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第69話「特殊作戦群~制圧」

ーホードラー南部山中




夜間に行われた特殊作戦群の奇襲に対しヴェネトは即座に身支度を整えると手勢を向かわせた。

このまま日本の攻撃を受ける訳にはいかないのだ。

反撃しても効果が如何ほどあるのかなど分からない。

だが、だからと言ってただでやられては彼自身の名誉に関わる。

この世界に普通にある名誉を重視した意識がヴェネトにそう判断させても不思議は無かった。

「上からの攻撃ならば上層の対飛竜装備を使わせろ!」

部下に指示を飛ばしつつヴェネトは赤く染まる空を窓から見上げる。

そこには堂々と姿を現して砦に銃撃を仕掛けるAH-1Sがいた。

飛竜の様には見えないソレは口と思われるところから何度も小さな光を発する。

それだけで地上では兵が引き裂かれていく。

一体どう言った攻撃なのかは全く分からないものの、時折そこから光が一瞬だけ軌跡を描くことから、炎のブレスの一種ではないかと思われた。

ヴェネチがそう思った攻撃は20mm M197 ガトリング砲によるものであったものの、そんなことは彼にはわからない。

それが如何なる凶器であるかなどは味方が吹き飛ぶ姿から推し量るしかないのだ。

「物陰に潜ませろ!そうすればある程度は防げるはずだ!」

炎のブレスの一種であれば高温であっても遮蔽物で防げると思ったのだ。

だが、先ほどから命中した者達がどうなっていたかを考えれば余程強固な物に隠れねば防げないだろう。

そう思いながらも兵の動揺を押し留めるにはそう言うしかなかった。

実際、20mmガドリングから放たれる砲弾を前にしては相当強固な物でなければ防げない。

馬車や建物の陰にいても、木造の物ではそれ諸共撃ち抜かれて粉砕されてしまう。

井戸の陰に入っても積み重ねた石ごと吹き飛ばされる。

城壁も見るからにボロボロにされている。

それだけの威力があるのだ。

とてもではないが城内にでも逃げ込まねば持たないだろう。

ヴェネトはその様子を見ながら忌々しそうに舌打ちするしかない。

そこに場内の警備に当たっていた兵が飛び込んでくる。

「閣下!」

非常に慌てた様子の兵にヴェネトは何事かを聞く。

これだけ悲惨な有様なのだ。

これ以上に驚く内容の報告などない。

そう思っていた。

「城内に敵兵が侵入!上から入られました!」

これを聞いたヴェネトは唖然とした。



日本軍の兵士は空を飛ぶとでも言うのか?



彼の脳裏にありえない!と言う意識が浮かぶ。

如何に飛竜であっても完全武装の兵を運ぶには個体差があるにしても、多く見積もって騎手を含めて4人程度だ。

長距離の飛行を諦め、片道で良いならば6、7人いけるかどうかだろう。

「・・・何処まで侵入されている?」

一旦落ち着こうと努めて冷静に振舞う。

ここで指揮官が慌てふためくなど彼の沽券に関わるのだ。

「上層2階は完全に支配下に置かれています!」

兵は冷静に努めるヴェネトに自分も落ち着こうとするものの、その侵攻速度の速さを目のあたりにしている故に落ち着くことが出来ない。

なにより現在彼等は攻撃を受けている側なのだ。

とても落ち着くなど早々できるものではない。

「それでは・・・真上ではないか!」

4階建て構造の砦であるので上2階を制圧されては半分が取られた事になる。

つまり、彼等がいるここも危険になっているのだ。

「どうやって進入したのかは分からんが数は少数のはずだ!城内の兵を指し向けろ!」

ヴェネトの怒声に兵は慌てて室外に出て行く。

その足で上から来る敵に抗する兵に命令を伝達するはずだ。

いや「だった」と言うべきだろう。

ドアを開け放ったまま飛び出した兵はいきなり横殴りにされたように弾け飛んだ。

頭から脳漿を撒き散らしながら・・・。

それが目に入った瞬間、ヴェネトと同室にいた兵が即座に腰の剣に手を伸ばした。

そこに小さな筒がコロコロと室内に転がってくる。


アレは何だ?


