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第58話「夜間の奇襲」

ーーホドラー南部沖海上



ホードラー南部の都市、ディサントを一望できる海上に展開した海上自衛隊第4護衛隊群とおおすみ型輸送隊、そして空母ジョージ・ワシントンと揚陸指揮艦ブルー・リッジ率いる外人海軍部隊「第7艦隊」(艦隊呼称はそのまま使用中)は南部貴族連合に対する圧力も考えて、敢えて相手からも見えるようにしていた。

その艦隊は、上陸は翌日としており、この日はあくまでも顔見世としていた。

「やあ、これは観艦式並の陣容だな」

第4護衛隊群司令、佐竹さたけ 陽一よういち少将はそう呟くとディサントのある方向を望遠鏡で見る。

平地にあるだけに城壁があるかと思われたが、そう言った類のものはなく、港に関してもあまり整備されていないように見受けられた。

勿論、日本の様な港を考えていたわけではないが、出来れば揚陸する際にヘリを使うだけでなく直接接舷したかったのだ。

とは言っても、あくまでも出来ればの話であって期待はしてなかった。

「やはりエアクッション艇を使うべきでしょうね」

実際はエアクッション艇は使わないとされていたが、やはり物資の荷揚げには欠かせないのだ。

ひゅうが型ヘリ搭載護衛艦「いせ」艦長の木下きのした まなぶ大佐がエアクッション艇の使用をあげたのは普通のことである。

「仕方ないだろうな。今後に期待しよう」

佐竹はそう言うと第7艦隊のブルー・リッジに座乗するエドガーと連絡を取った。

その間に木下は全艦隊に停泊を通達し、第4護衛隊群隷下にある第8護衛隊4隻に警戒任務を告げた。

第4護衛隊群は2つの護衛隊が合わさって編成されているもので、合計8隻が所属している。

内訳は第4護衛隊に「ひゅうが型ヘリ搭載護衛艦DDH-182いせ」「はたかぜ型護衛艦DDG-171はたかぜ」「あさぎり型護衛艦DD-155はまぎり」同じく「あさぎり型護衛艦DD-158うみぎり」の4隻。

そして第8護衛隊に「こんごう型イージス護衛艦DDG-174きりしま」(正確にはミサイル搭載型護衛艦だが、ミサイルを積まない護衛艦は存在しないためイージス艦と称される)「むらさめ型護衛艦DD-105いなづま」同じく「むらさめ型護衛艦DD-106さみだれ」「たかなみ型護衛艦DD-113さざなみ」の4隻。

