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第74話「空対空~後編」

 ホードラー南部上空


航空自衛隊のRF-4EJを駆るキューダス1こと土浦つちうら 一樹かずき少尉は後部席に座る多田ただ ひさし曹長の静止を振り切って接近戦を挑もうとしていた。

「圧倒的な戦力差があるのになんで積極的にやらないんだ」

そう思っていた。

同時に圧倒的な性能差から、ワンサイドゲームとも言える一方的な展開になることからの自信があった。

無線からはエポック1の佐々木からの怒声が入っていたが意図的に無視し、彼は急速にRF-4EJの機首を敵飛行目標、つまりは「空飛ぶ化物」飛竜へと向ける。

眼前にあるHUDヘッドアップディスプレイに目標を捉えつつ、照準を慎重に付ける。

もちろん速度差がありすぎるので、実際に照準できる時間はいうほどはない。

しかし、素早く目標を捉え、即座に離脱し、情報を持ち帰るのが偵察飛行隊の役割だ。

土浦はその経験からガンカメラを使っての撮影も含め目標を素早く捉える技量に長けていた。

「いま!」

HUDに映る照準が目標を捉えると操縦桿に付いている引き金を短い感覚で数度引く。

引きっぱなしにすればその分、機関砲弾が毎分6000発と言う尋常ではない連射速度で吐き出される。

威力はあるがそんな速度で連続で発射し続ければあっという間に機関砲弾は底を着いてしまうのだ。

また、搭載弾数は偵察機と言う事で戦闘自体を考慮していないため、通常より少なく積んでいた。

F-4EJであれば640発積めるが、キューダス1のRF-4EJは半分の320発しか20mm機関砲弾を積んでいない。

だからこそ無駄に撃たないために引き金を長く引かずに短く、小刻みに数回引いたのだ。

そしてそれは目の前で結果になる。

音速の3倍近い速度で吐き出された20mm機関砲弾は鋭い光の軌跡を放つ曳光弾と共に目標とされた飛竜を狙い違わずに撃ち抜く。

弾数にして数十発程度ではあったが、飛龍は一瞬にして頭部を、翼を、胴体を引きちぎられ地上へとバラバラになって落ちていった。

その脇をまるで存在感をアピールするかのようにキューダス1のRF-4EJが飛び去っていく。

そしてそのまま飛竜の群れを飛び越していった。


「ほら、なんとも無かったじゃないか」

そう言って土浦は後ろを振り返る。

後部に座る多田は顔を真っ青にしていたが、生憎被っていたヘルメットと下ろしていたバイザー、そしてマスクの為にその表情は土浦には見えていない。

だが、土浦は飛竜を的にしたぐらいにしか考えていない上に、見えていなかったが、ただは座席越しであったとはいえ見えてしまっていた。

多田の目にははっきりと飛竜に跨っていた人間の姿が・・・。

「・・・あなたは何を撃ったのかわかってないのですか?」

多田は、吐き気を堪えつつ、ゆっくりと、だが確実に聞こえるように言う。

多田の問いかけに土浦は化物を一匹始末しただけじゃないか、としか思っていなかった。

大げさな溜息とともに多田は言う。

「あなたは今、人を殺したのですよ?」

多田の目にはつい先ほど、撃墜された飛竜に跨っていた人間の姿が焼き付いていた。

恐怖の表情を浮かべたまま、飛竜と共にバラバラにされた、いや肉片へと変えられた人間の姿が・・・。

もちろん彼とて自衛官である。

何時か有事が起きれば人を殺すことになるかもしれない。

当然覚悟はあった。

だが、土浦の取った行動は自身の都合だけで行われた不用意な行動であると同時に、通常考えられる任務以上にゲーム感覚で相手を撃ったとしか思われないのだ。

多田からすれば作戦行動を逸脱した人殺し、虐殺とも言える行為であった。

「ありゃただの空飛ぶ化物じゃねぇか」

土浦はそう言って反省することも後悔することもなく言い放つ。

何故ならば土浦は本当に人を確認できていなかったのだ。

見えていれば生身の人間に向けて機関砲を撃つことをためらっていただろう。

だが、彼には人間を人間として確認できていなかった。

空飛ぶ化物の体の一部と見ていたのだ。

「そうですか・・・あなたは人と化物の区別がつかないのですね」

多田は怒りを込めて言う。

普段であれば多田は階級が土浦より低いこともあり遠慮があった。

しかし、土浦の考えなしの、無責任な発言が多田を変えてしまっていた。

「なにをそんなに・・・」

土浦がそう言ってもう一度攻撃しようと機体を反転させようとした。

しかし、多田はそうはさせじと自ら操縦桿を持った。

複座は二人乗りを意味する。

そしてそれは前に座るパイロット、そして後ろのナビゲーターそれぞれが操縦する事が出来ることを意味している。

有事ともなれば前に座るパイロットが操縦できない状態になるかもしれない。

また、有事に限らず、複座は不測の事態でパイロットが操縦できなくとも後部のナビゲーターが代わりに操縦できるようになっているのだ。

そして二つの操縦桿は連動している。

つまりパイロットが操縦桿を動かせば後部座席の操縦桿も動くのだ。

多田はそれを利用して操縦桿を握り、土浦に操縦させまいとしたのだ。

突然の多田の行動に思わず土浦は抗議の声をあげる。

「おい!なにしてん・・・」

だが、多田は土浦の抗議を逆に怒鳴り声で封じた。

「あなたに操縦する資格はない!今から本機の操縦は私がします!それともここで墜落して二人共死にますか!?私はあんたを道連れにする覚悟は出来てます!」

普段控えめな多田の豹変に土浦は言葉を出せなかった。

一体何が起きたのか?

全く彼には理解できない状況になっていた。

「キューダス1よりエポック1へ、本機の操縦は多田久曹長である私が引き継ぎます。つきましてはこれ以上の戦闘行動は不能であるため、帰投したいと思います」

多田は沈黙した土浦の代わりにエポック1の佐々木へ通信を入れた。


「了解した。そのまま帰投することを許可する」

佐々木はそう言って低高度へ下がった飛竜を見る。

再度の攻撃は難しくなった。

そう判断するしかない。

ある程度は打撃を与えた物の、キューダス1の命令無視で攻撃の手が止まった間に目標は地上付近にまで降下していたのだ。

これ以上の追撃は、眼下の森にどんな生き物などがいるかもわからない為に中断せざる得なかった。

「こりゃこっちの負けかもな」

佐々木の後ろに座る梅原はそうぼやいた。

元々、質では圧倒的でも数に勝る相手を3機だけで相手をするのは大変だ。

しかも、今のでキューダス1が戦線離脱し2機のみで、地表スレスレでの戦闘など危険すぎる。

「ああ、今回は負けだわ」

佐々木も同意すると、森に消えていく空飛ぶ化物こと飛竜を見送るしかなかった。




相手の偵察目的の飛行を阻止できなかった戦略的敗北、そして相手戦力の撃破も少数にとどまったことによる戦術的敗北が重なったこの異世界初の空中戦は、日本が味わった初めての敗北として記録されることになる。

たいへん長らくお待たせしました。

2年振りの更新です。

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