを伝えてから出ていかないとダメだよ。もし違う場所へ行ったとしても手紙をくれれば僕は君の元に商品を届けに行くよ」
「そうよね。今回はきちんと伝えて返事を聞いてからにするわ」
「そうしてね。しかし、結構売れているね」
商品棚はスカスカである。
「そうなのよ、パスタ類は売れているわ」
「成る程ね、ここに支店を出して正解だったよ。本当は君らを会わせるのが目的だったんだけどね」
「そうなの?」
「あぁ、少し2人には冷静にもなって欲しくてね。しかし、おかげで素敵な品も見れたよ。この石は凄い魔力……いや想いが込められているよ。もうすぐだね。そうだね……この石に合うのは……たしか見本を持って来ている」
カバンをゴソゴソしだす行商人。
「あったよ、このネックレスは小さな鳥籠が付いてね。中に好きな宝石を石のまま入れる」
「素敵ね」
「でしょ、はいプレゼント。石に魔力が溜まったら入れて」
「いいの? ん〜やはり購入するわ」
「ミサトさんなら、そう言うと思った」
「しかしタイミングよく、いい物を持ってくるだなんて凄いわね」
「でしょ」
ニコニコと笑う行商人にアイザックは言う。
「おい、聖女から言われたのだろ」
「ん? 聖女様」
「アイザック……バラすな。実は聖女様から、順調ならそろそろだからとね。彼もそろそろ来るだろうしね」
ガチャ。
「ミサト……今日は早いね……あのさ……さっき街にいたよね」
「あぁ……いたわ」
「見た?」
「…………」
悲しそうに笑う美里。での中の小さな石はほんのり温かい、そのおかげで冷静な気持ちでいられる。
「あの……いいのよ。気にしないで。少し休むわ、ジョシュアは仕事して」
自室のある二階へと向かう美里であった。
「ミサト……あの……俺」
ジョシュアは追いかけようとするも行商人から声がかかる。
「ジョシュア、報告は?」
「師匠……」
「仕事は別だよ」
ジョシュアは売り上げや商品について報告をする。
「……まあ、こんなところだ」
「ジョシュア……成長したね。じゃあ、荷物を纏めて」
「え?」
「ん? 約束のひと月だ。今回は息子が一緒に来ていてね。今、支店に丁度いい場所に空き家がないから見に行っている」
「いや、このまま俺が」
「おや、この街にいい人が出来たのかな?」
「そんな女はいない。ミサトだけだ」
「おやおや、街では鍛冶屋の娘といい仲だと噂だ。ミサトさんも2人で仲良く配達しに行く所を見たようだし」
「やっぱ見てたよね……彼女とは何もないし何とも思ってない」
「ひと月も同じ屋根の下なのに何してんの?」
「いや……前に。騎士団の医師から男は誠実であれと」
「…………ジョシュア、君はここに来る前は誠実な男ではなく客とも寝る男だったろ。その女性とも寝たの?」
「……寝てないよ」
「誘われたら?」
「寝れない、ミサトと寝たいよ。実はコレを依頼してて」
ポケットから出したのは指輪だった。
「ミサトに渡してプロポーズしようと思って、師匠が来たら素敵な箱を頼もうかと」
「…………それだけ?」
「そうだよ。俺にはミサトだけだし……でもミサトにその子と一緒のところを見られていたとはね。配達してすぐに戻ってきた」
「オヤジ〜やはり隣町の方がいいかも」
店に行商人の息子がやってくる。
「やぁ、ジョシュアさん久しぶりだね。王都に戻るのでしょう? ここは店のお姉さんにお願いしたら? 隣町の方が賑わっているし」
「…………嫌だ……ミサトと離れたくない……」
ハラハラと涙を流すジョシュアに一同驚く。
「え……ジョシュア……」
「いやだ……また離れるのは嫌だよ」
ミサトのいる2階を見る。
「待って、また消えたりしないよね……」
「大丈夫だろ。落ちつくんだ。いいかい焦ってはダメだよ。きちんとミサトさんの話を聞いてね。ジョシュアもしっかりミサトさんと向き合ってね。その指輪はいつ渡すつもりで?」
「明日……ミサトが消えた日だから、いい思い出の日にしたいから……まぁ、うまくいけばの話だけど」
「はい、丁度可愛い小箱がある。プレゼントだ」
「……ちゃんと購入したい」
「ふふっ、同じだな」
「ん?」
「こっちの話だよ。さて品物を裏に運んだら僕らは帰るよ。交代は無しでいいね」
「師匠ありがと、次来る時に俺の荷物を」
「自分で来てよ」
「…………」
「その時にミサトさんと一緒なら妻も喜ぶよ。頑張って、可愛い弟子であり息子だ」
「……気持ち悪いな、師匠がオヤジだなんてさ」
「…………」
荷物を運び終える一同、美里は窓から様子を見ていた。
帰り支度をする行商人に2階のキッチンで作ったお弁当を渡す。
「行商人さん……」
「ミサトさん、いつもありがとうね」
「じゃあ、お2人はしっかりね」
馬車を見送る2人。街の住人も新しい商品を楽しみにしていた。そして最近、噂の2人をこっそり見ているのであった。その中に鍛冶屋の娘と友人といたのだった。
「ねぇ、ジョシュア。ゆっくりと話がしたい」
「ミサト……俺も大事な話がある」
ただならぬ雰囲気に心躍らせるのは鍛冶屋の娘ミリーである。最近、美里の診療所の日を狙いジョシュアのいる店へと訪れるミリー噂になるように重い荷物の配達を依頼し一緒にいる姿を街の住人にも見せていたのだった。
「ミリー、2人は一緒にいるわね」
「でも様子が少し変よ。もしかしら2人は別れ……え……」
ジョシュアは店の前でミサトに抱きつくのであった。そして美里が見えたのはミリーの姿である。
「ジョシュア……ミリーさんが見てるわよ」
「いいの……知ってる。少し話がある」
「ここで? 彼女が勘違いするわよ」
「勘違いも何も彼女とは何もないから、ミサトは今日、俺と彼女を見たよね」
「見たわ。仲良さそうで……」
「俺が好きなのはミサトなんだけど」
耳元で囁くジョシュア。
「……でも」
「俺がいなくなっても寂しくないの? 俺はいらない?」
「いて欲しい……」
「いつまで?」
「…………」
俯く美里にジョシュアは頬にキスをする。
「いつまでいていいの?」
「……ずっとよ。 ずっと私の側にいて欲しい。私こそいていいの? 邪魔なら消え―」
「待って……それは絶対にダメ』…………ジョシュア?」
美里の言葉を遮るジョシュアは美里の手を握り伝える。
「きちんと話をしようか」
「わかったわ」
ミサトの顔を自分に向けると美里の唇にキスをする。
「さて、行くよ」
美里を抱き上げ肩に担ぐと、そのまま店へと戻るのであった。
その様子を見ていたミリー。
「ちょ……嘘よ。2人は上手くいっていないはずなのに」
「……」
友人はミリーが失恋した事を悟ったのだった。
「ミリー、帰るよ」
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