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第45話「呼び出し」

ーバジル地区グラナリア


元バジル王国領は正式な統治者が決まっていない状態とは言え、名称をバジル地区と改めていた。

日本外人部隊とベサリウスの混成軍の前に半日で陥落したものの、一般民衆は普段と変わらない日々を送っていた。

街の損害は小さく、幾つかの箇所で崩落した建物などはあるが、それ以外の民衆に対する被害は抑えられたと言える。

そのため、民衆の占領軍に対する印象は悪くない。

今まで使っていた公共設備、つまりインフラも破壊されておらず、その為領内には大きな混乱は起きなかった。

一部バジル軍部隊が抵抗、もしくは野盗化したものの、占領軍として残る海兵隊により瞬く間に鎮圧されていた。

本来ならレオナルドを頂点とした治安維持に当たる部隊があるのだが、武装解除されており市内の治安維持さえ出来ない有様だった。

そのため、海兵隊が要所に立ち、治安を守ると同時に賊の報あらば即座に部隊を派遣しこれに当たっている状態だ。

もっとも、占領軍総司令ハウザーとしては何れはシバリアに帰らねばならないだろう。

南部攻略の話がある以上、世界各地の紛争地帯で戦った経験を持つ海兵隊の力は必要になる、と考えたからだ。

故にハウザーの希望としてはベサリウスにこの地を押し付ければいいとさえ思っていた。

確かに領土やそこに眠る資源は魅力的だろう。

しかし、日本は日本の持つ許容範囲限界を既に超えている。

南部を求めるならここは引き渡した方がいいのだ。

管理しきれない領域を抱え込んでも碌な事にはならない。

それは歴史が証明している。

ローマ帝国に然り、モンゴル帝国に然り、オスマントルコに然り、そして日本に然り・・・。


それらを考えるにアルトリア、ホードラーだけで精一杯なのだ。

この上、資源目的で南部攻略をせねばならないのは仕方ないにせよ、小さくともバジル地区を得ても管理できないだろう。

それぐらいは政治に疎いハウザーにも容易に分かる事だった。

しかし、南部攻略で地位向上を狙うハウザーには頭の痛い問題もあった。

一部海兵隊員の無秩序な行動である。

乱暴狼藉を働くものが出るたびにMPを送り出し、拘束し、迷惑をかけた人々に謝罪と見舞いを送らねばならない。

このままではまたイラクやアフガニスタンの二の舞だろう。

日本政府からも特に注意せよ、と言明されているのに、これでは外人部隊の地位向上どころではない。

幹部を集め監視体制の強化を命じたものの、やはり祖国と切り離された鬱憤や将来への不安が響いているのであろう。

中々収まらない。

今のところは此方も下出に出ているから民衆の感情も悪くはなってない。

だが、このままではいずれゲリラを発生しかねないのだ。

「元合衆国軍人の誇りはないのか・・・」

ハウザーは頬杖をつきながら溜息を漏らした。

コンスタンティで見た自衛隊はそんな事は一切しなかった。

捕虜にさえだ。

それと見ていると自分の部隊の統制が乱れている事が酷く目立っている。

「最悪、軍法会議を開いて処刑もやむを得んかと」

参謀の言葉に、異世界に放り込まれて、限られた同胞を手にかけるのは気が進まない。

しかし、秩序を回復させるためには見せしめも必要ではある。

「問題を起こした奴は後方におくりこめ。犯罪者としてな・・・その上で日本と対応を協議するとしよう」

単に問題を先送りしただけの事だが、限られた将兵をいたずらに消耗させたくは無い。

刑罰を与えて懲りてくれる事を祈るより他は無かった。

「略奪、暴行、またはそれに類する違法行為は厳重に取り締まれ。この地でベトナムやイラク等を再現しては外人部隊の今後に関わる」

ハウザーの言葉に参謀はただ頷くしかなかった。


そんな状態でもレオナルドはバジル地区の内政に尽力していた。

ハウザー等海兵隊の事は気になるが、今のレオナルドに出来る事は内政しかない。

自分達は負けた側であるならば仕方ない、と言うのがこの世界の常識だったからだ。

負ければ略奪や暴行は甘んじて受ける。

それが今までまかり通ってきている。

特に兵士たちにとってはそれも従軍した報酬の一部だからだ。

その為、戦争の後は悲惨なものである。

