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1.異世界よ。こんにちわ

 私は鈴木美里36歳、看護師歴14年目である。

 

 過去に一度結婚したが子供には恵まれず、子供が欲しかった夫とは円満に離婚をした。仕事に趣味と忙しくも楽しい日々を送っている私、給料も1人の女が暮らしていくには充分である。しかし、忙しい仕事であるのには変わらない。毎日訪れる入院患者、手術や日常生活のお世話をする毎日である。

 忙しい日々が続くと心は荒む。足りない人員、待ってはくれない患者、病休に育児休暇など抜ける人員はあるが補充のない部署である。

 せめてもの救いは感謝を述べ元気に退院する患者の言葉だけ、心配してくれているのも患者である。


「看護婦さん、今日もまだ帰れないの?」

「はい、ホワイトな服のブラック企業みたいなものです」


「看護婦さん、昨日もいたけど今日も仕事なの?」

「一応休みは、ありますよ」


「看護婦さん、大変だね」

「仕事ですから、リハビリ頑張ってきてくださいね」

 

 毎日同じ繰り返しのようで毎日が違う。そんな私の癒しは休日にのんびりカフェで過ごす事だ。バイクで出掛けカフェでの休憩が至福の時である。 まさに独身貴族を謳歌中である。

 

「お客さんバイクですか、いいですね」

「楽しいですよ。免許を取ってみたらどうですか?」

 

 など店員との会話もまた楽しいのである。

 



「疲れた……」

 夜勤で鳴り止まないコールと手術患者の対応と緊急入院の患者と家族の対応でヘトヘトとなる。しかし明日からは連休だ。何をしようか考える。

「旅に出ようかな」

 

 バイクでの旅は心の癒しである。バイクで高速を法定速度内で楽しみ、景色を堪能する。大好きな音楽を聴きながらのバイクは朝日が登って沈むまで自分だけの時間だ。

 

 身体は不思議と家までの道のりを覚えている様で気が付くと家に到着していた様だ。

 

「とりあえず、風呂に入り寝るか……それよりも眠りたい……」

 

 着替えをし、ソファへと横になる。自然と眠りの世界に落ちていた。

 

 

 

「スズキ ミサト」

 

「スズキ ミサト、起きて……」

 

 

「ちょっと起きてよ」

 

 

 誰かが私に声を掛けている。

「ん……」

 

「ミサト、起きた? あなたの望みは?」


 ――誰? 人が寝ているのに……一体何を言っているの? ……望み? 

 

「のんびり過ごしたい」

 

 

「そう、欲しい能力は?」

「ん……美味しい料理……元気のでる料理が作れて〜、片付けも完璧。さらに裁縫だって得意なら嬉しいわね。あと……」

 

「まだあるの? 次はどんな仕事に就きたい?」


「ん……仕事……カフェの……喫茶店のマスターがいいわね。客がいなくても生活に問題のない……たまに来るだろうイケメンのお客さんを眺め自分も小説を読みながら店を経営できたらいいわね」

 

「お金持ちがいいの?」

「ん……お金がないと心も荒むわ。お金は大切よ」

 

 

「最後に見た目はどうしたい?」


「ん? 見た目? そうね〜叶うならサラサラの黒髪のロングでストレート、瞳は黒でいいわね。色白で毛穴も見えない様なスベスベのお肌、ボンキュボンの体型、身長は170センチ体重は……食べても太らない体質で55キロ位が丁度いいわね。18歳の頃は全てが楽しかったわね。あとムダ毛もない方が嬉しいわ。そんな美人に生まれ変わったら世の男性を虜に出来るわね。美人なマスター……いやママの経営するカフェ……逞しい肉体の優しい男性に愛されて幸せに暮らしていくの…………ん……もう少し寝かせて」

 

 

 

「…………あなた自分の状況をわかっているの?」

 

「ん……誰かわからないけど話し相手になってくれてありがとう。素敵な声ね……とても心地いいの」

 

「…………嬉しい事を言ってくれるわね」

「本当よ……天国で女神様に声をかけられているみたいよ」

 

 声を掛けていたのは本当に天国の女神であった。


 そう、鈴木美里は仕事帰り事故に遭ったのだ。過労から激しい睡魔に襲われ、職場の玄関の階段を踏み外したのだった。

 

 鈴木美里は家に帰宅し眠ったのではない、寝ている場所は霊安室である。周囲に青褪める上司達と同僚、連絡を受けた両親が泣き叫んでいたのだった。

 

 

 ◇◇◇◇



 鈴木美里は目覚めた。


「ん……よく寝たわ」

 

「おや、目が覚めたかね。お嬢さん名前は?」

「ん?」

 

 美里は辺りを見渡す。見覚えの無い場所であり。自宅のベッドではない事に気付く。

 