と思い誰もが注視し、突発的事態に備えた。

だが、それこそが転がってきた物の効力をより発揮する事になる。

彼等の目の前に転がってきたものは「閃光発音筒」つまりスタングレネードとかフラッシュバンと言われる物だった。

これは強力な光と音で相手の動きを一時的に封じる為の非致死性兵器である。

それを知っていればある程度の防御方法はあるのだが、彼等にはその知識も経験もない。

当然、凄まじい爆音(室内で近距離だった為)と放たれた閃光に彼等の目と耳は機能不全を起こしその役割を放棄してしまう。

当然ながら直後に室内への進入を開始した者達の姿や音は感知できる訳もない。

その為、ヴェネトたちは何ら対処が出来ぬまま自分の体に何かが押し当てられ、直後に何とも言えない衝撃を受け意識を失うのだった。



特殊作戦群は城内に侵入を開始すると即座に最上階を制圧していた。

建物最上階に居た兵士は上部への警戒の薄さから配置は少なく、廊下などに警備の為にいただけだからだ。

非戦闘員と思われる非武装の者は僅かばかり居たものの、当然対抗することも出来ずに拘束されていった。

一部の隊員を拘束に廻すと同時に残りが下層を目指して突き進む。

目標が何処にいるかなどは不明の為、手当たり次第に虱潰しにするしかない。

だが、それでも彼等の動きを阻害出来るものはは城内の何処にも居なかった。

出くわしても抵抗すれば即座に射殺され、負傷しても戦闘を行おうとしていたものは捕虜にせずに同じく射殺される。

非情に徹した訓練を重ねただけあるだろう。

そうでなければ一瞬の躊躇で隊全体を危険に晒すからだ。

基本的に彼等は制圧や目標を拘束するだけでそれ以外の戦闘員に対しては捕虜にしない。

情報が欲しければするだろうが、それはここで働く非戦闘員からで十分得られるのだ。


そしてあっという間に最上階を制圧した彼等特殊作戦群は階下、つまり3階へと進む。

3階は最上階である4階と違い兵が多く詰めていたものの、城内の兵は1階に集中していたこともありやはりその数は少ない方だった。

4階を制圧したように廊下に居た、出てきた兵を優先的に始末すると室内を制圧にかかる。

何処に誰がいるかなど実際に見なければ分からないからだ。

1人でも戦闘員を漏らせば背後からの奇襲や飛び出しての奇襲を受けかねない。

それだけは如何に訓練を積んでいても危険なのだ。

もっとも、それに対する訓練もつんでいるので早々遅れは取らない。

実際に飛び出した兵が小剣を突き出してくる場面もあったが、先頭に立っていた隊員は手に持っていたM4で受け止め突き出された小剣を逸らし、直ぐ背後にいた隊員に頭を撃ち抜かれている。

