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第43話「フェイの戦い」

会議室に残っていたのは北野と高橋、そして、問題の大きさが浮き彫りになった事で忘れ去られていたフェイの3人だった。

捕虜の身で口は挟めぬと思い黙っていたが、正直どうにかしてほしいとフェイは願っていた。

しかし、その願いは聞き遂げられなかったようだ。

北野と高橋は向かい合うように座って話を続けている。

溜息を吐きたいのをこらえて、フェイはもうしばらくそのまま部屋の隅っこで立ち尽くすほか無かった。


「正直言って参りましたね」

北野が弱気な発言をするのを見たとき、高橋は本当に困っているのだと思った。

いままで北野はどんな状況であれ跳ね除けるだけの気力と覇気があった。

今はそれらが見えない。

日本の状況をかんがみれば時間が惜しいのは分かる。

しかし、時間をかけない様に動くと今度はいざという時の対応が殆ど出来なくなる。

それらを考えると、流石に北野でも気力が萎えるというものだ。

「・・・自分に出来る事はありますか?」

高橋が北野に助力するために提案したが、北野は首を振った。

「いえ、今回はあなた方の出番はありません。南部攻略には参加させるつもりがありませんから」

北野はそういってやんわりと提案を断った。

高橋たち特殊任務部隊に与えられている任務内容と、今回の南部攻略は合わないのだ。

実戦経験豊富な部隊でも、大規模な戦闘の経験自体は少ない。

ましてや、特殊任務部隊はある意味、大規模な隊から戦力を動かさずに済むような小規模の問題などに対処する部隊だ。

それこそ本当に細々とした事柄に対応する部隊として作られている。

今回のような大規模かつ、広大な領域を活動範囲にするには高橋たち特殊任務部隊では手が余る。

「現状、これは政府首脳と防衛省、そして実働部隊である自衛隊そのものが関わる話です。あなた方の出る幕はありませんよ」

少しでも手が必要なら、解体して組み込んでもいいだろう。

焼け石に水でもないよりマシなのだから。


しかし、その為に組み込んで、ほかの事を置き去りには出来ない。

他の事の中には民衆に関わる事もありえるからだ。

また、最近おとなしいファマティー教のことも気になる。

その動向が全く無くなっている事が不気味でしょうがない。

また良からぬ事をたくらんでいると考えて備えなくてはならないのだ。

「いやはや、これでしばらくは安泰、と思ったのですがねぇ・・・それ以前の話になりましたか・・・」

本来外交官であり、現状行政官、ある意味で総督みたいなものだが、そう言った立場にあるだけに南部攻略はやらねばならない事であるのは認識していた。

しかし、まさかそれがここまで困難だったとは流石に読めなかった。

「ふう、どうにか寝返らせたり切り崩したり、果ては分裂させれないものですかねぇ・・・」

実力行使が難しいなら謀略で対応するしかないと考えていた。

流石に謀略を実行する事など出来る人材は居ない。

こればかりは高橋たちには不可能な領分だ。

「どうしたものか・・・」

北野から溜息が漏れる。

そのときだった。


「私に手伝わせてもらえないだろうか?」

突然の言葉にその声の主を見る。

そこに居たのはフェイだった。

「私の養父は南部の貴族にも顔が利いている。もしかしたら力になれると思うが?」

フェイはそう言って北野を見る。

しかもレオナルドのことをちゃっかり養父と言っていた。

正直、このままただ待たされるのは嫌だ。

しかも、聞いてはならないだろう話を聞かされてしまっている。

これは日本側の落ち度だ。

だが、だからと言って見逃してもらえるものではあるまい。

だからこそ、フェイは敢えて声を書けることにした。

そして、勝たねばならない。

フェイに取って一世一代の勝負が始まった。


そんなフェイを見た瞬間に北野はしまった、と言う表情をしていた。

「・・・居たのですか・・・これは、拙い話を聞かせてしまったようですね」

北野の声のトーンが下がる。

忘れていたのは失態だ。

だが、聞かれた以上は放置も出来ない。

フェイの提案があったが、このままにしておく事は出来そうになかった。

北野の雰囲気が一気に険悪なものと変わるのをフェイは肌で感じていた。

北野の事は文官のようなもの、と聞かされていたが、身にまとった空気は文官のそれではない。

歴戦の戦士のそれに酷似していた。

しかし、ここでフェイも引く事は出来ない。

ここでレオナルドと自分の命を救ってくれた恩を返すと共に、恩を売るべきだからだ。

対等な取引であるならば、北野も話は聞くはずだ。

フェイは未だかつて無い大きな賭けに出る。

「私をどうするにしても、話ぐらいは聞いてもらいたいのだが?」

フェイは敢えて挑発的に言う。

ここで自らの立場を意識して引いたらそこで終わりなのだ。

一気に室内の温度が下がった様に感じられる。

高橋はそんな二人をただ見守るしかない。

口を出せないのだ。

自らの失態を償わんとする北野、そしてその北野に挑戦するフェイ。

二人はお互いに一歩も引く事無く立って居た。

「・・・いいでしょう、殺すのは話の後でも出来ますからね」

物騒な事を平然と口にする北野。

先程までのものではなく、本来あるべき姿に戻っている。

「そうしてもらえるとありがたいな?」

フェイはそんな北野に真っ向から立ち向かっている。

様々な経験の差はあれど、今のフェイは北野に負けていない。

「では、提案をお聞きしましょうか?」

北野は先程のフェイの真意を意味を知ろうとする。

何が望みだ?そう言う目をした北野に、フェイは臆する事無く提案を告げた。

