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第67話「後始末」

ーホードラー南部 ハウゼン領



南部貴族連合の陸上補給路を遮断する日本の封鎖部隊は、眼前に集結した貴族連合軍約9000と対峙していた。

海路、陸路共に封鎖された貴族連合軍は何としてもこの封鎖部隊を撃破したいところではあったものの、日本と正面切って平野部で戦うことは不利であることを悟っていた。

それ故に積極的攻勢に出る事無く圧力を加えるしかない。

南部貴族連合の主だった者がこの事態に連日シルスに対策を求めるが、もしこの封鎖部隊を抜くと言うならばもっと多数をもってやらねば犠牲ばかりが大きくなる、と答え今は圧力を加えるのみに留めさせた。

そうすることで相手に絶え間ない緊張を強い、その疲労を待って仕掛ける。

そう考えていたのだ。

その間にもシルスは出来る限りの戦力を集めさせているが、北部から侵攻してくる日本軍の動向がまた悩みの種となっている。

当初は相手の動きをモンスターをも利用して押さえ込めたものの、一度体勢を整えた日本軍を前にそのモンスターも大した足止めにならなくなっているからだ。

それでも当初よりは遅くなっているのだが、十分に早い侵攻と言えるのもまた事実だった。

焦土戦術を持って現地調達をさせず、日本の戦力の士気を落とし、弱体化させる策も効果はあまり見込めていない。

何より、補給路を叩くべき潜伏させた部隊との連絡はおろか状況確認もできないのだ。

現状がどうなっているかの情報が殆どなければ動くタイミングの見極めが難しくなる。

先日偵察に出した数少ないワイバーンも日本の飛行竜と思わしき物との接触で偵察できずに逃げ帰るしかなかった。

おかげで北部の状況がつかめないのだ。

「忌々しい奴らだ」

日本の自衛隊を十分に苦しめているはずのシルス自身、同じ様に苦しんでいた。

南北双方の動きに目を向けねばならない状況で、しかも非協力的な諸侯も現れている南部貴族連合は実際のところ空中分解寸前である。

それを押し留め、食い止め、そして維持出来ているのはひとえにシルスの手腕によるところが大きい。

決定的な大きな敗戦や失策がなく、臆病とそしられようと確実な一手を撃つことで何とか盟主としての面目を保っているのだ。

とは言え、既に北部は3分の1が日本の手に落ちつつある。

ホードラー南部中央付近のバーバラ山岳まで来たならば恐らくそこで決戦、いや、立て篭もっての持久戦をする事になるだろう。

それ以南に進まれては南部貴族連合の崩壊は決定的になる可能性が高いのだ。

「ご指示通り山中に穴を掘り、半地下城砦化させてますが規模はそう大きくはありません」

部下の報告にそれで良い、とシルスは答えた。

下手に剥き出しの城砦よりはずっとマシであると判断していたのだ。

そしてその判断は自衛隊相手には正しいものでもある。

如何に圧倒的火力を持っている自衛隊でも、地中に攻撃を通すのは実際問題として難しいのだ。

全く不可能ではないが、通常の砲爆撃では直撃しない限り相手に出血を強いることは中々出来るものではない。

とは言え、やはりかつて無い半地下城砦と言う慣れぬ物の構築により規模自体はそれ程でもない。

おかげで多数の兵を詰めさせる為にやはり山中に通常の城砦も築く事になってしまっていた。

故に半地下城砦なのだ。

一応、城砦部分も大きな岩を切り出して組み合わせているのでそう簡単には抜けないはずであった。

「約20000の兵が居りますので残りは陸路を封鎖する敵に差し向けましょうか?」

その大多数を持って陸路の確保をしようと言うのだ。

だが、シルスは首を振る。

「バーバラ山岳とて実際ふたを開けねばどうなるか分かったものではない。予備戦力を近辺に配置する必要がある」

そう言ってバーバラ山岳より南側にある比較的大きな城を見る。

この城、バーバラ城はかつてはホードラー王国の南部開拓時代に開拓の基点となり、その後の発展期には街道を守護する要衝となっていた。

その為このバーバラ城には約6000もの兵が集結している。

更にこの城の兵は周辺の諸侯への睨みを効かせる役目もありむやみに動かせないのだ。

