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第62話「未知との遭遇」

ーホードラ南部上空




「エクセルよりエポック1へ、レーダーが所属不明機アンノウンを捉えた。目標は高度200(m)、時速180(Km)で北上中、これを視認し状況を確認せよ」

空中管制機E-767の代わりに大陸に派遣されているE-2Cホークアイから対地支援の為にホードラー南部上空を飛行していた新田原基地の第5航空団、第301飛行隊所属のF-4EJ改2機に連絡が入ったのは日本が南部へ本格的な行動を開始してから7日目のことであった。

当初は未知の生物の襲撃などで損害が発生したものの、彼等航空隊の活躍もあって何とか歩を進めることが出来ていた。

とは言え、やはり当初の躓きで作戦全体の遅延は免れない。

その遅延をこれ以上拡大させぬために彼等航空隊はそれぞれの分担空域を持って常時空中待機を続けていた。

始めこそ燃料の心配はあったが、日本石油連盟の支援もあるので十分に持つと考えられている。

問題は備蓄弾薬の類ではあったが、日本本土の備蓄分を廻してもらう形になっているのでその心配も杞憂になっていた。

そんな中で所属不明機の連絡だ。

この世界では彼等日本国以外に航空機などないはずなのに、所属不明機と言われてもピンとこない。

思わず佐々ささき 彰人あきと中尉は後ろに乗る梅原うめはら 和利かずとし中尉を振り返った。

梅原もまた、佐々木と同じく「何の話だ?」と言う感じだ。

とはいえ、指示があるならば行かねばなるまい。

「こちらエポック1了解、直ちに確認に向かう」

梅原はそう応えると僚機であるアベル2にも連絡を入れ機首を返し指定された空域に向けた。

正直言って異常な事ばかりが続いているため、既に感覚が麻痺しているのかもしれない。

彼等は地上で陸自を苦しめる化け物が居たぐらいなのだ。

今更新たに化け物が出てもおかしくない、とすら考えていた。

しかし、それを実際に視認出来る距離に入るとやはり呆けずには居られなかった。



「・・・」

「・・・」

佐々木も梅原も実際に見ると言葉も出なかった。

まさか本当に化け物が空にも存在していた。

しかも、それの背には人らしきものさえある。

『エポック2よりエポック1へ、あれはなんでしょうか?』

僚機からの通信に佐々木は「俺にわかるわけないだろう」と答える。

後ろで梅原は「物理的にありえん」などと呟いているぐらいだ。

彼らの眼前には全長5mほどの羽の生えたトカゲモドキが存在していた。

「ゲームとかで言う竜騎士、と言うやつかねぇ?」

実際目の当りにするまでは漫画やゲームなどでしか存在しないもの、と考えていたのだが、最早そんな考えは吹き飛んでいた。

実際に化け物が出没しているのは彼らだって知っている。

しかし、彼等は実際に見たことがあるわけではないのだ。

深い森が広がるホードラー南部の山中においては地上からの支援要請にしたがって支援を行うのだ。

実際に目標を視認出来なくとも支援が出来る様になっていた。

だからこの時までは空想の世界の生き物など見る機会など全く無かったのだ。

それが彼等の眼前にいる。

ある意味で常識が音を立てて崩れた瞬間でもあった。

『エクセルよりエポック1、状況を報告せよ』

レーダー上で目標に接触したのを確認したのだろう。

無線からE-2Cからの連絡が入る。

しかし、それに何と答えたらいいのか、佐々木には分からなかった。

当然後ろの梅原も、僚機に乗る2人もだ。

「・・・あー、なんと言うか・・・」

言葉に詰まる梅原。

それに代わって佐々木が答えた。

「目標は、生物・・・だと思う」

明確な答えとは言えないが、それでもそうとしか言えない。

それだけ常識はずれなのだ。

全長5mはあろうかと思える巨体が空に浮かんでいるのだ。

生物でそれが出来る生き物など聞いた事が無い。

実際に元の世界にいた最大の鳥は翼を広げれば3mほどの大きさがあるワタリアホウドリだ。

飛べないが鳥類と言うなればダチョウが世界最大の鳥だった。

それから考えれば頭から尻尾まで5m、翼を広げれば10mを越える生き物など生物である、と断言できなかったのだ。

しかも人らしきものを乗せて飛んでいるのだ。

尚更断言できるものではない。

『・・・明確に報告せよ』

不明瞭な発言に苛立った様子の声が聞こえてくるが、思わず佐々木は怒鳴りつけてしまった。

「明確も何も分かるわけないだろう!羽の生えた爬虫類だか鳥だか訳分からんものが飛んでるんだ!どうやって答えろってんだ!」

まさか怒鳴られるとは思わなかったのだろう。

思わずE-2Cの管制官は息を呑んでいた。

「少なくとも全長5m、翼を入れると10mにはなるだろうと思われる生き物らしきものが人を乗せて飛んでるとしか言えん」

佐々木は多少苛立ちを含めながら、先程とは違い努めて静かにそう言った。

実際に見て見やがれ、と悪態は吐いたが・・・。

何時もならそんな感情任せにものを言うことはないが、正直言って異常な事態に余裕を失っていたからかもしれない。

