第4話「シバリア動乱~前」
シバリア市内を暗躍するファマティー教。
対する日本はその暴挙を抑えるために動き出す。
その結果にあるのは何か?
第4話「シバリア動乱~前」お楽しみください。
―――ホードラー シバリア市
カトレーアは自分に与えられた邸宅の庭で子供たちと遊んでいた。
先日に北野にファマティー教の事で相談した結果、護衛についている元近衛騎士で特に信用をおける数人にニューナンブと言われる五発式の拳銃が与えられた。
それと一緒に自衛隊の一部隊が近くの空き家を臨時駐屯地として陰ながら護衛してくれていた。
おかげでファマティー教の司祭や神官はあれ以来カトレーアの邸宅には来ていない。
しかし、漠然とした不安はまだある。
あくまでも警備に着いてくれてる元近衛たちに武器を供与してくれたり自衛隊の護衛がついても、彼等が何かを企んでいるのは事実だ。
もしこの邸宅にいる子供たちに何かあったら、と考えると夜も眠れなくなる。
だが、子供たちの前では顔には出さない。
出せば子供たちに不安を与えてしまうからだ。
だからカトレーアは常に笑顔を絶さなかった。
そんな風景を遠目にしている高橋たち特殊任務部隊は表向きには空き家の一軒を駐屯地にしていた。
この空き家は元は貴族の王都における居住地、日本で分かりやすく例えると江戸の藩邸だった。
ただし、貴族に王が貸し与える形式だったので今は国有地となっていた。
そこを駐屯地代わりにしたのだが、そこには高橋たち第1分隊と中田たちの第4分隊しかいない。
第2、3分隊は密かに別の位置からカトレーアの邸宅を守備していた。
「今のところ怪しい人物は確認出来ませんね」
部下の橋野茂軍曹が外からは見えない様に配置したカメラでカトレーアの邸宅を見ながら言った。
「油断するな。俺達が配置してから姿を現さなくなったと言う事は、連中も邸宅を監視していたと言えるからな」
高橋の言葉は数日間異常が無かったために緩みかけていた緊張感を引き戻すに充分だった。
「つまり、連中も警戒している、と言う事だな」
中田がコーヒーをテーブルに乗せながら言うと、それぞれがそれぞれの担当している監視カメラに集中しだした。
こう言う時に中田が高橋を立ててくれると一層効果がある。
「恐らく、今はテロリスト連中も俺らの規模やそれに類する情報を集めてるはずだ」
中田の淹れてくれたコーヒーを一口飲みながら高橋は自分の推測を述べる。
ファマティー教のテロリスト連中は諦めてはいないはず。
高橋はそう考えていた。
かつての世界で米国が常にテロリストの脅威に晒され、テロリストを完全に駆逐、もしくは抑えれなかった理由は、こちらが対策を立てればテロリストが諦めると考えていた事があげられる。
だが、テロリストはそこまで甘くはない。
やると決めたなら完全に計画が破綻しない限りあの手この手と形を変えてやるからだ。
ましてや、狂信者ともなれば犠牲をいとわずにやる。
故に油断は最大の敵なのだ。
「他の分隊にも注意を促しておけ」
その心配は要らないだろうが高橋は念のために注意を喚起しておくよう伝える。
相手の規模にもよるが、万が一にもカトレーアに危害を加えさせては不味い。
それだけは阻止しなければならないのだ。
―――シバリア市行政区
行政区はシバリアのみならず、日本が確保しているホードラー各地の中心として日々多くの人々が忙しそうに出入りしていた。
今日も今日とてレノン方面から難民に関しての問い合わせがあり、それによる暴動を警戒しての警備、食料、医薬品の手配があり少ない物資を必死にやりくりして何とか纏まった数を送り出すのに大忙しだった。
旧王国時代ではどんぶり勘定で済んでいた様だが、日本の政治体制はそんな生易しい物ではない。
緻密にして詳細に事細かく書類に正確な数字を書き込み幾つもの機関や役人の手に渡り、そしてようやく会議に出て結論を出した更にその後に詰めれるところを詰めて、また何人もの手に渡り漸く事が動く。
誠に複雑かつ面倒で時間がかかる。
だが、それ故に官僚と言う優秀な役人を揃えて国を動かせるのだ。
そして、今のホードラーはその官僚が本当に優秀な為に急速な変化をもたらす割には歪みが小さく、今までは虐げられていた民に自信と希望をもたらしていた。
