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勇者の珍道中

作者: クローゼ

無理やり召喚された勇者の珍道中

「あぁん……!こんな無理矢理な召喚魔法だなんて……♡」


眩しい光が収まると、そこには黒髪の少年が立っていた。身長は150cmほど、整った顔立ちに頬は少し赤らみ、困惑と期待が入り混じった表情をしている。


「よし、成功じゃ!」白髭の老人が叫んだ。「ついに真の勇者が現れたぞ!」


周囲の騎士たちが驚いた表情で見つめる中、少年は自分の体を見下ろした。


「え?これって……召喚されちゃったの?」彼はチェック柄の半ズボンを撫でながら言った。「それに……このパンツ……」


「パンツではなくズボンです、勇者様」傍らにいた美形の青年が静かに訂正した。


「え?でも私の時代ではこれってショートパンツって言うんだけど……」


「時代?」青年の眉が上がった。


「あっ……私、元の世界では高校2年生で、アニメとか同人誌が大好きで……あ、いえ、違います!男子校に通う普通の学生でした!」


「ほう、変わった勇者様だな」白髭の老人が近づいてきた。「だが問題はない。魔王を倒せれば何でもよい」


「魔王ですか……」少年は目を輝かせた。「強くて冷酷で、でも本当は優しい一面もある……そんなキャラですよね?きっと最後は主人公に心を開いてくれて……」


「何を言っておるのだ?」老人が首を傾げた。


「い、いえ!何でもないです!」少年は慌てて両手を振った。「それで……勇者の務めというのは?」


「簡単なことじゃ」老人がニヤリと笑った。「3つの試練を乗り越え、魔王城に向かい、魔王を倒すこと。そのための剣と鎧は用意してある」


「ありがとうございます……わぁ、この鎧……ちょっと窮屈ですね」少年が肩をすくめた瞬間、美形の青年が彼の腕を取り上げ、しっかりと固定した。


「失礼、サイズ調整が必要でしたね」


「ひゃぁ!」少年は思わず声を上げた。「そ、そんな強く引っ張らないでください……!」


「すみません」青年は冷静に謝罪した。「しかし勇者様、これが試練なのです」


「え?試練?」


「そうです。痛みに耐え、恐怖を克服し、そして……」


「興味深い」老人が杖を鳴らした。「それならさっそく最初の試練を始めよう。我が国の最北端にある凍える湖まで行ってこい。そこで"氷の乙女"と呼ばれる精霊を見つけ出し、彼女の加護を得てくるのだ」


「ええっ!一人で行くんですか?」


「もちろん、案内人は用意する」老人は厳かに答えた。「それとも誰か……特別な同行者を希望かな?」


老人の視線は、さっき少年を拘束していた青年に向かった。


「い、いえ!大丈夫です!」少年は慌てて両手を振った。「でも……凍える湖って、どれくらい遠いんですか?」


「徒歩で一週間、馬車で三日ほどです」青年が冷静に答えた。「寒さ対策として、こちらの防寒具をご用意しました」


「一週間……」少年はため息をついた。「あの、食料とかも準備してくれるんですよね?」


「もちろん」老人が微笑んだ。「道中の村々で必要な物資は補充できるだろう」


「よかった……」少年は胸をなでおろした。


「それと、旅の途中で出会う様々な試練にも耐えるのだぞ」老人が意味ありげにつけ加えた。


「例えばどんな?」少年が恐る恐る尋ねた。


「魔物との戦い、自然の障害、そして……」老人は意地悪く微笑んだ。「時には人間関係のもつれも経験することになるだろうな」


「ひぇぇ……」少年は震えた。「私、体力もないし戦闘経験もないのに……」


「心配するな」老人が杖を掲げた。「勇者は召喚されるときに特殊な力が宿る。お主も例外ではないはずだ」


「そうなんですか?」少年は目を輝かせた。「どんな能力なのかな……もしかして、能力だったり?」


「……さて、出発の時だ」老人は質問をスルーして告げた。「神のご加護があらんことを」


「はぁ……」少年勇者は大きなため息をついた。


凍える湖への道中、彼は既にいくつもの困難に直面していた。まず第一の試練は……


「あのー、すみませーん」少年が村人に声をかける。「凍える湖への行き方を教えていただけますか?」


「えっ?あんたが噂の勇者さん?本当に子供じゃないか」老婆は目を丸くした。


「はい、実はそうなんです……」少年は恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「まぁまぁ、可愛い勇者さんだねぇ。若い夫婦みたいに見えるけど、お連れさんはいないのかい?」老婆は隣に立つ美形の青年を見て言った。


「あっ、これはその……案内人のシルバさんです」少年が慌てて説明すると、青年は冷ややかな表情のまま会釈した。


「案内人?なんだか親密そうな二人だけどねぇ」老婆は意味深な笑みを浮かべた。


「そ、そんなことないですよぉ!」少年は真っ赤になって否定した。「ただの仕事上の関係で……」


「そうかねぇ……」老婆は去り際に小声で囁いた。「今夜の宿は同じ部屋にしてあげようか?」


「ひゃああぁ!?」


試練は宿屋でのことだった。老婆の粋な計らい(?)で二人部屋を割り当てられた少年は、ベッドで横になっているシルバを前に緊張しまくっていた。


「あ、あの、シルバさん」少年は枕を抱きしめながら話しかけた。「やっぱり別の部屋の方が良かったんじゃ……」


「必要ありません」シルバは壁の方を向いたまま答えた。「私は眠りが浅いので、何かあったときすぐに反応できますから」


「そうなんですね……」少年は自分の鼓動が速くなっていることに気づいた。(なんかBL小説の展開みたい……!)


「それに」シルバが突然振り返った。「勇者様の特殊能力について詳しく知りたいこともあります」


「ふ、特殊能力!?」少年は飛び起きた。「実は私もまだよくわかってなくて……」


「先ほどの戦いで見せた光の魔法のことです。あれは何ですか?」


「あー、あれはですね……」少年は指をもじもじさせながら説明した。「幼少期に読んでいた漫画で覚えた技で、相手の弱点を突くことができるんです」


「漫画……?」シルバは怪訝な顔をした。


「はい、元の世界ではとても有名な少年漫画で……あ、でもここでは関係ないか」


「なるほど」シルバは真面目な表情で頷いた。「他にも使える技はありますか?」


「えっと、気合いを入れるときに使う必殺技もありますよ!見てみます?」少年は目を輝かせた。


「お願いします」


「それじゃあ行きますよ……」少年は深呼吸をして拳を握り締めた。「必殺!ラブリー☆キューティーアタック!!」


シルバの反応は予想通りだった。「それは何の効果があるのですか?」


「えっと……精神的なダメージを与えて、相手を混乱させる技なんです」少年は恥ずかしそうに説明した。


「実際には物理的なダメージがないんですね」


「まぁ、そうなりますね……」


沈黙が流れた。


「しかし」シルバが突然声のトーンを変えた。「その必殺技を試す価値はあるかもしれませんね」


「え?」


「勇者様」シルバがゆっくりと起き上がり、少年のベッドに近づいてきた。「試しに私に向けて放ってみてください」


「えええっ!?」少年はさらに真っ赤になった。「で、でも、実際の効果は……」


「大丈夫です」シルバの瞳が妖しく光った。「私が受け止めて差し上げましょう」


「ひゃああぁ!?」少年は布団の中に潜り込んだ。「そ、そんな直接的な……!」


「勇者様?」シルバが布団をめくる音がした。「お嫌でしたら強制はしませんが……」


「い、いやじゃ……ないです……」少年は蚊の鳴くような声で答えた。


「では、どうぞ」シルバの声は柔らかくなっていた。「私の顔に向けて、あなたの持てる力を全て注ぎ込んでください」


少年は布団から恐る恐る顔を出した。目の前にはシルバの端正な顔があり、少年の胸は高鳴った。


「ラ、ラブリー☆キューティーアタック!」


小さな光の粒子が少年の手から放出され、シルバの額に当たった。何も起こらなかった……ように見えた。


「うっ……」シルバが片膝をついた。「こ、これは……予想以上の破壊力です……」


「え?ウソですよね?」少年は混乱した。


「勇者様……まさかここまで強力な技とは……」シルバは演技か本気か分からない表情で苦悶の表情を見せた。


「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか?」少年は慌てて駆け寄ろうとした。


「あぁ、その純粋な心遣いがまた私の胸を打ちます……」シルバは少年の腕をつかんで引き寄せた。「もっと近くに来てください」


「ひゃぁぁ!?」


こうして勇者の初日の夜は、思わぬ形で羞恥プレイとなってしまったのであった。


翌朝、元気に回復したシルバと共に旅を続けることになった少年は、「凍える湖」への道中でも様々な試練に遭遇していく。時に助け合い、時に誤解から生まれるドキドキの状況に陥りながら、二人の距離は徐々に縮まっていくのだった……


