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第50話「国内からの救いの手」

ーー日本国 東京 防衛省



防衛省では伊庭防衛大臣のもと、ホードラー南部海上封鎖についての議論が繰り広げられていた。

ホードラー南部は以前も出たとおり山岳地帯で、平地は南端の海岸線付近を中心に各地にわずかばかりあるだけだ。

そのため、食料の自給自足が極めて困難で8割方をホードラー中央部、東部からに頼っている。

これは平地が殆どなく、また農地に必要な河川が少ないためだ。

小さな河川は幾つかあるが、途中に森があったり、山が間にあったりで水を引くことが難しい。

結果、ホードラー南端の海岸線付近で細々と農業が行われているだけなのだ。

では、主な産業は?と言うと鉱山だ。

銅、銀、鉄、錫、鉛など、鉱物資源は幅広く算出している。

滅びたバジル王国も山岳地で、比較的鉱物資源を算出できるがその算出量、質、埋蔵量は段違いといえた。

結果として南部貴族連合は主な収入を鉱物資源の輸出に頼っており、中央へ収める税金を資源を売った資金で支払っていた。

だが、逆に今回の様な情勢になった時、その食糧生産量の低さが足かせになる。

ホードラー南部の総人口は元王城のある、現シバリア市に残されていた資料で見ると、正確な統計こそ無い(そもそも戸籍と言う概念さえ無かった)ものの、推定で11万人。

その内、約3万人が鉱山、もしくはその関係で生計を立てている。

ちなみに農業従事者は総人口の1割程度しかいない。

それ以外は家族だったり商人などと見られている。

ちなみにこの資料には10才以下の子供は全く考慮されていないもので、これがどこまで正確かは大いに疑問があるものだ。


それらの事から、国は滅んでも溜め込んだ資産や、算出する資源を売った資金を元に食料を他国から購入している。

この話は先日の小競り合いの時に捕虜にした者を尋問して得たものだったが、密かに派遣されていた「おやしお型潜水艦」の「いそしお」の監視結果で裏付けは取れていた。

この派遣に関してはベサリウス国と協定が結ばれる前に行われていたのだが、当時海上自衛隊は派遣には消極的だった。

と、言うのも海域の情報が全く無かったため、座礁を含めた事故を恐れたためである。

だが、結局政府の指示により押し切られた形で行われていた。

この調査で、ホードラー南部の海域はマラッカ海峡のような形状をしている物の、水深が最大で1200m(最も、測量を行っていないので推定ではあるが)にも達する深さがあることがわかっている。

また、対岸に位置する島(衛星写真で島と確認された)は日本本土の倍があることもわかっている。

ただし、内情に関しては未知のままであり、また、海域には大型の生物(詳細は不明。いそしおもソナーで発見はしたが接触はしていない)が生息しているためか行き来は無い。

では何処から食料を輸入しているのか?

これはまだ正確な情報ではないが、小さな半島が北西部にあり、そこから輸入しているのでは?と考えられた。

国名はホードラー王国の残した資料によるとトラストバニア王国といい、かつては小国だったが近年に勢力を伸ばし、宿敵だった半島北部のレアルトバニア王国(約20年前までは南北に分かれていた)を打ち破って吸収しており、大国とは言えなくとも中堅国家となっている。

そのトラストバニアは産業に力を入れており、農業も幅広く行われて一大経済圏を持った国だ。

ホードラー南部との付き合いも長いようなので、そこからの輸入が一番可能性が高いと推測された。


さて、その食料補給路だが、沿岸(比較的浅く、大型の生物が来れないところ)を使った海路と、海岸線を通る細く長い街道(殆ど整備されていないが)も陸路、この両方がある。

