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第42話「問題」

ー陸上自衛隊シバリア市駐屯地


シバリア市郊外に建造された空港から毎日の様に人や物資が運び込まれ、駐屯地はかなりの人員で溢れかえっていた。

これから郊外の仮設宿舎へと移動するのだろう。

列を作って基地内から移動を開始した部隊の姿は、さながら一つの生き物のように規則正しい動きをしている。

これだけでも日頃から厳しい訓練を積んでいるのが伺えるだろう。

フェイとテレサを降ろし、駐屯地の警務官に引き渡した後、高橋たちは北野へと連絡をいれた。

これで北野もここにきて、一緒に聴取することになる。

もっとも、高橋たちの役目はここで終わりだ。

後は自分達の帰る場所、シバリア市内のカトレーア邸近くの駐屯地に帰るだけになる。

元々はシバリアでファマティー教テロリストからの警護で設置された仮設駐屯地だったが、また新たに設置するよりは面倒が少ないと言う理由でそのまま正式に駐屯地にされていた。

元が貴族の邸宅だったこともあり、宿舎の設営も不要なために最小限の設備投資ですんでいる。

「さて、お前達は先に帰っててくれ」

高橋はここに残る用事が出来たので、先にやる事をやっといてほしいと井上たちを帰す事にした。

「了解」

井上たちは敬礼するとそのまま73式中型トラックで駐屯地を後にしていった。

その姿を見送った後、高橋は北野が来るまでしばらく待たされる事になる。



北野は高橋からの連絡を受け、即座に南部攻略部隊の駐屯地に移動した。

途中で高橋と顔は併せたが、軽い挨拶程度で済ましている。

その後、直ぐに司令部の面々と共に聴取が行われたのだが、何故か高橋も同席する事になっていた。

「ふむ、山岳地帯の戦いはやはり簡単にはいかぬようだな」

南部攻略司令に付いた安藤幹人あんどう みきひと中将がフェイの話を一通り聞いた感想を述べる。

今の安藤は南部方面隊総監と言う肩書きを持っている。

ただ攻略するだけでなく、攻略後はそのまま駐屯し、残敵掃討、及び治安維持に当たる事になるのだ。

ただでさえ広大な領域であるため、南部各地には小さい村から、比較的大きな街まである。

ただし、ホードラー王国は南部をあまり熱心に統治していなかった所為か無法者や野生動物(モンスター含め)がかなり生息しているようだ。

流石にバジル王国に仕えていたフェイも詳しくは知らない。

西方北部に位置するバジル王国と南部では勝手が大きく違うからだ。

結局、不明な点が多い、ということを確認しただけに終わっている。

「どうですかね?陸上部隊だけで攻略できそうですか?」

北野は今後の補給のこともあり、早期解決を願っている。

だが、幾ら山岳戦に慣れた自衛隊でも、一筋縄には行かない様子だった。

元々日本は島国名だけでなく、山岳地帯が多い為に自衛隊もそれに併せた戦術を研究してきている。

それでも広大な領域であるため、どうしても時間が必要になるのは明白であった。

「難しいですね。確かに兵力は約3万ですが、この領域を制圧するには少なすぎます」

近代兵器で武装しながら、少なすぎると判断する安藤。

はっきり言って、日本を完全制圧するだけでも最低10個師団(米軍基準で約15万人)を必要とすると言われているのに、その日本より広大な領域をたった3万でどうにかせねばならないのだ。

