第5話「シバリア動乱~中」
まさかの短時間二話投稿w
誰も予想していまいw
と、言う訳で第5話「シバリア動乱~中」お楽しみください。
―――シバリア市内某所
ミラは焦っていた。
このままではカーンの暴走のまま蜂起し、そのまま潰されるのが目に見えたからだ。
一時的には目的を達成させれる様には思える。
しかし、一時的にであって継続的ではない。
ましてや、その一時的にも怪しいものだ。
カーンの建てた計画は希望的観測ばかりで現実が見えていない。
直ぐに教皇丁や他国の援軍が来るところや、日本が暢気に交渉してくる等は明らかに現実離れしている。
だが、カーンはそれでも自信に溢れていた。
まるで今まで自分たちファマティー教の聖職者が民の本心から称えられる存在であるかの様だ。
ミラはカーンたちの「ファマティー教の聖職者は日本に殺される」などと言った根拠なき口車に簡単に乗ってしまった自分の軽率な行動を呪いたくなった。
参加するのではなかった。と言う後悔をしていた。
確かに、あの時は日本がファマティー教の大司教たるハーマンを容赦なく殺害(形上は戦死だが)したと聞かされた直後だったのもある。
だが、幾らなんでも相手を良く知りもしないで簡単に思い込み過ぎた。
やはり自分も世間一般的な聖職者の一人に過ぎない。
だからこんな馬鹿をやる羽目に陥った。と思っていた。
「せめて、駄目で元々、あの手紙をちゃんと見てもらえたなら・・・」
すがる様な思いで、自ら計画の全容を書いた手紙に希望を託す。
自己保身、と罵られてもかまわない。
こんな馬鹿げた事で死ぬぐらいなら、少しでも被害を押さえて死にたい。
自分たちの勝手で民を苦しめるのは止めるべきなのだから。
ミラの切実な思いとは裏腹に、カーンの計画は着々と進んでいた。
高橋は北野から無線電話でファマティー教の蜂起計画があり得ると聞かされた。
流石にこれは無謀ではないか?
とも思えたが、それだけ彼等が追い詰められている証でもある。
北野との会話で高橋たちはそのままカトレーア邸宅を守ると同時に、この辺り一帯におけるテロリスト鎮圧任務が追加される事になった。
そのため、急遽各分隊に補給物資を手配した。
そして各分隊に高橋は無線を通して警戒を呼び掛けた。
「テロリストが実際に行動を開始した場合、我々特殊任務部隊は初の市街戦を行う。各員に注意を呼び掛けろ」
これは如何に銃火器と言う有利な装備も、市街地と言う空間内では有利とはなり得ないからだ。
現代戦で最も難しいのは市街地における戦闘だ。
ハイテク装備を充実させても、旧式装備に遅れを取る。
それがあり得るのが市街戦なのだ。
近距離で戦う事になる上、上下から奇襲もあり得る。
しかも隠れる場所には事欠かない。
そんな市街戦は歩兵の本領を発揮する場であると同時に、多数の損害を要求する戦いになるのだ。
「せめて、犠牲だけは押さえないと・・・」
それだけが気掛かりだ。
高橋は念のために各員に注意を促したが、どれだけ意味があるかは疑問だった。
何せ市街戦の訓練を受けた者が数人しかいない。
しかもそれは各分隊を預かる高橋や井上、佐藤とその他2、3人だ。
後は見様見真似だ。
正直、不安しかない。
元の世界で見た映画の様にはならないだろうが、何処から民兵、テロリストが飛び出て来るか気が気ではないだろう。
「あまり心配してもどうにもならん。ここは出来る事をやるしかないだろう?」
中田に諭され高橋はそうですね。と答えた。
それでも祈らずにはいられないのは高橋が甘いからだろうか?
「少佐、各員配置に着いてます」
部下の報告にアーノルドは行政区の一角に構えた司令室で現状を再確認した。
高い建物にスナイパー、要所に直ぐ封鎖して陣地に出来る用意、そして各地に展開させた各分隊。
中隊規模の戦力で行政区を守るのだ。
その他の区画は他の日本外人部隊や自衛隊の部隊で守る。
これだけの歓迎の用意をしたのだから、ドタキャンだけはするなよ?と不敵な笑みがアーノルドに浮かんでいた。
「少佐。北野行政統括官より『補給は気にするな』との事です」
これを聞いたアーノルドはやりやすくなったと思った。
油断ではないが、やはり補給がしっかり確保されない状況で戦う気にはならない。
補給や治療が受けれる体制作りは戦略の基本であると同時に兵士の士気に関わる。
大事な部下をこんなところで死なせる気はアーノルドにはない。
「よし、後は総員の奮起に期待しよう」
アーノルドは幕僚たちにそう言って熱いコーヒーを飲む。
このコーヒー、エメラルドマウンテンも後何回飲めるか?
