表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

4、過ぎた日

「ミーちゃん、おはよう」

「おはよう。勉強頑張ってね」


 玄関前の掃除中、1人の女の子に話しかけられた。肉屋の娘である。


「は〜い、行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 

 美里はよく晴れた空を眺める。時折頭に浮かぶのはアイザックの呪いが解けたのかであった。ただ患者のその後が気になるのであった。



「今日のランチはポテトグラタンにしましょ」


 美里は今、王都から遠く離れた田舎町でカフェを営んでいる。ちょうど2年前に騎士団から突然消えた落ち人の美里は王家が探しても見つからなかった。



 ミサトが消えた日、ハンクは国王への美里のことを報告するため為に王城へと出向いていた。ハンクはミサトの力については隠し通す事を決めていた。今の所、何も能力はないが向こうの世界でのミサトの仕事内容を話し、国王からはハンクの助手として身分と身元引受人としてハンクがなる事の許可をもらったのだった。


 ハンクは国王にアイザックは回復してきており、指を動かし食事も少しずつ取れている事を話した。アイザックの肌は元通りに近づいている事、もうすぐ目を覚ますだろうと言う国王への報告を盗み聞きした王女がアイザックの元に向かったのだった。



 そもそもアイザックが呪われてしまった背景には事情があった。


 王女とアイザックの出会いは3年前の騎士団の団長就任式である。見目のいいアイザックを王女が気に入り側に置くき始めてたのがきっかけだ。

 王女は護衛として何度も指名し、2人の仲は公然であった。しかし、王女はアイザックとは結婚するつもりはなく見目と魔力が目的である。令嬢達からの人気のあるアイザックが自分を真綿の様に扱う姿を皆に知らしめたいのだった。そんな王女の思いなど知らないアイザックは純粋に王女を慕っていた。


 そんな時だ、聖女からの依頼で魔力提供を望まれたのだった。怪我人、病人の為とアイザックも協力をしていたのだ。

 アイザックは王女にその事を話すも理解はしてもらえなかった王女は聖女がアイザックを男として求めていると思い込む。


 アイザックは悩み、王女は自分をどうしたいのか知る方法はないのかと聖女と王子に助けを求めたのだ。


 聖女と王子は、王女が未だに白馬に乗った王子が自分を迎えに来て男達に囲まれ愛を囁かれ、贅沢な生活が出来る事を夢見ている事を知っていた。女性は数人の夫を持つ事を許されていたが最初の夫より身分が上の男を第2第3の夫にはできない。アイザックの身分は男爵である事から彼を第1夫にすると次の夫らは男爵よりも下の身分の為つまり平民となる為、王女はアイザックを第1夫にする事を躊躇っていたのだった。


 聖女と王子はアイザックの為、そして夢見る王女の目を覚ます為に協力する事とした。王女の愛はアイザックにあると信じて。アイザックは教会の魔石に魔力をある程度貯め、愛の呪いを受ける事にしたのだ。


 

 王女の愛さあれば簡単に解けるはずの愛の呪いは眠り続け肌が爛れてしまったアイザックの姿を見た王女が会う事を拒否した為に呪いは解けず彼の身体を徐々に蝕んだのだった。2人は何度も王女にアイザックの元に向かうように言うも一度アイザックの変わり果てた姿を見た王女は会いに行く事を拒んだ、何度も王女を説得し、ついに王女はアイザックの元へ行くと2人に約束したのだった。


 その後、聖女と王子は国境近くでの崩落事故の為に急遽現地へと向かう事になってしまった。2人は王女がアイザックの元に行っていると思っていた。しかし、王女はアイザックの元に行くことはなく、自由気ままな生活を送っていたのだった。そして2人が戻る2ヶ月前から国王達と共に別荘地へと向かって休暇を楽しんでいたのだった。


