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第61話「特殊任務部隊南部へ」

ーシバリア市南部攻略司令部



司令部に呼び出された高橋は安藤から直接南部の状況を聞かされていた。

どうやら、想定していたよりもずっと苦しい戦いを強いられていた様だった。

南部貴族連合軍は積極的な交戦を避けつつ、山奥へ山奥へと後退を続けており、途中に存在する村などの物資を根こそぎ奪いさると言う事をしていた。

所謂、焦土戦術である。

食料も何も現地調達する必要は日本には無い。

元から自前での物資を持ち運んでいる上に、足りなくなれば後方から輸送すれば良いからだ。

だが、現地の住民が飢えているならばどうしても後のことを考えて分け与えねばならない。

その分、日本の物資の消費量が跳ね上がってしまう。

また、山や森に生息する数多くのオーガ、そしてそれ以外の化け物により行く手を阻まれているのが現状だった。

敵が立てこもる陣地なりがあれば航空支援を持って叩けばいいのだが、分散した状態でやってくる化け物相手に航空支援は無駄が多すぎる。

かといって普通科の隊員だけで行けば犠牲を覚悟しなければならない。

では装甲を持った車両はどうか?と言うとやはり濃い森や山奥では持ち込むだけで一苦労だ。

一応制圧下にある地域では施設科などによる整備が行われたりしているものの、それは比較的安全が確保された後方側だからできることであり最前線ではない。

それでも元からある街道を使って進むことはできるが、集められた情報に寄れば、森や山奥のいたる所に拠点が点在していると言う。

これを放置すれば安全なはずの後方が脅かされるだけでなく、補給線の確保の観点からも無視できない。

その為に偵察を繰り出すものの、化け物だらけで満足に行えてないというのだ。

「それなりに装甲車両も前面に出しているものの、やはり前進は一苦労だ」

安藤のこの一言に、予定より大分遅れた状況なのだろう。

ある程度は遅延は想定されていたが、このままでは想定以上に遅れが出かねない。

遅れが拡大し続ければ戦いは長期化し、如何に海上封鎖していても一般民衆に犠牲が出かねない。

そしてその犠牲による恨みは日本にむくことになる。

これは絶対に感化できない問題だ。

後々の統治、南部の委任統治、自治を考えれば敵対されないように細心の注意を持って当たらねばならないからだ。



これらの事態に対処するためには情報が不可欠である、と言う結論が知り分で下されたのは何も不思議なことではないだろう。

まして、その為に高橋が呼ばれ、動く事になるのは自然な流れといえた。

「つまり、特殊任務部隊は先行して協力者と接触、周辺の情報を洗え、と言うことですね?」

高橋は安藤の目を見て命令を確認する。

この程度、とは言わないが、現在安藤が指揮する部隊でこれが出来ないはずが無い。

だが、やるからには相当量の戦力を割く必要がある。

何時、南部貴族連合軍と本格的な戦闘が起きるか分からない現状では一兵たりとも割きたくない、と言う司令部の意思が見て取れた。

恐らく、それだけでないだろう。

制圧下にある地域の防衛、補給路の確保、治安の維持を考えれば尚更部隊を割くわけに行かないのだ。

「大変な苦労を強いると思うが、これが最上の手段と思われる」

安藤は努めて表情を消しながら答える。

正直、自分たちの失態を特殊任務部隊に押し付ける形になるのだ。

しかも、彼等特殊任務部隊とて先行する以上は敵に補足、包囲、奇襲攻撃を受ける可能性もおおいにある。

それを考えれば彼とて断腸の思いであった。

だが、それ以上に有効な手段が無い以上は彼等に頼るしかない。

実はこの作戦は、ヘリで直接部隊を届けて接触、と言う方法も考えられていた。

しかし、上記の部隊を割けない事情と、進軍路の状況把握も必要であった。

そうなればヘリは支援に使うべきで進軍には使えないのだ。

何よりも情報が大事である、と言うことからも仕方ない話ではあったが、それをやらされる高橋からすればたまったものではない。

もっとも、幾ら嫌でもこれは北野だけでなく「防衛省」の許可の下に決まった事柄、つまりは「命令」であり「要請」ではないのだ。

当然拒否権などあろうはずがない。

その為、高橋は引き受けざるえない。

だが、だからと言って自前だけでどうにかできるものでもない。

未だかつて無い本格的な戦場に特殊任務部隊は臨むのだ。