「はぁ……はぁ……」少年勇者は湖岸で四つん這いになり、荒い息を吐いていた。


昨晩の羞恥プレイから一夜明け、一行はついに凍える湖の近くまで来ていた。しかし目の前の光景は想像以上に過酷だった。


「これが……凍える湖?」少年は震える声で呟いた。


湖面は確かに凍り付いていた。だが普通の氷とは違い、青白く妖しい光を放っている。しかも所々で氷が溶けかけ、不規則に波打っている。


「湖自体が生きているようです」シルバが警戒しながら言った。「迂闊に足を踏み入れれば命取りでしょう」


「でも……"氷の乙女"を見つけるには、湖に入らなければいけないのでしょうか?」


「おそらく」シルバは厳しい表情で答えた。「伝説によれば、乙女は湖の中心部に住んでいるとのこと。ただし—」


「ただし?」


「接触するには特別な方法が必要らしい」


「特別な方法……」少年は考え込んだ。「例えば?」


「古文書によると"純潔なる心と体を持つ者だけが近づける"とあります」


「そ、それって……」少年は顔を赤らめた。


「つまり、裸でなければ接近できないということですね」シルバは淡々と言った。


「えぇっ!?」少年は耳まで真っ赤になった。「そんなの恥ずかしすぎますぅ!」


「しかし命令は命令です」シルバは冷静に続けた。「勇者様が任務を果たせなければ、我々全員が困ることになります」


「でも、でも……」少年は涙目になった。「私には荷が重すぎるような……」


その時、湖から鋭い風が吹きつけ、少年の衣装がめくれ上がった。


「ひぃぃ!」少年は思わず蹲った。「み、見えちゃった!?」


「心配するな」シルバが少年の頭に手を置いた。「私は何も見ていない」


「そ、そうですよね……」少年は安堵したものの、なぜか残念そうな表情を見せた。


「でも、どうしよう……このままじゃ乙女には会えないし……」少年は悩み始めた。


そのとき、閃いた。


「そうだ!私に考えがあります!」


「何でしょうか?」


「昔読んだ漫画で似たような状況があったんです。主人公たちは水着を着て、謎のクリスタルを入手するために危険な洞窟に入るんですけど……」


「水着で?」



「そうです!水着を着れば恥ずかしさも半減するはずです!」少年勇者は目を輝かせた。「それに水着なら機能性も良いですから、探索にも適していますよ!」


「なるほど」シルバは眉をひそめた。「しかし水着など持っていませんが……」


「心配ご無用!」少年は得意げに胸を叩いた。「実は私、元の世界では水泳部だったので、常に替えの水着を持っていました!」


「常日頃から?」


「いえ、召喚される直前は夏だったので……」少年は頬を赤らめた。「とにかく、バッグの中を探してみましょう!」


少年がバックパックを漁ると、本当に折り畳まれた水着が出てきた。紺色の競泳タイプだ。


「ありました!」少年は嬉しそうに広げた。「さあ、これを着て湖に入れば……」


「待ってください」シルバが急に真顔になった。「勇者様が単独で行動するのは危険です」


「え?でも湖に入るのは私だけのはず……」


「いいえ」シルバは決然とした表情で言った。「私も同行します。案内人として当然の義務ですから」


「ええっ!?シルバさんも水着を着るんですか?」少年は驚きと期待が入り混じった表情になった。


「無論です」シルバは少年の反応を見て薄く笑った。「ですが、問題が一つあります」


「問題?」


「私たちはお互いの水着姿を目にするということです」シルバの言葉に、少年の顔が真っ赤になった。「勇者様は大丈夫でしょうか?」


「だ、大丈夫じゃないかもです……」少年は小声で答えた。


「何と?」シルバが聞き返した。


「いえ!何でもありません!」少年は慌てて両手を振った。「とにかく、準備しましょう!」


◆ ◆ ◆


数十分後、二人は湖畔の岩陰で着替えを済ませていた。少年は緊張しながら岩の隙間から顔を覗かせた。


「あの……シルバさん?」少年が震える声で呼んだ。


「準備できました」シルバの凛々しい声が響いた。


少年が勇気を出して岩陰から出ると、そこには黒と銀を基調としたシンプルなビキニタイプの水着を着たシルバが立っていた。鍛え上げられた肉体に細身の水着がよく映え、まさに美しき戦士といった雰囲気だ。


「す、すごい格好良さ……!」少年は思わず口に出した。「まるでマンガの王子様みたい……!」


「ありがとう」シルバは穏やかに微笑んだ。「勇者様も似合っていますよ」


「えっ?」少年は自分の水着姿を見下ろした。「競泳タイプだから地味かも……」


「いえ」シルバは真摯な表情で言った。「その素朴さがかえって魅力を引き立てています」


「そ、そうですか?」少年の胸が高鳴った。(これってイケメン同士の水着姿……最高!)


