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第3話「暗躍する者」

順調に見える日本による統治だったが、その水面下ではその統治を受け入れられない者達がうごめいていた。

それに対して日本が取るべき道は限られていたが・・・。


第3話「暗躍する者」お楽しみください。

シバリア市内に密かに存在するファマティー教の地下神殿。

いま、ここにはシバリア市が日本の都市になった頃より、日本とは相容れないものたちの拠点となっていた。

その中に指導者として一人の司祭がいた。

「カーン様、ロシュアン枢機卿より書状が届いております」

指導者のカーン・クラリアンは書状を受けとるとそれを読み出した。

暫く読んでいたカーンは書状を焼き捨てた。

「枢機卿は中々に役者だな」

書状が灰になりその内容はカーンの頭の中にしかない。

「ロシュアン枢機卿は何と?」

神官の一人が尋ねてみた。

ロシュアンと聞けば実質現在のファマティー教の教皇を越える最高と言える権力者だ。

その権力者からの書状となれば興味を持ちたくもなる。

そんな神官にカーンは一言で答える。

「知らなくてよい」

うむを言わさぬ眼光で興味本位に書状の内容を聞いてきた神官を射ぬく。

神官はカーンの迫力に顔を青ざめた。

「如何に枢機卿と言えども我々のやることに干渉させるつもりはない」

そう言うとカーンは今後の計画を再び話し出した。

「我々は予定通り日本を内から破壊する」

計画が書かれた書類とシバリアの地図を前にカーンは地図に示された印を指差す。

「まずはカトレーア王女の確保、後に各地に潜伏する同志を蜂起させる」

印のある箇所は迎賓館(現カトレーア邸宅)とシバリア北部の官庁街だ。

シバリア市内には自衛隊は駐屯していない。

郊外に仮設宿舎などを建てているだけだ。

「後に中央市街とその他を遮断する。それにより日本軍の行動を抑え、その間に日本の主要人物を捕らえるのだ」

要はカーンの計画はカトレーアを確保して大義名分を手に日本の役人を含めた北野たちを捕らえ、人質にして日本に要求を通そうとしているのだ。

典型的なテロリストの思考だが彼等にとって、これは神の御心を示す行為と信じてやまなかった。

ただし、彼等は一つ大きな間違いを犯していた。

日本はテロリストと交渉はしない。

また、北野は装甲が施された車両を使っていたので、簡単に捕らえられる状況にないのだ。

また、カトレーアにしても元とは言え近衛騎士たちがいる。

しかも最近は護衛の為の装備を日本から認められ所持しているのだ。

はっきり言って彼等が信仰を頼りに蜂起しても追従する民はいない。

むしろ逆に日本に協力しようとするだろう。

それだけにかつての王家(一部を除く)や聖職者が行ってきた搾取と高圧的な態度、行動は憎まれているのだ。

それを判断できるだけの多様性を日本は示してきたが故の結果ではある。

ここに来て一般民衆の中に自分たちを一人間として、身分や立場に関わらず平等に見る日本に寄せる信頼感は計り知れない。

カーンや彼等神官はそこを理解出来ずにいたのだ。

「カーン様、日本が要求に応じねば如何なさいますか?」

ミラ・カーマインはカーンの計画は希望的観測の元に作られている様に見え、日本が自分たちの要求に応じなかった場合を考えるべき、と言い出した。

「我らが要求を呑まぬならば、異端者や異教徒どもを皆殺しにするまでだ」

カーンは崇高な使命を果たさんとする自分に酔っていた。

例え敗れても殉教者になれると信じて疑わなかった。

「しかし、信者もいるかと思われますが?」

ミラはこのままでは破滅が待っていることをカーンの様子から理解できていた。

ミラは信仰心厚いが、教会が唱える信仰のあり方には疑問があった。

神がそう言った、とされている訳ではない。

かつての教皇が神託を受けたとして広まった新しい教義なのだ。

故に彼は旧ファマティー教聖書をいまでもよく読んでいた。

「異教徒どもを野放しにしている信者などは背教者だ。何も躊躇する必要はない」

カーンはそう言ってミラの発言を抑えた。

ミラは自分の言葉が届いていない事を知ると最早信仰は信仰としてあるのではなく欲望を叶える手段に成り下がっているのを理解した。


(こんな今のファマティー教を見たら始祖たるファマティー様は何と言われるだろうか?)


