3.騎士のお土産
時は少しだけ遡る。
「ミサトちゃん?」
「はい、ジョシュア」
「一緒に街へ行かない?」
「街? 私はここから出てもいいの? まだ許可とか身分が……」
ジョシュアからの提案に驚く美里、ここに来てから2週間ずっと医務室か食堂にいる美里。異世界の街には興味はある。しかし、勝手に行く訳にはいかない。現在、国王一家は休暇の為に別荘のある港街にて滞在中である。美里は思う、異世界の王族とは呑気である。平和な世の中がそうしたのだろうかと。ハンクからも国王に報告前で身分もない状況で街へ行くのは危険だと言われていた。
理由は私の髪色は珍しく人攫いやトラブルに巻き込まれる可能性があり、落ち人として王家の保護と身分の保証が必要なため王家が戻るまでここにいるよう説明されたのだった。
「そっか……国王一家は呑気に休暇中だからな」
「ジョシュア、ありがとう。許可が降りたら、一緒に行ってくれる? もし許可なく外出したらジョシュアが怒られるのは嫌だし。誘ってくれてありがとう」
ジョシュアはいつも窓の外を眺める美里を見ていた為に誘ってみたのだった。ジョシュアも国王の許可が無いと行けない事も知っていたのに美里さえ行きたいと言えば規則を破ってもいいと思っていた。
「許可が降りたら一緒に行こうね。ミ、ミサト……」
「ふふっ、やっと『ちゃん』が取れたわね」
「……。ちょっと出掛けてくるけど欲しいものある?」
「無いよ〜」
「じゃあ、ミサト」
「気をつけて、行ってらっしゃい」
「行ってきます……」
医務室から出るジョシュア。
「はぁ……緊張した。でもミサトに見送られるのもいいな」
窓の外には出掛けるジョシュアが見える。
「デートかしら、ジョシュアは優しいから恋人が羨ましいわ」
ジョシュアは振り返り医務室の窓越しに目が合う。美里は手を振るとジョシュアも手を振り返すのであった。
◇◇◇◇
夕方、ジョシュアは外出から戻る。
「ミサト、問題はなかった?」
「おかえり、大丈夫だったよ」
「あ……ただいま。コレお土産」
「ん?私に?」
「そう、僕は着替えてくるから少し交代しよう」
「ありがとう」
美里は紙袋を開ける、中には小さな箱があり開けてみる。
「……綺麗」
中には銀の髪留めが入っていた。よくみるとキラキラした宝石が付いている。
「高いのでは……」
美里はジッと髪留めを見ているとジョシュアが着替えて戻ってきたのだった。
「あの……」
「ん?」
「高かったんじゃないの? こんなに素敵で高級な髪飾りを付けていく場所はないのに」
「高くないよ、露天商から買ったから気にせず普段使いにして」
「ジョシュア……ありがとう。この世界に来て初めてのプレゼント……とっても嬉しい」
へにゃりと笑う美里にジョシュアの顔は赤くなるのだった。美里はいつもは髪を纏めているが何も付けてはいなかった。髪を解き器用にまとめ上げる。その様子を眺めるジョシュア。
「器用だね」
「ありがとう」
髪を夜会巻きにしジョシュアからもらった髪留めを留めるのだった。窓に映る自分の髪を見る美里、窓越しにジョシュアと目が合う。
「ジョシュアの瞳の色の宝石は綺麗ね」
ジョシュアは無意識に自分の瞳の色の石を選んでいた事に気付いたのだった。
美里もまたジョシュアの瞳の色だと気付くも元の世界では好きな色を纏うのが普通だった為に気にも留めていなかった。
「あ……すまない」
「ジョシュアの瞳は空色で好きよ」
「ミサトの黒い髪に髪留めはとても似合っている」
「ジョシュア、ありがとう」
「ミサトは食事したら? アイザックは僕が見ている」
「ジョシュアは夕食を食べた? 食べてないなら、何か作るから、ここで一緒に食べましょう」
「まだ食べてないから一緒に食べる」