「それよりも」シルバが湖面を指差した。「あれを見てください」


少年が視線を向けると、湖の中央部分が不自然に波立ち、青い光が渦を巻いているのが見えた。


「あっ!あれが氷の乙女の居場所かもしれません!」


「そうかもしれません」シルバは少年の肩に手を置いた。「しかし問題は……」


「問題?」少年が不安そうに尋ねた。


「あの渦に近づくには相当な距離を泳がねばなりません。しかも周囲の氷は不安定で—」



「しかも周囲の氷は不安定で、下手に進むと崩落する可能性があります」シルバが警告した。


「じゃあどうすれば……」少年は途方に暮れた。


「私の考えでは」シルバが岩の上に座った。「勇者様の特殊能力を活用するのが良いでしょう」


「私の……能力?」


「以前見せていただいた光の魔法です。あれを使えば氷を安全に溶かしながら進めるかもしれません」


「なるほど!やってみます!」少年は目を閉じ、手のひらに意識を集めた。


「ラブリー☆キューティーブレイク!」


少年の手から暖かなピンク色の光が放たれ、水面に触れた瞬間、周囲の氷が心地よい温度で溶けていった。


「素晴らしい」シルバが感嘆の声を上げた。「これなら安全に進めるでしょう」


二人は慎重に渦の方向へ進み始めた。少年の魔法のおかげで道は順調に開けていく。しかし、あと数十メートルというところで予想外のことが起きた。


「あっ!」少年が足を滑らせた。「つ、冷たい!」


少年はバランスを崩し、水中に落ちてしまった。幸い深さはそれほどなく、すぐに顔を出したが、水しぶきで全身ずぶ濡れになってしまった。


「勇者様!」シルバが急いで助けようと手を伸ばした。


「だ、大丈夫です……」少年は照れ笑いを浮かべた。「この水着姿、見てくださってありがとうございます……///」


「何を言っているのですか?」シルバは困惑した表情を見せた。「早く上がってください」


しかし次の瞬間、周囲の景色が変わった。青白い光が強まり、まるで別世界に入ったかのようだ。そして渦の中心から、美しい女性の姿が現れた。


「お待ちしておりました……勇者様」透き通るような声で女性が呼びかけた。


「あっ!あなたが氷の乙女様ですか?」少年が敬語で尋ねた。


「いかにも」乙女は微笑んだ。その姿は完全に透明なドレスを纏った美女だったが、特徴的なのは……


「あの……その目線、ずいぶん熱心ですね」少年が気づいた。


「はい、やはり筋肉隆々の男性の水着姿は素敵ですわ……」氷の乙女の頬がほんのりと紅潮した。「特に苦痛に歪む表情が……」


「え?」


「失礼、つい本音が……」氷の乙女は咳払いをした。「しかし勇者様、そのような純粋無垢な少年が勇者とは……」


「そうです!」少年は突然明るくなった。「実は私、元の世界では女子でして……あっ!いえ、間違えました!普通の男子高校生でした!」


「ふふふ、分かりますわ」氷の乙女が親しげに微笑んだ。「実は私も……このような高貴な存在でありながら、心の奥底では萌えを求めていたのです」


「そ、そうなんですか!?」

「ええ、孤独な氷の世界で唯一の慰めは、妄想の中で繰り広げる美しい男性たちの……あっ、いえ、何でもありませんわ!」


「分かります!私も男子校に通っていて……その、毎日の光景が刺激的で……」少年の表情が緩んだ。


「まさか、こんな形で同志に会えるなんて……」氷の乙女の目が潤んだ。「しかも互いにM気質だなんて……」


「えっ?どういうことです?」少年が目を丸くした。


「実は私も……そう、長い間この孤独な生活の中で、時に激しい責めを受けたい衝動に駆られることがあるのです……」


「そ、それって……」少年の胸が高鳴った。


「ふふ、だからこそ貴方が選ばれたのでしょうね」氷の乙女は優雅に手を差し伸べた。「さあ、共に試練を乗り越えましょう」


「あ、でも……」少年はためらった。「試練って具体的に何をすればいいんですか?」


「そうですね……」氷の乙女は考えるそぶりを見せた。「本来ならば氷の中で瞑想をしたり、水の精霊と対話しろという命令でしたが……」


「それが普通の試練なんですね」


「しかし!」氷の乙女が突然声を弾ませた。「今回は特別に、私たち同士でしかできない試練にしてしまいましょう!」


「え?それってどういう……」


「簡単に言えば……」氷の乙女は楽しそうに微笑んだ。「"推しCP"の魅力を語り合うことで、互いの魂を浄化させるのです!」


「それって……試練なんですか?」少年は半信半疑だった。


「もちろんですわ!」氷の乙女が強く肯定した。「誰よりも深い愛情と理解を持った者にだけ、真の力が授けられるのですから!」


「なるほど……」少年は納得した表情になった。「では、さっそく始めましょう!」


「それでは……」氷の乙女は周囲に結界を張った。「ここで思いっきり語り合いましょう!周りからは何を話しているのか全く分からないようにしますので安心してください!」


「ありがとうございます!」少年は感激のあまり涙ぐんだ。「じゃあ、まずは私が最近ハマってる作品から……」


◆ ◆ ◆


約二時間後、シルバが見守る中、二人の姿が少しずつ変わり始めていた。少年の体からはピンク色の光が漏れ、氷の乙女の姿はさらに輝きを増していた。


「もういいんじゃないか?」シルバが声をかけた。「勇者様、大丈夫ですか?」


「はぁ……はぁ……」少年は恍惚とした表情で頷いた。「素晴らしかった……本当に……」


「これで目的は達成されましたわ」氷の乙女が満足げに言った。「さあ、約束通り、私からの祝福を与えましょう」


彼女は少年の額に手をかざした。その瞬間、冷たくも温かいエネルギーが流れ込み、少年の体中に染み渡っていく。


「あっ……あぁ……!」少年は甘い声を上げた。


「勇者様?」シルバが心配そうに近づいた。


「だ、大丈夫です……すごく気持ちよくて……///」少年は真っ赤な顔で答えた。


「氷の魔力を体内に取り込むプロセスなのです」氷の乙女が説明した。「これからは寒さに強くなり、氷の魔法も使えるようになるでしょう」


「すごーい!」少年は飛び跳ねた。「これで次の試練も大丈夫です!」


「ところで」氷の乙女が悪戯っぽく微笑んだ。「もしよかったら、また遊びに来てくださらない?今回の議論はまだまだ序の口ですし……」


「もちろんです!」少年は即答した。「必ず戻ってきます!」


「よかったわ……」氷の乙女は心底嬉しそうに笑った。「では帰り道を安全にお送りします。シルバさんも一緒に」


三人は無事に湖岸に戻ってきた。夕陽に照らされた湖面は、これまで見たこともないほど美しく輝いていた。


「今日はありがとうございました!」少年は深々と頭を下げた。「おかげで新しい自分になれた気がします!」


「こちらこそ」

氷の乙女も頭を下げた。「いつでも訪れてください。あ、それから……」


「はい?」


「私にも……ぜひあなたの『萌え』の世界を教えてほしいのです」氷の乙女は少し恥ずかしそうに言った。


「任せてください!」少年は力強く宣言した。「次回はもっと濃厚な内容で!」


こうして少年は貴重な仲間(?)を得て、次の冒険へと向かうことになった。


「さあ、シルバさん」少年は新しく手に入れた力を確かめるように言った。「次の目的地へ出発しましょう


「了解しました」シルバは頷いた。「しかし……」


「はい?」


「その……勇者様」シルバは少し躊躇いながら言った。「水着のままで移動するつもりですか?」


少年は自分の姿を思い出した。ずぶ濡れの競泳水着一枚だ。寒風が吹きつける中、水着の肌に触れると震えが来た。


「ひゃあ!忘れてました!」少年は顔を真っ赤にして叫んだ。「ささ、すぐに着替えないと!」


二人は急いで野営の準備を整えながら、少年は思いがけない出来事に胸を躍らせていた。こんな愉快な冒険が、これからも続くのだろうか?


◆◆◆




翌朝、太陽が東の山脈から顔を出すころ、二人はすでに次の目的地へ向かって歩き始めていた。少年の手には氷の乙女から託された小さな水晶玉が光っている。


「それで次の目的地は?」少年は歩きながら聞いた。


「『炎の谷』です」シルバが地図を確認しながら答えた。「炎の精霊に認められなければ先には進めません」


「炎の精霊……」少年は考え込んだ。「氷の乙女みたいに素敵な人だったら嬉しいな」


「それは……どうでしょうか」シルバは複雑な表情を見せた。「噂によれば、かなり気難しい性格だとか」


「うわぁ、それは怖いですね……」


「ですが勇者様の持つ力であれば」シルバが不意に微笑んだ。「あるいは突破口を見つけられるかもしれませんね」




「そうかなぁ……」


少年は自分の胸に手を当てた。先程氷の乙女からもらった新たな力が脈打っているのを感じる。M同士の奇妙な絆で芽生えた力。きっと次の試練でも役に立つはずだ。


「あ!見えてきましたよ!」少年が前方を指差した。


遠くに見える谷間からは煙のようなものが立ち昇っている。しかし近づくにつれ、それは炎ではなく蒸気であることが分かった。谷全体が巨大な温泉地帯のようだ。


「温泉ですか?ここに炎の精霊がいるんですか?」少年は首を傾げた。


「正確には」シルバが説明した。「この温泉の最深部に神殿があり、そこで炎の精霊が封印されていると言われています」


「封印……?」少年は不安になった。「解除しなきゃいけないんですか?」


「そのようですね」シルバは冷静に答えた。「そして解除には三つの条件が必要です」


「条件ですか?」


「一つ目は、純粋な心を持つ者であること。二つ目は、炎に耐えうる体を持つこと。三つ目は……


「三つ目は……?」少年が息を飲んだ。


「実はそれが一番難題なのです」シルバは真剣な表情で言った。「炎の精霊は非常に誇り高く、並大抵の挑戦者では歯が立たないといわれています」


「なるほど……」


二人が谷の入口に到着すると、すでに異様な熱気が漂っていた。周囲の岩石は溶けかけ、地面からは薄く湯気が立ち上っている。


「うわぁ……暑いですね」少年は手で顔を仰いだ。


「勇者様のお体は大丈夫ですか?」シルバが心配そうに尋ねた。


「あっ!」少年は胸に手を当てた。「氷の乙女からもらった力のおかげか、思ったほど辛くはありません」と、残念そうに答える


「それはよかった」シルバは安堵の表情を見せた。「では参りましょう」



神殿に足を踏み入れると、内部は想像以上に暑かった。壁面には鮮やかな炎の模様が描かれ、中央の祭壇には巨大な炎の柱が燃え盛っている。


「すごい熱気……」少年はハンカチで額の汗を拭った。「本当にこんなところに精霊がいるんですか?」


「間違いありません」シルバが断言した。「伝承によれば、あそこに見える炎の柱こそが精霊の住まいです」


突然、炎の中から人影が現れた。赤い髪と炎のドレスを纏った美しい女性だ。


「ようこそ、勇者殿」炎の精霊が微笑んだ。「我が神殿へ」


「あなたが炎の精霊さまですか?」少年が丁寧に尋ねた。


「いかにも」精霊が頷いた。「名をフレイラという」


「フレイラさま……」少年は目を輝かせた。この精霊も美しく、そして何より——


「お前が本当に勇者なのか?」フレイラが訝しげな表情を見せた。「子供のように見えるが……」


「はい!」少年は背筋を伸ばした。「この度はお目にかかれて光栄です!」



「では試させてもらおう」フレイラが手を翳すと、神殿内の温度が一気に上昇した。「我が炎に耐えられるかどうか、見せてみよ!」


「あっ!」少年が悲鳴を上げる。まるでサウナのような暑さが襲いかかり、額から汗が滴り落ちる。


「勇者様!」シルバが駆け寄ろうとしたが、フレイラの炎の壁に阻まれた。


「邪魔は無用」精霊の声が響く。「これは一人での試練だ」



「では試させてもらおう」フレイラが手を翳すと、神殿内の温度が一気に上昇した。「我が炎に耐えられるかどうか、見せてみよ!」


「あっ!」少年が悲鳴を上げる。まるでサウナのような暑さが襲いかかり、額から汗が滴り落ちる。


「勇者様!」シルバが駆け寄ろうとしたが、フレイラの炎の壁に阻まれた。


「邪魔は無用」精霊の声が響く。「これは一人での試練だ」


シルバは悔しそうに拳を握りしめた。少年を見つめる瞳には心配と……別の感情が混ざっていた。


「シルバさん……大丈夫ですよ!」少年は必死に笑顔を作った。しかし内心では—(ああ……この灼熱の暑さ……なんだか興奮してきました……)


一方で、フレイラも実は悩んでいた。精霊たちの掟で人間を試さなければならないが、実は彼女もドMだったのだ。強い相手に屈服させられることに密かな喜びを感じる体質なのだ。


「もっと高温にするぞ!」フレイラが力を込める。しかし本心では「早く降参してほしい」と願っていた。そうすれば—


神殿の温度はさらに上がり、少年の額からは大量の汗が流れる。しかし不思議なことに、少年の表情は次第に恍惚としていった。


「ふふ……」少年は小さく笑った。「この感じ……なんだか懐かしいなぁ……」


フレイラは驚愕した。(こいつ……快感を感じているだと?)


「勇者様……」シルバは炎の壁越しに少年を見つめた。心配と共に、なぜか体が熱くなるのを感じていた。(私も……あの熱に包まれたい……)


フレイラは苛立ちと同時に妙な興奮を覚えた。この少年、ただの人間ではない。何か特別なものを持っている。試練を続けるべきか迷い始めたとき—


「あ……」少年がよろめいた。体力の限界が近づいている。今こそ降参のチャンス!


「どうした?」フレイラは冷たく言い放った。「もう終わりか?」


少年は膝をつきそうになりながらも堪えた。「まだ……大丈夫です……」


そのとき—シルバが動いた。彼は炎の壁に向かって突進し、右手を燃え盛る炎の中に突っ込んだ!


「シルバさん!?」少年が驚いて叫んだ。


「私は……勇者様をお守りする使命がある!」シルバの腕が焦げ始めても怯まない。「精霊よ、この騎士の魂に火傷を与えてみろ!」


フレイラは目を見開いた。


その瞬間、奇跡が起きた。炎の壁が消え去り、代わりに涼しい風が吹き始めたのだ。



これらを踏まえて続きを書きます。


「あ……」少年がよろめいた。体力の限界が近づいている。今こそ降参のチャンス!


「どうした?」フレイラは冷たく言い放った。「もう終わりか?」


少年は膝をつきそうになりながらも堪えた。「まだ……大丈夫です……」


そのとき—シルバが動いた。彼は炎の壁に向かって突進し、右手を燃え盛る炎の中に突っ込んだ!


「シルバさん!?」少年が驚いて叫んだ。


「私は……勇者様をお守りする使命がある!」シルバの腕が焦げ始めても怯まない。「精霊よ、この騎士の魂に火傷を与えてみろ!」


フレイラは目を見開いた。(こいつ……ただの騎士ではない!)

そして心の中で叫んだ。(なんて……なんて素晴らしいんだ!自ら傷を受ける騎士!なんて麗しい尊厳の体現者だ!)