嘆きしかもたらさない今のファマティー教にミラは悲しむ事しか許されなかった。



―――ホードラー地区シバリア市


ホードラー地域各地を巡回していた高橋政信たかはしまさのぶ少尉を隊長とする特殊任務部隊はシバリア自衛隊駐屯地へと帰還していた。

何度も旧王国の残党と言うべき野盗を制圧してきた故に望む望まぬ関係なく今一番実戦経験が豊富な部隊となっていた。

その経緯のため、人員は最小限に止められてはいたが、今では小隊として50名へと増員していた。

「隊長、各員整列しました」

第一分隊を自ら指揮する高橋は第二分隊を預かる井上康二いのうえやすし曹長から報告を受けた。

普段は陽気で砕けた感じの井上だが、流石に場は弁えていた。

「ん、今行く」

高橋は報告を聞いてから立ち上がった。


整列する特殊任務部隊総勢50名は高橋が姿を現すと一斉に敬礼する。

高橋は答礼しながら隊員たちの正面にたった。

高橋の前には井上率いる第二分隊、第三分隊を率いる佐藤一樹さとうかずき曹長、そして隊員の状態を最良に保つ為の衛生班とその護衛で構成された第四分隊を率いる中田信次なかたしんじ大尉と隊員たちがいる。

思えば初めてこの地に来てからたった数ヶ月でここまで来てしまった。

だが、日本と国民を守るべき立場にある自衛官がその両者を守る為に戦えるのだ。

後悔などあるはずがなかった。

「小隊長訓辞!」

井上が声をあげると高橋は隊員に呼び掛ける。

「本日シバリア市に帰還したが、数日後にはまた任務がある。だが、それまではゆっくり休んでくれ。以上」

長々と話す気にならない高橋は短く簡単に挨拶する。

「総員小隊長殿に敬礼!」

再び井上の号令が響き、全員が高橋に敬礼を向けた。

何度やられても慣れないむず痒さに正直辟易としていたが、これも自衛官の給料のうちと思うようにしていた。

「解散!」

井上の号令に全員が漸く気を緩めた。

高橋が硬い人物でないのは救いだが、それでもこうしてキッチリやらねばならない。

ましてや、これが終わるまでは任務が終わらない。

逆を言えばこれが終れば任務も終了なのだ。

「高橋、飲みに行かね?」

ヘルメットを脱いだ井上が高橋の首に太い腕を回しながら言う。

「あのな、お前らは良いだろうが俺はこれから報告書書いて出さないと駄目なんだよ」

高橋は半眼になりながら言った。

隊員たちが休日なら隊長も、と思うだろうが意外にそうでもない。

何より任務後であるので隊員たちが休んでいるときでもやる仕事があるのだ。

だから高橋はここのところ休みがほとんどなく働きづくめだった。

「幾らなんでも働き過ぎだ」

仕事中毒ワーカーホリック気味の高橋に井上は呆れたように言った。

高橋は高橋で休みが欲しいとは思ったが、まさか報告書出さないで遊ぶ訳にも行かない。

「晩には顔出すよ」

それだけ言うと高橋はシバリア市自衛隊駐屯地の建物に向かった。



報告書を書いた後、使用した弾薬などの書類と補給の申請を行って仕事から解放された高橋は自衛隊の溜まり場となっている酒場に向かった。

この世界の酒場は現代日本の飲み屋などと違い、一階は酒場や飯処で二階は宿屋となっている。

もっとも、一階が酒場では煩くて寝れない気がしないでもない。

また、この酒場は自衛隊が溜まり場にしてるだけあって自衛隊を目的とした商売が少なからずある。

中には風俗まであったが、これは日本から来てる頭の固い役人による規制によりこの辺りからは撤収していた。

なのでどうしても、と言うなら少し離れた風俗が集中する商業地区裏に行く必要がある。

ちなみに、この世界での娼婦はそれなりに地位が認められており一般的に存在する。

ただし、やはりと言うか裏で犯罪組織と手を組む売春宿もあり中々摘発を難しくしている。

とは言え、流石に自衛隊相手に犯罪行為を行えば物理的に叩き潰されかねないので組織の方も手を出させない様にしている。

以前は娼婦を使って自衛隊から情報を引き出さそうとしたり、持ち物を盗もうとする組織が少なからずあったが、北野の判断で「物理的」に組織を壊滅させていた。

おかげで犯罪組織は自衛隊を触れてはならない存在としている。

ただし、自衛官からもたらされる缶詰めなどの外に漏れても困らない品物は普通に貰えたので、何時でも美味しく食べられる品物としてホードラー以外の国や地域では高級品扱いで取引されていた。