綿密な事前準備だけでなく支援体制も確保せねば危険極まりないだろう。

「了解です。しかし、我々だけでは心もとないのは正直言って偽ざるところです」

ここで高橋は安藤に、やるからにはやるが、その為の条件を突きつけた。



「・・・しかし、それは・・・」

ここに来て安藤の表情が初めて崩れた。

予想もしない要求なのだ。

いや、長年自衛隊で働いてきた安藤であったが、前代未聞の話でもある。

「少なくとも、私たち特殊任務部隊は『何度も』そうしてきました。公式には認められないですがね・・・」

つまりは非公式であれば『出来る』程度要求なのだ。

だが、法的に考えるならば極めて危うい話でもある。

これが日本本国に伝わるだけならいざ兎も角、マスコミにバレた日には目も当てらない事になる。

自衛隊そのものが政治に関わることは許されないが、政治を完全に無視した行動もまた許されない。

日本のを、現政権を危うくすることは慎まねばならないのだ。

「少なくとも、既に何度もやっているならば幾ら同じ事をしようとやっていた事は事実です。今更無かった事にはできませんよ」

一度やったからには、やったことに変わりはない。

そう言っているのだ。

正直、安藤には受け入れられない話だった。

それが今までの常識であったからだ。

下手しなくても危ない橋ではある。

その意味では彼の判断では認められない。

「北野さんはこのことを知っているのか?」

思わず吐いて出た質問に、高橋は即答する。

「あの人が知らないはずないでしょう?」

この一言で安藤は北野と言う男に恐れを抱くことになる。



特殊任務部隊の駐屯地に帰ってきた高橋は即座に井上、佐藤、中田を呼び出す。

先程司令部で決定した南部への派遣の件を告げねばならないからだ。

集まった三人は「やはり」と言う感じであったが、特に反対は無かった。

井上や佐藤は前日のときはぼやいていたが、決まった以上は拒否など出来ないのを知っているからだ。

中田にしても、命令であるならば是非も無し、と言う人なので特に意見も無い。

「今回はほぼ全員で行くぞ。総員に明朝未明にはここを出ることを通達、準備を急がせろ」

高橋の命令に3人が敬礼で答える。

どの道やらねばならないのならやるだけのこと。

それがどんなに大変なことでもやる、それが彼等に課せられた任務だからだ。

「ああ、そうそう、井上!」

退室しようとする井上を高橋が呼び止める。

何か?と思った井上が振り向く。

「一応、司令部から装備の貸与があるから受け取っておいてくれ」

そう言って高梁は貸与されるであろう装備の一覧を手渡す。

それに目を通した井上の表情が一変した。

「・・・冗談だろ?」

ハッキリ言って特殊任務部隊のメンバーでそれらを扱った人員はいない。

居ないが物だけでもあれば任務の助けになるのは確かな品々であった。

「昨日のお前の一言のおかげだよ。あり難く使おうぜ」

楽しそうに笑う高橋に井上はなんとも言えない表情になる。

明らかに一部隊には過剰過ぎる装備だからだ。

だが、先日に聞かされた化け物の話から、これは最低限必要な装備であることは井上にも分かっていた。




ー特殊任務部隊駐屯地


「・・・こりゃ壮観ですね・・・」

佐藤が思わず呟く。

他の隊員たちも並ぶ装備の数々に思わず口をあけたまま呆然と立ちすくんでいる。

無理も無い話だろう。

今、彼らの目の前には銃火器、ではなく「重火器」と呼ばれるものがあるのだ。

ブローニングM2 12.7mm重機関銃、バレットM82 対物狙撃銃アンチマテリアルライフル、96式40mm自動てき弾銃、06式小銃てき弾。

更には自衛隊では使われていないはずのM72 LAW、AT4、M4カービンとそれに付ける為のM26 MASS、ベネリ M4 スーペル90。

これら装備が並んでいるのだ。

M2はまだ分かるものの、対物狙撃銃で装甲目標を打ち抜くことも出来るバレットM82や、てき弾、つまりグレネード弾をばら撒く事が出来る96式40mm自動てき弾銃や89式に装着して使える06式小銃てき弾は破壊力と言う意味では非常に高い。

更に恐らく外人部隊から調達したと思われるM72 LAW対装甲ロケットランチャーやAT4対戦車弾のような使い捨て重火器は城でも攻めるのか?と思わせるに十分だ。

そして、わざわざM4カービンとそれに装着して使うショットガンであるM26 MASSと、M1014として採用されたセミオートマチック機構のベネリM4スーベル90ショットガンだ。