計8隻である。

このうち「きりしま」を旗艦として以下「いなづま」「さみだれ」「さざなみ」が夜間警戒に着く事になっていたのだ。

相手にも海軍戦力があると思われたが、現状で考えるに4隻で対応可能である、とされていたので問題はなかった。

ちなみに、イージス艦がよく艦隊の旗艦の様に思う人もいるが、基本的に護衛隊レベルでなら兎も角、護衛隊群以上であれば旗艦としての運用はされていない。

あくまでも艦隊の防空を担う艦艇なので指揮を執ることよりも防空そのものが主任務なのだ。

「艦長、やはり最終的な打ち合わせはブルー・リッジでやることになった。準備してもらえるか?」

佐竹が木下にヘリでブルー・リッジに向かうことを告げると木下は即座に準備をさせた。



ブルー・リッジに佐竹が降り立つ時には既に夜となっていたが、それでもエドガー本人が出迎えてくれていた。

「ようこそブルー・リッジへ」

そう言って手を差し出すエドガーの手を握り佐竹も「お世話になります」と告げた。

そしてそのままブルー・リッジ艦内の作戦指揮所へと向かう。

作戦指揮所では艦隊の情報、並びに現在偵察任務についているEー2Cイーグルアイから送られてくる情報を精査していた。

E-2Cは空母ジョージ・ワシントンに搭載されている双発プロペラ機で、早期警戒機となっている。

通常であれば対航空機、艦船の偵察、情報収集に使われるが対地偵察、情報収集ができないわけではない。

また、無人偵察機であるRQ-2 パイオニアをも使い更に綿密な情報を集めている。

「上陸は明日になりますが、最終的な手順と打ち合わせをしたいと思います」

佐竹はエドガーに向かってそう言うとエドガーも頷いた。

実際、既に作戦は決まっている物の、実際に現地では何があるか分からない。

そこで直前でのめん密な打ち合わせが必要になるのだ。

本当なら着いたその日のうちに作戦を行いたいが、現地の情報がどうしても不足してしまうのでこの様な体制をとることにしたのだ。

「相手の兵力は船舶は港にあるだけで8隻、小型のボートやヨットクラスであれば24隻を確認している」

本来なら佐竹が作戦を仕切るべきなのだが、エドガーの方が階級は上なのだ。

やはりそこは経験の多いエドガーに任せるべき、と考えた政府の指示もあり本作戦はエドガーの指揮で行われる。

そのため佐竹はその支援、と言う立場にある。

「空母ジョージ・ワシントンと第8護衛隊はここで睨みを利かせつつ、第4護衛隊以下輸送隊、そしてそちらの揚陸艦は明日にも陸路封鎖を行う、これは予定通りですかな?」

佐竹は決まっている予定をそのまま進めるために確認する。

エドガーもそれでいいと判断したが、先にここで相手の船舶だけでも叩いておきたかった。

しかし、流石にこれは佐竹が反対する。

民間船舶か軍用船か判断できないからだ。

向かってくるなら警告の後に撃沈だが、いきなり民間船舶かもしれない船を沈めるのは流石に拙い。

下手したら民間人の印象が最悪になってしまいかねなかったからだ。

「民衆の支持を得られなくなることはできるだけ避けねば戦後に問題を残します」

佐竹の一言に、エドガーは以前に考えたことを思い起こす。

(なるほど、此方の作戦遂行に悪影響があると分かってても目標は選ぶか・・・)

軍人として指揮官として効率的かつ合理的判断を求められてきたエドガーには新鮮な感じがした。

逆にその程度の制約を乗り越えられなくては軍人としての能力の限界を示すようなものなのか、と・・・。

実際、佐竹は別にそう言う考えは無い(国民、マスコミの反発を恐れた)のだが、そこは良い食い違いというべきだろうか?