「あの……ここは病院?」

「ここはラインハルト王国だ。お嬢さんは落ち人だね。時々だが来るのだよ。今回は、3年振りだ。しかし、今回はどえらい美人が来たな」

 

 

「ここは……ラインハルト王国? 私がいたのは日本と言う国ですが?」

「…………落ちて来る前の場所だな。多分、お嬢さんは亡くなった可能性があるぞ。今までの落ち人も事故や病気だった人が多い」

 

「…………お医者様ですか?」

「私は、ラインハルト王国の騎士団の医師だよ。名はハンクだ。お嬢さんの名は?」

 

「鈴木美里です」

「スズキミサトね」


 何かに記入しているハンクであった。


「あの……」

「ん? どうした? 何処か痛い所があるのか?」

 

 

「いや……そうではなく」

 

 ぐぅ〜。

 

 病室内に響くのは美里の腹の音であった。

「あはははは、すいません」


「……今、食べ物を準備するよ」

 

「すいません」

 

 ハンクは美里に待つ様に伝えると退室するのであった。

 

 美里は室内を見渡す。 棚には薬品や鑷子、ガーゼ、包帯が見える。


「ここは病室だわね」

 

 美里はベッドから起き上がり、窓の近くへと行く。

 

 靴はなく裸足のため歩く度にヒタヒタと音がする。


「わぁ、本当に異世界だ」

 

 目の前には異国情緒漂う街並みが見える。レンガを基調とした建物は異国情緒あふれ、小さく見える人々の着ている服も違う。何より見える人達の髪の色が赤、青、緑、金色など日本ではあまり見ない色もある。ふと窓に映る自分の姿を見る。

 

「あれ……サラサラ黒髪ロングストレートだ」

 

 自分の腕を見ると細っそりしていて白いスベスベの肌である。美里は思い出す……夢で何か聞かれた事に答えた事を。

 

 辺りを見渡すガラス張りの棚がある。そこで自分の上半身を見る。


「おぉ……異世界チートか? スベスベの肌にナイスバディを手に入れたわ……後は……何を望んだかしら…………料理に裁縫……のんびりカフェだ」

 

 ニマニマと見つめていると先程の医師が食事を持ち戻る。

 

「おや、起き上がって大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。沢山寝たので」

 

「ほら、ご飯だよ」

 

 コトリと机に置く食事、スープからは湯気が立っていた。


「食べても?」

「いいぞ」

 

「いただきます」

 

 スープを口に運ぶ美里。

 

 

「うん……マズい。味がボワっとしているわ」


 飯マズ……これもよくある異世界ネタだな。

 

「……マズいか?」

「はい……まさか先生が作ったのですか?」

 

「いや……私では無いが。落ち人の資料にある。この国は飯がマズいとな」

 

 仕方なく食事をする美里。医師から前の職業を聞かれる。


「前は、看護師でした……医師のサポートとか、患者の手当ですね」 

 

「ほぉ、血は平気なのか?」

「まあ。それなりですね」

 

「……わしの助手にいいな」

 

 ブツブツと呟く医師。

 

 

「年齢は?」

「向こうでは36歳でした」

 

 部屋の隅からガタンと聞こえる。

 

「ん?」

「まあ。気にするな。今は違うのか?」

 

「ここに来る前、女神様に18歳にと願いました。先程、自分の姿を見たところ36歳ではない気がします」


「確かに36歳には見えないからな18歳にしとこうか、その方が何かと便利だ」

 

「他に何を願ったのだ?」


「後は……元気が出る料理上手と裁縫……カフェでのんびり生活ですね」

 

「あはは、前の仕事は忙しかったのか?」

「はい、大変でした。多分……夜勤明けに私は亡くなったのかもしれませんね」

 

「随分と冷静だな」

「そうですね。きっと、まだ混乱しているのです。そのうち、泣き喚くかもしれません」

 

「さて、少し落ち人について説明しよう」

 

 

 医師はラインハルト王国について話しだす。数年に一度は落ち人がくる事、落ち人はこの国では保護対象であり、落ち人はラインハルト王国の為の労働力となり、知識を提供する事で、この世界での安全と身分を手にするのだという。大昔、落ち人から王妃となった人もいた事を教えられた。

 

「お嬢さんは見た目もいいから、王族が欲しがるかもしれないな」

 

「え……私はのんびりしたいのです。仕事に関しては程々がいいです」

 

「……そうか、ここで働くのも嫌か? 毎日じゃなくていい。週3回……給金も悪く無い様にする。頼む……怪我人の手当は私1人だと間に合わない。お嬢さんの様に綺麗な人ならアイツらも言う事をきくだろう。頼まれてはくれないか? 私が保護者になってもいい」


「あの……私がとても悪い人だったらどうするのですか?」

 

「ん? わしの勘だ。そろそろ患者が来るぞ。包帯の扱いは? 何を専門していた?」

 

