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第49話「外人部隊」

ーー日本国 横田飛行場



元在日米空軍司令部、現外人空軍部隊司令部のある東京都多摩地域の横田飛行場。

現在ここで陸海空揃っての緊急の会議が行われていた。

陸軍部隊からはクラーク・D・バーミンガム少将、海軍部隊からはエドガー・フィッチャー中将、そして元在日米軍総司令だった空軍のドナルド・A・フィールド中将が一堂に会している。

本来であればエドガーが全部隊の総司令として立たねばならないのだが、元々部隊の維持管理が在日米軍司令部の役割で、作戦指揮権はホノルルのヒッカム空軍司令部が行っていた。

しかし、今回の日本転移によってヒッカムとの連絡は遮断され回復は最早望めない。

そうなると維持管理が目的の司令部では今後の活動に支障をきたす事が想定できたので元在日米軍各軍の司令官が協議で行動を定めることになった。

当初は空軍司令が全体の責任者ではあったが、自分たちで独自に作戦指揮権を行使しなければならなくなったために、苦肉の策として定められた方針だった。

そして、今回の会議の議題は「ホードラー南部への侵攻」だ。

本当ならもう一人、海兵隊からハウザー・ロビンソン海兵隊中将が出席すべきなのだが、本人が海兵隊全軍を持ってバジル王国攻略に向かっており、未だ現地より帰還していない。

既に急遽打ち上げられた通信衛星を使っての衛星通信で会議に出席してもらおうとしたものの、本人より「現地より動けないので参加するだけ無駄になる」と言って拒否されてしまっていた。

