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第76話「困難と決断」

ホードラー南部 大森林地帯


ホードラー南部を平定すべく歩を勧める自衛隊は困難に直面していた。

「またか」

と誰かがつぶやく。

目の前には密林というほどではなくとも鬱蒼とした自然が広がっているのだが、その木々の向こう側から人ならざる者が押し寄せてきたのだ。

既に予定から遅れに遅れているので、これ以上は遅延させるわけにいかないのだが、この今までの常識が通用しない世界で拙速を尊んでは損害を増やすばかりになる。

故に安全の確保が出来次第進む、と言う石橋を叩くが如き慎重さを要求されてきた。

その結果、予定の行程は修正に修正され、順調に行っても半年はかかるのではないか?

とさえ言われている。

これには資源確保が急務とは言え、事前調査が甘かったと言わざるを得ない。

しかし、だからと言って中止、または妥協というわけには行かない。

その為、最前線にいる自衛官たちは終の見えない、絶え間無い緊張と危険にさらされていた。

「隊長、直立歩行する豚みたいな連中を中心として犬もです。皆武装してますね」

部下の報告に今日何度目のご来場だろう?

と谷垣は疲れた表情を見せる。

しかし、部下の手前そんな表情は一瞬で消える。

「以前にも襲撃をかけてきたのと同種だろう。催涙弾発射、後に制圧だ」

幾度も行われた襲撃により、それぞれへの対処法を編み出した彼らは書道の時のように慌てずに、そして迅速に配置を終え迎撃を開始する。



直立歩行する犬、とは所謂コボルトと称されるモンスターだ。

基本的には物語やゲームの中で敵役であるそのままの姿であるが、おとなしい友好的な個体もいるのは確認済みである。

が、やはりそう言ったのは数が少なく、いるにしても武器を持って徒党を組んで向かってくるならば漏れなく敵扱いになっている。

また、同じく直立歩行する豚はオークである。

これもコボルトと同じようなモンスターではあるが、基本的に獰猛かつ気性の荒いモンスターだ。

両者とも人間のように立ち、ものを使い、ときには魔法や罠などを使う知恵を持つことから亜人、その中でも獣人と言われる存在のなりそこないとも言われている。


そんな集団が少なくとも数十匹から、多い時には百単位で現れる。

しかも一度や二度では済まないのだ。

繰り返される襲撃には辟易としてしまっても無理はない。

だからと言ってなされるがままにされるつもりはない。

谷垣の号令の元、向かってきた集団約80匹は自衛隊に損害を与えることなく撃退、殲滅された。



モンスターの度重なる襲撃に自衛隊は損害を少なからず出していた。

朝昼夜と関係なく森の中にいるモンスターは現れ、しかも時には木の上から、時には地面の下から、時には水辺からと多種多様な生き物から襲撃を受けているのだ。

いかに現代装備を持っていても人外が相手でば常識が通用しないし、想定などできようはずがない。

今行われている対策も試行錯誤と幾人にも及ぶ犠牲を戦訓としているから確立されたようなものだ。

戦闘を終えたばかりの谷垣自身、既に何人もの部下を後送している。

「片付いたな・・・装備の確認をしておけよ」

谷垣の指示に部下はよく動いている。

だが、その体には精神にも疲労が蓄積していた。

(何とかしなければ大きな犠牲を出すことになりかねんな)

そう危惧するが、他の部隊もまた疲労している。

いかにローテーションを組んでも、まともに休める施設がないのだ。

だが、この大森林のなかでは集落はあっても安全に休める場所がない。

作戦指揮所がある後方の駐屯地にまで戻らねばならないのだが、行き帰りだけで時間がかかる。

施設科が道路を敷いて簡易ながら陣地をつくるが、規模が小さいのでそれほど多くの者が休めるわけではない。

また、それら施設にも襲撃が起こることもあるので安全とは言い難い。

「隊長、装備のチェック終了、問題ありません」

部下の報告に谷垣は頷き、再び行軍を開始させた。





日本国東京 総理官邸


鈴木は自衛隊からの報告に、正直侮りすぎたと後悔していた。

止むに止まれぬ事情があれども、もっと時間をかけるべきだったか?

と考えていた。

だが、時間をかければ掛けた分だけ日本の状況は悪化していたとも言えるので、後になれば平定のために部隊を出すことも難しくなっていたかもしれない。

「海上の方は問題なく予定通りなのだがな」

伊達はそう言って報告書を机の上に置く。

海上自衛隊と外人部隊である米軍は予定通りに南部の海上、及び陸上の補給、連絡を遮断しており、しかも継続中だ。

幾度か戦闘はあれども損害もなく一方的に迎撃、撃退している。

そう言われれば陸上自衛隊の幕僚長としても肩身が狭いものの、未知の土地、生態系、そして今までの常識が通用しない世界が相手では致し方ない、と言いたくもあった。

「・・・申し訳ありません、予定を幾度も変更して対策を売ってはおりますが・・・」

そうは言っても遅延が目立つ報告では自衛隊の能力に疑問を持つ者も出てくる。

しかし、それら疑問は口には出されない。

鈴木自身がろくな調査も進まぬうちにGOサインを出しているのだから。

「いや、現状ではよくやっていると思います。政府からの無茶によく答えてくれてますからね」

鈴木はそう言って幕僚長をねぎらう。

しかし、このままではまともな作戦行動を続けるには難しくなる、とも思っていた。

「予定ではなく全体の作戦を見直しはどうだ?」

伊達はそう言って幕僚長を見る。

幕僚長もそれは既に陸自内で持ち上がっている旨を伝えた。

作戦に固執して、結果大損害、では話にならないからだ。

だが、既に動き出した作戦である以上、急な変更、転換は現場に混乱を与えるだろうとの判断があった。

「陸自としましてはこれら問題に対処すべく、総理に認めていただきたいことがあります」

幕僚長はそう言って一冊のファイルを鈴木に渡した。

そこにはこう書かれていた。


『民間人の軍属としての従軍計画』


と・・・。

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