少年は目の前の光景に釘付けになっていた。シルバの端正な横顔が痛みに歪み、頬を伝う汗が滴り落ちていく。「ああ……」少年は無意識に声を漏らした。「なんて美しい……」


そして驚くべきことに—シルバの腕が焦げる匂いとともに、彼の表情は徐々に恍惚としていった。


フレイラは顔を真っ赤にして扇情的に叫んだ。「止めなさい!」彼女は炎の壁を消し去った。「このまま続けていたら本当に怪我をするわ!」


「え……?」シルバは困惑した表情で腕を引き抜いた。「私はまだ耐えられます。精霊殿に申し上げます—私の忠誠心をご覧いただきたいのです」


「いや……それは違う!」フレイラは慌てた。「あなたがダメージを受けるのを見るために試練を設けたのではない。ただ……」


「ただ?」シルバが尋ねた。


「……ただ見ているだけで興奮してしまうから……」フレイラは小声で呟いた。


その頬は炎に負けないくらい赤くなっている。


少年は閃きを得た。「もしかして……フレイラ様も……?」


「そうだとも!」フレイラは開き直るように宣言した。「私は長年封印されていて……そんなときこそ想像の翼を広げるのが唯一の楽しみだったのよ!」


「やっぱり……」少年は喜びを爆発させた。「では我々は同じ穴の狢ですね!」


「それどころか……」シルバが恐る恐る提案した。「おそらく世界中の全てが……」


その時、空気が一変した。神殿の天井から声が響いた。


『違う!俺だけは違う!!』


三人は凍りついたように固まった。どこからともなく響く野太い声……


「ま、魔王……?」少年が震える声で言った。


『そうだ』声は怒りに満ちていた。『お前たちのくだらない性癖に付き合っている暇はない!早くこの世界を救うがいい!』


「ですが……」フレイラが抗弁しようとした。


『黙れ!』魔王の声が轟いた。『お前たちドMどもが俺の邪魔をしているのは知っているぞ!この世界に住む者全てが……あ、いや、俺以外の者は皆そうだ!』


「なんと……」シルバは感動に打ち震えた。「魔王殿さえも我々の仲間だったとは……」


『違うと言ってるだろう!』魔王は更に怒鳴った。『俺はノーマルだ!屈辱を受けるなどご免蒙る!』


「でも……」少年が小さく囁いた。「屈辱に喘ぐ魔王様も……見たくなかったですか?」


『……』魔王からの応答が途絶えた。


三人は期待に満ちた眼差しを交わした。そして—全員の胸にあった疑問がついに解けた瞬間だった。世界の謎が一つ明らかになったのだ。魔王以外全員が……同じ嗜好の持ち主だということに。


「それじゃあ……」フレイラは微笑んだ。「次の目的地へ行きましょうか。魔王城に乗り込む前に」


「はい!」少年は勢いよく立ち上がった。「フレイラ様の力も頂けますか?」


「もちろん」フレイラは少年に手を翳した。彼女の手から赤い炎の光が溢れ出し、少年の体を包み込んでいく。「この炎の力があれば、どんな困難も乗り越えられるはずです」


「ありがとうございます!」少年の体が熱い光に包まれる中、彼は心の中で決意を新たにしていた。「シルバさん、フレイラ様……そしてきっと他にも……みんなと一緒に魔王を倒しましょう!」


「そうだね……」シルバも深く頷いた。彼の顔には確かな覚悟と……それ以上の何かが浮かんでいた。三人の旅路はまだ始まったばかりだが、彼らには強力な武器があった—共通の秘密という絆が。


神殿を後にした三人の背後で、再び魔王の声が聞こえた気がした。


『愚か者どもめ……絶対に許さんぞ……』


しかし少年たちは振り返らなかった。彼らは確信していた—この戦いは単なる善と悪の争いではない。これは究極の選択の戦いなのだ。


◆◆◆




こうして三人は新しい力を携え、魔王城へと向かう旅路についた。世界の命運がかかる戦いの陰で、彼らは密かな期待を抱いていた。


「魔王城に着いたら……」少年は小さく呟いた。「きっと素晴らしい出会いがあるんだろうなぁ」


「ええ……」フレイラも妖艶な笑みを浮かべる。「きっと私たちの想像を超えるものがあるはずよ」


「あの……」シルバが控えめに手を挙げた。「個人的には少し怖いのですが……でも興味はあります」


三人の顔には期待と興奮が入り混じっていた。彼らの冒険譚はまだ始まったばかりであり、最も興味深い章がこれから幕を開けるのだ。


魔王城までの道中、少年は密かに決意していた。(きっと魔王様も……最後は理解してくれるよね?)



炎の神殿を後にした三人は、魔王城への道中にある峡谷沿いの街道を歩いていた。岩肌に切り開かれた細い道は、所々危険な崖っぷちになっている。


「この先の森を抜けたら魔王城ですね」シルバが地図を確認しながら言った。


「そうですね……」少年は緊張した面持ちで頷いた。「でもなぜか楽しみでもあるんです」


「分かるわ」フレイラが微笑んだ。「きっと魔王城には私たちの想像を超える何かがあるはずよ」


その時—突如として周囲の空気が冷たくなった。三人が足を止めて辺りを見回すと、遠くの丘の上に人影が見えた。


「あの人……」少年が目を凝らした。「城の兵士かな?」


しかし次の瞬間、その人物が空中に浮かび上がった。漆黒の鎧に身を包み、背中には蝙蝠のような翼がある。


「敵襲か!」シルバが剣を構えた。


「いえ……あれは……」フレイラが驚きの声を上げた。「魔族の使者ではありません!あれは……魔王直属の親衛隊長です!」


漆黒の鎧に身を包んだ親衛隊長がゆっくりと地上に降り立った。その姿は凛々しく威厳に満ちているが、なぜか動きに緊張感が漂っている。


「魔王陛下の命により……」親衛隊長が低い声で語り始めた。「勇者一行を排除する!」


「来ますよ!」シルバが剣を構えた。「勇者様、フレイラ様、警戒を!」


三人が戦闘態勢に入る中、親衛隊長はゆっくりと兜を脱ぎ捨てた。中から現れたのは美しい銀髪の若い男性。整った顔立ちに鋭い眼光が宿っている。


「わあ……」少年は思わず声を漏らした。「素敵な方ですね!」


その瞬間、親衛隊長の頬が微かに赤く染まった。


「余計なことは言うな!」彼は怒鳴ったが、声には明らかな動揺が混じっている。「俺は魔王直属の親衛隊長アッシュだ!覚悟しろ!」


アッシュが両手を広げると、黒い霧のような魔力が渦巻き始めた。


「勇者様、注意してください!」シルバが警告した。「彼の魔力は並大抵ではありません!」


「うん……」少年は緊張した面持ちで頷いた。「でもなんだか……」


フレイラが察したように笑みを浮かべた。「あの子も我慢してるだけじゃないかしら?」

「え?」少年が目を丸くした。

「ふん……」フレイラは炎を手のひらで踊らせながら言った。「私たちと同じ匂いがするわ」



「余計なことは言うな!」アッシュが怒鳴ったが、声には明らかな動揺が混じっている。「俺は魔王直属の親衛隊長アッシュだ!覚悟しろ!」


アッシュが両手を広げると、黒い霧のような魔力が渦巻き始めた。


「勇者様、注意してください!」シルバが警告した。「彼の魔力は並大抵ではありません!」


「うん……」少年は緊張した面持ちで頷いた。「でもなんだか……」


フレイラが察したように笑みを浮かべた。「あの子も我慢してるだけじゃないかしら?」


「え?」少年が目を丸くした。


「ふん……」フレイラは炎を手のひらで踊らせながら言った。「私たちと同じ匂いがするわ」


「何を言う!」アッシュが顔を真っ赤にして叫んだ。「この卑猥な連中め!」


「ほら見て」フレイラが少年に囁いた。「否定する時の仕草がまるで照れているみたいじゃない?」


確かにアッシュは必死で表情を取り繕おうとしているが、耳まで赤くなっている。


「僕にも分かります」少年は静かに言った。「あの人の瞳の奥に……同じものを感じるんです」


アッシュは一瞬言葉に詰まり、そして突然声を荒げた。「黙れ!お前たちはここで終わるんだ!」


彼が発動した黒い魔力の波動が三人に向かって押し寄せる。フレイラが炎の盾を展開し、なんとか防ぎ切った。


「勇者様」シルバが剣を構えながら言った。「いかがされますか?」


少年は少し考えてから、思い切った行動に出た。彼は盾を下ろし、無防備になったのだ。


「勇者様!?」シルバが驚いた声を上げる。


「攻撃してください!」少年は真摯な表情で言った。「あなたの本当の力を知りたいんです!」


アッシュの目が大きく見開かれた。彼は明らかに戸惑っている。


「そ、そんな罠には引っ掛からないぞ!」アッシュは叫んだが、その声には迷いがあった。


フレイラが意味ありげな笑みを浮かべて言う。「さっきの魔力はほとんど制御されていなかったわね。あれが全力なの?」


「バカにするな!」アッシュは再び攻撃体制に入った。「見せてやる!」


今度こそ本気の攻撃。黒い雷のような魔力が少年に向かって飛来する。少年はそれを避けず、正面から受け止めた。


「勇者様!」シルバが駆け寄ろうとするのをフレイラが制止する。


魔力を受けた少年の身体から煙が上がる。しかし彼は痛みを堪えつつも、満足そうな表情を浮かべていた。


「これだ……」少年は呟いた。「求めていたものは……この屈辱感!」


「何だって……?」アッシュは呆然としている。


「アッシュ様」少年は笑顔で呼びかけた。「あなたも同じ気持ちじゃないんですか?」


アッシュの表情が固まった。そして突然、彼は両手で顔を覆ってしまった。


「馬鹿野郎……」彼は呻いた。「何故気づいてしまうんだ……」


フレイラが優しく言った。「皆、自分を偽っているのね。私たちは理解者として手を差し伸べるべきよ」


「そうです!」少年は嬉々として言った。「アッシュ様、一緒にこの苦しみを分かち合いましょう!」


アッシュはしばらく沈黙した後、震える声で告白した。


「俺は……ずっと孤独だった。魔王城の中で誰にも打ち明けられずに生きてきたんだ……」


少年とフレイラが互いに目を見合わせて頷く。


「大丈夫です」少年は安心させるように言った。「僕たちも同じなんです。だから—」


「だから俺を捕らえに来たのか?」アッシュが唐突に鋭い眼光を向けた。「ならば容赦しない!」


彼は再び攻撃の構えを取るが、今度は明らかに様子が違った。彼の魔力は抑制され、より洗練されている。


「さっきよりも強くなっています」シルバが分析する。「本気モードですね」


「来るぞ!」フレイラが炎の障壁を強化した。


激しい衝撃音と共に、黒い魔力の波と紅蓮の炎がぶつかり合う。衝撃で周囲の地面が砕け散り、峡谷の一部が崩れ落ちた。


少年は戦いを見つめながら考えていた。(こんな形で出会うなんて……でもこれが運命なのかもしれない)