これは、本来なら問題なのだが、陸軍のクラーク以外皆中将であると言うのが災いしていた。

如何に在日米軍総司令だったドナルドでも、直接の命令権を持たない為におきた事だろう。

なにより、海兵隊は「誇り高き少数精鋭」を自負しており、より上位の命令以外はあまり聞いてくれないのだ。

とはいえ、日本から要請(命令と言うべきだが)で、南部攻略の為に部隊派遣をしなければならない。

ハウザーの不参加があっても協議して決定しなければならない事がありすぎた。

「さて、我が第7艦隊を出すのはいい。しかし、現地が山岳地帯というのが気にかかる」

エドガーはそう言って現地の衛星写真を見る。

そこには2000m級の山脈が連なっており、南部貴族連合の敵陣地と思わしきものが見当たらない。

それもそのはずで、この世界の陣地とは砦や城砦を持った街などであるため、現代の知識しかない彼等には判別がつかないのだ。

中世など過去の戦訓を学ぶ機会があっても、まさか現代でそれを実際に目の当たりにするなど思えるはずがない。

陸軍のクラークも衛星写真を見てしかめっ面を隠そうともしなかった。

「たしかにな。現地の地図も無い、状態もわからない、環境もわからないではな」

クラークはそう言って衛星写真を机の上に投げ捨てる。

ほとんど現地の情報がないのだ。

これで戦えと言うのは無理だろう。

情報とは軍事においては基本中の基本なのだ。

それがこんな状態では基礎からやり直せ、と言いたくもなる。

「そうは言うが、この世界では情報さえまともに手に入らん。衛星写真でも事前にあるだけマシなほうだ」

ドナルドも内心は同意見でも、現地帰りの自衛官から聞いた話があるのでこの状態も仕方ないと思えた。

何より、この世界では地図さえまともなものは無い。

あってもデタラメとしか言えない代物で、当然測量も無いので目的地への距離、方角、位置関係何もかもがいい加減なのだ。

最悪なものになると、大きな都市であるにもかかわらず記載が無いものさえあった。

「これでよく自衛隊は戦えたな」

本気で感心してしまうクラークだったが、これには現地の人の協力があったからだ。

アルトリアに逃げ込んだ難民、そして歩を進めて行く先々の住人の案内など、必要な情報を現地で獲得していたから可能だったのだ。

これは、意図してそうやったのではなく、お人よしといえる日本人の性分と、現地に被害を与えずに現地人を慰撫して回ったことが功を奏した結果だ。

「しかも見てくれ」

エドガーは別の衛星写真を二人に見せる。

そこには道らしきものと、本来ならありえない物が写っていた。

「なんだこれは?」

そう言ったのも無理らしからぬといえる。

そこに写っていたのは、数人の人影らしきものと、その人影よりやけに大きく写った人型の何かだった。

「・・・これは、モンスターとでも言えばいいのか?」

ほかに形容の仕方を知らない。

そう言った感じでドナルドがつぶやく。

それはオーガと呼ばれる食人の化け物であり、最大で3mにもなる体躯と、それから繰り出される豪腕を誇る生き物だ。

それ故に、馬などが使い難い荒地や山岳地帯で人の代わりに使われることもあった。

気性も荒く、油断すると一撃で命を奪われかねない。

そんな存在なのだ。

「・・・本当に物語の世界のようだな」

何とも言えない微妙な空気が会議室を包む。

だが、ここをどうにか確保しなければ彼らもまた日本とともに滅びることになる。

「日本政府も頭を悩ましているようだが、少なくとも相手は人間であるのは代わりない。しかも俺達の時代より数百年前の装備の原始人だ」

聞く人が聞けば問題だ、と騒ぎかねない発言だったが、正面切って戦うなら負けることはないとクラークは思っていた。

問題は、相手が正面切って、つまり「決戦」に乗るかどうかだ。

彼等とて自衛隊との戦いで痛めつけられた分、それなりに対策は練るだろう。

それがどの程度のものか?ぐらいは把握しないと作戦も立てようがない。

今までは決戦に相手が乗る、もしくは挑んできたからこそ圧倒できた。

しかし、逆に決戦から逃げられ、ゲリラ戦術を取られれば負けないにしても泥沼に引き釣り込まれてしまう。

それこそベトナムの再現になってしまうのだ。

「我が海軍は海上自衛隊と共に海上封鎖、及び陸上の支援だが、陸軍と空軍はどうするのだ?」

エドガーは海軍で出来ること出来ないことを理解している。

だから日本政府から渡された大まかな作戦の概略から自分たちに与えられる役目を直ぐに理解していた。

「どうするも何も、空軍は補給物資の空輸ぐらいしか出来んよ」

情けないことだが、空軍の動かせる対地支援機が可能な航空機はF-16C/Dしかない。

だが、予備部品や整備を考えるととても出せるものではない。

これでは十分な稼働率を確保できず、円滑な対地支援が望めない。

それならば整備や予備部品が確保しやすい自衛隊の航空機に任せるしかないのが実情だ。

現に航空自衛隊はF-4EJ改ファントムⅡ40機、F-2を20機、合計3個飛行隊60機を展開する予定だ。