大のコーヒー好きのアーノルドはそう思った。
こんな時でもそう思えるのは率いる部隊に絶対の信頼を持っているからだった。
―――シバリア市内 夜
街が寝静まり、暗闇と静寂だけが辺りを支配している中、暗闇に紛れて何人もの人影が一つの邸宅を目指していた。
「やはり、警戒はしても甘い」
黒装束に身を包んだ者たちは足音も最小限に止めながらカトレーアの邸宅に近寄る。
正面と裏は確実に警備が厳しくなっているだろうが、まさか迎賓館の隣を使って侵入するとは思っていないはず。
黒装束の男はそう判断していた。
だが、それは甘い考えであることを痛感することになる。
「隊長、6番カメラを!」
駐屯地代わりの空き家の一室でカメラを確認していた隊員が高橋に警告を発する。
即座にカメラを確認するとあからさまに怪しい人影が複数人確認された。
「・・・第3分隊に連絡。招かれざる客が来訪せり」
高橋の言葉をそのまま第3分隊に伝える。
第3分隊ではそれを合図に即座に動き出す。
「客はどちらから?」
佐藤の質問に監視カメラを確認している第1分隊から即座に連絡がきた。
「客は隣の柿を狙っている」
これだけで東側の建物から来ていると判断できた佐藤は手の合図で邸宅東側に向かう。
実は第3分隊は、カトレーアの邸宅内部にいたのだ。
「フクロウより連絡。直ちに親鳥と雛を巣箱へ向かわせろ」
佐藤の動きにあわせて高橋はカトレーア邸宅の警護につく元近衛に連絡した。
この為にわざわざ第1分隊から橋野を送り込んでいた。
「さて、第2分隊には周辺警戒をさせろ。第1分隊は第4分隊とここを死守する」
高橋の指示に部隊が明かりも着けずに暗視ゴーグルのみで行動を開始した。
「いくぞ・・・王女以外は殺せ!」
黒装束の男はそう言うと窓の一つに手を伸ばした。
その黒装束の頭を一発の銃弾が貫いた。
「!?」
一瞬にして絶命した指揮官に色めき立つが、即座に武器を手に邸宅内部に侵入を開始した。
だが、そこは佐藤の第3分隊の一部が既にいたのだ。
「此方は日本国陸上自衛隊だ!無駄な抵抗は止めろ!」
一気に明かりを照らされその姿を晒された黒装束の一団は流石に慌てふためいた。
無理もない。完全に待ち伏せされていたのだ。
慌てるな、と言う方が無理だろう。
「武器を捨てろ!」
黒装束の一団が内部の第3分隊と相対した直ぐ後に側面を突く形で佐藤他二名が姿を現す。
「くっ!構わん!殺れ!」
黒装束たちはナイフや短い剣を片手に飛びかかる。
だが、照明に照らされた状態では隠れようもない。
抵抗をやめないと判断した佐藤は制圧を命じた。
タタタ!と言う断続的な破裂音が夜の街に響く。
物の数分で黒装束の一団は物言わぬ躯となった。
「此方狩人。制圧確認」
佐藤の冷静な報告が高橋にもたらされる。
だが、それを否定する様に第2分隊から連絡がきた。
「かなりの人数が邸宅に向かっている。馬車付きだ」
井上の報告に高橋はカメラで方向を確認すると、佐藤たち第3分隊とは逆の西側から来るのが見えた。
「フクロウより鷹へ、狩りの時間だ」
攻撃を許可された井上の第2分隊は邸宅南の建物から邸宅前に来た馬車を伴った一団に照明を照らしつける。
「此方は日本国陸上自衛隊だ!抵抗したけりゃすれ!叩き潰してやる!」
拡声器から井上の怒声が辺りに喧しく響き渡る。
驚いた一団は弓矢を構えたが、その行動が実行に至る事はなかった。
第2分隊の一斉射撃が馬車を伴った一団を襲ったのだ。
あまりにも圧倒的な攻撃に散り散りに逃げようとするが、佐藤たち第3分隊が道を塞いだため逃げるに逃げられない。
「武器を捨てて両手を上げろ!」
降伏を呼び掛けるととても敵わないと判断した者たちが武器を捨て出す。
それを見た指揮官が手にした剣を振り上げるが、井上がM24でその頭を吹き飛ばした。
「・・・死にてぇなら一人で死にな」
井上の呟きは彼等に届かないが、僅か10分足らずでカトレーアの邸宅を襲撃に来た一団は壊滅した。
「総員、周辺を完全制圧せよ!行政区で大規模な蜂起が確認された!ここの安全を完全に確保してから援護に向かう」
高橋は自らの第1分隊を率いて制圧任務に出た。
第五話終了です。
しかし、ここで残念なお知らせが・・・。
うん、このままじゃ次で終わらないかもw
なので次回は長くなりますw
では、次回でお会いしましょう。