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7.やはり何処にいてもナースな私

 ランチの時間が終わる15時、美里は店を閉めて出掛けるのだ。向かう場所は街の診療所である。



「ミナトさん。待っていた。丁度、怪我人達が診察にきたよ」


 この街で『ミナト』と名乗る美里は週に2度、診療所の手伝いに来ていた。医師の診断後の創処置を手伝うのだった。




「ミナトさんが来てくれるから多くの患者を診られるから助かるよ」


「この位しか手伝いを出来ないですが……」

「いや、充分だよ。処置が早いから助かるんだ。それに皆んな制服姿のミナトさんを見たら大人しく診察を受けるからね」


「みーちゃん、ここ痛いの」


 美里のエプロンをチョイチョイと引く小さな力。


 小さな男の子が膝から血を流しているのだった。

「転んだの? こっちで洗ってからお薬塗るよ」


 水で洗う美里に少年は言う。

「う……痛い。みーちゃん、僕、偉い?」

「とっても偉いね」

 頭を撫でると嬉しそうに美里に抱きつくのであった。



「ゴホッ、ゴホッ……みーちゃん」

「お熱ね。お薬飲めるかな」


「…………頑張ったら。また遊びに行ってもいい? ゴホッゴホッ……」


「風邪が治ったら遊びに来てね。パンケーキをまた皆んなで食べようね」

「うん……赤い日まで治るかな?」


「大丈夫よ。お薬を頑張って飲んでね」

「はい……ゴホッゴホッ」


 美里は月に2回、日曜日になると店に子供達を呼びパンケーキをご馳走していたのだった。その時、美里に見せるのはお手伝いカードである。頑張った子にはパンケーキにクリームが大盛りになるので子供達はお手伝いを頑張っているのだった。子供の両親からも感謝されている美里であった。



 その頃ジョシュアはグゥと腹の音が鳴る。

「腹減ったな、確かここはカフェだから何か食わせてもらいがてら挨拶しとくか」


 ジョシュアは店の正面に向かう。


「…………閉店」


 しばし考えていると話しかけられる。

「ミナトさんは、診療所だよ。残念だったな、ミナトさんの料理は美味いからな。明日も定休日だから食べたいなら明後日だ。見ない顔だな、向こうの通りに食堂と惣菜屋があるぞ」


「あぁ、すまない」


 ジョシュアは通りを歩く。

「悪く無い街だな」


 歩いていると親子が歩いてくる。

「みーちゃん、可愛いかったね。僕は泣かなくて偉いって」

「偉かったね」


「ママ、僕はみーちゃんと結婚するの」


「あはは、それなら沢山勉強してミナトさんに恥じない大人にならないとね」


「勉強……」

「そうよ。みんなミナトさんが大好きだから、特別になるには頑張らないとね」


 

 ジョシュアは思う『ミナト』という女はこの街では有名なんだと。


 惣菜屋に到着する。

「おや、お客さん見ない顔だね」

「今日から、少しの間世話になる。惣菜を欲しいのだがいいか」


「何処に住んでいるの?」

「役場の隣のカフェの裏だ」


「ミナトさんの所?」

「そうだが」


 その時、店内に子供が入ってくる。戻るなり店主に紙を見せ何かを書くように伝えている。

「母さん、配達頑張ったから、書いて」

「はいはい、もう少しだね」


「坊主、それは?」

「ん? お手伝いカードだよ。ここまできたら、クリーム大盛りなんだ。みーちゃんのパンケーキは絶品なんだよ」


 よほどパンケーキが美味しかったのか思い出し涎を垂らす子供に若干引きつつ頭を撫でるジョシュア。


 

「ミナトさんが考えてくれてね。街の子供達も手伝いをして集めているんだ。親としてもありがたい。子供達が街に出るから大人達も子供の安全にも気を配るようになってね。若いのに偉いよミナトさんは」


 店主の女はミナトが街に来てくれてからことを話すのだった。去年起きた崩落事故で大勢の怪我人が出た際も的確な指示と治療、そして温かい食事の提供で街の住民の心を射止めた女神だと言い。変な男に引っかからない様に商店街の婦人会でミナトの事を見守っていた事を話し、街の男達もミナトの隣を狙って牽制しあっている事を教えてくれたのだった。ジョシュアは店主の話を聞き、美里の様な女性がこの街にもいるのだなと思い、少しだけ会うのを楽しみ思うのであった。


「今日は、ミナトさんは診療所の手伝いだ。カフェの裏なら丁度いい、ミナトさんにお裾分けを持っていってくれ。あんた……その瞳の色」


「ん?」


「必ず、ミナトさんに渡しておくれよ」

「わかったよ」


 辺りはもうすぐ日が暮れる。ジョシュアは店の裏へと戻るのだった。カフェの裏の倉庫にランプを灯す。店の方は今だに暗いままだ。店の裏口を発見しドアを開けてみる。


 ギー。普通に開いた。

「おいおい、不用心すぎるだろ」


 店の中は綺麗に整頓されていた。店のランプに灯りを灯す。流し台には洗っていない食器が置いてあった。きちんと水に浸しておりジョシュアは懐かしく思う。騎士団にいた頃も美里によく水で浸せと叱られていたのだった。ジョシュアは皿を洗い出す。


 洗い終え拭いた食器を見て勝手にしてしまった事に気付く。

「勝手に洗って怒られないだろうか……」


 そう言いつつも店内の片付けも始める。テーブルを拭き、置いてある雑誌や小説を本棚に戻す。懐かしい雰囲気の店内はあの頃の騎士団の食堂の様であった。


 ジョシュアは手洗い場を借りて小さなランプ以外の灯りを消し、買ってきた惣菜をカウンターに置くと再び裏の物置に戻るのであった。


「腹減ったな……」

 物置から時折窓の外を眺める。すると店の明かりが強まるのが見えた。店主のミナトが帰ってきた事がわかるとジョシュアは緊張しながら裏口へと向かう。



 ガチャ。

「ランプが付いているわね、助かるわ。ん?」


 美里は店内が綺麗になっているのがわかった。そしてカウンターの上には惣菜が置いてある。キッチンに向かうと洗い物は終わっており綺麗に重ねられている。

「裏の住人かしら」


 美里はいつも裏の鍵は閉じるが裏の住人が手洗い場に困るだろうと今日は開けたまま診療所に向かったのだった。


「親切な人ね」


 大きさ順に重ねられた食器を見てジョシュアみたいだと思う美里であった。

 

「惣菜の量が多すぎるわね。もしかした彼もまだ食べていないのかしら。準備をしたら声をかけてみようかしら」


 キッチンで惣菜を皿に盛り付ける美里。そして昼に残ったオニオンスープとグラタンを温め直す。

 ゆっくりと裏口のドアが開く。ジョシュアはキッチンに立つ女の後ろ姿が見える。



 店内に灯された灯りでもわかる黒い髪、そして髪を飾るのは見覚えのある髪飾り。


「俺の色……ミサト……」


 台所に立つ女性はゆっくりと声のする方に振り返る。


「え……ジョシュア……」



 ジョシュアはキッチンに駆け寄ると美里を強く抱きしめるのであった。



「ミサト……ミサト……会いたかった」

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