表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/82

第46話「南部への謀」

レオナルドがシバリア市に来た日の翌日、シバリア市行政区へと呼び出される事になった。

王城を拠点として使っていない事は驚きだったが、レオナルドに対する扱いにも驚くべきものがあった。

正直言って囚人のように扱われるものと考えていたが、日本は彼を囚人ではなく賓客として扱っていたのだ。

そこからレオナルドは自身の考えとは違う、別の思惑があるのではないか?と考えるようになっていた。

そんなレオナルドの下に姿を見せたのは北野だった。

お互いに自己紹介すると、椅子に座る。

レオナルドはどんな考えがあって自分を呼び寄せたのかが気になっていた。

そして、同様にシバリアを一手に引き受けて開発を推し進める北野に、同じく内政に携わるものとして興味がわいていた。


「早速ですが、あなたにお願いしたい事があります」

しばらく無言だったが北野が用件を切り出す。

お願いしたい事、と言われても現状のレオナルドは命令される側であってお願いを受ける身ではない。

一体どういうことか?

「実は私どもは南部貴族連合を名乗るものたちを相手に戦争せねばなりません」

北野の口から出てきた言葉はレオナルドを驚かせる程のものではなかった。

ホードラー王国を滅ぼしたのは彼等日本だ。

その日本がホードラー王国の所領を得ようとする事に不思議は無い。

「それ自体は勝って終わるのは目に見えてますが問題がありまして・・・」

戦う前から勝利を確信するなどありえないだろう。

しかし、レオナルドは北野がそう言う事に不思議は無かった。

なにより、グラナリアでの戦いを見るに、それだけの力を有しているのは間違いないだろう。

戦う前から勝敗を云々するのは間違いではあるが、そう言ってのけるだけの物が日本にはある。

「正直言って時間をかけたくありませんし、わが国の自衛隊、あなた方風に言うならば軍に犠牲をだしたくありません」

これは北野の正直な気持ちが入っていた。

先の勝ち負けは北野にとってもやってみなければ分からない話だ。

しかし、負けるかも、と言うことをは口にすべきではないのだ。

だが、時間をかけたくない、犠牲を増やしたくない、これらは北野、いや日本にとって偽らざるべき本心といえる。

「そこで提案です」

前置きもそこそこに北野は本題を話し始める。

正直、時間的猶予は限られているからだ。

今、こうして話す時間だって惜しい。

それでも時間と犠牲を減らせるなら無駄にはならないと思っていた。

「貴方は南部の人々にも顔が知られているそうですね?そこで南部で話が通じる方を此方側に引き込んでいただきたいのです」

どこから調べだしたのか分からないが、レオナルドは日本の情報収集能力の高さに舌を巻くしかない。

たしかに、レオナルドは南部に顔が利く。

それは元々レオナルドが南部出身だったからだ。

南部の東側に位置するレオナルド男爵領の三男として生まれ、バジル領のフリーマン家に婿養子としてだされていたのだ。

フリーマン家は爵位を持たない貴族、つまり平貴族の家で、バジル子爵家に代々仕えていた。

もっとも、フリーマン家は彼の大で終わりになるのは明白だ。

何せ彼は妻と子を流行り病で亡くして居たからだ。

何処からか養子を得るかしなければ断絶になる。

だが、彼自身は断絶してもいいと考えていた。

養子に出される側としては、かなり苦労する事が分かっている。

あくまでも家の存続のために、直系の跡取りが出来るまでの繋ぎ役にすぎないからだ。

それならいっそ、終わらせてやろう。

そう思っていた。

「たしかに私は南部にも親しい間柄の者は少なくありません。しかし、私は婿養子として出された身です。お役に立てるかどうか・・・」

ハッキリ言えばこれは危険な発言でもある。

そうとは知らなかったとは言え、フェイがレオナルドの身の安全を得るために北野と戦ったのが無駄になりかねない。

しかし、北野もそこは織り込み済みで、駄目で元々、と言う北野には珍しい博打をやっているのだ。

「そうかもしれませんな。ですがやれるだけやってもらいます。それで駄目ならその時は力でねじ伏せるまでです」

実際はそんな事はしたくないのだが、そう言うしかない。

「もし、引き込みが出来れば、その分無駄な戦争をしなくて済みますからね」