「なに、簡単なことだ。南部貴族連合とは言っても実情はそれほどしっかりしたものではない」

ほとんどはったりだ。

自分自身は会議中に求められた情報以上のことは持っていない。

だが、それを気取られてはならないのだ。

「ふ?先程はそんな話をしてませんでしたが?」

北野はそういって手を組む。

まるで見透かされているようだ。

そんな北野の目を真直ぐ捉えフェイは答えた。

「聞かれなかった事まで話すとでも?」

北野は余裕を見せるフェイの内心が読めない。

ここまではっきりとした態度を持った相手は殆ど居なかった。

ただのはったりにも見える。

だが、はったりにしては堂々としすぎているようにも見えた。

それに構わずフェイは提案の続きを話し始める。

「南部貴族連合と言っても、王国滅亡と同時に結束したに過ぎない。しかも自らの意思というより成り行きでそうなっている」

嘲笑を込めた様な笑みを浮かべる。

まるで南部貴族連合を軽蔑しているようだ。

「ほほう?それは面白いですね。ですが、何故内通者がこちらに来ないのですかね?成り行きでなら抜け出そうとする者もいるはずですが?」

今までそんな動きは無かった。

故に北野はフェイの発言内容はハッタリと断じた。

あくまでも保身のための発言と捉えたのだ。

そしてその考えは正鵠を得ている。

フェイははったりを通そうとしているに過ぎない。

「そんな事も分からないのか?簡単だ。お前達日本が恐ろしいからだ」

フェイ自身も感じた日本に対するイメージ、それを南部の連中が抱いてると仮定して話をする。

「しかも、その恐怖は力があるからではない」

フェイは確信した。

そう、西方は群雄割拠した。

独立の機会だと考えたからだ。

ところが南部は結束した。

これは恐怖からくるものだと。

弱いものほど群れを作りたがるのだ。

「では日本の何が怖いと?」

北野は目の前のフェイと会話してて先程の張ったり、と言う印象が抜けていくのを感じた。

まるでそれが真実の様に見えたのだ。

それだけフェイは堂々としていた。

だが、払拭できたわけではない。

その疑念は未だ大きくくすぶっていた。

「知らないからだ」

漸くフェイ自身気付いた。

自分もそうであった、と・・・。

ここに来るまでに、捕虜となってからの今までフェイは彼等日本を恐れていた。

だから彼等を認められなかったのだ。

だが、そのフェイの認識を変える切欠を暮れた者達が居た。

高橋たち特殊任務部隊だ。

彼等は確かに強い。

しかし、同時に人であると言うことを、姿を彼女に見せていた。

そして、捕虜であるにもかかわらず、彼女自身を気遣うやさしさを持った男・・・。

一瞬、その男の暢気な顔が頭に浮ぶ。

だが、今はそれどころではない。

ここは正念場なのだ。

「知らない?なにを?」

北野の問い掛けが返ってくる。が、その答えは既に見つけている。

「日本そのものを・・・だ」

フェイは言い切った。

自分がそうだから相手も、とは限らない。

だが、こればかりはハッタリではなく、確信だった。

「南部の連中はお前達の事が分からない。そして人は分からない、理解できないものに恐怖を抱く、違うかな?」

北野は返って来た答えに考えるそぶりを見せる。

どうやら、フェイの言葉が少しづつ北野の中に入っていく。

そんな感じだった。

「違いませんね。分からない、理解の及ばないものに人は恐れを抱きます」

たしかに間違っていない。

それは北野にも分かる。

「だから奴等は群れて、寄り添って恐怖から逃れようとしている。ただそれだけだ」

そして先程のレオナルドなら顔が利く、これは嘘ではない。

その嘘ではない事実を織り交ぜる事でフェイは自身の言葉に真実味を帯びさせていく。


「なるほど、話は分かりました。だが、それが切り崩せるとどう繋がりますか?」

北野はフェイの狙いが読めてきていた。

小娘でありながら、自分と対等な取引をしようとしている。

これほど腹立たしい事があろうか?

これほど愉快な事があろうか?

まだまだ小娘の領域に留まっているフェイが自分と対等に渡り合おうとしている事に北野はこの世界はまだまだ油断できないと感じていた。

「言ったろ?養父は顔が利く、と・・・。中には穏健派と言うべき者、欲が深い者、そう言ったものと直接顔をあわせられる養父なら説得も可能だ」

敢えて断言する。

あの無能な王の下で一切を取り仕切り、あの国をベサリウスと渡り合えるだけの国にした養父なら出来る。

そう信じていた。

「説得、ですか?どうやって?」

北野は小娘たるフェイにどんな考えがあるのか?

それが聞きたくなっていた。

これは北野が事態打開の方策を求めている所にうまく滑り込んだ、いや、滑り込めたといえる。

「その材料はあなた方次第だがね?領土の安堵でも、資産の保障でもなんでもいいさ。私は切り崩す手段の話をしているのであって、あなた方が用意すべき飴の話はしていないしな?」

フェイはここで北野の答えを待つ。

これで駄目なら終わりだろう。

だが、終わらない、と確信めいた何かがあった。

「なるほど・・・飴は私どもが用意すべき・・・たしかにねぇ・・・」

北野の口調が柔らかくなった。

と、同時に室内に張り巡らされた緊張感が和らぐ。

「その見返りはなんですか?」

北野はようやく、笑みを浮かべた。

その笑みは作られたものではなかった。


ここに北野は交渉で初めて相手に一歩譲った。

敢えて、と付けるべきだが、それでも敬意に値するだろう。

そして、フェイは自身とレオナルドの命を北野から勝ち取る事が出来た歴史的瞬間だった。

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