いたるところに打ち捨てられた遺体。

燃える建物。

乱暴される女性たちの悲鳴と怨嗟の声・・・。

そう言ったものが戦場跡にはあるものだ。

それから考えれば遥かにマシだろう。

その意味では民衆もまだ我慢できる領域にあるのだ。

勿論、限界あるだろう。

だが、彼等が生きてきたこの世界の常識からすればまだいい方だった。


そんなレオナルドの下にシバリアへの召喚礼状が来たのは、王国滅亡から2週間ばかり経ったころだった。

「日本からシバリア市への召喚?」

唐突な事態にレオナルドは何故いまなのか?と考えた。

バジル地区は既に落ち着いており、不穏分子もなりを潜めている。

ベサリウスからの衛士も僅かなれど派遣されている。

今後は、占領軍に従いつつ、地区内の内政を維持するに止めるだけ。

それらならレオナルド以外の無い生還でも出来る事だ。

「・・・そうか、時が来た。と言う事か・・・」

自身の王を殺害した事と、王不在である以上は最高責任者として裁きを受けねばならない事・・・。

それが来たと考えていた。

本来ならここで自決するものだが、自分が自決すれば別のものにそれらが向きかねない。

「最後の責任を果たすとするか」

それだけはさせてはならない、と覚悟を決めると身辺を整理する。

遅かれ早かれ、こうなる事は分かっていた。

それが今来ただけの話だ。

何も恐れるものは無い。

なにより、妻も子も当の昔に亡くしたレオナルドが、我が子の様に育て、見守ってきたフェイの下にに行くのだ。

何の躊躇いがあろう。

レオナルドはそう思っていた。


しかし、そのレオナルドの覚悟は、幸か不幸か全く無意味なものになる。




ーホードラー地区シバリア市


召喚礼状がレオナルドの下に来てから3日後。

レオナルドは幾度と無く足を運んだかつての王都シバリアに足を踏み入れていた。

だが、そのレオナルドもかつての賑わいを凌ぐ活気には驚くより他は無かった。

「なんとも・・・凄いものだな」

賑わいを見せる町並みを日本の車と呼ばれるものから眺める。

バジル王国滅亡の時に見せつけられた空飛ぶ乗り物、ヘリと言っていた物に乗せられてシバリアに来たのも驚きだった。

だが、それ以上にシバリアには驚くものばかりだ。

数は少ないが車と呼ばれる馬車とは違う乗り物が走り、街角には何の意味があるのか分からない柱が立ち並び、その柱には何やらロープが張り巡らされている。

また、夕方で薄暗いにも関わらず街はランプや松明など比べ物にならないほど明るい光。

それが至るところで見られるのだ。

そして、最も驚いたのが匂いだ。

以前のシバリアでは汚物を溜め込む場所が各地にあり、なんともいえない不快な臭いが何処に居ても感じられた。

だが、今のこのシバリアではそんなものが無い。

一体どうやってこれを成し遂げたのか?

内政家一筋でやってきたレオナルドからすれば、これから死に行く身であっても知りたいと思えることだった。

試しに、駄目で元々と思い監視に着いてきた兵士に聞くと、まだ完全ではないものの下水と呼ばれる管が地中に埋められており、それを通って汚水は離れた処理施設に集積、処理されていると言うのだ。

「生活水管と似た構造なのか・・・」

レオナルドの言う生活水管とは、要は水道管のことだ。

下水と呼ばれるものはその技術をそのまま汚水用にしたものと考えた。

最も、その生活水管、つまり上水道も整備されなおしており、以前と比べても安定かつ清潔な水が供給されるようになっている。

日本は各地の都市を開発するに、使える物は手直ししつつそのまま使い、そして必要なものから優先的に開発していた。

その為、水道、下水、電気と言った順で整備が進められている。

シバリアだけで見れば、水道は市内のほぼ100%が、下水は70%、電気は50%の割合で普及している。

今後は経済的生活水準が向上すれば、それに伴う税金などの徴収が行われる事になる。

もっとも、それはまだまだ先の話になるだろうが・・・。


そんなシバリア市内を抜け、レオナルドは行政区へと入っていく。

そして、そこで思いがけない再会を果たす事になる。

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