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第6話「シバリア動乱~後」

ついに起きたファマティー教による一斉蜂起。

しかし準備万端で迎え撃つ日本の前にカトレーア邸襲撃は逢えなく潰えた。

しかし、同じ頃、行政区では意外な事になっていた。


第6話「シバリア動乱~後」お楽しみください。

―――シバリア市内行政区



夜半過ぎだった。

北野は万が一にそなえ職員たちにはしばらく行政庁舎にて寝泊まりする事にしていた。

そして、この日は何時もの様に現在の開発状況の報告を受けると疲れきった体を休めるために寝ようとしていた。

だが、微睡みの中で唐突にカトレーアの邸宅が襲撃を受けた報告が飛び込んできた。

北野は即座に目を覚ますと服装を整え、詳細を聞くために執務室へと向かっていた。

その時だ。

庁舎の中で突然騒ぎがおこる。

ついで巻き起こる銃声に来るべき物が来た。と感じていた。

「何が起きています?」

此方に向かってくる米兵に現在の状況を尋ねる。

「テロリストがトンネルを掘って庁舎一階に出現、現在一階はテロリストと我が軍とが交戦中です」

米兵の答えに一階に職員を寝泊まりさせなくてよかったと北野は思った。

アーノルドの進言で一階はテロリストの襲撃を受けた場合は危険地帯になりえる。

と言われたので三階以上に寝泊まりを指示していたのだ。

ただし、この時は知るよしも無かったが、警備に着いていた米兵に差し入れを待って行った職員一名と米兵二名が奇襲で命を落としていた。

他にも一階に行っていた職員もいたが、米兵の奮戦に辛うじて二階へと逃げていた。

「二階に防衛ラインを敷設、現在は一階に残る我が将兵がこれ以上の侵入を阻止すると共に二階へ進むテロリストを迎撃中です」

米軍の軍曹の答えに北野は頷き、アーノルドへの伝言をたのんだ。

「遠慮は要りません。徹底的にやりなさい」

平穏を得たシバリア市民の為にも、ファマティー教やそれに与するものたちの身勝手を許す訳にはいかない。

今のシバリア市民は日本の統治の中で明るい明日を得ようとしている。

それを一部の狂信者の我が世の春よもう一度、など許してはならないのだ。

「各部署に連絡、迎撃は米軍に任せ我々は邪魔にならないようにせよ」

北野の指示に職員の何人かが走り出す。

そこに新たな報告が来た。

カトレーア邸を襲撃したテロリストは壊滅、現在は周辺の確保へと向かっている事、そして付近でも一斉に蜂起が起き、各地な自衛隊や米軍が鎮圧に乗り出した事、そして・・・職員一名の死亡が確認された事だった。