F-4EJ改に関しては日本国内で稼動状態にある前期を持ち出していると考えられる。

しかし、問題もある。

幾らなんでも精密爆撃が可能かどうかはハッキリいってわからない。

一応、そのための装備や訓練はしている様だが、その精度まではやってみないことには分からないのだ。

「陸軍は海軍と共に南部の海上封鎖、そして上陸しての橋頭堡確保だな」

クラークはそう言ってコーヒーに口をつけた。

南部の敵地に上陸、これは正直言ってかなり危険な任務になるだろう。

何より万が一の退路が無いのだ。

いざとなればヘリでの脱出も考えられるが、やはり心理的に退路がないと言う状況になる。

相手の規模にもよるが、綿密な偵察による敵の動向把握が重要になるだろう。

「こんな時にこそ海兵隊の出番だと思うんだがな」

ドナルドはバジル王国への攻撃に出撃していったハウザーが恨めしく思えた。

あの時のハウザーは強硬にして譲らずで埒が開かない状態だった。

おそらく自分たちの地位確立の立役者になりたかったのだろう。

それは分からなくも無い。

しかし、南部に対する具体的な行動案が出てくるに従い、本来陸軍に任せるべきことを海兵隊が掻っ攫って行ったことは後悔するしかない。

だが、短時間での強襲、制圧はたしかに海兵隊ならではの芸当だ。

それを考えると仕方ない事なのだとも思えてくる。

「やれやれ、せめて補給だけは欠かさないようにしたいものだ」

クラークのぼやきはこの場の全員が同様に感じていた。





ーー日本国 横須賀 外人海上部隊旗艦ブルー・リッジ



第7艦隊の旗艦である指揮揚陸艦ブルー・リッジに帰ってきたエドガーは疲れた表情を見せた。

正直言って南部攻略は難しいの一言に尽きたからだ。

険しい山脈と深い森、そして未知のモンスター。

どれを取っても脅威になるだろう。

勿論、第7艦隊最強の攻撃力を持つ空母ジョージ・ワシントンの航空機を総動員すれば、相手の手出しできない空から一方的に攻撃が出来るだろう。

その攻撃力は1隻でちょっとした国なら焦土に出来るぐらいだ。

しかし、それを持ってしても出来ないこともある。

地上の制圧だ。

こればかりは陸軍、と言うよりも歩兵にしか出来ない。

海軍はそのお手伝いぐらいしか出来ないのだ。

相手を圧倒するのと、相手を制圧するのでは訳が違いすぎる。

「せめて相手の拠点が分かればやりようもあるのだが・・・」

エドガーの呟きは、日本が未だに南部貴族連合の拠点を把握できていないことへの不満があった。

未知の世界でそれを言うのは少々無理を言っていると分かってはいる。

しかし、分かっているのと納得しているのとは別問題だ。

相手の拠点、出来れば戦力が集結しているところを空爆するだけで陸戦の援護と言う意味では大きい。

物資集積所もあれば尚いいのだが、それを把握するには今打ち上げられている衛星だけでは無理がある。

今、日本がこの世界で打ち上げている衛星は通信用と観測用だけであり、偵察衛星は含まれて居ない。

観測用とて衛星写真を撮る分には何とかなるが、あまり精密なものまでは無理があった。

今回撮れた衛星写真も、無理をして搭載した超高精度カメラによって何とか撮れたもので、そのために衛星の寿命は短い。

今まで本格的な偵察用軍事衛星を持たなかったゆえの弊害だ。

もっとも、それを責める事は出来ない。

むしろ良くやっている方だと言える。

これが米国だったならどうなっていたか?

しばらくは持ちこたえられるのは確実だ。

しかし、大量消費構造の米国では、いずれ持たなくなる。

その時は日本と同じ選択をするだろう。

しかし、日本と同様に統治が出来るか?と言う問題にぶち当たる。

残念ながら、占領地としての軍政はできるだろう。

力で押さえつけて従わせるならば・・・。

しかし、日本のように現地の人々の支持を得つつ、インフラを整え、協力関係を作り、発展させる力は無い。

いや、あるのだろう。本当ならば・・・。

しかし、その概念が日本と比べることも出来ない領域なのはたしかだ。

それはアフガニスタン、イラク戦争後を見れば一目瞭然だ。

敵を作り続けてきたのもあるが、米国は反感ばかり買い日本は尊敬を得る。

その差を明確に見てきたのだ。

その日本が未だに情報を揃えきれないところを見ると、米国なら出来るとはいえない。

現地の協力者を得ながらにして未だ情報を得られないのは日本の責任ではないのだ。

「このままでは初戦はともかく、その後が続かないな」

その後はどうなってしまうのか?

ベトナムの様に泥沼化するのか、それとも・・・?

そこまで考えてエドガーは頭を振る。

それは政府の人間が考えることであり、軍人である彼の領分外だったからだ。

最悪、日本がこれに失敗したならば、ホードラー南部の上に、地上の太陽を生み出すことになるだろう。

それだけはエドガー自身避けたい選択だった。


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