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第63話「略奪阻止」

ーホードラー南部ハエン村



ホードラー南部上空で航空自衛隊と空飛ぶ化け物とそれを操る乗り手が接触していた同時期、特殊任務部隊が南部入りして2日が経った頃、ここ南部の協力者となった者が居る人口120人程度のハエン村に彼等は到着していた。

多数の怪物が生息する危険な森ではあったが高橋は敢えて少数の部隊を先行させ、僅かでも危険があると判断されたならこれを足止めしつつ後方から付いて来ている本隊が即時合流して制圧する方式をとっていた。

これは怪物が相手ならばその規模と戦力を先行部隊が確認、その脅威度を把握しながらの行動だからだ。

逆に脅威度が高いと考えられた場合は即時撤退し合流、全戦力を持って事にあたり、それでも不足と考えられるなら後方の司令部と連携して航空支援を要請するためだ。

その為、小隊規模で纏まって行動するよりは分隊規模で先行偵察、と言った形をとることにしたのだ。

もっとも、現在のところは不思議と怪物との遭遇は果たしておらず、一度も交戦する事無く進んでいたが・・・。

そうやって南部を進行する攻略、平定部隊よりずっと先まで進んでいる。

少数ゆえに出来る機動力、それを存分に生かした行動と言えるだろう。

そうやって進みながら得た道や森の状態、更には道から外れた森の中の状況を情報として司令部に送ってきた。

おかげで大きな損害を出す事無く後方の部隊は安全かつ速やかに地域を制圧しつつ順調に遅れを取り戻しつつあった。

だが、同時に懸念も発生していた。

航空支援は問題ないのだが、後方から進む攻略、平定部隊との間に距離があるのだ。

万が一負傷者が発生しても移送が大変なのだ。

ヘリを呼べば早いのだがこの辺り一帯まで来ると森が濃く、ヘリが降りられる空間が限られてしまうのだ。

また、先行する分補給にも問題を来たす。

その為、途中にある幾つかの村や集落に到着すると一旦停止し、ヘリによる補給を受ける必要が出てくるのだ。

最悪、航空支援も即座に行えないときは自力で支援あるまで耐えねばならない。

小隊規模故に進行速度は速いが、その分危険も大きいのだ。

そしてその懸念がここハエン村で現実となっていた。




「つまり、この村に南部貴族連合軍がやってくると?」

村人たちから話を聞いていた部隊の面々からの報告に高橋は血の気が引く思いだった。

先行していただけあってこの村は未だ焦土戦術の為の略奪を受けていない。

その事から南部貴族連合の予想を越えた速度での進行でもあったのだ。

結果として略奪を行うための部隊がこの村にやってくるところだったのだ。

速さは戦術、戦略の基本の一つである。

だから展開が速ければその分相手の裏をかき易くなる。

だが、この場合は速すぎたのだ。

速すぎた故に相手の裏を突けたものの、代わりに交戦せねばならなくなっていたのだった。

「どうする?相手の規模は不明だが、やるか?」

井上はそう言って高橋に提案するが、戦うにしても情報が少なすぎる。

しかも、ここで迎え撃つ形をとった方が支援を受け易く状況を把握している分有利ではある。

しかし、結果として村に損害を与えることになるだろう。

かといって先行して迎え撃つには相手の規模もそうだが行く先の情報が不足していると同時に、どこから来るのかが不明なのだ。

空振りする可能性が極めて高い。

相手の南部貴族連合も考えた物で、この村を通る時は毎回巡回ルートを変えている為に村人でも分からないのだ。

恐らく情報漏れを防ぐためと、森の怪物との遭遇を回避しながらの両面を考えた結果だろうと思われた。

かといって接触を回避すれば村は略奪の憂き目に会うだろう。

食料や動物、下手したら人員も含めて根こそぎ持っていってしまうのだ。

食料だけなら自衛隊が後方から輸送してくるので何とかなったかもしれない。

しかし、人も連れ去ってしまうのは見過ごすわけにも行かないだろう。

何より知ってしまった以上はこれを阻止するのが彼等の役目であると言える。

「どれくらいの時間がある?」

そう言って横にいる佐藤に確認するが、佐藤も分からない、としか答えられなかった。

それはそうだろう。

相手の規模によっては機動力が変わる上に、同じくルートを変えて来れば到着までの時間も変わる。

その意味では村人を後方に一時避難してもらうことさえ難しいだろう。

避難途中で襲撃を受ければ満足行く迎撃さえ難しくなるからだ。

一応、協力者となっていたこの村を領地としていた騎士ウルザ・ガシュタールは20人余りの手勢を率いて手伝ってはくれるそうだが、それを考えれば相手の規模は倍、いや、村人の抵抗も考えれば少なく見積もっても100人から200人ほどいるだろう。