侵攻の際に行われる上陸、及び橋頭堡の確保はこの陸路の出口付近と言うことになるだろう。

そして、海路は海上自衛隊と外人海軍部隊による封鎖になる。

この両方を封鎖せねば片手落ちになり、相手の戦意を奪うのは難しくなるだろう。

それを踏まえ、派遣する艦艇は慎重に選ばなくてはならない。

海上の封鎖は勿論、陸路を封鎖した部隊の支援も同時に行わなくてはならないからだ。

そうなると護衛艦だけでは難しく、おおすみ型輸送艦は勿論のこと、ヘリコプターを数多くそろえられる艦艇が必要になる。

外人海軍部隊の第7艦隊に空母はあるが、垂直離着陸出来るヘリコプターは第51軽対潜ヘリコプター飛行隊第3分隊のみのため、危急の時は数が足りなくなる。

もっとも、外人海軍部隊もエセックス級強襲揚陸艦を派遣するのだが、やはり数がある事に越したことはない。

そのため、ひゅうが型ヘリ搭載護衛艦を含む護衛隊群を派遣することになっている。

問題は何処の護衛隊群を出すかだ。

現在ひゅうが型ヘリ搭載護衛艦を保有する護衛隊群は2つある。

第1護衛隊群と第4護衛隊群だ。

しかしここで問題となるのは、東京の守りに付いている第1護衛隊群は動かすのは難しいだろう。

そして戦略予備的扱いの第4護衛隊群で問題はないのか?だ。

もっとも、既に結論は出ているともいえた。

第1護衛隊群は動かしたくても動かせないのだ。

その理由は、第1護衛隊群は別名「広報の1群」とも呼ばれており、最新鋭艦艇の配備が早いと共に、国民への公開展示などを行うことが多い。

そして、現在の日本の状況では国民の不満を和らげるための行事が予定されていたのだ。

こればかりはいきなりキャンセルは難しい、と言うよりも無理がある。

そうなると第4護衛隊群しかない。


そして、ここまで結論が出れば後の問題は補給だ。

片道で1週間、状況によっては多少前後するだろう。

その距離であればそれほど問題が無いように見えるが、燃料が問題になる。

民生を優先してるのもあり、自衛隊への割り当てはどうしても少なくなる。

最近ようやく灯油やガソリンが出回り、市民生活もよくなっている中で民生から削るわけには行かない。

仕方なく、国内に残る海上自衛隊の割り当てを削ることにする。

とは言っても当然、大幅には削れない。

そんなことをすれば訓練や哨戒など、必要な行動が取れなくなってしまう。


しかし、この問題は意外な形で解決することになる。




「よろしいのですか?」

伊庭は再度確認するように尋ねる。

今、伊庭の前にいるのは日本の石油エネルギー関連をまとめる石油連盟会長、大隈おおくま 茂久しげひさだ。

「国難とも言うべき事態において悠長にし照られませんでしょう。我が石油連盟加盟企業全社は自衛隊に対しての燃料の提供をする用意があります」

大隈はそう言って、石油連盟に加盟している企業の署名を手渡した。

「しかし、民生、つまり国民に渡るべき分は受け取れませんよ?今が大事な所なのです」

喉から手が出るほど欲しいからと言って飛びつくほど伊庭は軽挙ではない。

何故大隈、いや、石油連盟がこの様に出たかを見極めなくては、後でとんでもない利息を吹っかけられかねないからだ。

しかし、伊庭の想像に反し、大隈はそんな素振りは見せなかった。

「とんでもない!我々はお国でやっていた備蓄政策のおかげで多少の蓄えがあります。民生に廻しつつも、自衛隊へ提供する分は残っております」

そう言って大隈は現在の石油関連企業の状況を説明する。


原油を発見、採掘を開始したことにより、その生産量も着実に上がっている事から国内は息を吹き返しつつある。

その上で、原油の月産量、そして国内、及びアルトリアやホードラーなどの大陸での使用量を差し引くと確かにまだ足りない。

だが、ここで鈴木が転移前に行った備蓄政策が生きてきていた。

日本の転移が起こりえると予測した鈴木が行った備蓄政策で、石油関連は思ったほど備蓄が集まらなく、絶望的とさえ言われていた。

だが、政府の行った備蓄政策以外にも、彼等石油関連企業、所謂「石油連盟」は独自に備蓄を開始していたのだ。

それは海外での紛争などで原油輸入が困難になったり、価格が高騰する事を想定したものではあったが、そのかいもあってそれなりの備蓄が出来ていた。