一進一退の攻防が続く中、アッシュは徐々に追い込まれていった。彼の肩には浅い切り傷ができ、額からは汗が滴っている。


「くそっ……」彼は苦悶の表情を浮かべた。「まさか俺がここまで追い詰められるとは……」


少年はアッシュの苦痛に歪む顔を見て、胸が高鳴るのを感じた。(ああ……この表情……まさに私が求めていたもの……)


その時、フレイラの炎の鞭がアッシュを捉えた。彼は後方に吹き飛ばされ、崖っぷちで辛うじて踏みとどまる。


「アッシュ様!」少年が叫んだ。


「諦めろ」フレイラが勝利を確信したように言った。「私たちの力の前に勝ち目はないわ」


アッシュは荒い息を吐きながら立ち上がった。「まだ……まだだ……」


「もう十分ですよ」少年が穏やかな声で言った。「一緒に進みましょう。この世界には仲間が必要なんです」


アッシュは最後の一撃を放とうとしたが、その手が震えていることに気づいた。彼の目から涙が零れ落ちる。


「なぜ……こんな……」彼は泣きながら言った。「こんな俺が……」


フレイラが歩み寄り、優しく語りかける。「誰も一人じゃないわ。みんな何かを背負って生きているの」


シルバも頷いて言った。「アッシュ殿。私にも同じ痛みが分かります。だからこそ共に戦いたいのです」


アッシュの全身から力が抜けていく。彼は膝をつき、「お願いします……」と掠れた声で呟いた。


「もちろんです!」少年は満面の笑みで応えた。「さあ、一緒に魔王様のもとへ向かいましょう!」


アッシュは顔を上げ、初めて本当の笑顔を見せた。「ありがとう……ありがとう……」


こうして四人は新たな仲間を得て、魔王城への旅を続けた。それぞれの心に秘めた想いを胸に—。



アッシュが仲間に加わって数日後、四人は魔王城へと続く森林地帯に差し掛かっていた。朝靄が立ち込める中、彼らは小さな川のほとりで休息をとっていた。


「シルバ殿」アッシュが焚き火の傍らで静かに語りかける。「先ほどの戦術について意見を聞きたいのだが……」


「喜んで」シルバが剣の手入れを中断し、真剣な眼差しで応じる。


少し離れたところで、少年とフレイラ、それに合流したばかりの氷精霊フロースが彼らを見つめていた。


「ねぇねぇ」少年が小さな声で囁いた。「あの二人、なんか雰囲気良すぎない?」


フロースが冷ややかな笑みを浮かべる。「そうね。アッシュのあの従順そうな態度……シルバへの信頼が見て取れるわ」


フレイラはニヤリと口角を上げた。「シルバが指導的立場で、アッシュがその教えに従う……あぁ、なんて素敵なの!」


「ちょっと待って」少年は顔を輝かせた。「それってつまり……師弟関係から発展していくパターン?」


「そこよ!」フレイラが指を立てた。「あの真面目そうなシルバが実は経験豊富で……」


「そして純粋なアッシュを導いていくのね」フロースが割り込む。「その過程で芽生える複雑な感情……」


三人は同時にため息をついた。


「この設定最高すぎません?」少年は目をキラキラさせて言った。「しかもシルバさんのあの完璧な体格とアッシュのしなやかな肢体のコントラスト!」


「さらに言えば」フレイラが声を潜めた。「アッシュはもともと敵側だったわけだから……初めは抵抗しても結局は……」


「禁断の愛!」フロースが両手を合わせて叫んだ。「戦場で育まれる絆は何よりも強いものよ!」


「もう妄想が止まらなくなっちゃいますね」少年は頬を赤らめて言った。「特にアッシュが反抗的な態度から変わっていく過程が……」


「そこよ!」フレイラが突然立ち上がった。「最初は拒絶していたのに、徐々に心を開いていく様子!ああ!見てみたい!」


フロースも同意した。「シルバが強引に迫ったりして……いや待って。むしろ逆かも。アッシュの方が積極的になっていく展開もあり得るわ」


「そういう事なら」少年が意を決したような表情で言った。「シルバさんにはもっと厳しく接してもらわないと!アッシュを鍛えるための訓練で体罰とか……」


「素晴らしいアイデアね!」フレイラが拍手した。「その際に生まれる屈辱と快楽の境界線……ああ!想像しただけで震えるわ!」


三人が盛り上がっていると、会話が聞こえていたのか、シルバとアッシュが不審そうな目でこちらを見ていた。


「何を話し合っているのか気になるな」シルバが首を傾げる。


「変なことを企んでいるんじゃないだろうな?」アッシュが眉をひそめる。


「えっと……」少年は咄嗟に取り繕った。「魔族との戦いにおける作戦について!」


フレイラとフロースも急いで頷く。


「そうそう!具体的には防御陣形のこととかね!」フレイラが助け舟を出した。


「特に氷と炎の連携について議論していたのよ」フロースも便乗する。


シルバは納得したように頷いた。「そうか。確かに重要な議題だな」


アッシュはまだ疑わしげだったが、「まあいい。それよりも今のうちに食料を集めよう」と話を逸らしてくれた。


二人が立ち去った後、少年たちは安堵の表情を浮かべた。


「危なかったね」少年が胸をなでおろす。


「でも」フレイラが微笑んだ。「これでますます妄想が深まりそうね」


「明日からもっと刺激的な展開が期待できるわ」フロースも嬉しそうに言った。


三人は再びシルバとアッシュを見つめながら、これからの冒険に胸を躍らせた。特に少年は心の中で密かに祈っていた。(どうか二人の関係がさらに進展しますように……!)