 一方、聖女と王子のいる事故現場は想像以上に酷いもので落ち着きを取り戻した事故現場から王都へと戻ったのは4か月後であった。聖女と王子は知らなかった、王女がアイザックの元に行っていない事で4ヶ月間アイザックは呪われたままであった事を。


 その為、聖女と王子はアイザックの呪いを解くため、翌日にアイザックの元を訪れる事を決めた。



 ハンクは美里の手続きをする間、国王にアイザックは回復してきており、指を動かし食事も少しずつ取れている事を話した。



 その話を盗み聞きした王女はアイザックの元へ向かう。王女はアイザックが目覚めていると思ったからだ。

 



 この世界の女神は全て知っていた。歯車は既に狂ってしまっていることを。


 ハンクは身元引受人の書類作成に時間を要していた。聖女と王子も事故現場の報告書の作成の為にすぐにアイザックの元へは行けない。


 自分勝手に行動していたのは王女だけであった。

 数刻後にそれぞれの人生の分岐点となるだろう、その時を女神は見守っていたのだった。

 この女神の1番の誤算は『落ち人ミサト』であった。しかし、この国の将来を決める大事な時だと見守る事を決めていたのだ。

 


 美里はいつもと同じ様にアイザックの包帯を変える。この世界に来てから2か月アイザックは美里の懸命な看護とチートスキルの食事の提供のおかげでアイザックの呪いは解けつつあった。



 そこに登場したのは王女だ。盗み聞きしたハンクの話から肌も以前の様になってきた事を知った王女はアイザックの元へと向かい、偶然目が覚めたアイザックに自分は毎日祈り、手当てをしたのだと嘘を付き、美里の姿を見た王女は美里を罵倒し始めたのだった。

 アイザックはただ目の前の愛しい人のおかげで呪いが解けたと思い、目覚めた時に自分の側にいた王女に対して愛されていると歓喜に酔いしれていたのだった。



 手続きを終え、美里の身分を手に入れ、ここて働くことの許可をもらった事を報告するために病室へと戻ったハンクは目の前の光景に驚く。


 アイザックが目覚めベッドで王女と抱きしめ合う姿と床に散らばる食事。何より驚いたのは、病室から離れた場所より聞こえるジョシュアの美里を呼び泣き叫ぶ声だ。


 急ぎハンクは、ジョシュアの元に向かい尋ねるのだった。



 そして、ハンクはジョシュアから自分の不在中の事の顛末を聞いた。


 アイザックは目を覚まし、王女も現れた。そして王女は美里に対し横柄な態度と罵声を浴びせ食事を美里へと投げつけた事に美里は怒り姿を消したと言うジョシュアの報告だった。


「ミサト……寂しいな。私は娘を守れなかったのか。よほど王女が許せなかったのだろう。残念だよ」

 


 ハンクは再び国王の元へ行き説明をする。アイザックの傷は呪いであった事を話す。国王に呼び出された聖女は、アイザックからの願いで呪いをかけた事を話し、そして王女の愛があれば簡単に解けるものであった事を伝え、王子と共にハンクに謝罪したのであった。

 

 国王は考える、王女とアイザックの関係は知っていたからである。再度、2人にどうしたいのか確認することを約束し病室へと向かうのであった。



 到着した人々の前でも王女はアイザックに喜びを伝え身体を寄せる。国王より2人の結婚の話が出だ事で喜びを隠せないアイザックだったが、それに待ったをかけたのは王女であった。



 王女は今の見た目のアイザックでは不服であった、顔にはまだ痣が浮かんでいるからであった。王女の頭の中にはアイザックは王女の愛の力で目覚めたというシナリオが出来ていた。そしてアイザックは王女に永遠の愛を誓うも王女の献身さに惹かれた高位貴族の男性からの求婚でやむなく婚姻を結び、アイザックは第2夫となるという自分勝手な未来を想像したのだ。