一体何を相手にするつもりなのかと問いたい気分になるのは確かであろう。

井上からすれば対化け物用なのは分かっている。

だが、それにしてもこれで最小限とは思えなかった。

幾ら化け物でもショットガンがあればストッピングパワーは十分に確保できるはずだ。

また、ショットガンでは接近しないと効果は低いと仮定してのM2やM82はまだ分かる。

だが、06式小銃てき弾は分かるとしても96式40mm自動てき弾銃は明らかに過剰な火力だ。

なおかつM72やAT4などは対装甲用であるために火力という意味ではグレネード弾を使うてき弾とは比べるべくも無い。

こんなのは対化け物と考えても過剰ではないかと思えた。

だが、高橋にはこれでも最小限の装備にしか見えなかった。

与えられた任務の事を考えるならば、軽装甲機動車や73式中型トラックではなく、96式装輪装甲車などのキッチリと装甲を施した装備を使いたかった。

だが、整備の問題もあれば配備数がそれほど余裕があるわけでもないことから認められなかったのだ。

代わりに貸与された車両がブローニングM2重機関銃を運用する為の新73式小型トラックである。

これは簡単な防弾装備を施した三菱の市販車であり、装甲と言う意味では軽装甲機動車に劣ってしまう。

しかし、軽装甲機動車にはブローニングM2を乗せる銃架がなく、改造して付けれる様にする暇も無いために貸与された。

一々おろして設置するよりも車上から撃てるのは強みになる。

そのことから高橋は納得するしかないのだ。

「総員、出発までに積み込みなどの準備を終えるように。尚、幾人かはこれら貸与装備のレクチャーを井上曹長に聞く様に」

そう告げると高橋は宿舎内に入っていく。

残された隊員たちは即座に行動を開始していく。

何よりも迅速な行動こそが重要だからだ。



翌日未明、まだ夜も空けきらぬ内に彼等特殊任務部隊は駐屯地で仕事をする警備、事務方を残して全員が車両に分乗し出発を開始した。

途中、司令部に寄って人員を拾う予定をこなしてから南部へと向かうのだ。

そしてこの時、まだ高橋は任務の内容を告げていない。

任務の内容は南部に到着してから通達する事になっているからだ。

誰もがどんな任務に就かされるのか知りたかったが、隊員全員が共通して分かっていたが事ある。

決して他の部隊と一緒に戦う訳ではない、と・・・。

それをするよりもずっと過酷な任務が彼等を待っていると言うことだけはいえたのだ。

「要請に応えて頂きありがとうございます」

高橋は安藤にお礼を伝える。

二人の背後ではアイン、シャーリー、ミューリ、フェイの4人が軽装甲機動車に乗り込んでいる。

そう、高橋の要請は装備だけでなく彼等のような協力者の同行だったのだ。

交戦規定からすれば彼等は民間人の扱いである。

その為万が一の死傷は大変な問題になってしまうのだ。

更に彼等が戦闘行為に参加することも重大な問題である。

自衛隊員と違い、戦闘行動による殺人に法的根拠を持たせて正当化することができないのだ。

下手をすれば殺人罪で逮捕、起訴されかねなくなる。

それ故に安藤は高橋の要請に難色を示したのだ。

しかし、北野が全責任を負う、との話も本人から聞かされていた安藤はこの前代未聞の要請に応える他なくなっていた。

安藤からすれば苦渋の決断であるが背に腹は変えられないのが心境だったから、と言われてしまえばそれまでだろう。

また、まさか彼等が必要とするものを却下して任務に臨め、と言う真似は出来ないからだ。

それは司令部の失態を押し付けた形になった罪悪感があったのかもしれない。

「苦労をかけるがよろしく頼む。支援要請には即座に応えるから何かあれば連絡してくれ」

安藤はそう言うと、健闘を祈る、とだけ言った。

高橋がそれに敬礼で答えると安藤もまた敬礼で応えた。

「では・・・特殊任務部隊、出動!」

高橋の命令がまだ暗い中で響き渡り、そして彼等はシバリア市を出て一路南部を目指していく。

そんな彼等に任せたぞ、と呟く安藤の心境は複雑だった。

しかし、頼るべく存在は彼らしか居ない。

それを考えると彼もまた、最善の努力をする為に司令部へと向かっていった。


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