また、今の原油の月産量が少なくとも、今後の月産量向上が見込めることから、国内備蓄を上手く廻すことにより破綻を来たさぬ様にできる。

現在の産出量と消費を計算した上で備蓄を廻せば最大で6ヶ月は問題なく民生に廻しつつ、消費にも対応できる。

この話を聞いた伊庭は正直なんと言えばいいのかわからなかった。

企業が政府に指示された備蓄以上に原油を確保していたのはうれしい誤算だが、逆に見れば政府への報告が虚偽であったとも見れるのだ。

それが早い段階で分かっていれば、今まで燃料の問題で頭を悩ます事もなかった、いや、軽減できたであろう。

だが、大隈たちの考えも分かる。

いつ、原油がどうなるか分からない中での企業としての予防努力、リスクマネージメントとも言えるからだ。

また、最初から分かっていればどうだったろうか?

湯水の如く使う選択肢は無くとも、国民はまだあるからもっとだせ、となっていたかもしれない。

あくまで結果論ではあるが、それが良い方向に結果が出ているのでは責めることは難しい、いや責められない。

「・・・正直、色んな言いたいことはありますが・・・」

伊庭は机の前から歩み出て大隈の手を握る。

「助かります。これでこの国は救われる!」

内心複雑な思いがあるが、伊庭にはこう言うしかなかった。

勿論相手も企業家だ。

当然見返りを求めてくるだろう。

しかし、大隈は見返りなど要らなかった。

それは、アルトリアでの原油採掘に自分たちを使ってくれたことと、将来的にその採掘権の民間への委譲が確約されているからだ。

ある意味、先に恩を受け取っているのだ。

ここで返さねば企業人として恥にしかならない。

何も企業は利益だけを求めているのではない。

ちゃんと恩には恩で応えるし、義理には義理で応えるのだ。

そして大隈は企業家として辛辣な人物であると同時に、義理堅い人物でもあった。

今回の為に内密に備蓄したものを供出するように各企業を説得までしている。

「後はお国次第です。この日本を滅ぼすも、復活させるのも・・・」

大隈はそう言って伊庭の前から去っていった。



伊庭の報告を聞いた鈴木や伊達も、大隈の話には複雑な思いがしていた。

だが、これほどありがたい話も無い。

「これで南部平定の問題の一つが解決したな」

伊達は何とも言い難い心境ではあったが、一定の目処が立ったことは心配の種が一つ無くなったことになる。

それは諸手を挙げて受け入れるしかない。

「確かにな。増産も順調のようだし、原油の問題は予定外のことがない限り解決した、と見ていいだろう」

鈴木も安堵の表情だ。

後は南部平定がどれだけ短時間で終えられるか?

これが最大の問題だった。

これが長々と時間をかければ、幾ら燃料の問題が解決しても資源問題は解決しないのだ。

石油製品による代用も可能だろうが、やはりそれだけで全てが解決するものではない。

閣僚からは「南部平定を止めてもいいのでは?」と言う意見も出たが、元々鉱物資源の確保と、ゴムなどの天然資源の確保が目的なのだ。

止めることは出来ない。

「少なくとも湯水の様に、とは行かなくとも自衛隊の展開には問題がなくなったな。これなら北野君の謀略と合わせられたならば短期でけりをつけられる」

勿論油断は出来ないし、短期で終わらせる努力はすべきだが・・・と伊達が言った。

鈴木はそれに頷きながらも、短期で終わらせる為に食料補給路である海上封鎖を行うことに不安があった。

それは南部貴族連合だ。

万が一、備蓄が十分であるならば、そこを叩かなければ相手の戦意を奪えない。

また、よしんば成功したとして、南部に住む民衆も苦しめることになる。

それが日本に禍根となりえるのではないか?と思ったのだ。



だが、どちらにしてもこの鈴木の不安は後に裏切られることになる。

この時の鈴木は貴族と人間の多くがどう言った存在なのか?

それを知らなかったのだ。

日本に取っては良い結果になるのだが、その時になって鈴木は王族、貴族といった物に不信感を持つことになる。

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