「パパ、待って。アイザックの痣は完全に消えてはいないわ、痣が消え体力も戻り騎士団長として職場復帰するまで待って欲しいわ」と言ったのだ。



 聖女と王子は呆れて何も言えなかった。アイザックは愛されていはいないと2人は悟る。聖女は王女に問う。


「王女、アイザック様を救いたいですか?」


「もちろんよ、前のように素敵なアイザックに戻れたら嬉しいわ。貴方は聖女なんだから何とかしてよ」



 呪いは愛の力で解呪される事を知るハンクも王女に確認する。

「それならば、ミサトに代わりアイザックの看病をするのかな」



 王女はアイザックを見る。以前よりは見られる顔になっている。ここでアイザックの為にすることが自分の輝かしい未来へと繋がると信じて。


「もちろんよ、あの女もしていたんでしょ。私にだって出来るわ」


 国王らは少し離れた場所で話しあう。一同は王女に最後のチャンスを与える事とした。ハンクはアイザックの包帯を外す。


 身体中に残る未だに爛れた皮膚と消えない痣を見て王女は言ったのだ。


「ひっ、バケモノ。まだ治っていないじゃない」

「クレア王女?」


 アイザックは王女の言葉に驚くのだった。


「クレア、お前はなんという事を言うのだ。クレアはダメだ。城へ連れ帰り自室にて謹慎していろ。聖女殿、彼を元の姿に戻してもらえるだろうか」


 国王は聖女に願う、そしてクレアには城へと戻るように伝えるのだった。


 本来なら1か月もあれば解けるものだったが王女が見放した事で彼の身体に馴染んでしまったのだった。たとえ病室に来なくても彼を案じ思う気持ちがあればここまで酷くならなかった肌を見て聖女はアイザックに伝える。


「アイザック……これが王女の貴方への気持ちのようね。少し冷静に考えて、身体が元に戻れば再び王女は貴方に愛を囁くわ……上部だけの愛を」


「そうだな。聖女殿、頼めるか」

 

 聖女は祈る。


「あれ……おかしいわ。呪いが解けない」


 病室内は突然、暗くなる。

「何、え? あ、女神様が……」


 聖女にしか見えていないが女神が現れたようだ。


 ジョシュアはハンクに言う。

「ミサトの時はキラキラして綺麗だったな」

「そうだな」



 ガタガタと震える聖女、そして青褪めた顔で話す。


「超怖かったわ。私の女神が言うには向こうの女神は落ち人ミサトさんをとても気に入っているみたい。何か凄いものを献上したのかしらね」


 ハンクとジョシュアは美里が持っていた四角の板、きっとあれは凄い物だったのだろうと思い出したのだった。


 聖女は続ける。


 呪いが解けない理由は、向こう世界の女神曰く、王女の美里への対応に激怒した為だった。本来は禁忌とされている他の世界への干渉を美里の女神はしたのだ。優しい美里を怒らせた罰だと呪いを上書きしたようで、聖女の崇める女神ですらその呪いを解除するのは高度すぎて無理だと告げられた聖女であった。その上、美里の聖女まで現れ聖女は二人の女神にしこたま怒られたのだと言う。


「ミサトさんも女神の祝福を受けています。しかも私よりも高位な女神の祝福ですわ。きっと彼女の今までの行動が女神に愛されている理由なのでしょうか」


 と青褪めた顔で聖女は話すのだった。


 ジョシュアは話す。


「ミサトは、ここに来てから2ヶ月、街にも行かずにアイザックの為に傷を洗い薬を塗る、食事を作り与えていた。王女の3年よりもアイザックに献身という名の愛情を注いでいたよ」



 先ほどの王女の態度と聖女の話から、アイザックも王女は自分の手当はしていない事を知り、改めて自分の肌を見て自分でも気分が悪くなるのであった。


「俺のこんな身体を彼女は……ミサトと言ったか申し訳ないことをした」

 