そう返事すると美里は食堂へと向かうのだった。美里の髪には自分の贈った髪留めがキラキラと輝いて見えた。
ジョシュアは街で美里への土産を考えていた時に露天商の売り子が美里の様に髪を纏めていたのを見て、髪留めを購入したのだった。売り子に相談し売り子に勧められた髪留め、自分の色の石を選んだのも無意識だった。しかし、美里が自分の色を纏うのは悪くないと思うジョシュアであった。
その後、医務室で一緒に食事をし、アイザックの身体の位置を直す。同じ所に長時間、圧が掛かると皮膚に損傷を起こすからだ。ジョシュアは美里の髪留めを何度も見つめる。
アイザックが目覚めたら美里も、この男に恋をするのだろうなと少し悲しい気持ちになるのであった。
◇◇◇◇
美里がこの世界にきてひと月が過ぎた。
「ねぇ、ジョシュア。今更だけどアイザック様は何歳なの?」
「僕と同じ25歳だよ」
「そう、結婚とか恋人は?」
「結婚はしていないよ。この国の王女と色々と噂はあるが恋人ではないようだけどね。ミサトはアイザックが気になる?」
「気になると言うか、妻や恋人なら見舞いに来ても良さそうだから」
美里が来てから見舞いに来るのは騎士達だけだ、女性の存在がないのが不思議であった。徐々に皮膚の爛れは回復してきている。
「アイザックは王女のモノと言う認識だから女性の見舞い客は来ないと思うよ。王女は……一度来たんだけど、アイザックの姿を見て悲鳴をあげて出て行った。その1度だけ、今は休暇中だよ」
「恋人ではないのね。見た目が好きなのかしら」
「ん〜わからないが。アイザックは見た目はいいし魔力もある。それに聖女もアイザックを気に入り、この状態になる前は聖女の側にいたんだよ」
「恋人として?」
「ちょっと違うかもしれない。アイザックは魔力を提供していたと話していたよ。聖女の恋人は王女の兄だ。アイザックを返せと王女が騒いだ」
「我儘王女なの?」
「まぁね」
「ちなみにジョシュアは? 恋人とか奥さんは?」
「俺? 俺は無理だ。前も言ったけど平民だし、魔力もないからね」
「え……そうなんだ。優しいしカッコいいのにね。女性の騎士はいないの?」
「そっか……ミサトは知らないよね」
ジョシュアはこの国の事を話しだす。
この国は女性が極端に少ない為、独身男性が多い。女児の誕生は名誉であり、上位貴族の嫁とする為に社交界は賑わうと話す。そして、この国は多夫一妻も容認されているのだと言う。
「へ? 夫が何人も?」
「そうだよ。カイトは商家の娘の3番目の夫だよ。生まれた子は分け隔てなく皆が父親なんだ」
「ジョシュアは?」
「だから……俺は魔力も見た目も悪いからさ」
「……ジョシュア。貴方はイケメンよ」
「は? イケメンとは?」
「カッコいい人の事を言うの。私の世界ならジョシュアは超モテモテよ。きっと、この世界とは価値観が違うのね。この世界での1番は魔力なのでしょう?」
「アイザックとカイトは魔力がある。魔力を持たない男は独身が多いんだ」
「それなら女性の価値は?」
「女性と言うだけで何もいらないよ。ミサトは魔力まであるから王家が黙ってはいない」
「王家はいやよ……のんびりカフェを経営し暮らしたいのよ。ねぇ、王家への嫁入りを回避するにはどうしたらいいの?」
「ん〜処女を捨てるのが1番だね。一応王族への嫁入りだからね。ミサトは……」
ジッと見つめるジョシュア。
「……ジョシュア、あのね。私は向こうの世界では36才だったのよ。結婚し離婚もした。仕事帰りに亡くなって……女神様が18才の身体にしてくれたけど多分処女ではないわ」
「…………36才」
ジョシュアは一瞬驚いた顔を見せた。その顔に美里は一瞬悲しくなったのだった。
「あ……引くよね。こんなオバさん」
ジョシュアは25歳だ。本当の自分の年齢よりも10歳以上も若い男にドキドキしている自分が急に恥ずかしくなる。