その報告を聞いた北野は自身の考えが甘かった事を痛感していた。

まさか、非戦闘員に犠牲を出させてしまうとは・・・。

悔しさと怒りに握り込んだ拳に爪が食い込み血が流れ出す。

部下があわてて治療を始めたが、この痛みは忘れられない。

「前言撤回します」

能面の様に表情が消えた北野に歴然の米軍兵士が恐怖を覚えた。

不幸にも彼等は日本人の本気の怒りを目の辺りにすることになった。

本気で怒りを纏った日本人は表情が消える。

日本人が本気で怒った時、表情が消える。

例え口元が笑みを浮かべていても表情がない空虚な笑みである。


これを見た米軍兵士ははっきり言って日本人を舐めていた考えを改めた。


「必要な物があれば何であれ使いなさい。奴等の身勝手に対する血の対価を支払わせてやりなさい」

口は丁寧だが、内容はかなり物騒だった。


行政区の庁舎やその外では何処から集めたのか数千に近いテロリストが一斉に現れた暴れていた。

米軍兵士は各所に簡易のバリケードや即席の陣地を素早く構築すると弓矢や剣、槍で武装するテロリストに容赦ない銃撃を加えていく。

だが、何処から来るか分からないテロリストの行動に正直後手に回っていた。

中には背にした建物から現れたりするので油断できない。

「少佐、我が軍は優勢なれど敵に先手を取られたままです」

酷く矛盾した状況にさしものアーノルドも苦しい表情だ。

実際の力量で言えば圧倒的だが、地の利と言うか神出鬼没な動きに有効な手立てがない。

まさかここら辺一帯を焼け野原にするわけにはいかない。

「イラクでのテロリスト相手の方がまだマシだな」

率直な意見に幕僚も神妙な表情になる。

だが、いつまでもテロリスト相手に後手に回るつもりはない。

「建物を一つ一つ確保して行くぞ。危険は増すがそれしかない」

テロリストの出没地点を一つずつ潰す方法を選択すると即座に動き出す。

この世界にはない無線と言う手段がバラバラに存在する部隊をまとめ、一つの生き物の様に動かす。

単なる武器の優劣だけではない。

こう言った連絡手段の優劣が戦局を大きく変える証明だ。



シバリア市内各所で起きた蜂起は行政区を中心に一時広まりを見せたが、事前に対策していたこともあり早期に鎮圧されて行った。

だが、行政区はテロリストとされたファマティー教の戦力が集中し、優勢とは言え未だに争乱の中にある。


路地から飛び出して来た数人のテロリストが一瞬で斬り倒される。

アインは得意の剣術を久しぶりに振るった。

長い休息の期間があったが、腕は錆び付いておらず生半可な腕前では太刀打ちできない。

しかもアインはここに来る前に波多野から貰った日本刀を持っていた。

元から才能があったアインは、使い方の難しい日本刀の扱いを波多野から教えてもらい短期間で会得していた。

「シャイン!周りに注意しろよ!」

アインの怒鳴り声にシャインもまた短く怒鳴り返す。

「分かってる!」

二人は行政区と市街地へと続く道にいた。

テロリストが最初に確保しようとするのはここだからだ。

ここを遮断されては日本の援軍が行政区に向かうのに障害になるからだ。

警護の兵士もいたが、ここは米軍も自衛隊もまだ配置されていなかった。

治安警備隊でも腕に覚えがある者が配置されていたが、最初の襲撃で半数近くが殺られてしまい、今も善戦していたがジリジリと押されつつあった。

『火よ、我が意に応たえ我が敵を討て!』

シャインが火の魔法を飛ばし弓を持つテロリストを火だるまにする。

だが、魔法は強力な力だが使うには疲労を伴う。

しかも短時間にこれだけ使うのはシャインも初めてだ。

そこを路地からまた飛び出してきたテロリストが狙うが、首にナイフが突き刺さり苦痛に倒れる。

「シャイン!無理しないで!」

ミューリがシャインを守る様にテロリストに立ちはだかる。

「あ、ありがとう!」

感謝の言葉を口にしつつもまた弓を持ったテロリストをシャインは打ち倒す。

「ミューリ!シャインを頼む!」

二人を横目に見ながらアインは吼えた。

昔から付き合いが長いシャインにはよく分かっていた。

アインがああ言ったと言うことはアインは敵を討つ事に全身全霊を向けると言うことなのだ。

普段はシャインやミューリを守るため攻撃よりも敵の注意を自分に向けたり、二人に向かう攻撃を止める動きをするのだが、アインがミューリにシャインを任せると言うのは、アインの持つ能面の全てを敵に向ける事になる。

冒険者としてだけではなく、下手な騎士など全く及ばない剣術を持つアインはこうなればまず負けはない。

そう、アインはこれでもホードラーのみならず、大国と呼ばれる国においても並ぶものが限られる程の実力者なのだ。


アインは正面からブロードソードを振りかざした男の脇を地を這うように駆け抜ける。

その際に日本刀を撫でる様に男の脇に当てる。

これだけで良いのだ。

単純な強度は剣に及ばないが、こと斬るとなれば話は変わる。

強靭かつしなやかな刃を持つ日本刀ははっきり言って下手な剣など棒きれに等しくしてしまう。

相手の剣と打ち合わなければ間合い、重量、切れ味のどれもが絶妙なバランスを極めて高い水準でなし得た奇跡の武器なのだ。


注)元々日本刀は打ち合う物ではない。


その奇跡の刃は撫でただけで男の着込んでいたチェインメイルをあっさり切り裂き、男に致命傷を与えた。

槍を持った二人が姿勢を低くしたままのアインを両脇から突き刺さそうと槍を繰り出すが、アインは槍の突き込みに転がる様に避けると全身をばねの様に縮め、そのばねを解き放った。