溜まり場まで来た高橋は井上たちを探して店を覗いて歩いていた。

その時、やけに騒がしい酒場を見つけ確信を持って入って行った。

「いよ~う隊長殿~」

目敏く高橋を見付けた井上が声をかける。

すっかり出来上がってる仲間たちを見て苦笑いしながら高橋は仲間たちの席に来た。

「ご機嫌だな」

一体どれだけ飲んだのか分からない有り様だ。

何せ日本の居酒屋と違って空になった食器等を下げてくれるサービスは無いのだ。

結果、テーブルの上には食い散らかした残骸がところ狭しと並んでいた。

一応、料理を運んでくれる人(大抵女性)に頼めば下げてはくれるが、言わない限りは下げてくれない。

これは風習の違いで、頼まれないのに食器を下げたりするのは失礼になるからだ。

「注文は何にしますか~?」

注文を鳥に来た女性にエール酒、と言うと女性は「はいは~い」と言いながら奥に下がっていった。

接客にうるさい人なら怒り出しそうだが、そもそもそこまで細かい概念があった訳ではない。

ましてや飲んで騒げれば何でも良い人間が集まるのだ。

そこら辺は適当にもなるだろう。

「全く、うちの隊長殿は仕事人間すぎるよな~」

飲み過ぎにしか見えない酔っ払いになっている井上に水を渡す。

「ちょっとは酔い醒まししろ。絡み酒には付き合わんぞ」

高橋はそう言うと周りを見た。

基本的に出来上がった自衛官だらけだが、この辺りの商人等も出入りしているらしくチラホラ姿が見えた。

「佐藤も止めろよ」

思わず文句を佐藤にぶつける。

佐藤はこの状況であっても平然としていた。

実は佐藤、この中では一番飲んでいるのだが、基本的にザルなのだ。

普通の人が潰れるぐらいの酒では全く変化しない。

「嫌ですよ。酔っ払いの相手なんかしたくありません」

キッパリハッキリと断る佐藤になら飲みに来なけりゃいいのにと思いながら高橋は運ばれてきたエールをあおった。



ちなみにエール酒とは元の世界にもある。

エールはビールの一種で大麦麦芽を使用し酵母で発酵させホップで味を整えた飲み物だ。

ビールと違い冷やさなくても美味しく飲めるので一般的な酒と言えばエールが流通している。

これが進化、と言うか洗練されてビールになるのだが、それにはまだ時間がかかりそうだ。



「まあ、俺も嫌だがな」

高橋は佐藤の答えににやりとすると空いた皿を片付けて貰った。

「で、次の任務は?」

佐藤は既に内容を知っているであろう高橋に聞いてみる。

とは言っても高橋は直前まで言わないのだが、今回は違った。

「・・・シバリア市内に潜伏する不穏分子を叩く」

こっそり声を潜めて言う高橋の様子から極めて重要な任務であると伺えた。

「それと、任務に伴いあの子に協力を要請したよ」

高橋の言葉に酒でグダグダになっている隊員たちの目が妖しく光った。

「なん・・・だと・・・?」

「・・・この人は・・・」

「また俺達の心を抉るのか・・・?」


あまりの異様な様子に高橋は椅子から立ち上がろうとした。

だが、その肩に何者かの手が置かれ高橋の行動を阻んだ。

「な!?井上!?」

高橋の抗議に井上はとても良い笑顔で一言だけ告げる。

「死・ね」

語尾にハートが付くように言うとそれを合図に隊員たちが高橋に群がった。

「一体・・・何なんだぁ!」

高橋の悲鳴が夜のシバリア市内に響き渡った。


お待たせしました。

第3話終了です。


題名とはちょっとズレた気がしないわけでもありませんが・・・。


気にするな。気にしたら負けだw


と言う訳で第4話に続きます。

ここから事態は急加速していく・・・予定ですw


ではまた次回でお会いしましょう。

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