しかし、自分たちの知る世界とは違う世界に来て、全くの未知の存在を見れば誰だってこうなったであろう。

『・・・了解した。RF-4を派遣する。それまで目標から目を離すな』

E-2Cからの連絡に佐々木がガンカメラに撮れば良いのでは?とも思った。

しかし、より正確な映像、写真などが欲しいと考えたのだろう。

また、目標の速度が時速180Km程度と低速なので、ガンカメラでは捉えるのも大変なのでは?という考えもあると考えられた。

対してRF-4はF-4EJ改と違い戦闘任務の機体ではない。

同じF-4が原型ではあるが改良して偵察任務を行う為に誕生した機体だ。

ガンカメラ以上に高精度な写真撮影、及び映像の取得が出来る。

また、基本的に対地偵察が主体ではあるが、空中目標への撮影も可能な装備がある。

そのことからも管制官がRF-4を派遣する、と言った意味は分からなくもなかった。

だが、それは状況が許さなかったのだろう。

佐々木の眼前で化け物と人らしきものに動きがあった。

「エポック1了解、だが、どうも待っては居られないかも知れん」

佐々木はそう言うと向こうも驚いていたのかもしれない。

呆然と彼等を見る人影が慌てて踵を返すのが目に入っていた。

「目標は逃走に入った!南に方向転換している!」

待機速度の違いから空飛ぶ化け物を中心に旋回していた佐々木は横目に見ながら無線を入れた。

その姿から化け物の背に乗る人物は鎧を身に纏っている。

つまりは一般人ではない。

最悪、南部貴族連合の偵察なのかも知れなかった。

だが、それを南部貴族連合の偵察、とは断言できないのも事実だ。

事実そうであれば撃墜もありえるが、万が一違った場合は問題になりかねない。

『抑止は可能か?』

RF-4が間に合わないのは分かっている。

しかし、可能なら時間稼ぎをして欲しいところだった。

だが、佐々木は無理だと判断した。

相手は航空機と違い、滑走路を必要としない。

地上に降りて此方をやり過ごされたら佐々木たちには追尾しようがないのだ。

「無理、だな」

相手が高度を急速に下げて山中に向かう様子に、佐々木は不可能だと判断した。

低空域で無理をすれば貴重な航空機を山中に墜落させる事になりかねない。

その危険があるならば抑止するなら航空機関砲しかないが、万が一掠れば生き物である以上唯では済まない。

航空機関砲は20mm砲弾を使うM61A1バルカン砲である。

その威力は絶大で対空機関砲にも使われ、装甲目標にも効果がある。

掠っただけで人の皮膚など簡単に引き裂くことになる。

それが化け物とはいえ翼を持つ生き物相手であれば、そのまま墜落してしまうだろう。

『こちらエクセル了解した。ならガンカメラでの撮影を行え』

ここに来て漸くガンカメラでの撮影が指示される。

RF-4が間に合わないなら、これしかないだろう。

「了解、直ちに行う」

佐々木は出来る限り撮影しようと僚機に目標の動きを監視させ、敢えて大きく旋回して一旦距離を開ける。

そして火器管制モードを変更し機関砲を選択すると、目標をヘッドアップディスプレイ(通称HUD)に表示されたレティクル(照準)に収める。

後はそのままガンカメラでの撮影を操作し行うだけだ。

化け物は人を乗せたまま更に高度を下げる。

しかし、後方斜め上方からその姿を捉えることは出来た。

あとは速度と高度に注意しながら慎重に撮影する。

ある程度撮影した佐々木は、山中と言うこともあり無理せずに撮影を切り上げた。

元もとの高度が低かったのもあるが、撮影時には超低空と言える高度でしかなかった。

そのため撮影時間そのものは短くなるのは仕方がなかった。

「目標は山中に着陸したと思われる。撮影には成功したがここからではこれ以上の視認は出来ない」

梅原が慎重な操縦に集中していた佐々木の代わりにE-2Cに連絡を入れた。

見てるだけになったが、正直かなりスリルある飛行だったと梅原は思っていた。

高度100m以下の飛行なぞ早々やるものではない。

特に速度の高いジェット機にとってはき剣極まりない飛行であるからだ。

『了解。任務を終了し即時帰還せよ』

E-2Cからの帰還指示が出るとほっとする。

そう思いながら梅原は了解と答えた。

「結局、あれはなんだったんだろうな?」

僚機と合流した佐々木たちのF-4EJは高度を3000mまで上げながら、互いに見たあの生き物について話し合う。

しかし、佐々木や梅原、そして僚機に乗る2人もなんだったか?という答えは出せない。

ただ、現実離れした空想上の存在がこの世界にはあるのだろう、としか言えないのだ。

「アレが何だったのかは偉い学者さんに任せようや」

梅原はそう言って締めくくると、佐々木は違いない、と答えながらさっさと帰ろうと思った。




この時、まさか近い将来、彼等が今回であった「アレ」と空中戦をすることになろうとは思いもしなかっただろう。


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