避けられた、と思いそのままアインに槍を叩きつけようとした男は一瞬で目の前に飛び込んで来たアインに驚愕の目を向けた。

そしてその表情のまま首と胴が泣き別れになる。

あまりの早業にもう一人が呆気に取られるが、戦いの最中にそれは致命的だった。

気付いた時にはアインが彼の目の前に、アインの間合いの中に既にいたのだ。

こうなればアインの振るう日本刀の前に槍や鎧は紙の様なものだ。

実際、鍛造技術が未熟な上、基本的に量産品は鋳造が基本だ。

そんな量産品である槍や鎧が鍛造技術の極みにある日本刀を防げる通りはない。受け止め様とした槍とチェインメイルもろとも男はアインに袈裟斬りにされ絶命した。


だが、幾らアインが獅子奮迅の戦いをしても体勢は変えられなかった。


それでも、そのアインたちの戦いは決して無駄ではない。

それどころか貴重な時間を稼いだとして大きなものだった。

「敵正面!治安警備隊に当てるなよ!」

高橋の怒鳴り声に高機動車上部から身を乗り出した井上が答えた。

「何年ダチやってんだ!俺に任せとけ!」

自信に溢れた井上は手にしたM24狙撃銃のスコープを覗き込む。

M24はアメリカの銃器メーカーであるレミントン・アームズがスポーツ射撃用に開発したボルトアクション小銃、M700を元に軍用狙撃銃として改良された物だ。

元がスポーツ射撃用であっただけに精度は折紙付きで優秀な性能を持っている。

だが、ボルトアクション故に連続射撃に向かない上に射程が不十分ともされている。

だが、弾が7.62mmNATO弾である事やボルトアクション故の薬室密閉度の高さで威力があり、この世界の鎧など易々と貫いてしまう。

そして、そのM24を構えた井上は射撃技術で自衛隊内でも優秀な分類に入る。

当然、と言う訳ではないが、その高い水準にある射撃技術で動く車両の上から的確にテロリストを撃ち抜いて行った。

そして、そのまま行政区と市街地を分ける門に到達するとテロリストを阻む様に高機動車を止め、中にいた数人が飛び出してきた。

「日本国陸上自衛隊だ!治安警備隊下がれ!」

井上の命令にアインが素早く反応し走り出す。

追いすがろうとするテロリストに井上が狙撃でその足を止める。

一旦距離を取られてしまえばテロリストたちに太刀打ちする術はなくなった。

「制圧!」

味方との距離が出来たところに高橋たちは銃撃を加える。

鮮血を吹きながら倒れていくテロリストたちは、なおも高橋たちに向かうが、89式小銃や井上のM24の前に次々と倒れていく。

そうこうする内にやや遅れて73式中型トラックが到着し、中から特殊任務部隊の第1、2分隊が飛び出してきた。

こうなればテロリスト集団が如何に数がいようと最早勝負にもならない。

アインたちとの戦いで隠れていた連中が軒並み外に出ていたのもあり、門の制圧に来ていたテロリストをそのまま殲滅した。

「高橋さん!」

ミューリが明るい声を高橋に向けた。

高橋はまだ戦闘中なので頷くだけで答えたがミューリには十分だった。

「後続到着まで現状を維持する!治安警備隊の負傷者の手当てを急げ!第2分隊は周辺警戒!かかれ!」

第1分隊は怪我をした治安警備隊の面々に出来るだけの処置を始める。

第4分隊が遅れているが、それも間もなく到着する。

その間に応急措置を施せば助かる者も少なくなあはずだ。

「アイン、無事か?」

井上が全身を真っ赤に染めたアインを心配したが、アインは手傷すらない。

どうやら返り血のようだ。

シャインも魔法の連続使用による疲労だけだ。

ミューリに至ってはすばやい身のこなしがある。

「助かりました」

シャインの言葉にアインが、流石に危なかった。と続いた。

「無事で何よりだ」

まさか自分が呼び寄せた為にこんな危険に巻き込んでしまうとは思ってなかった高橋は安堵していた。

これで誰か一人にでも何かあれば後悔してもしきれないからだ。

「しばらく休んでてくれ。状況次第ではまだやらなければならないからな」

そう言った高橋は三人を車の中に入れ休ませた。



「カーン様、カトレーア王女の身柄拘束に失敗しました」

「門の確保に失敗、部隊は全滅です」

「行政区、未だに確保ならず。むしろ押されています」

「市内各所で行動した各部隊、鎮圧されました」

「カーン様、如何すれば?」

「カーン様・・・」

「カーン様・・・」

「カーン様・・・」


次々に入る報告にカーンは茫然自失だった。

計画は完璧だった。

なのにこの有り様、なぜだ?