そうやって室内をクリアリングしつつ進んでいる最中に退路の確保と非戦闘員の監視に残っている隊員から無線連絡が入った。

「目標は2階の南側、階段を降りて3番目の部屋」

非戦闘員を尋問し、居場所を突き止めたらしい。

それだけを聞くと互いに目で頷くと更に階下を目指して侵入を続けていった。

やがて目標が居ると思われる階に到達すると兵士が慌てた様子で一室に飛び込むのが鏡越しに見えた。

通路の角などに置いては鏡を用いて様子を探るのは最早当たり前だろう。

そこは情報にあった部屋であることを確認したとき、中からざわめきが聞こえる。

恐らく何かしらの命令を出しているのだろう。

その隙に特殊作戦群の隊員は廊下に飛び出し警備の兵を始末する。

M4の銃口に付けられたサプレッサー(減音器)により銃声を小さくしているので室内の人間には銃声が聞こえずに済む。

即座に通路を確保するとドアの両側に隊員が訓練通りに配置すると同時に、他の部屋を制圧するものと同時に情報にあった部屋を制圧するものに分かれる。

今回彼等は指揮官と思われる者たちを生け捕りにする必要があったので、用意したスタンガンと共にスタングレネードを準備する。

室内には複数の人間のざわめきが聞こえるので、突入後は迅速に動かねばならない。

そのとき、ドアが開け放たれて先ほど飛び込んだ兵が今度は飛び出してきた。

ドアは部屋に向けて開く形だったので隊員にぶつかる事は無かったが、隠れることも出来ないので発見される事になるだろう。

その為即座に隊員たちを纏めていた指揮官が手にしていたH&K USPで頭を撃ち抜いた。

これは特殊作戦群向けにだけ調達された拳銃で文字通りH&K(ヘッケラー&コッホ)社製の9mm×19パラペラム弾と呼ばれる弾を使う。

一部パーツを変えることで45AUTOと呼ばれる弾も使える。

更にサプレッサーをつけることが可能なモデルである。

故に彼の手にあるUSPはサプレッサーがあり、銃声は最小限に抑えられていた。


突然の銃撃に飛び出してきた兵は横殴りにされたように、部屋のあるのとは反対側の壁に上体を横に逸らしながらぶつかっていく。

それを見届ける事無く隊員は即座に室内にスタングレネードを放り込んだ。

スタングレネードは放物線を描きながらも、それほど強く投げ込まれたわけでもないので直ぐに床へと転がった。

数秒後、轟音と共に閃光を放つとそれを合図に隊員たちがスタンガンを手に飛び込む。

同時に万が一に備えた後詰がドアを盾にするように住を室内へと向けた。

僅か4人ばかりが部屋に居たものの、スタングレネードにより戦闘力は喪失しており、制圧には時間はかからずに済んだ。

スタンガンを受けた4人は一瞬体を痙攣させると直ぐに意識を失い倒れこむ。

それを確認すると武装を解き、その身柄を拘束することに成功した。



ここまではいい。

この後が彼等特殊作戦群にとって大変なのだ。

手持ちの弾薬もそれなりに消耗しており、指揮官の奪還に動かれては対応が難しくなる。

故に捕らえた指揮官らしき4人を連れて脱出せねばならないからだ。

一応、外でAH-1Sが騒ぎを起こし注意を引き付けているものの、グズグズしていると脱出に置いて追撃を受けてしまう。

勿論それに対処することは可能だが、余計な手間を取られたくない彼等は即座に脱出を開始した。

制圧済みなので要所に居る隊員を横目に4人を抱えた隊員たちがヘリが待つ屋上へ向けて走り出す。

最後尾で警戒に当たっていた隊員も要所に配置された隊員に警戒を任せて屋上へと後退していく。

そうやって交互に後方を警戒しつつ順次後退を開始していくことで追撃を防ぐのだ。

屋上に着いた彼等は即座に発炎筒で着陸できそうな場所に発炎筒を使い合図を送る。

すると上空で待機していたヘリが比較的広いところに降下してくる。

流石にヘリの重量に建物が耐えれるか分からなく着陸は危険なので、ギリギリ浮いている様な状態である。

それに捕らえた4人と隊員数人が乗り込むと直ぐに上昇、そして別の機が降下してきて回収に入った。

最後の1人が乗り込むとAH-1Sも攻撃をやめ、高度を上げだす。

既に中庭で動く兵はなく、城内に留まっていた兵や運良く建物の陰に居て気付かれなかった兵だけがそこにいた。

反撃どころではない。

手の届かぬ上空からの攻撃で最早身動きも出来なかったのだから。

それでも城中の異変に気付かれ無い様に攻撃を続けていたこともあり、AH-1Sの残弾は殆ど残っていなかった。

そして、最後の1人を乗せたUH-60Jが予定高度まで上昇すると、機体を北に向けて全機が離脱していった。




彼等ヴェネトの将兵にとって悪夢のような一夜が漸く終わったのだ。

だが、これで全てが終わったわけではなかった。

負傷者の救護や被害状況の確認が進む中で指揮官の不在が発覚するのだ。

逃げたわけでもないのに忽然と姿を消した事に慌てふためくうちに夜が明け混乱は拡大していく中、今度はレンジャー部隊が城の周辺に姿を現す。

今度は制圧する為の部隊が砦に向けて現れたのだ。

ヴェネトやその腹心を含めた将の不在。

取り囲まれた現実に、彼等は戦意を喪失し降伏するしか出来なかった。




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