「ジョシュア……ごめん。年甲斐もなく。私は……髪留めを貰う資格はないかもしれないわね」
悲しそうに笑う美里であった。
「違う……ミサトは年齢の割に落ち着いているから、一度ハンクに聞いたんだ。そしたら、女性に年齢の話をしてはいけないと教えられたんだ。その時にミサトは自分より年上なのだと思ってはいた」
「そう……ごめんなさい。内緒にしていたのではないのよ」
「ミサトはミサトだから……それに本当の年齢を聞いたら王家の嫁入りはないかもしれないが、でも見た目がね」
「まぁ、確かに自分でも36歳には見えないわ。自分が処女かはわからないわ、ハンクに確かめてもらおうかしら」
「は? ハンクに? 何でハンクなの?」
この世界に女性は少ないとなれば女性の医師も少ないと思ったからだ。ジョシュアにその考えを伝える。
「ミサト……間違いではない。しかしハンクに……平気なの?」
「まあ、恥ずかしいけど、私の『のんびりカフェ生活』がかかっているから仕方ないわ」
「……俺じゃダメ?」
「え?」
「俺が確認するのは?」
「待ってジョシュア……」
ジリジリとミサトに近づくジョシュア。
「…………」
ジョシュアの顔が近く。そっと美里の顔に触れるジョシュア。
「俺にしてよ」
美里とジョシュアの顔が近く。
美里の心臓は爆発寸前だ。何せ、ジョシュアがモテないのはこの世界の話で、ミサトの世界では間違いなくイケメンであるからだ。
「は……待って、ジョシュア。あなたはイケメンで優しくて……私なんかじゃ」
「ねぇ、ミサト。僕じゃダメなの?」
ゆっくりと近づく顔、そしてこの雰囲気はわかっている。美里はイケメンのかもし出す色気と雰囲気に流されそうであった。いや既に流されている事に気付く。自分が目を閉じたら……どうなるのだろう。ジョシュアの綺麗な空色の瞳に自分が映っている。
「ジョシュアいいの? 私と?」
ジリジリと下がる美里は医務室のベッドに腰掛ける形となる、ジョシュアはミサトの顔を愛おしそうに撫でる。美里はこのまま流されてもいいのかもと思う。きっと素敵な思い出になるのではないか……美里はそっと瞳を閉じる。
「ミサト」
ジュシュアの顔が近づきミサトの唇に柔らかく温かい感触が伝わる。
カタン。二人は音のする方を向く。
「誰?」
「アイザックの方からだ」
2人はアイザックのいるカーテンを開ける。
「変わりないわ……ね」
「そうだね」
アイザックは未だ眠ったままである。
そして、ハンクが医務室へとやってくるのであった。
「ん? 2人とも顔が赤いけど……」
「何でもないわ。ねぇ、ジョシュア。先に戻るわね」
「…………あぁ」
「ジョシュア……私は2人の邪魔を?」
「いや……邪魔したのはアイザックだな」
「ジョシュア……お前ミサトの事を?」
「うん……」
「俺はミサトの親代わりだ。彼女は聡い女性だからお前の内面を見てくれているぞ。だから誠実であれ」
「あはは、確かに彼女は賢く美しい。本当は36歳だなんてな……ビックリしたよ」
「今は完全に10代だからな。元の世界では患者の世話、生と死を見てきた女性だ。私が思うにアイザックは患者という対象でしかない、あいつが目覚めたら……『のんびりカフェ』だったな。その夢に向かいここから去るのかもしれんな」
「そうだね、俺も連れて行ってほしいよ」
「まぁ、頑張れ。俺は応援しとる」
しかし美里が世話を始めて2ヶ月、偶然目を覚ますアイザック、そして王女の登場した事で美里はジョシュアの前から消えたのだった。
消えゆく光の粒を見つめるジョシュア。
「嘘……ミサト……ミサト、俺だってミサトの事好きなのに……」
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