だが、カーンのその問いに答えるものはいない。

むしろこのあとどうするのか?と言う問いかけが向けられるのみだ。

「・・・民衆は?民衆は動かないのか?」

藁にもすがろうと言うのだろうか?

カーンは民衆が立ち上がればこの様な状況を一変出来ると思っていた。

しかし、入った報告はカーンに新たな絶望をもたらす。

「民衆、動きません」

最早、どうにも出来ないと言う諦めの表情の神官にカーンは何故こうなったのか分からなくなった。

「何故だ?何故民衆は我等と共に立たぬ!」

最後には絶叫の様に叫ぶカーン。

しかし、その問いに答えられるものはいない。

いや、言葉にはしなかったが、一人だけその場にいた。

(現実から目を背けていたからだ)

心の中で冷笑と共にカーンに嘲りの言葉を送る。

ミラだった。

やはりなるようになったこの結果を驚きはしない。

密かに日本に手紙を出したのも理由だろう。

だが、根本的に民衆が自分たちの味方だと信じてやまないその幻想が自らの首を締めたのだ。

(我々が民衆に敬意を持たれていたのは過去の話なのだよ)

冷静に、そして客観的に分析すれば簡単に辿り着くであろう。

だが、カーンには出来なかった。

それは宗教と言う権力の座に座り、見下ろす立場だったからだ。

「ど、どうすればいい?どうすれば・・・」

最早思考も纏まらなくなりただ呟くだけになったカーンに、神官たちが一旦引いて体勢を整えましょう。と言うがカーンの耳には届いていない。

今のカーンの頭の中ではロシュアン枢機卿の書状通りに大人しくしているべきだった。と言う後悔の念のみだ。

「・・・カーン様には判断できる状況にない」

ここでミラは初めて意見を述べた。

その心中は終わったのだ。と言う思いだけだ。

「で、では、どうすれば良いのですか?」

神官の一人がミラが何かしらの策があるのでは?と期待の目でミラを見る。

だが、ミラにあるのは逆転などの策ではない。

「この地より脱出するか降伏しかあるまい」

あっさりいい放ったミラに周りがざわめき出す。

「これ以上戦いを続けても勝ち目はない。むしろ皆殺しにされるだけだ」

今回の蜂起に参加した兵員の大半が既に壊滅し、現状まだ戦っている部隊もじり貧になっていた。

最初の蜂起で王女や日本の役人を確保出来なかったこと、そして日本の援軍を止めるための門の確保が出来なかった時点で勝敗は明らかだった。

「そ、そんな・・・」

絶望する神官にミラは冷たい視線を向けるのみだ。

この事態は彼等自身が招いた事態だ。

もちろん、止めれなかったミラ自身にも責はあろう。

しかし、だからと言ってこれ以上無闇に戦っては民衆にも犠牲がでる。

だからここで止めるべきなのだ。

「私は殺されるかも知れないが降伏する。諸君も好きにするべきだろう」

そう言ってミラは地下神殿を後にする。

恐らく、カーンは自決するだろう。

枢機卿の指示を無視した事は知るよしもないが、それでも想像はできる。

カーンは我が身の為に枢機卿の指示を無視した。

これで教会に戻れなくなった上に、日本に反逆した首謀者だ。

日本に降伏もできない。

戦い続けても結果は日の目を見るより明らかだ。

だが、カーンに同情は出来ない。

むしろミラ自身も危険だからだ。

それでも、まだ教会の指示を無視したカーンの配下として教会に帰るよりはマシな選択だと思った。



追加完了。

そして第6話終了です。


シバリア動乱もこれで終わりです。

次回は後始末的なものになりますね。


さて、今回はいまいち空気(w)だったアイン君を活躍させて見ましたが如何だったでしょうか?

書き込んだ後で見るとまだまだ描写が甘いかな?

と思いますね。


まあ、今後に期待と言う事でw


では、次回でまたお会いしましょう。

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