これは独裁的とも言える北野の強硬な姿勢あればこそだが、おかげで役人たちも真面目に仕事をするので良い形にはなっていた。
いずれは現地の人々を登用し、教育と経験を積ませて自らの手で政治を行わせたいところだ。
その忙しい日々の中でも、一際頭を悩ませるものが北野の手に渡された。
「・・・武力蜂起ですか?」
北野の手には事細かな計画が書かれた手紙があった。
所謂、怪文書的ものだ。
だが、その内容は見過ごせるものではない。
「はい。この投書によれば近日中にこの行政区を制圧、カトレーア元王女を旗印に蜂起する様です」
秘書官の言葉に北野はあきれ返っていた。
「事実だとしたら蜂起しようとしてる連中は現実を見てない、知らないのですかね」
つくづく頭痛薬が欲しくなる。
「あくまでも信憑性があるだけで本当かどうかは分かりません。ですが、万が一のためにもそれなりの対策は必要かと・・・」
北野の様に的確に状況を分析し、対策が必要とした秘書官はこのまま秘書官で終わらすには惜しいと思えた。
「対策は必要でしょう。ただし、市内各地の警備においてです」
北野は如何なる手段を持っても行政区制圧は不可能だと思っていた。
それこそ自衛隊でも難しいと・・・。
それは自惚れや傲慢、油断ではない。
この世界では自衛隊並み、いや、下手するとそれ以上の力を持った警護が行政区にいたからだ。
「アーノルド少佐、と言うわけですが人員の配置を頼みます」
元在日米軍で現日本外人部隊のアーノルド・バスムーア海兵隊少佐は久しぶりの実戦に高揚感を得ていた。
「任せてください。我々外人部隊のお力を彼等に見せてやりますよ」
自信満々に言い放つアーノルドに北野は鈴木総理の手腕に脱帽する思いだった。
在日米軍は日本転移の際、帰るべき祖国を失った。
この世界で日本から離れて存在する事は不可能だった在日米軍は、鈴木との会談で外人部隊、つまり日本専属の傭兵部隊として存在していた。
しかも、鈴木は強力過ぎる米軍に危険な賭けまでしたのだ。
それは「この世界で米国を作るなら協力しますよ?」と言うとんでもないものだ。
しかし、その構成が軍事力に偏り過ぎて補給を日本頼りにしてしまう以上は今更独立した国を新たに立てるのは逆に危険だった。
そこで在日米軍司令官は在日米軍内で選挙をしたのだ。
画期的判断と言えるこの行為は在日米軍の実に9割以上が日本と生きる選択をしていた。
これは愛国心がなかったとかではない。
今でも帰れるならば帰りたいだろう。
だが、何ら生産性を持たない彼等が今後も生き残るには日本と歩むしかない。
その冷静な考えがあったからこそだ。
おかげで日本は在日米軍を日本国専属の外人部隊として雇い入れると同時に、米軍の持つ装備の詳細な情報と技術を得た。
これは補給の観点からも必要な事だったのだが、米軍は米軍で自分たちを売り付ける最高の手だと思っている。
その介あって元米国人は日本でも日本人と同様に選挙にも参加する資格が得られた。
初めは危険視されたが、共に手を取り合わなければならない関係となった以上は某外国人勢力の様な小賢しい事にはならない。
鈴木の賭けはこれだった。
もっとも、一部外国人勢力が「自分たちにも!」と主張したが、日本に何ら寄与しない者にそこまで優遇措置を取るほど鈴木は甘くなかった。
「自衛隊でも十分ですが、ここらで貴方たちにも活躍してもらわないと不公平ですからね」
北野の言葉にアーノルドは新たな祖国、日本に力を示せる絶好の機会と考えた。
「なに、奴等の心に我々に牙を剥く愚かさを刻みますよ」
如何なる手段を用いようとも自衛隊の様に優しくない、本当の意味での軍事力が日本にはあることを教育してやる。
アーノルドのこの思いは北野からすればある意味、彼等テロリストに同情をもたらしたかもしれない。
第4話終了です。
如何だったでしょうか?
随分前に「後程」と書いときながら放置してしまってた在日米軍を登場させれましたw
金食い虫の軍を増強した形になってますので日本の負担は大きく増えてしまいますが、下手にどっか行って脅威にするよりはマシな選択だったと思います。
さて、今回はココまでです。
また次回お会いしましょう。