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第48話「南部へ向けて」

ーー日本国 東京 総理官邸記者会見



鈴木が国会で奮闘した翌日、伊達は内閣官房長官として各マスコミの前にて現在の日本の状況を報告していた。

これは以前より考えられていた物で、南部侵攻が提案された時から準備していたものだ。

その時から鈴木たち閣僚は、今回の様な突き上げがあることを予想していたのだ。

これで国民に現状を認識してもらい、その上で南部侵攻の必要性、そして協力をしてもらうことを目的としている。

もっとも、協力というのは別に武器を持って戦え、とか政府の決定に従え、ではない。

最終的に国民が困窮しないための行動と言う事を理解してもらうだけでよい。

そお考えから隠していた、と言うより公表できなかった資料をも公開するに踏み出したのだ。

ただし、当然問題もある。

この厳しい状況に絶望し、自棄になることも考えられる。

下手をすれば混乱がおき暴動もおきかねない。

また、やはりどんなお題目を掲げても侵略には違いないのだ。

当然、これでも理解してもらえずに国民が反鈴木で大騒ぎにもなりかねない。

しかし、やらないわけには行かなかった。

やらずに断行し反発されてしまえば国内が纏まらずにやはり混乱を生み出す元凶になるだろう。

また、かつての大日本帝国の様に、後世にまで影響を与える問題にもなりかねなかった。

もちろん公表したからといってそれが防げるとは思えないが、少なくともまだマシな状況には出来ると判断されたのだ。

「・・・では今回の行動は必要だと仰るのですね?」

記者の質問に伊達はうなずく。

「はい、ここでホードラー南部を平定しなければ資料が示すように日本は日干しにはならなくとも困窮することになります」

普段と違い穏やかなしゃべり方をする伊達ではあったが、性に合わないむず痒さがあった。

だが、これも仕事のうちと割り切っているのも事実だ。

「しかし、武力侵攻と言われても仕方ないのでは?軍国主義の復活と危ぶまれてますが」

先ほどとは違う記者が質問をぶつける。

それに対し伊達は眉をひそめた。

「質問の前には社名と名を名乗ってからにしていただきたい」

転移前から、記者の質の低下があったが、いい加減にして欲しいという思いがあった。

本来、報道に携わるものは質問する際に社名と自身の名を出すものだ。

特に規定はないが、それが礼儀として慣習化していた。

「・・・失礼しました、毎朝の真鍋です」

伊達の一言に不満を露にしながらも彼は一応名乗った。

その様子に不愉快な思いが込み上げてくるが、そこは我慢して質問の内容に答える。

「たしかに武力侵攻といえます。しかし、軍国主義は行き過ぎですな。何も軍事を政治の主導に持ってきてはいないのですから」

伊達の言葉を説明すると、軍国主義とは政治の主な手段として軍事が存在し、軍事を優先して決定が下されるものを言う。

何も軍事行動をするから軍国主義とはならないのだ。

逆に民主主義とは民衆が主権を持って政治を動かすことを言うのであって、議会があるから民主主義、とはならない。

ただし、この場合、議会なくして政治を行うことは難しいので民主主義の国には議会がある。

ちなみに議会制民主主義は近代になってから確立した民主主義の形態であり、現代では此方が民主主義の代名詞にもなっている。


「つまり、致し方ない行動だと?」

伊達の答えに記者が納得できないといった様子で更に質問を重ねてくる。

「はい、まさか国民の皆様に困窮してくださいとはいえませんからね」

そんな伊達を幾つ物フラッシュが浴びせかけられる。

何度経験してもこれだけは慣れない。

「朝読の中村です。南部平定が日本にとってのベトナムになりかねませんが?また憲法第9条に違反することになります。それはよろしいのですか?」

この懸念は政府にもあった。

南部は山岳地帯だ。

如何に日本の自衛隊が山岳になれていても、未知の山岳地帯に行くのだ。

装備の問題から隊員の健康状態、食糧事情などの問題は尽きない。

相手が中世の装備だから楽に勝てる、と考える方がおかしいのだ。

剣や槍、弓矢と言った装備は確かに時代遅れな武器だが、人の命を奪うのは十分過ぎるものでもある。

また、使いようによっては銃と違い単純な構造であるためにブービートラップ(馬鹿者がかかる罠)に転用しやすいことや、環境による故障などはない。