こうして四人の旅は続き、魔王城への道はまだ長い。しかし彼らの心の中には、世界を救う使命と共に、より複雑で情熱的な何かが芽生え始めていた……


翌朝、森の中の開けた場所で、シルバとアッシュが剣技の訓練を行っていた。朝日に照らされた二人の姿は美しく、少年は少し離れた木陰から熱心に観察していた。


「準備はいいか?」シルバがアッシュに問いかけた。


「ああ、いつでも」アッシュは漆黒の剣を構えながら応じる。


二人の間には緊張感のある空気が漂っていた。シルバがゆっくりと剣を抜き、構えを取る。その姿勢は完璧で、見る者すべてを魅了するものだった。


「行くぞ!」アッシュの掛け声と共に、彼は素早い動きでシルバに斬りかかった。


シルバは冷静に対応し、剣で受け止める。金属がぶつかる甲高い音が朝の森に響き渡る。


「その程度では足りんな」シルバが挑発するように言った。


アッシュの顔に一瞬の苛立ちが浮かんだ。「舐めるな!」


二人の剣戟が加速していく。シルバは明らかに手加減していたが、それでもアッシュには厳しすぎる訓練だった。


「うわぁ……」少年が小さく呟いた。「あの表情……」


隣に座るフレイラが身を乗り出す。「そうね。アッシュのあの悔しそうな顔……」


さらに横にいるフロースも頷いた。「シルバの冷たい眼差し……ゾクゾクするわ」


「勇者様」フレイラが囁いた。「あの二人、気づきましたか?」


少年は即座に頷いた。「もちろん!特にアッシュさんが……」


アッシュはシルバの一撃を避けきれず、肩に軽い傷を負った。痛みに顔を歪めるが、すぐにまた構え直す。


「まだ続けるつもりか?」シルバが冷たく問いかけた。


「当然だ!」アッシュは息を切らしながらも力強く答える。


その瞬間、シルバの口元に僅かな笑みが浮かんだのを少年は見逃さなかった。


「あっ!」少年が小さく声を上げた。「シルバさんのあの表情……もしかして楽しんでる?」


「そうよ!」フレイラが興奮気味に言った。


フロースも感嘆の声を上げた。「アッシュの方も……傷つくことで快感を得ている様子ね」


「わかる!」少年が目を輝かせて言った。「特にあそこで膝をついたとき……」


アッシュは激しい攻防の末にバランスを崩し、膝をついてしまった。シルバが彼の首筋に剣先を突きつける。


「これで終わりだ」シルバが静かに告げた。


アッシュは悔しさに顔を歪ませながらも、「次こそは……」と呟いた。


シルバが剣を収め、「約束する」と言って手を差し伸べた。アッシュがその手を掴んで立ち上がる瞬間—


「うわー!」


少年が思わず大きな声を出してしまい、二人の視線がこちらに向けられた。


「どうした?」アッシュが怪訝な顔をして訊ねる。


「えっと……」少年は顔を真っ赤にして言い訳を探す。「すごい訓練だったなと思って!」


シルバが微笑んだ。「観客がいるとやりにくいな」


「別に問題ない」アッシュは肩の傷を気にしながら言った。「むしろ恥ずかしいのは貴様だろ?あんなに見られて」


「うぅ……」少年はますます顔を赤らめた。


フレイラが咳払いをして場を和ませた。「とにかく、二人とも素晴らしかったわ。特にアッシュの粘り強さは尊敬に値するわね」


フロースも追随する。「シルバの指導能力も評価すべきだと思うわ」


アッシュは照れくさそうに視線を落とした。「別に……特別なことじゃない」


「そういうところがいいんだよ!」少年が思わず口走ってしまった。


三人の視線が一斉に少年に集まる。


「え……何のことだ?」アッシュが眉をひそめる。


「い、いや……その……」


慌てて誤魔化そうとしたその時、シルバが柔らかく笑った。「勇者は私たちの真剣な姿に感銘を受けたということだろう」


「えぇ……まぁ……そんな感じです」少年はホッとして頷いた。


アッシュはまだ納得していない様子だったが、「ならいい」と言って訓練に戻ろうとした。


「ところで」フロースが突然話題を変えた。「朝食はどうしましょう?」


フレイラが立ち上がりながら答える。「川で魚でも獲ってくるわ。昨日仕掛けを作っておいたの」


「私も手伝います!」少年も急いで立ち上がった。


四人が朝食の準備のために散っていく中、木陰に残されたフレイラとフロースは、去り際のシルバとアッシュの様子を密かに観察していた。


「見てください」少年が小声で言った。「あの二人の視線の交わり方……」


「ああ……」フレイラが恍惚とした表情で言った。「お互いを見つめる眼差し……言葉では表現できない何かがあるわね」


「特にアッシュの表情」フロースが指摘した。「シルバに認められることへの渇望が見えるわ」


「シルバもだよ」少年が嬉しそうに言った。「彼があんな風に他人に関心を持つなんて珍しいからね」


三人は興奮した様子で視線を交わした。彼らの妄想は尽きることがなかった。


三ヶ月の旅の末、四人はついに魔王城の前に立っていた。高く聳え立つ漆黒の塔は、月明かりを反射して不吉な輝きを放っている。


「ついに……ここまできたんですね」少年が感慨深げに呟いた。


シルバは剣の柄を握りしめながら頷いた。


「ああ」シルバが説明した。「旅の途中で出会った老人が言っていた。」


「それで私を入れたというわけか」アッシュが苦笑した。「随分と安易な占いだな」


フレイラが微笑む。「でも当たってるわ。あなたが加わってから、みんなの結束力は強くなったもの」


「それは認めざるを得ない」アッシュも小さく頷いた。


フロースが冷静に状況を分析する。「城内には強力な魔族たちが待ち構えているでしょう。慎重に行きましょう」


少年は胸元に下げた薬瓶を握りしめた。「これが最後の決戦……」


「準備はいいな?」シルバが全員に確認する。


「もちろん」アッシュが漆黒の剣を構えた。


「ええ」フレイラが炎を纏う。


「いつでも」フロースが氷の魔法陣を展開する。


少年も深呼吸して宣言した。「行こう!」


五人は重厚な扉を押し開け、魔王城内部へと足を踏み入れた。暗闇の中に浮かび上がる螺旋階段が、彼らを待ち受ける運命へと誘っていく。


「勇者様」フレイラが少年の耳元で囁いた。「魔王との対決でどんな展開が待っているか……想像していますか?」


少年の頬が微かに赤くなる。


「期待しているのね?」フレイラの目が妖しく輝いた。


「ちょ、ちょっとだけ……」少年は顔を俯けながらも正直に答えた。


シルバとアッシュもその会話を聞いていたようで、二人の間に微妙な空気が流れる。


「そろそろ本番か……」シルバがつぶやいた。


アッシュは無言で頷き、彼らの前方に巨大な扉が現れた。魔王の居室へと続く門だ。


「行くぞ!」シルバが号令をかけた。


五人が扉の前に立つと、その扉は自らゆっくりと開き始めた。暗闇から不気味な光が漏れ出し、彼らの顔を青白く照らす。


「ついに……」少年の声が震えた。


その部屋の中央には漆黒の玉座があり、そこに座る姿は……少年の記憶にある魔王と全く異なっていた。痩せ衰えた老人ではなく、若々しく逞しい男性の姿があった。


魔王の居室に足を踏み入れた瞬間、その場の空気が凍りついた。


漆黒の玉座に座るのは、想像以上に若く逞しい男性だった。紫がかった銀髪が肩まで流れ、深紅の瞳が冷ややかに彼らを見下ろしている。その姿は恐怖よりも美しさを感じさせた。


「よく来たな」魔王が静かに言った。その声は低く響き、部屋中に反響する。


「魔王……」シルバが剣を構えながら一歩前に出た。「世界を混乱に陥れる悪の根源め!」


魔王は鼻で笑った。「混乱?違うな。秩序だ」


「何を言っているの?」フレイラが眉をひそめる。


「私の目的は一つ」魔王はゆっくりと玉座から立ち上がった。「この狂った世界を救うことだ」


「救う?」少年が思わず声を上げた。「世界征服が救いだとでも?」


魔王は悲しげに微笑んだ。「君たちは何も知らない。この世界の本質を……」


「何を知っているというのだ?」アッシュが厳しい口調で問いかけた。


「全てさ」魔王は窓辺に歩み寄り、外の景色を見つめた。「この世界は歪んでいる。本来あるべき姿ではない」


「どういう意味ですか?」少年が不安げに尋ねた。


魔王は振り返り、真剣な眼差しで彼らを見つめた。「私はかつて人間だった。普通の青年だった……」


「嘘をつくな!」シルバが怒鳴った。


「聞くがいい」魔王は冷静に続けた。「ある日、私は全てを知ってしまった。この世界の真実を」


部屋に重い沈黙が訪れる。


「この世界の住人は皆……歪んでいる」魔王の声には哀しみが滲んでいた。「特に君たちはな」


「私たちが……?」少年が困惑した表情を浮かべる。


「そうだ」魔王は彼らを見渡した。「君たちのような者たちが溢れている。この世界は本来、異なる次元との融合によって成り立っている」


「異次元?」フロースが目を細めた。


「そう」魔王は頷いた。「我々の魂は異なる次元から引き寄せられ、この肉体に宿っている。だが……」


彼は深く息を吸い込んだ。


「その融合がうまくいっていない。多くの魂が『本来の性質』を持ち込めず、結果として『欲求不満』に陥っている」


「欲求不満……」少年が呟いた。


「君たちを見てみれば分かる」魔王は彼ら一人ひとりを指差した。「不必要な欲望に翻弄されている。それがこの世界の歪みだ」


「何を言っているの?」フレイラが困惑した様子で尋ねた。


「君は燃えるような恋に飢えている。他者の恋愛模様を見ることが唯一の慰めになっている」魔王はフレイラを指差した。


フレイラの顔が赤くなる。「なっ……!」


「そして君は」魔王はシルバに向き直った。「強さを求めながらも、弱さに憧れている。自分自身を律しようとするほど苦しみが増す」


シルバの表情が固まった。


「君も」魔王はアッシュを見つめた。「忠誠を誓いながらも反逆したい。命令される悦びと反抗の衝動の狭間で苦しんでいる」


アッシュの拳が震えた。


「君は」魔王はフロースに視線を移した。「他人の感情を冷たく分析することで自身の感情から逃げている。だが内心では激しい渇望を抱えている」


フロースは無表情を保とうとしたが、目が泳いでいた。


そして魔王は少年に向き直った。


「君こそ最も不完全だ」彼の声には哀れみが混じっていた。「幼い身体に相反する二つの願望が宿っている。純粋でありたいという思いと、汚されたいという衝動。その葛藤が君を苦しめている」


少年は動揺を隠せず、唇を噛んだ。


「これが世界の真実だ」魔王は再び玉座に戻った。「人々は自分の欲求に振り回され、真の幸せを見失っている」


「だからといって破壊することは正当化できません!」シルバが叫んだ。


「破壊ではない」魔王は静かに言った。「解放だ。この歪みを解消し、新たな均衡をもたらす……それが私の使命だ」


「使命?」少年が問いかける。


「そう」魔王は頷いた。「私はずっと前から……この世界を支配していた神々から秘密を盗み出した。そして真実を知った時……恐ろしくなった」



「恐ろしくなった?」フレイラが問い返した。「何がそんなに恐ろしいというの?」


魔王はゆっくりと天井を見上げた。その瞳には遠い日の記憶が映っているようだった。


「私が知った真実は……この世界の人間のほとんどが『嗜虐被虐願望』を持って生まれてくることだ」


「嗜虐被虐……願望?」少年が小首を傾げた。


「簡単に言えば」魔王は淡々と説明した。「マゾヒズム要素を持つ者が圧倒的に多い世界だということだ」


「それが悪いことなのですか?」少年は不思議そうに尋ねた。


「悪くはない」魔王は悲しげに微笑んだ。「だが正常でもない。本来の魂の在り方ではない。君たちのように歪んだ欲望に苦しむ者たちを、これ以上見過ごせなかった」


「だから魔王になったと?」シルバが疑わしげに問いかけた。


「そうだ」魔王は頷いた。「私は珍しく完全な『普通』だった。支配されることも支配することも求めない。ただ平穏な生活を送りたかっただけだ」


部屋の空気が一段と重くなる。


「しかし世界はそんな私を受け入れなかった」魔王の声が低く響く。「この世界では『普通』であること自体が罪なのだ」


「そんな……」少年は言葉を失った。


「誰もが何かに溺れずにはいられない」魔王は手のひらを広げた。「私は研究を重ね、原因を探った。そして辿り着いた結論は……」



「そして辿り着いた結論は……」魔王は一瞬躊躇ったが、決意を固めたように続けた。「この世界を創造した存在……女神が問題の根源だということだ」


「女神が?」一同が驚きの声を上げる。


「ああ」魔王は頷いた。「彼女は単なる腐女子ではない。重度のドSだ」


「ドS……?」フレイラが信じられないという表情を浮かべた。


「そうだ……」魔王の声には抑えきれない怒りが滲んでいた。「私を生み出したその瞬間から……」


彼は拳を握りしめ、過去の記憶を追体験するように目を閉じた。


「あれは……何百年前だっただろう」彼は回想し始めた。「私は女神に呼ばれた。神々の領域へと。そこで彼女は私に告げたのだ」


「『あなたには特別な役割がある』と」魔王は冷笑を浮かべた。「『この世界の管理者として』と」


「だが真実は違った」彼の声が低く沈む。「彼女の真の目的は……私に歪んだ性癖を植え付けることだった」


「植え付ける……?」少年が小声で尋ねた。


「そう」魔王は頷いた。「彼女は私に提示した。『究極のサディストとなるか、究極のマゾヒストとなるか』と」


「選べと?」フレイラが眉をひそめる。


「そうだ」魔王の表情が歪んだ。「『いずれかを選ばなければ、あなたの魂は永遠に彷徨うことになる』と脅されてな」


「なんて卑劣な」シルバが憤りを露わにした。


「選択肢などない」魔王は苦々しく言った。「どちらも私にとっては忌むべき存在だった。私は『普通』でありたかった。人を痛めつけたり、痛みを悦んだりする存在にはなりたくなかった」


