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5.カフェと私

「ミナトさん、今日のランチは何?」

「いらっしゃい。今日はポテトグラタンです」


「丁度食べたい気分だったのよ」


 美里は念願のカフェを営んでいた。女神の力でやってきた町での生活はのんびりとしていた。名前も『ミナト』と名乗り2年がたった。



 そこにやってきた男が1人。騎士団でも顔を出していた行商人である。この行商人は美里の好む醤油や味噌を持ってきてくれるのだった。


「ランチを頂こうかな」

「待ってて」


 ポテトグラタンは予め作っている為、オーブンで焼き目をつけたら完成である。


「はい、サービスよ」

「ありがと」


 のんびりとコーヒーを楽しむ行商人。

「この街に支店を作ろうかと思ってね。ミナトは大口のお客様だしね」


 王都までの通り道のこの街は以前は寂れていたが美里がやってきてからは少しずつ活気を取り戻している。始めは不審者扱いの美里であった。何せ、突然に黒髪の美少女が空き店舗がないか役所に訪れたからだ。物珍しさからカフェに通う人が1人2人と増えた。そこで食べる変わった食べ物は訪れた人を魅了し今では営業中は美里の料理を待つ人であふれている。


 また旅の途中で偶然立ち寄る旅人も美里の料理で疲れが癒されると口コミで広がっていたのだった。


「しかし、本当にいい場所だね」

「そうよ、私には幸運の女神が付いているのかもしれないわ」


 美里の店は役所の隣である。手続きの為に訪れた人が時間を潰す為にカフェで過ごす。そして更に隣は交番がある。役所や交番の職員もランチを食べに来る為に安全である。


 美里は知らない、役所や交番の男達が美里を狙っていることを、そして男達は互いに牽制しあい抜け駆けをしないようにと店に出入りしていたのだ。そこに大通りの女将さん達が美里を守る為に時々顔を出しては料理を教わるのであった。


 その為、行商人からの買い付けも多くなるのであった。


「この街に支店? とても助かるわ。あなたがここに?」


「僕は1つの街に留まるのは柄じゃないから、新しく雇った男が来る。まぁ、ミナトが毎晩、僕の夜の相手をしてくれるなら考えてもいいけどね」



「へ? 夜の相手……奥さんがいるでしょ」

「まぁ、お情けの夫だからさ」


 美里は思う、相変わらずこの世界のイケメンの基準がおかしいと。行商人はイケオジである。渋い顔が素敵である。


 店中にいた客達は行商人を見る。

「あはは、この店の客はミナトの護衛のようだ」

「ん? 皆さんが?」


「まぁ、僕はミナトが望めばいつでも駆けつけるつもりだよ。まぁ、今回の支店なんだけど、この店の一角を貸してくれればありがたいと思ってね。ほら、観光客や旅人、街の住人も来るからね。今回は僕の一番弟子の独立の為だよ」


「弟子がいたのね。知らなかったわ。はい、ポテトグラタンにオニオンスープ」


「これはまた美味しそうだ」


 熱々のグラタンにフゥーフゥーと息を吹きかけると口に運ぶ。

「おふっ……おふ。熱々で美味いな」

「気をつけて、水は置いとくね」


 コトリと氷水の入ったグラスを置く。

「すまないね。君も何かと護衛が必要だろうしね」


「その方が護衛も?」


 氷水をグイッと飲み干す。美里はお代わりの水を注ぐ。

「今から2年位前なるけど、彼には、どうやら探したい人がいるようだ。仕事を教えつつ連れて歩いたんだよ」


「ここには来た事ないわね」

 美里の店に来る時は、いつもイケオジ1人だ。


「あぁ、あえて連れて来なかった。彼は客から人気でね。最近は商品ではなく、彼を所望される事が増えてきてね。


「そう、素敵な人なのね」

「いや……今の彼の愛想は悪いね。きっと彼の探す人の前では違うのだろうね」


「そう……怖い人ではないの?」


 美里の頭には1人の男性が浮かぶ。


 ジョシュア、彼は今どうしているのかしら、幸せにしていればいいけど。


「ミナト?」

「あぁ、今、ジョシュアを思い出してね。彼は元気かしら?」


 この街に来てから、カフェを営む事となり騎士団でも顔見知りの彼に必要な品を頼む手紙を出してから書いて2年余り経つが何度も訪れる行商人にジョシュアの事は一度も聞いた事はなかった。