「むしろ諸侯にもっと兵を出させねばな。自領の守備との名目で兵を無駄に分散させては日本とは戦えない」

シルスはそう言って集まっているものに告げる。

この考えはある意味、現代の戦争の形である総力戦、つまり国の全てを戦争と言う行為に傾けさせる概念である。

日本がシルスの考えを知れば間違いなく民間人に被害が出るのを覚悟した上で中枢たるシルスのいるディサントを狙ったであろう。

それだけ先見の明があり、日本にとって危険な人物であるのだ。

「諸侯の中でもファーレン、ケッセルリンク、ホーウッドなどの動きが鈍いですな」

部下の将がそうシルスに告げる。

暗に裏切りを懸念しているのだ。

そしてその疑念は正しく、日本と通じているのだがその事実までは見抜けていない。

「たしかにな。だが、確証が持てん以上は排除も粛清も出来ん」

今までもシルスの要請と言う名目での命令に、幾度も理由を付けて拒否したり協力の規模を縮小させてきた3人は獅子身中の虫であった。

だが、寄せ集めの軍勢である南部貴族連合において明確な証拠無しに粛清できない。

断行すれば次は自分だ、となって日本に従うものが続くだろう。

そうなっては敗北云々以前の話だ。

最悪、シルス1人に責任を押し付け自分たちはさも巻き込まれたのだ、と言って日本にシルスを差し出す真似をするだろう。

それをさせぬ為にも総力戦の様相を持って諸侯を「共犯者」にしなくてはならない。

それだけにシルスは何としても日本の侵攻を抑えつつ、少しでも有利に講和を持ちたい。

南部を一つの国として認めさせる。

そうすれば彼自身の名誉と権益は確保できる。

それ以外は踏み台となって消えてもらうだけなのだ。

とは言うものの、言う程簡単ではない。

幾ら盟主でも一方的に命令出来ない上、拒否されたからと言って罰を与える権限も無い。

「せめてもう少しでも足止めでさせなければ・・・」

足止めがなればその間に南部を纏め上げることも出来る。

その為の時間が欲しいのだ。

「いっそ諸侯を一まとめにして日本にぶつけるか?」

シルスはそう口にする。

諸侯を日本を使って一掃すれば後のまとめがやりやすいだろう。

こう考えたシルスは実行できるかを思案しだした。

そんなシルスを眺める将達は彼の決断が下るのをただ待つしかなかった。




ーホードラー南部ハエン村


ヴェネトの軍勢が後退したことによってハエンの防衛は成功したことになる。

とは言うが、ハッキリ言って高橋たちにとってはこれからが大変なのだ。

戦闘で死傷した敵の後始末や救護、更に未だ潜伏しているであろう敵兵の捜索、掃討、更には大量に発生した血の臭いに誘われてやってくるであろう化物にたいする警戒と排除。

とても高橋たちだけでは対処できない。

ハエンの領主であるウルザや村人も総出で手伝ってくれているが、後続の部隊が到着するまでは動くに動けなくなってしまったのだ。

当初の目的からすれば一旦補給を受けて即行動再開、と行きたい所ではある物の、まさか放置していくわけにも行かないだろう。

何より敗残兵や化物に対処するにはウルザの兵だけでは心もとないのだ。

「やれやれ、次から次へと・・・」

井上がぼやきながら生存者を担架に乗せる手伝いをしている。

幾ら敵でも負傷者や降伏してきた者を無碍にも出来ない。

その為に出来ることをやっているのだ。

だが、中には負傷していても降伏しないものがいたりしてかなり面倒な事になっている。

どうしても降伏勧告に従わない者や、生きていても助かる見込みの無い者などはどうにも出来ないので止めを刺すことになる。

ハッキリ言って後味が悪すぎる。

それでも、部下の安全やハエンの住人の安全を考えればやらないわけにもいかないだろう。

また、今回の戦いで高橋たちの部隊にも軽傷とは言えて傷を負ったものがいる。

例えばフェイは1人敵中に切り込んだこともあり、気付かない内にかすり傷程度でも怪我をしていた。

また、奇襲を仕掛けた井上の隊や後から来た高橋の隊は兎も角、遭遇戦となった佐藤の隊では数人が矢傷を負っていた。

どれも負傷の度合いを考えれば後方に送る事もない程度の怪我ではあるが、やはり近距離での戦闘になり易い山中や森の中では此方が常に有利ではないと言うのが良く分かるというものだ。