二人の思うところは別々であった。




明日の作戦開始時刻に備え各将兵が休息を取るなか、闇夜にまぎれて接近する船舶があった。

ディサント侯の保有する私掠船だ。

闇夜では確認するのも困難だが、それでも夜間航行などは何度もやってきている。

それに月明かりから見ることができるのだ。

そうやってその視掠船「ガウデント」号はゆっくりと一番大きな船、ジョージ・ワシントンへと向かっていく。

「よーし、いいぞ・・・進路このままだ」

船長の一言に甲板に集まった将兵が手柄を立てんと声鳴き闘志を燃やす。

しかし、その彼等にしても接近するに従い、余りにも巨大な威容に固唾を呑む。

信じられない大きさだった。

彼らの乗る船がせいぜい30mなのに対して目標の船は10倍以上もある。

そう、まさしく10倍以上あるのだ。

ニミッツ級航空母艦の6番艦たるジョージ・ワシントンは全長333m、全幅76.8m、喫水線の高さは12.5mもあるのだ。

今彼等が乗るガウデント号が全長30m、全幅7m、喫水線が2mなのを考えると明らかに大きさが異常なほど違いすぎた。

果たしてこんなのに乗り込めるのか?と不安を抱くのも無理は無い。

しかし、接弦しロープを投げ込み乗り込めば勇猛なる彼等に敵うものなどない。

彼等はそう信じていた。

だが、その彼等に不運が襲う。

突然彼らの前方に信じられない速度で割り込む船があったのだ。

それと同時に左右も塞がれ、後方も遮断されようとしていた。

日本の海上自衛隊第4護衛隊群所属、第8護衛隊だった。

一斉に明かりを燈し、ガウデント号を照らし出す。

いきなりの上、闇夜になれた目には痛いほどの明かりだった。

そして前方の船より声が響き渡る。

『此方は日本国海上自衛隊所属、護衛艦「きりしま」である。そこの船舶は直ちに停船せよ。停船せぬば撃沈する』

未だ距離があるにも関わらず、彼らの耳にハッキリと声が聞こえてくる。

「な、なんだと!?」

船長は驚きの声を、船員や乗り込んでいた将兵は動揺している。

しかし、それでも止まるわけには行かない。

「全速だ!全速で接近しろ!」

船長の命令により我に返った船員たちが静かに接近するために落としていた船足を上げるために帆を降ろしていく。

その様子は護衛艦「きりしま」からもハッキリと見えていたのだろう。

再び警告が発せられる。

『停船せよ、しからざれば撃沈す』

ハッキリとした威圧的な声が響くが彼等はとまる積もりなく、そのまま「きりしま」めがけて接近を開始した。

こうなったからには目の前の船に乗り込んでやろう。

そう考えたのだ。

確かに空母ジョージ・ワシントンに乗り込むよりも簡単に乗り込めるだろう。

そうなればこっちの思い通りに出来る。

なによりも明かりを照らして来ても海上で使える飛び道具は命中率が悪い。

簡単に此方を沈めることなど不可能だ。と・・・。

彼らの考えは間違いではなかっただろう。

しかし、それはあくまでも従来の、この世界での「今まで」でしかない。

そこに気付けなかった、知りえなかったのは誰の責任でもなく彼等自身の不幸としか言えなかった。

突然、警告を発した『きりしま』から更なる言葉が飛び出す。

これは彼等に聞こえるように敢えてスピーカー(この時使っていたのは指向性大音響発生装置)を使ったのだ。

『撃ちぃ方ぁ・・・始め!』

その号令と同時に、前方を塞ぐ船「きりしま」から一瞬だけ光が発せられる、そして瞬きするほどの一瞬の後、彼らの乗るガウデント号の船首付近で轟音と共に何かが爆発した。

「きりしま」が放った127mm54口径単装速射砲はガウデント号の船首に命中したのだ。

その瞬間、ガイデント号の船首は粉々に吹き飛び、その辺りにいた人員諸共バラバラにしてしまった。

爆発が収まり、爆音と衝撃から立ち直った誰もが目を疑った。

喫水線辺りは無事だが、船首付近が無くなっており、そこにいた何人もの船員と将兵の姿がなくなっていたのだ。

「何が・・・」

誰もがそう思っていた。

何がおきたのか全く把握できなかったのだ。

船首を吹き飛ばした爆発の影響で甲板は無くなり、下2階層までもが見えるほどの被害だ。

そして、不運にも生き残った負傷者が助けと痛みから来る呻き声をあげている。

負傷者の中には腹が破れ内臓が飛び出しそれを必死にかき集めるもの、目を失ったのかフラフラと両手を前に突き出して辺りを彷徨うもの、そして失った足や手を探し回るもの。

そんな光景が眼前にひろがっており、それまざまざと見せ付けられた将兵の中には戦意を失っている者もいる。

こんな無残な真似が人の所業なのか?

多くの者はただの一撃で引き起こされた事に驚くよりも先に、自分たちが相手にしようとしている存在が途轍もなく恐ろしいものに思えていた。

『此方は日本国海上自衛隊、護衛艦「きりしま」である。停船せよ、しからざれば撃沈す』

先程の声が三度彼らの耳に飛び込んでくる。

ただし、さっきと違い威圧的にではなく、まるで頼むから止まってくれ、と言う様な雰囲気が感じられた。

だが、そんな物はガウデント号の面々には分からなかった。

ただ恐ろしい何かが自分たちに向かっている、それだけが彼らの感じたものだった。

「怯むな!突撃しろ!」

船長は何とか鼓舞しようとするも自身も恐怖を感じていた。

何せ月明かりがあるとは言っても、その中で正確に攻撃してきたのだ。

しかもそれは魔法で起こせる爆発とは全然違い、かなり遠くから攻撃できる上に細かい破片を辺りに飛び散らせて被害を拡大している。

勿論そこまでは分かっていないのだが、ただの魔法攻撃ではないのは分かっていた。

にも関わらず、彼には攻撃するしかなかった。

退路も既に塞がれている。

捕虜になればどうなるか分かったものではない。

今まで彼は私掠船の船長として行動してきた。

それが彼が行ってきた捕虜に対する処置、すなわち奴隷化が自身に降りかかると思ったのだ。

だが、それが彼らの運命を決定付けたと言える。

尚も止まらぬガウデント号に、「きりしま」は決定的攻撃を加えることにした。

いや、自艦の防衛の為にもせざるを得なくなったのだ。

既に距離はかなり接近され600mを切っている。

これ以上は危険だと判断した「きりしま」は127mm54口径単装速射砲、オート・メラーラ127mm砲を撃った。

その一撃はガウデント号に吸い込まれるように艦首付近の穴に飛び込み内部で炸裂した。

結果、ガウデント号は竜骨(キールとも呼ばれ木造船舶の船首から船底を経由して船尾へと伸びている)をも粉砕し、風船のように内部から破裂するようにガウデント号を破壊しつくした。

当然、乗っていた乗員で内部にいたものはバラバラに吹き飛ばされ、甲板にいたものも暗い海面に投げ出していく。

そして乗り込ん為に武装していた将兵は鎧を着たままであった為にそのまま沈んでいってしまう。

無事だったのは、ガウデント号の船尾付近におり、鎧を着込まない船員や、着ていても軽くて動きやすい革鎧の者だけだった。

それも海面に投げ出された者だけだ。

船内に居た者は大半があっと言う間に沈んでいくガイデント号に残されたまま暗い海中奥深くへと沈んでいってしまった。



結局、船員21名、将兵40名を持って行われた船舶による夜間奇襲攻撃は失敗し、生き残った船員11名以外は海の藻屑と消えた。

しかし、ディサント侯の私掠船艦隊にとっての本当の不運はこれからだった。

なにせ生き残りは皆捕虜になってしまい、報告するものが居なかった為に結果を知るすべが無かったのだ。

唯一彼等にわかっていたのは、ガウデント号の物と思われる破片や積荷、そして死んだ者たちの身体やその一部が海岸に流れ着いたことから沈んだ。

ただそれだけだった。

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