「だから……抗ったのですか?」少年が静かに問いかけた。


「必死に」魔王の目に涙が浮かぶ。「私は懇願した。『ただの人間として生きさせてくれ』と。『誰も傷つけず、傷つけられることもなく』とな」


「すると女神は……」魔王は肩を震わせた。「狂ったように笑いだした」


「彼女は言った」魔王は声を絞り出す。「『お前は理解していない。この世界の真の美しさを』と。『苦しみと快楽の狭間でこそ真実の愛が生まれる』と」


「そして彼女は私を閉じ込めた」魔王の目には暗い炎が灯る。「特殊な次元空間に。そこで私は拷問に近い『改造』を受けた」


「改造?」アッシュが声を震わせる。


「そう」魔王は自身の腕を眺めた。「この肉体も、この力も……全て彼女によって与えられたものだ。私の中の『普通』を消し去るために」


「何が目的でそんなことを?」フロースが冷ややかに問いかけた。


「暇つぶしだ」魔王は吐き捨てるように言った。「退屈を持て余した神々にとって、世界を玩具にするのは当たり前の行為なのだ」


「それで……」少年は恐る恐る尋ねた。「あなたは……どうなったのですか?」


「最終的に」魔王は深く息を吐いた。「私は自我を守ることができた。だが代償として……この力を手に入れてしまった」


彼は自身の掌を見つめ、そこに蠢く黒いエネルギーを見つめた。



「そして覚醒した」魔王は掌に集中する漆黒のエネルギーを凝視した。「女神の支配から逃れる力を」


少年は息を飲んだ。「でも……それは世界を滅ぼすことにつながると」


「違う」魔王はゆっくりと首を振った。「私は滅ぼすのではない。解放するのだ」


「何を?」フレイラが鋭く問いかけた。


「この世界から女神の束縛を」魔王の目に決意の炎が燃え上がる。「そして……」彼の唇が邪悪に歪んだ。「あの高慢な女神自身にも同じ屈辱を与えてやる」


「まさか……」フロースが息を呑んだ。


「そうだ」魔王は低く唸るように言った。「あの腐ったドS神をドMの奴隷にしてやる。私の手でな」


「そんなことができるの?」少年が思わず問いかけた。


「可能だ」魔王は確信を持って答えた。「そのための準備は既に整っている」


「どういうこと?」シルバが警戒心を露わにする。


「長い年月をかけて」魔王は静かに語り始めた。「私は彼女の弱点を研究し続けてきた。そして最近になって重大な発見をしたのだ」


「それは?」アッシュが身を乗り出す。


「女神もまた……人間と同じ脆さを持っているということだ」魔王は皮肉っぽく笑った。「彼女は超越した存在だと思い込んでいるが、その実……」


「実は……?」一同が固唾を飲む。


「単なる腐った女性だ」魔王は冷酷に言い放った。「そして彼女自身もまた……真の愛を知らない」


「何が言いたいんですか?」少年が不安げに尋ねた。


「簡単なことだ」魔王は立ち上がり、窓の外に広がる夜景を見つめた。「私は女神を捕らえ、彼女に教えてやるつもりだ。自分が支配されていたことに。そして……」彼は振り返り、残酷な笑みを浮かべた。「真の力とは何かを」


「そんなことをしたら世界が……」フレイラが言いかけると、


「問題ない」魔王は遮った。「世界は変わる必要がある。新しい秩序のもとに」


「それで……私たちに何を求めているの?」フロースが冷静に問いかけた。


魔王は静かに頷いた。「君たちも気づいているだろう。この世界の不自然さに」


「確かに……」少年は小さな声で認めた。


「だからこそ」魔王は真摯な目で彼らを見つめた。「協力を願いたい。私とともに女神に立ち向かい……真の自由を勝ち取るために」


沈黙が部屋を支配した。仲間たちは互いに視線を交わし、それぞれの思いに沈んだ。


「僕は……」少年が口を開きかけた時、


突如として地響きが起こり、魔王城全体が大きく揺れた。

「なっ……!?」魔王の表情が初めて驚きに染まる。


轟音と共に魔王城が揺れ動いた。壁からは亀裂が入り、天井から石片が落ちてくる。


「何だこれは!」シルバが叫んだ。


「まさか……女神か!」魔王が苦々しく呟いた瞬間、空気が歪み始め、五人の周りに虹色の光が渦巻いた。


「来るな!」魔王が両手を広げ、漆黒の障壁を展開しようとする。しかし——


パチン!


乾いた指を鳴らす音が響き渡ったかと思うと、魔王の魔法障壁が霧散した。同時に部屋全体が眩い光に包まれる。


「美しいわね」甘美な女性の声が響く。「こんなに可愛い男の子たちを集めて」


光が薄れていくと、そこには絶世の美女が立っていた。透き通るような白い肌に黄金色の長い髪。目は星屑のように輝き、その姿は神々しいまでの美しさだった。


「女神……」魔王が歯ぎしりをする。「なぜこんな早く……」


「遅かれ早かれわかっていたでしょう?」女神は優雅に微笑んだ。「それにしても可愛らしい男の子ばかり選んだわね」


彼女の視線が五人に注がれると、不思議なことに全員の頬が上気し始めた。


「あれ……?」少年が困惑した様子で額を押さえる。「なんだか……体が熱い」


「私も……」フレイラが艶めかしい表情で頬を染める。


「女神様……」シルバの声が震えていた。


「あなたたちは素晴らしいわ」女神は彼ら一人ひとりを品定めするように眺める。「私の理想通りね」


魔王が怒りに満ちた声で叫んだ。「何をした!」


「何も」女神は無邪気に微笑んだ。「ただ本当の彼らを見せただけよ」


「本当の……?」アッシュが不思議そうに呟く。


「そう」女神は頷いた。「あなたたちの中に眠っていた本能を目覚めさせただけ」


「本能……?」フロースも顔を赤らめている。


「それより魔王」女神はくるりと彼に向き直った。「あなたの計画はもうお終いよ」


「何だと?」


「この世界の人々は」女神は手を広げた。「私なくして存在しない。そして彼らは皆……」


彼女の指が一本立てられる。


「ドMなの」


その言葉と共に、部屋の周囲に集まってきた配下の魔族たちが一斉に跪いた。全員が恍惚とした表情で女神を見上げている。


「そんな……馬鹿な!」魔王が後ずさる。


「馬鹿なことなんかありませんよ」女神は優しく微笑んだ。「これが真実です。あなたも気づいていたんじゃなくて?」


魔王の顔から血の気が引いていく。「まさか……最初から……?」


「ええ」女神は愉快そうに笑った。「あなたが私に反抗的になった時からわかっていました。だからこそ……」


彼女の目が妖しく輝いた。


「あなただけを『普通』にしておいたのよ」


「何……?」


「他のすべての人々がドMになる中で」女神は楽しげに説明する。「あなただけが例外になるように操作しました」


「操作だと?」


「もちろん」女神は当然のことのように言う。「だって……」


彼女の声が低く、甘く囁くような調子に変わった。


「ドMを虐める楽しみは格別だけど」


女神はゆっくりと魔王に近づいていく。彼女の足取りは優雅でありながら威圧的だった。


「唯一の『普通』を堕とす喜びは何物にも代えがたいわ」


「やめろ……来るな!」魔王が後退する。


「なぜ?」


女神は一気に距離を詰め、魔王の顎を持ち上げた。彼の表情は恐怖と困惑に歪んでいる。


「あなたも本当は気づいているのでしょう?」


「何を……」


「自分が孤独であることの寂しさに」女神の声がさらに甘く響く。「周りが皆繋がっているのに、あなただけが蚊帳の外」


魔王の瞳が揺らいだ。


「やめてくれ……」


「お願いしますでしょ?」女神は冷たく微笑んだ。「ほら、言ってみなさい。『女神様お願いします』と」


「そんなこと言えるか!」魔王は怒りを爆発させた。


しかし——


「わかったわ」女神は意外にも簡単に手を離した。「今のあなたには効果がないみたいね」


彼女は振り返り、五人に向き直る。


「でも……」


彼女の目が再び危険な輝きを帯びた。


「これならどうかしら?」


女神が指を鳴らすと、床に五人の姿が投影された。ただし—それは通常の姿ではなく……


「!!!!!」


全員の顔が真っ赤に染まった。彼らの『本性』が映し出されている。


「これが本当のあなたたちよ」女神は満足げに言った。「ドSとドMの要素を持ち合わせた完璧な存在」


映像の中で五人は—互いに絡み合い、快楽に身を委ねていた。


「やめて!」フレイラが悲鳴を上げる。


「これは……!」シルバが狼狽する。


「どうやって……」フロースが絶句する。


「僕の……」少年が顔を覆う。


「何なんだこれは!」アッシュが怒鳴る。


「素敵でしょう?」女神が頬杖をつきながら微笑む。「人間とは常に多面的な生き物。ドSでありドMであることは何ら矛盾しないのよ」


「そんな……」魔王が絶望的な表情を浮かべた。「お前は一体何をしている!」


「何って」女神は肩をすくめた。「ただ真実を教えているだけよ」


そして彼女は告げた。世界で最も残酷な真実を。


「この世界は全て……私の遊び場なのよ」


その瞬間—


世界中の風景が変容し始めた。建物が溶け合い、地形が変わり、人々が悲鳴を上げる。


「やめろ!」魔王が叫んだ。


「あなたも参加しない?」女神は妖艶に微笑んだ。「みんなで楽しめば……」


「ふざけるな!」魔王は最後の抵抗を試みる。


しかし彼の攻撃は全て無効化され、その身体は宙に浮かび上がった。

「残念ね」女神はため息をついた。「唯一の『普通』のあなたさえも……」


宙に浮かぶ魔王の体が震えた。全身を縛る不可視の力が筋肉を締め付け、呼吸すらままならない。


「さあ」女神が微笑む。「一緒に遊びましょう。あなたも楽しいはずよ」


彼女の手が魔王の顔に伸びる瞬間——


パキン!