流石にその規模(恐らくそれ以上と思われるが)を相手に視界が利く平野なら十分に対抗できても、視界が限られる森が周囲にあるならば下手な対抗は逆に危険が大きい。

はっきり言えば、高橋たちに選択肢は与えられていないと言えた状況だ。

何故ならば、情報が不足しているならば先行迎撃は取れない。

入れ違いになったら意味はないからだ。

そして何時来るか分からない以上は避難誘導も難しい。

なら、この村の周囲に展開し南部貴族連合の動きに合わせて動くしかない。

はっきり言って無謀極まりない選択だ。

唯でさえ小隊規模で、内1個分隊は衛生隊、つまりは非戦闘員である。

銃を扱う訓練は受けているだろうが、普通科の自衛隊員と比べてもその錬度は低いだろう。

そもそも、傷付いた人を救う事が彼等の役割である以上、負傷者に対する手当ての必要から彼等に戦闘に参加すると言う選択肢はない。

むしろ彼等衛生班が戦う事態になっていることそのものが既に終わっている状況なのだ。

高橋はこの状況下において長々と考える事はせずに即断した。

迷ったり考える前に行動することが重要だからだ。

「よし、危険は承知でここで迎え撃つ」

高橋の決断に誰もが息を呑む。

最悪、村の住人に犠牲が出る矢も知れない。

だが、村人にはウルザの館や、比較的大人数が入れる村長宅に非難してもらう他ない。

それはウルザが即座に動いた。

「直ぐに避難を開始する」

そう言ってウルザは手勢を村中に放ち村人の退避を開始させる。

「相手が今まで使ってきたルートは4つ、それぞれを各分隊で固め敵の到着と同時に全隊が合流して迎え撃つぞ」

高橋はそう言ってそれぞれに車両と監視、防衛の割り当ては告げていく。

しかし、戦闘可能な分隊は3つしかない。

衛生隊は避難所となるウルザ邸、村長邸の二手に別れ、それぞれで救護所の役目も果たすからだ。

「第二分隊は南、第三分隊は南東、第一分隊は西だ」

そこまで高橋が指示を出したときに、南西のルートが空く事になると気付いた井上が指摘する。

だが、それも既に高橋は考えてあった。

「南西は新73式小型トラックと他二名で俺が行く」

西の第一分隊とは距離が近いので、どちらかに来ても即時合流が出来るから問題ない。

と高橋は判断していた。

だが、いくら新73式小型トラックにはM2があるとしても、たった3名で守るのは無理があるだろう。

危険度が高すぎる。

「おいおい!幾らなんでも無茶すぎる!」

「危険すぎます!他の人員に任せるべきです!」

井上だけでなく、佐藤もとてもではないが認めるわけにはいかなかった。

当然だろう。

小隊を指揮すべき高橋が一番危険な所にいるからだ。

はっきり言って何を考えてるのかさえ分からなかった。

どう考えても自殺行為としか言えない。

それとも他の理由でもあるのだろうか?とも考えてしまうだろう。

だが、高橋は予感めいた物があった。

ここには来ない様な、ただ漠然とした思いではあるが、何故かこの方角から来るとは思えなかったのだ。

「来る確立は4分の1だぞ?それでも心配ならもう1人2人連れて行くか」

高橋は猛烈な反対にあったので、井上と佐藤の分隊から1人づつ預かることにした。

でなければ絶対に認めてくれなかったであろう事は明白だった。

はっきり「命令だ」といえばいいのだが、そこで命令だと押し切るのはやり過ぎに感じたからだ。

それで何とか渋々二人は引き下がったのだが、ここで更に連れて来ている案内役の4人はどうするか?

と疑問が出された。

「私は参加するからな」

「俺もだ」

フェイとアインだ。

二人は剣を持って戦う人だ。

こう言う時であれば自分たちが安全な後方に引き下がっている程大人しいはずがない。

流石にミューリとシャインはこういった多数対多数の戦いには参加できないので大人しかったが・・・。

実は当初、この話が来たときにはミューリが偵察を買って出たのだが、1人で行かせるのは以前の城塞都市レノンでの一件が効いており、高橋は許可しなかった。

あの時ミューリのおかげで状況はつかめたが、同時に負傷させた原因が自分にある、と責任を感じていたのだ。

表ざたに出来ないことから無かった事にされてはいるものの、それ以来高橋は同行は許しても単独行動は絶対に認めなくなっていた。

シャーリーの場合、多数がぶつかり合う中での戦闘は苦手であっても魔術を使える以上は戦力になる(この世界での魔術師はある意味戦術兵器扱いだった)のだが、その為に身を乗り出すことになる。

つまりは相手への先制攻撃には不向きなのだ。

それら理由からも二人は今回に限っては後方に向かうしかなかった。

ただし、フェイとアインは違う。

1対多数で戦う訓練や経験がある。

故にこう行った戦いにはどうしても積極的になってくる。

はっきり言えば拒否したいのが高橋たちの思いだが、血の気がある二人なのでこっそり付いてこられても困る。

それぐらいやりかねないのだ。

ならば監督下においといた方がまだいい。

しかもアインに至っては治安警備隊に所属し、武装は最小限にも関わらず先のシバリア動乱において拡充された銃を扱う治安警備隊隷下武装警備隊に入っていた。

扱っていたのがニューナンブといわれる回転式弾倉拳銃リボルバーであったが、半自動装填式拳銃セミオートマチックの扱いの講習も受けていた。

その為、今回の同行に対し所持、携帯を認めている。

それがないフェイは、と言うとこれでも一軍の将と言える立場だったのだ。

銃は使えなくともその武勇は伊達ではない。

弓を扱わせればかなりの腕前だ。

「南部の連中になら短弓でも十分に威力は発揮できる」と言って居ただけあって、自前で持ち込んでいた。

つまり、一緒に戦える能力があったのだ。

「よし、フェイとアインは第2、第3各分隊に入ってくれ」

二人の参加を拒否した高橋はそう言うと即時行動を命じる。

今はまだいいが、何時来るか分からない以上は、悠長にしていられないのだ。


即断即決即実行。


それが必要なときが今だった。


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