 皆が帰った後の病室にはアイザックとジョシュアの2人。


「なぁ、アイザック……お前は聞こえていたか?」


「あぁ、皆が心配しているから頑張れと話す優しい声と温かい手の感触。クレアだと思っていた。しかし……違ったようだな」


「……そうだ」


 ジョシュアはこれまでの事を話し出す。4か月前にアイザックの姿を見たきり王女は一度も見舞いには来ていない事を伝える。2か月間は、毎日ハンクが付き添い世話をしてい事、落ち人である美里が来たのはアイザックが倒れてから2か月後であり、この日を境に美里はアイザックの肌を洗い包帯を巻き直し食事を与えていた事、ハンクと交代で夜間も付き添い励ましていた事を伝えた。


「…………本当にクレアはここには?」


「そうだ、1度も来なかったよ。ハンクの話を聞いて今日やって来て、ミサトにお前の為に作った食事を投げつけた。お前も見ていただろう? 王女は美里に何と言った? お前は自分のモノだからと……ミサトにいやらしい女だと言った。お前は愛しい王女に会えて嬉しかったのだろうけど……ずっと看病していたのは落ち人のミサトだ。前の世界でも患者の世話をしていたらしい……王女は突然現れて、お前の世話は自分がしていたと嘘を言い、患者に寄り添い手厚い看護を提供していた彼女を追い出した。そして……お前は王女と熱い抱擁を交わしていた。ミサトも見ていて呆れていた。王女がミサトに投げつけた食事だって、ミサトが何時間もかけて作っていたのを知っている。ここに来てから 2か月、一度も街にも遊びに行かず、お前の世話をしていたミサトに対し、お前は話も聞かずに追い出した。そして……ミサトは俺の前からもいなくなった……」




「俺は……」


「お前が目覚めたばかりなのは、わかっているが……王女はお前の事など気にせず別荘で休暇を過ごしていた。王女はお前とは結婚しないぞ、その休暇の間、ずっと過ごしていたのは隣国の王子だからな」


「嘘だ、クレアは……俺と……。変な事を聞くが、その落ち人は俺に好意を?」


「……いや、ただの患者に過ぎないと。彼女にとっては魔力・肩書き・見た目も関係ないと言っていた。ただ目の前の患者を助けたい一心だったみたいだ。顔と身体中が痣だらけで以前のお前の姿も知らず、ただ眠るだけのお前に好意を抱く訳がないだろう。俺は騎士を辞めて彼女を探したいと思っている。ミサトの作った食事も保存出来るものはしている。それもミサトが作り置きをしていた」


「彼女に酷い事をした」


「いや、お前は目覚めたばかりだったから仕方ないさ。ミサトが怒っていたのは、王女にだ。大切な人なら何故見舞いや世話に来ないのか、食べ物を粗末にしたとな。彼女らしいよ」


 悲しそうな表情のジョシュアにアイザックは尋ねる。

「2人は想いあっていたのか?」


「……俺はミサトが好きだった。健気で俺が平民なのも魔力無しなのも気にしない。毎日の世話されるお前に嫉妬したよ。彼女も消える前に俺の事が好きだったと言っていたが俺の気持ちを言う前に消えた」



「……すまなかった」


「いいんだよ。お前が目覚めて良かったよ。ミサトにきちんと会わせたかったよ。王女なんかより美人で優しくて料理も上手い……カフェを経営したいと……」



 考え込むジョシュア。


「ジョシュア?」

「カフェだ。消える前に言っていた……街から離れて、のんびりカフェ」


「……」

「まぁ、アイザックは完成に治った訳ではないから、ゆっくり休んでくれ。王女とのことはきちんと考えた方がいい。お前を見た目と魔力でしか見ていない」

 

 そう言うと窓の外を眺めるジョシュアであった。

感想や評価(下の☆☆☆☆☆)をいただけると嬉しいです。また、リアクション、ブックマークも大大大歓迎です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