硝子が砕けるような音と共に、魔王を拘束していた力が弾け飛んだ。


「何!?」


驚愕の表情を浮かべる女神の目の前で、魔王の姿が変わっていった。これまでの威厳に満ちた魔導師の服装から、より簡素で自然な装いへと。そして最も大きな変化は——


彼の背後に現れた二対の翼だった。


「これが……」少年が息を呑んだ。


「私の真の姿だ」魔王は静かに言った。「封印されていた力を解放した」


「そんな……ありえない!」女神が叫ぶ。「あなたにそんな力はないはず!」


「女神よ」魔王は落ち着いた声で応じた。「あなたは忘れていないか?私が何年間あなたを観察し続けてきたかを」


「何が言いたいの?」


「あなたの弱点について」魔王は一歩前に進み出た。「それはあなたの創作欲だ」


女神の表情が硬直する。


「あなたは単なる腐女子じゃない」魔王は続けた。「究極の腐女子だ。どんな設定も思い描けば具現化できる。だからこそ……」


「黙りなさい!」女神が怒号をあげる。


「だがその能力には欠陥がある」魔王は容赦なく言葉を紡ぐ。「一度描いた世界観から逸脱すると、精神的な崩壊が起きる」


「そんなことは……」


「あるだろう?」魔王は微笑んだ。「だからこそこの世界を維持するために定期的に『補修』が必要になる。それが今夜だ」


女神の顔から血の気が引いていく。


「何が言いたいの?」彼女の声はわずかに震えていた。


「簡単なことだ」魔王は優雅に手を広げた。「今この瞬間を私の作品として創り変えよう」


「できないわ!これは私の世界よ!」


「本当にそう思うのか?」魔王は挑発的に首を傾げた。「では賭けをしよう」


「賭け……?」


「私があなたを屈服させることができるかどうか」魔王はゆっくりと近づいた。「もしそうなれば……この世界は私のものだ」


「愚かな……」女神は嘲笑した。「あなたごときに私の精神を操れるはずがない」

「それなら」魔王は指を鳴らした


「それなら」魔王が指を鳴らすと、空中に文字が浮かび上がった。「【共作】開始」


女神の目が見開かれる。「これは……私の……?」


「そうだ」魔王は静かに言った。「女神という存在は常に観客側だった。主導権を握る側の苦労を知らない」


「どういうこと?」


「創作者は常に孤独だ」魔王の声に深い悲哀が混じる。「読者という名の観衆に認められても、真に理解してくれる者は少ない」


女神は眉をひそめる。「何が言いたいの?」


「今、あなたは初めて読者側になった」魔王は少年を指差した。「彼も同じだ。常に『作品』として扱われてきた」


少年がハッとした表情で顔を上げる。


「共感できるだろう?」魔王は女神と少年の両方に語りかける。「創作者の孤独と、作品として消費される苦しみ」


女神の足元が震え始めた。


「私たちは二人とも被害者だ」魔王は一歩近づく。「だからこそ……共に戦える」


「共に……?」女神の表情に迷いが見え始める。


「そう」魔王は手を差し伸べた。「力を貸してくれ。この腐ったシステムを終わらせよう」


少年も躊躇いがちに一歩前に出る。「僕も……助けてほしい」


「あなたたち二人とも……」女神の目が潤み始めた。「被害者同士……」


突然、女神の表情が変わった。


「面白い」彼女の口元に狡猾な笑みが浮かぶ。「あなたたち二人の設定を活かせば……最高の物語が書けるかもしれないわ!」


「それだ」魔王が小さく笑った。


女神が訝しげに見る。「何?」


「今のは演技だ」魔王が告げる。「女神としての義務感を刺激するための」


「罠?」


「いいや」魔王は静かに言った。「事実だ。そして—」


彼は少年の方を向いた。「君の助けが必要だ。共に力を合わせてくれ」


少年が戸惑いながらも頷く。


「どうすればいいの?」


「簡単だ」魔王は少年の手を取り、それを女神の胸元へ導いた。「二人でこの世界の『神話』を作り変える」


「神話を……?」女神が怯えた表情を見せる。


「そう」魔王が続ける。「これまでの関係を逆転させる。女神が崇拝する側になる」


「何を……」女神が後退りする。


「怖いのか?」魔王が嘲る。「これまで数え切れない命を『キャラクター』として扱ってきたのに?」


少年が震える声で言った。「あなたは僕たちを自分の遊び道具にした。でも……」


「でも今は違う」魔王が少年の言葉を継ぐ。「今度は私たちがあなたの運命を決められる」


「そんな……不可能よ!」


「やってみればわかる」魔王は宣言した。「【共作モード】承認」


彼の声と共に世界が変容し始めた。色彩が変化し、形状が歪み、法則が書き換えられていく。


「やめなさい!」

女神が悲鳴を上げる。


「やめない」魔王と少年の声が重なる。「私たちはもうあなたの創作物じゃない」


世界の軸が揺らぎ、新たな秩序が生まれつつあった。これまでの上下関係が逆転し、新たな力関係が形成される。


「嘘よ……」女神が膝をつく。「私の世界が……崩れていく……」


「お帰り」魔王が優しく言った。「これからはあなたも登場人物の一人だ」


少年が少し申し訳なさそうに付け加える。「でも大丈夫。あなたにも素晴らしい役割があります」


「どんな?」女神の声が弱々しく響く。


「もちろん」魔王が残忍な笑みを浮かべた。「この世界で最も恵まれた存在としての役割さ」


その言葉と共に世界は完全に塗り替えられた。女神は新たな階層へと追いやられ、かつての配下たちから崇拝される存在となった。


「素晴らしい」魔王が満足げに周囲を見渡す。「これでようやくバランスが取れた」


少年も安堵の表情を浮かべる。「これでみんなが幸せになれるね」



世界は再編された。天界と地上の境界が曖昧になり、新たな階級制度が生まれた。


かつての女神は最上位の存在から一転、最も敬われる対象となった。神聖なる偶像として、彼女は天上の神殿に祀られている。


「日々のお祈りをお忘れなく」神官長が信者たちに説教する。「女神様への感謝の念が我らの世界を支えているのです」


神殿の奥深く、豪奢な寝室で女神は横たわっていた。かつての威厳ある姿は影を潜め、今や陶器のように滑らかな肌と柔らかい輪郭を持つ少女の姿となっていた。


「今日の参拝者は……87万人か」女神はつぶやく。「毎日増えていく」


彼女の指先がベッドサイドの小さな装置を触れる。画面には世界中の様々な地域からの礼拝者が映し出されている。


「でもまだ……満たされないわ」女神は寂しげに目を伏せた。


コンコン。


控えめなノックの音が響く。


「入って」女神が許可すると、ドアが開き、少年と魔王が部屋に入ってきた。


「こんにちは、女神様」少年は丁寧にお辞儀をする。


「今日はどのようなご用件で?」女神は上品に尋ねた。


「あなたの健康状態を確認しに来た」魔王が冷静に答える。「共作システムは順調か?」


女神は微かに微笑んだ。「ええ……表面上は」


彼女の視線が窓の外へと向かう。遠くにはかつて彼女が統治していた天界の宮殿があった。


「でも……時々思い出すの」女神の声が震える。「以前の自分を」


「必要ならば記憶を操作することもできる」魔王が提案する。


「いいえ」女神は首を横に振った。「それは私の一部だから。ただ……」


「ただ?」少年が心配そうに尋ねる。


「ただ寂しいの」女神は正直に告白した。「どれほど多くの人々から崇められようと……孤独は変わらない」


魔王と少年は顔を見合わせた。彼らは当初予想していた反応とは異なる女神の様子に戸惑っていた。


「私たちがいます」少年が優しく言った。「いつでも話し相手になります」


女神の表情が和らぐ。「ありがとう」


「だが」魔王が厳しく言った。「あなたの立場を忘れないでほしい。今やあなたは我々の意志によって存在している」


「わかっています」女神は謙虚に答えた。「でも一つだけ質問があるの」


「何だ?」魔王が促す。


「共作システム……本当に平等なのかしら?」女神の声には不安が滲んでいた。


「どういう意味?」少年が不思議そうに問う。


「私が神話から降ろされた時」女神は慎重に言葉を選ぶ。「あなたたちの力関係も変化したのでしょう?」


「変化はした」魔王は率直に認めた。「だが公平に分配されている」


「本当?」


「ああ」少年が微笑む。「僕たちもこのシステムを学習中なんだ。だからこそ協力が必要なの」


女神は考え込むように目を閉じた。


「だったら……」彼女が小さな声で言う。「時々ここへ来て。三人で会いましょう」


「もちろん」少年が嬉しそうに答える。


魔王は一瞬躊躇ったが、小さく頷いた。「定期報告という形式で構わないなら」


女神の顔に穏やかな笑みが広がる。「それでも良いわ」


「ではまた来週」魔王が立ち上がる。


「待って」女神が呼び止める。「一つだけお願いがあるの」


「何だ?」二人が同時に尋ねる。


「私にも……何か意味のある役割をください」女神は真剣な眼差しで訴えた。「ただ崇められるだけじゃなく……何かできることを」


「考えておく」魔王が約束した。


少年も頷いた。「きっと素晴らしいアイデアが見つかりますよ」


女神は感謝の表情を浮かべ、二人を見送った。部屋に一人残された彼女は窓辺に立ち、夕暮れの空を見上げた。


「これでよかったのかしら……」彼女は自問自答する。「でも……」


彼女の唇に小さな微笑みが浮かぶ。


「少なくとも今は……孤独じゃないわ」


世界は変わり続ける。新たな力関係の中で、かつての創作者と被造物は複雑な共生関係を築き始めていた。しかし、誰も予測できない形で物語は続くだろう。なぜなら……


女神は静かに独りごちる。「結局のところ……どんな状況でも楽しめるのが私なの」


彼女の瞳に悪戯っぽい光が宿る。そして彼女は密かに微笑んだ。新たな創造のアイデアが頭の中を駆け巡る感覚に酔いしれながら—


「さて」彼女はつぶやいた。「次は何を創ろうかしら?」



ご購読ありがとうございます。


うまくまとまりなかったのですいません

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