「今回は何とかなったが、次も上手くいくとは限らないな」

慎重に慎重を重ねてきた高橋は、それでも負傷者が出たことに気が重たくなっていた。

敵が木々に身を潜め奇襲してきたり、出会い頭の遭遇戦が起きた場合は如何に装備の面で有利でも如何ともし難いものがある。

最悪、負傷どころか戦死者だって出かねないのだ。

それが無かったのは運が良かったとしか思えない。

「少しでもその可能性を下げる努力をするしかありませんね」

中田が降伏した負傷者の治療をしながら答える。

中田だって医官と言う立場である医者なのだ。

負傷者もそうだが死者だってでて欲しくは無い。

それが見知った隊の中から出てくるなど考えたくも無いのだ。

それでも戦闘と言う物があり、そしてそれに向かう職務を負っている以上は避けては通れないものでもある。

「全員が96とかFVとかに乗れればいいんだがな」

無い物ねだりしても仕方ないだろうに井上がそう言ってくる。

井上が言った96は「96式装輪装甲車」のことでFVは「89式装甲戦闘車」の事だ。

どちらも今この場には無い。

機動力を優先しているのと、燃料の補給が簡単ではないこの地では燃費の良い物が必要になるのだ。

これが後方の本隊であれば問題なく使えるだろうが、高橋たちには向いていないのだ。

「あれば助かりますけど逆にここじゃ制限が多すぎますよ」

井上のぼやきに佐藤が答える。

そんな佐藤に井上は「分かってるよ、んなこと」と言い返す。

「ふむ、制限と言ったがどんな制限がかかるのだ?」

井上と佐藤の会話が聞こえたのか、フェイが二人のところに近寄ってきた。

フェイは既に傷の手当ても終わっており腕に包帯を巻いていた。

怪我といっても槍か剣が掠った程度であったため、消毒して包帯を巻いただけの代物だ。

放って置いてもいいぐらいの怪我であったのだが念のために中田が処置したのだ。

「まず動きが限られますね」

疑問の言葉を向けてきたフェイに佐藤が答える。

森などの障害物が多い地形では機動力が発揮し難いこと、そして燃料を結構消耗してしまうことなどを挙げる。

「あとは火力だな」

井上もそう言って混じる。

89式は90口径35mm機関砲KDEと呼ばれる装備があるので問題ない。

96式も96式40mm自動てき弾銃や12.7mmM2を乗せれる。

それから考えれば十分なのだが、やはりそれだけでは状況によっては扱いが難しくなる。

なにより、89式の35mmは木々が邪魔になって砲身の向きを変える事に制限がかかる上、96式の40mm自動てき弾銃も木々が邪魔になって威力を発揮できない。

12.7mmならまだ使えるだろうが、やはりこれだけでは火力としては少々心もとないのだ。

もっとも、井上の言う火力と言う面ではやり方次第なので一概にも問題とはなりえない。

「まあ、数で来られたら対処が難しいのは事実だな」

高橋は単純な威力よりも数を揃えられる方が良いと思っている。

それがこの答えに繋がっていた。

「ま、96式は撃つとき射手がむき出しになるからどの道危ないわな」

井上の言うとおり96式の場合、射手は車外に身を乗り出す必要が出てしまうので、安全性という面ではやはり低いだろう。

しかし、もっとも安全かつ有効な手段もあるにはある。

その方法は井上の次の言葉で説明しなくても分かるだろう。

「流石に轢き逃げアタックはしたくねぇしなぁ・・・」

井上の言葉に佐藤も嫌そうな顔をする。

高橋もそれは選択し足りえないと思っていた。

「そんな戦法取ったら俺は帰るぞ」

中田も同調して言う。

何のことか分からないフェイに井上が説明するが、騎兵を率いていたフェイからすれば普通の戦術のように思えて仕方が無い。

何がどう問題なのかをしつこく聞くフェイに井上が答えた。

「おまえなぁ・・・人が原型留めない形でしかも車体の隙間に肉片とか絡んだりしてみろよ・・・後始末の方が大変だぞ」

M72や06式ライフルグレネード、果てはカールグスタフまで投入し航空支援を受けた以上の酷い状況になる、という井上にフェイも自身が体験した砲撃の後を思い出して青くなってしまう。

しかもその後始末は人任せにできず、自分たちでやらねばならないのだ。

やる方もやられた方も地獄と言えた。

「う、うむ、やるべきではないな」

このやり取りのとき高橋も車輪や無限軌道に絡まった人体の破片を想像して気分が悪くなっていたのは内緒である。

「まあ、幾ら戦争でもルールがある、と言うことだな」

この世界にはルールらしいルールもないが、最低限守らねば成らぬ物があると井上は言った。

実際、彼の言うとおり、その境界はルールと言う明確な基準など無い曖昧で漠然としたものだろう。

それでも最低限守らねば成らないルールを自分たちの内に持たなければ、それはもう戦争ではなくなるだろう。

勿論、現代装備を用いている時点でこの世界に置いては圧倒的戦力であり、戦いとか戦争等といえるものではないかもしれない。

一方的な虐殺と呼ぶべき結果がそれを証明している。

それでも彼等の中にある戦争に対する認識が、元の世界にあった国際条約と言う物が彼等を支えているともいえる。



井上たちの話を聞きながら高橋は考えていた。

何時になったら自分たちはこの神経をすり減らす状況から開放されるのだろうか?と・・・。

この世界に国土ごと転移して以来、日本は常に決断を迫られてきた。

その日本を守る為、国民を守る為に彼等自衛隊は文字通り最前線で戦ってきている。

アルトリアへの進出、難民の保護、そしてそれに伴うホードラー王国との開戦。

更に結果的にではあるが王国を滅ぼしたと思ったらファマティー教のテロ、そしてベサリウス領との交渉とバジル王国との開戦、滅亡・・・。

今では南部と戦っている始末だ。

何時までもこうやって戦い続けることは日本の将来を誤まらせる結果を生みはしないだろうか?

それが高橋の懸念だった。

今の総理は間違えるとは思えない。

だが国民は?

国民が望み、結果として戦争になった例は歴史上幾つもあった話だ。

日本がそうならねばならない理由や根拠はないのだ。

戦争に勝つ、いや勝ち続けると言うことはそう言った危険性もまたあるのだ。

とは言ったものの、流石にそんな先を見通すことは高橋には出来ない。

今のところ日本にその兆候はない。

だから多分大丈夫。

そう信じるしかないのだった。


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