「彼の事忘れたのでは?」


「ジョシュアを? 忘れる訳ないわ。1番お世話になった大切な人なの。彼の方こそ私を忘れているはずよ。きちんとお別れも言わずに消えたのだから」


「彼は騎士団を辞めたんだよ」

「え……どうして」


 行商人は美里にいなくなった後の事を話す。アイザックの呪いは完全に解けず今でも身体中に痣が残っているが動く事は可能となり王女への愛も消えた為にジョシュアと共に騎士団を辞めた事を知った。


「アイザック様は王女の事が好きだったのよね」

「王女はね、アイザックに言ったんだよ。バケモノと……」


「え……」

「流石にアイザックの王女への忠誠と愛はなくなったようだよ。王女は隣国の王子と結婚すると喚いていたが、実は王女はアイザックと身体の関係もあったようでね。一応、隣国の王族だからね。清い身での婚姻が必須だったんだよ。だから王女は自国の優秀な男数人と盛大な結婚式を挙げたんだよ」


「流石、異世界だわ。ぶっ飛んでいるわね」


「アイザックはその後、教会で魔力の補充係をして、そこで知り合ったシスターと結婚したんだよ。今でも顔には酷い痣があるが愛なのか……シスターは問題ないとね」


「そう、良かったわね。で、ジョシュアは?」

「ん? 彼は……」


 店の外に一台の馬車が停まる。

「おや、荷物が来た。裏の倉庫に入れてもいい?」


「今、鍵を……」

「私が開けても?弟子と荷物を入れてくるよ」


 美里は裏の倉庫の鍵を渡す。何度か運んでもらっている為、行商人は慣れたように鍵を受け取り店の外に出る。


 店の横を馬車がゆっくりと進む。店内の客は美里にの元に駆け寄り口々に護衛は必要ない事を伝えるのだった。


 美里は客達の話を上の空で聞く。

 ジョシュアは何処に行ったのだろうか、もう二度と会う事がないと改めて知り心がズキリと傷んだのだった。


 行商人は1人で戻ってくると美里に伝える。

「彼が荷物を下ろしたら私は戻るとするよ」


「今から戻るの?」

「護衛を雇っているからね。大丈夫だよ。ちなみにカイトは元気だよ。去年生まれた子がカイトの子でね。女の子だからメロメロで片時も離れないんだ。おかげで妻も私の相手もしてくれるから有難いがね。ミサトさんによろしくと言っていた。妻も遊びに来てとね」


「ん?」

「言ってなかったけど私の妻はカイトの妻でもあるよ。妻の商会を通して納品してるからね」


「え……」


 カランカラン。店に1人の大きな男が現れてる。顔に痣のある男性だった。


「いらっしゃいま……せ。あなたは……」


「ア……アイザックだ。あの時は世話になったのにすまなかった。お礼と謝罪をさせてくれ」


「アイザック様……元気になって良かったわね」

「あぁ、助けてくれてありがとう。今は教会で働いている。結婚もした。全て君のおかげだ。あの時は本当にすまなかった」


「私こそ、途中で投げ出したわ」

「私が悪いのだから気にしないでくれ。王都に来たら教会に寄ってくれ。妻を紹介したいから」


「機会があればね」



「アイザック、行くよ。ミナトさん、僕達は帰るね。弟子は裏の倉庫で寝泊まりするから気にしないで。向こうが片付いたら顔を出すと思うからよろしく」


「え? 紹介してくれないの?」

 不安そうな美里に行商人の男は言う。



「まぁ、大丈夫だよ。ミナトさんが気に入らないなら連絡して。弟子を回収しにくるから。また、様子を見に来るから」


「ちょっと待って、残り物だけど食べるものを」


 美里から弁当を受け取ると馬車に乗り込み帰るのだった。


 美里は見送りながら思う。普通、紹介くらいしてから帰るだろう。知らない人が近くにいる事に不安を覚える美里であった。それにジョシュアの事を聞きそびれた事にも気付く美里であった。




 ゆっくりと馬車は進む。


「紹介しなくて良かったのか?」


「あぁ、王族から身を隠しているから『ミサト』ではなく『ミナト』なんだ。まぁ、紹介しなくても大丈夫でしょ、彼なら護衛もできるし彼の願いでもある。危害は加えないはずだ。それより美人だったろ」


「あぁ、俺は女神の手を掴み損ねたようだ」

「確かに君もカイトと俺もタイミングが違えば彼女の側にいられたのかもしれないな」


「そうだな」

「さて、隣街まで急いで。日が暮れちゃう」


「わかった」


 少しスピードを上げ馬車は街を後にしたのだった。

 

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