「専門……ではないですが、整形……骨です。あと外科……傷とかお腹の中とか手術後の患者が多いです」

 

「この国では怪我と病気は基本的に教会の属する聖魔法の治療師が治すのだが、騎士達の簡単な傷や見放された怪我人は私が診る」

 

 

  その時、勢いよくドアが開く。


「包帯が緩んだから巻き直して」


「ほら、ミサト。最初の患者だ」

「わかりました」


 医務室に訪れた男は美里をじっとみる。ゆっくりと近づくと美里に尋ねる。


「ねぇ、名前は? 僕の名はカイトだよ。よろしくね」

「ミサトです」

 

「ミサトちゃんは何歳なの? 可愛いね。恋人はいる?」

「……」

 

「ミサトちゃん、教えて欲しいな」

 

「カイト、いい加減にしろミサトが困っておる。ミサトはな……私の娘だ」


「おい、じいさん、あんたに娘はいないだろ」

「あの……」


 

「カイトだよ。な〜に? ミサトちゃん」

「終わりました」

 

「え、もう……終わったの?」

 

 しっかりと綺麗に包帯を巻く美里。


「ほぉミサト、なかなか綺麗だな。おい、カイト、終わったから戻れ」

 

「……はい。ミサトちゃん、ありがとう」

 

  数分後、コンコンコン。

「さて、次は誰かな」


「ミサトちゃん……? 僕の包帯も汚れたから変えて欲しいのだけど」


「おい、ジョシュア。誰からミサトの名を?」

 

  美里は声のする方を見ると190センチはあるだろう、大きな身体と栗色の髪に綺麗な空色の瞳の綺麗な顔立ちの男が立っていた。互いに視線が合う2人。


「あ……初めましてミサトちゃん? カイトが……ミサトちゃんと言う名の可愛い子がいるって言っていたからさ……。確かに……ジジイと天使だな」

 

「ミサト……巻いてやれ」

「はい」

 

 

「ミサトちゃん可愛いね。僕はジョシュアだ。今晩、一緒に……」


「終わりました。また何かあれば来てくださいね」

 

 美里はジョシュアを見つめニコリと笑う。 その笑顔にジョシュアの顔は赤くなる。

 

「はい……わかりました。じいさん、アイツの顔を見ても?」


「変わらないぞ」


「いいんだ」

 

 

「誰かいるのですか?」

「ミサトも見るかい? うちの騎士団の隊長だった男なんだけどね」


 ジョシュアは美里に説明する。


「だった?」


「2か月前に突然この様な状態にな……寝たきりだ。わしがここに泊まって世話をしている」


 医師のハンクが話す。

 

「私も見てもいいのですか?」

「あぁ、異世界人から見た彼の状況を知りたい」


「ミサトちゃんは異世界……落ち人なんだ〜」

「そうなんです。気が付いたら異世界でした」

 

 医師のハンクはカーテンを開ける。すると嫌な臭いが鼻をつく、ベッドには1人の男性が寝ているのだった。

 

「この傷を負ってから、このままだよ」


 眠る男の顔には火傷の様に爛れた肌、顔だけではなく首にも続く、美里は思う、この爛れた肌は身体中にもあるのだろうなと。


「先ほど、教会に聖魔法を使える治療師がいると」

 

「こいつの場合は、教会の治療師は診てくれない」

「何故ですか?」

 

 

「ミサトちゃん……こいつは聖女の元恋人だったからさ」

「それなら……」

 

「邪魔になったんだよ。聖女は王子とも恋仲だったようだ」

「……」

 

 

「先生、これも何かの縁です。私もお世話したいのですが。ここで私は何もすることがないし」


「とても助かるが、夜も世話があるぞ。夜間ここで女性1人が過ごすのはな……」

 

「でも……先生1人だと大変でしょうし」

「ミサトちゃん……僕も協力するよ。カイトとも相談する」

 

「あのジョシュアさん?」

「ほら、綺麗に巻いているでしょ。だから勘だよ。アイツを助けたい」

 

「先生……ダメですか? 先生も倒れちゃいます」

「しかし……」

 

 考え込むハンクに美里は伝える。先ほど私を娘と言っていたし。

 

「ねぇ……お、お……おと……パパお願い」

「パパ? 私がパパ……ふむ、美人の娘か……いいな」

 

 改めてハンクは眠る男アイザックを見る。


「ミサトよ。彼の肌は想像通り全身爛れている、若い子が見るのはちょっとな……」


「大丈夫よ、無理な時は言うから」

 

「わかった、午後から一緒に包帯を変えようか」

「ありがとうございます」

 

 そう言うと美里はハンクに抱きつくのであった。

 

「ジョシュア……娘とはいいもんだな」

 

「じじいに娘はいないだろ。しかし、ミサトちゃん美人だし、俺も抱きしめられたい」

 

 

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