あくまでも手間を減らす事でしかない。

そう言っているのだ。

その北野の様子から、実際にやりかねないと言う感じがレオナルドにはしていた。

「・・・見返りはなんですかな?」

敢えて俗っぽく報酬を要求してみる。

レオナルドはそれの多い少ないで決めるつもりはないが、報酬次第でやると言う姿勢を見せれば真意が見えてくるのでは?と考えたのだ。

「見返り、ですか?何がいいですか?」

北野はそんなレオナルドに試されている事が分かったのだろう。

レオナルドの要求する報酬に、何でも良いと言わんばかりの態度だった。

「なんでしたら領土でも持ちますか?」

この世界では領地を与えるのが報酬の基本なのだろう。

北野はそれに則って提案してみる。

だが、レオナルドは領土など欲しい訳ではなかった。

妻も子も無くし、国も失った。

しかもフェイまでも失ったのだ。

これからは静かに余生を送るぐらいしかないのだ。

「本当に何でもよろしいのですか?」

念を押すように北野に言う。

これで何でも良いと言うなら逆に信用できない。

死ぬ事は覚悟の上だが、何でも良いとは逆に「与える気があるのか疑わしい」からだ。

「いい、とは言えませんね。私の首ぐらいなら幾らでも差し上げますが、それ以上に死人をよみがえらせろといわれても不可能ですからね」

流石に北野もレオナルドの考えが読めていた。

だが、同時に相当な人物であるのも分かっていた。

一歩間違えれば、北野の方がやり込めかねられない。

それだけの思惑を持って発言しているのだ。

「たしかにそうですな。ですが、ご自身の首を賭けるはやめた方が宜しいのでは?」

忠告にも似たレオナルドの言葉に北野は笑う。

「なに、私程度の人間であれば日本には腐るほどいますから」

これを北野を知る人物が聞いたならば、皆一様に「嘘だ」と断じるだろう。

だが、そう言う事で代わりなど幾らでもいると思わせた方がいいのだ。

「なるほど、分かりました」

レオナルドの分かったとは報酬についてではない。

北野の覚悟の程が分かったのだ。

(己より公を優先するのか・・・)

北野の本質に気付いたレオナルドは自身と似た物を感じた。

「私に出来る事なら微力を尽くすとしましょう」

レオナルドはそう言って北野の提案を受け入れた。

北野としてはまだまだ時間がかかるか?と思われたが、意外にもレオナルドがすんなりと受け入れたので驚きがある。

「そうですか、それはありがたい。で、報酬はどうしますか?」

自身の驚きを隠すように敢えて話を戻してみる。

しかし、今度はレオナルドが笑いながら答えた。

「いえ、見返りは結構です。事が済めば静かに暮らさせていただけるならそれで」

何も残されていない故の悲哀だ。

「そうですか、ですがどちらにしてもわが国は見返りを用意させていただきますよ?功あった者が評価されないのでは色々問題ですからね」

北野はそう言うと話をつめに掛かった。


結局、レオナルドは殆ど単身で南部に乗り込む事になった。

下手に護衛を連れて行っても逆に警戒される可能性があったからだ。

また、日本の側に着く貴族の所領を安堵するとともに、不可侵条約を結ぶ事も飴として用意することになった。

これは、一種の独立を認める事になるが、ベサリウスの例もあるので認めないわけにはいかないだろう。

その上で日本の統治を受け入れる、もしくは庇護を必要とするなら応じる事が決まった。

とは言っても、それは戦争が終わった後の話であり、戦時中であるならば自領は自らの手で守らねばならない。

守れ無いとなれば余裕がある限りは一時的な援軍も考えるが、恐らくその必要は無いかもしれない。

誰か一人でも日本側に着けば、成り行きで組み込まれていた貴族が水面下で動き出すだろう。

また、それによって内部に疑心暗鬼を呼び起こし、それぞれが協力せずに自領の守りに徹する事もありえる。

勿論、蓋を開けねば分からないが、レオナルドとの話し合いで今よりはずっと楽になる見込みが出てきたのは事実だ。

最終的な結果はレオナルドの手腕如何にかかっている。

それを考えれば重責も重責だが、レオナルドに気負いは無い。

北野からしても駄目なら別の手段を講じるだけだ。

かかる元手は殆ど無かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