「たしかにベトナム化の恐れはありますが、そこは実際にベトナムで戦った元在日米軍と緊密に連絡を取り、自体の複雑化を防ぐ段取りをします」

伊達はそう答えると直ぐにもうひとつも質問に答える。

「憲法違反との話ですが、これには当たらないと考えます。根拠といたしまして、南部貴族連合を名乗る集団は厳密に考えても国家ではなく武装勢力です」

伊達の言葉どおり、現在の日本の法や、以前の世界での国際法に照らし合わせても彼等南部貴族連合は国家ではない。

たしかにこの世界で言えば国家なのかもしれないが、日本から見れば国として成り立っていないのだ。

あくまでも自分たちの権益を守る上での、日本という脅威に対する身内の集まりでしかない。

国交も無く、国家でもない上に武装した集団を指す言葉は『武装勢力』にしかならない。

武装勢力が収める土地は何処の国でもないので厳密に言えば『侵略』にもならない。

あくまでも平定、もしくは鎮圧である。

そのため、憲法第9条にも違反しない、と鈴木たちは判断していた。

「一応時間なのでここらで区切りますが、後日改めて国民の皆様に情報を公開しつつ説明したいと思っています」

伊達がそう仕切ると記者たちは一斉にマイクを向けて矢継ぎ早に質問を向けてくる。

しかし、伊達はそれには取り合わずに会見場を後にした。




「これで国民が納得してくれれば良いがな」

総理執務室で茶を飲みながら伊達がこぼした。

正直言って、マスコミが変に煽らないか?が最大の懸念だ。

しかし、済んだ以上は後戻りは出来ない。

「国会も与党の若手から造反の動きがあります。近々内閣不信任案が出されることになりかねません」

阿部は若手を中心に押さえが利かなくなりつつある現状を告げる。

敵は外だけでなく内にも潜むもの、と言うが、足を引っ張る味方ほど恐ろしい存在は無いだろう。

事実、この状況下に解散総選挙を望むことが如何に危険かを理解してないものが多い。

「現在の日本の状況を冷静に見れば楽観など程遠いと分かるものだがな」

阿部の話に伊達も思わずため息が吐いて出る。

そんな二人に鈴木は苦笑いを向けるしかない。

「とは言ったものの、動き出したからには止められん。大陸の自衛隊の方はどうなってる?」

伊達の言葉に伊庭が答えた。

「現在予定の8割までは準備を完了してます。ただ、向こうに派遣している北野が内部の切り崩しに動いてるようで、もう少し時間が欲しいとの連絡をうけてますね」

事の詳細を収めた資料を伊達に手渡す。

それを見ながら伊達はそんなまねが出来るのか?と疑問があった。

「まあ、彼も失敗を前提にしてるから、うまくいけばめっけもん程度に考えるべきだな」

先に資料を確認していた鈴木がフォローを入れた。

正直言えば越権行為なのだが、基本的に総督扱いで全権を委任している。

そのため北野の決定についてアレコレ言えないのだ。

だが、このままにしておくことも無理だろう。

既に北野に権限がありすぎるとして問題視する声が出ているのだから。

いずれは正式な権限の分譲、割り当てが必要になるだろう。

「非常時が続いているから今は仕方ないが、あいつも少々やりすぎだな」

今回のことだけにかかわらず、幾つもの事柄で越権行為といえる独断専行があった。

しかし、どれも有益なので黙認してきたが、流石にそろそろ引き締めねばなるまい。

「本人もそれは分かってのか若手でも良いから内地よりもっと役人を出して欲しいと・・・」

北野の上司である加藤がそう答える。

本来なら日本からもっと人を送って、現地の状況を確認するとともにホードラー、アルトリア両地区を統治し、円滑に開発を進めるべきなのだ。

だが、今までは危険があることから志願制にしていたのが祟っている状況になっている。

その問題を北野一人に押し付けている状態が続いていた。

とは言うものの、いい加減何とかしなければならないのも事実だ。

大分落ち着いてきたのもあるので、思い切って志願制をやめて任命制にする時期になってきたのかもしれない。

「その件については南部の平定が住むまで待った方がいいな。ただし人は送るべきだ」

鈴木はそう結論を出す。

今は大鉈を振るうべき時では無い。

今の状況をよくする為にも必要なのは、船頭多くして舟山登る状態ではなく、いざとなれば即断即決できる独裁者なのだから。



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