例え一騎当千の戦力であっても、とても陸上戦力だけではどうにもならないだろう。

「しかも、南端は海に面しているとか?と、すれば他国からの物資補給も可能です。相手の疲弊を待つこともできません」

戦えば勝てるだろうが、ハッキリ言って消耗戦に近い戦いになる。

こちらも湯水のように物資を浪費できるわけではない。

このままでは短期決戦どころか数年がかりの長期戦を想定しなければならないだろう。

当初の想定では、単純な戦闘力の差で圧倒できると本土の幕僚は考えたのであろう。

しかし、その見通しはかなり甘い、といわざる得ない。

以下に情報が不足しており、国内事情も切迫してるとは言え、これは無茶が過ぎる話だ。

「最悪、ある程度確保したらそれで済まして資源を開発するしかありませんな」

必要な資源周辺の安全を確保するに止める、という事を安藤は言った。

しかし、流石にそれは拙いのは安藤でも分かっている。

結局、南部には敵対勢力が残り、将来的に敵が存在し続ける事になる。

やるからには敵対の意思を挫くほどの戦果が必要になるのだ。

「・・・流石に核は使えませんしねぇ」

北野がぼつりと呟く。

いざ本当に必要なら躊躇い無く使いそうな北野なだけに洒落にならない発言だ。

本来、日本には核兵器は存在しない。

生物、科学兵器の類とて防備研究用のサンプルがあるだけなのだ。

だが、在日米軍だった外人部隊の保有していた分を日本は獲得していた。

なので、一応は核兵器を保有する事になる。

とは言え、使わない方針は転移前から変わらず維持されていた。

使えない、そして相手にその威力が分からない為に抑止力にもならない。

核兵器はこの世界ではその存在意義を完全に失っていた。

「使う使わない以前に役に立ちません」

安藤は北野の危険な発言云々ではなく、単純な戦術的意図から使用できないとした。

「都市部に使うならともかく、山岳地帯では山自体が影となって広範囲への破壊が押し止められます。一軍を殲滅できてもそれだけの話で終わるでしょう」

そう言って安藤は核兵器は万能ではないと話す。

流石に軍事には疎いので北野もそれ以外の有効な手立てが浮ばない。

「本格的に事を構えるからには、現在の戦力では難しいです。そこで日本政府にお願いしてもらいたいのですが・・・」

安藤は北野が政府と太いパイプを持っていることを知っている。

それを使わせてほしいと言ったのだ。

北野は内容如何ですが、と言って一応の了承をする。

「抜本的解決策にはなりませんが、航空機による空爆、並びに海上艦艇による海上封鎖、及び沿岸部の制圧をお願いしたい」

つまり、航空自衛隊で山岳地を攻撃しつつ、南部貴族連合の生命線である海上輸送路の遮断をしてほしいと言ったのだ。

今までは大陸の、しかも平地が殆どだったのもあり陸上部隊で事足りたであろう。

しかし、最早その陸上だけで解決できるものではないのだ。

「沿岸部の一部にでも橋頭堡を作る。これだけで相手への心理的圧力も期待できます」

あくまでも推測ですが、付け加える事も忘れない。

希望的観測で勝てる戦いではないのだ。

使える物は何だって使うべきなのだ。

所謂いわゆる総力戦だ。

流石に北野もこれには難色を示した。

燃料は日々増産傾向にあるので心配ない。

しかし、ここ数回の戦いで弾薬の備蓄も底を尽きかけている。

アルトリアで原材料は確保出来、輸送もかなり行われて増産しているが、度重なる戦いでかなり消耗しているのだ。

流石にそれだけの戦力を動かせるかどうかは、政府でも難しいかもしれない。

「うーむ・・・厳しいとしか言えませんねぇ」

南部以外は大体落ち着きつつあるとは言え、それでも西方にはタラスク王国の侵攻が進んでおり、火種がないわけではないのだ。

防衛にのみ従事すればある程度は抑えられるかもしれないが、それでも南部で使い果たせばしばらくは無防備に近くなる。

「しかし、本当に一月、最長でも半年以内にケリを着けたいと思うなら必要です」

実際にそこまで上手く行くと言う保証はないが、それら戦力が無ければ1年2年も覚悟せねばならないだろう。

しかも山岳地帯では如何に自衛隊でも進軍速度はかなり低下する。

補給線の確保も難しい。

この世界ではゲリラ戦術はないのだが、それでも抵抗勢力が散り散りになっても抵抗をやめない場合は、半ゲリラ化するのは必定だ。

戦うからには分散させずに纏まっている所を叩くしかない。

その為には地を行く陸上戦力だけでは無理だった。

上空からの適切な支援があって初めて出来る事なのだ。

そして、相手の俸給線を遮断することは持久戦を不可能にする。

そうなれば決戦を挑まざるえなくなる。

そこに海岸付近にこちらの拠点を確保したならば、否応無く相手の動きも封じる事が出来る。

つまり、敵の体力を奪いつつ動きを封じて、残された力で殴りかかって来ざる得ない状況に追い込むと言う事だ。

そこまでやって漸く日本は目的を果たす筋道を作れる。

「・・・取り合えず現地指揮官の意見書として出しますので、そのまま使ってもいい位の詳細な報告書を作ってください・・・話はそれからです」

北野にしては歯切れが悪い提案だが、それだけ難しい問題をはらんでいた。

ただし、共通する認識はある。


この世界でベトナムを再現させるわけにはいかない。

それだけははっきりしている事だった。

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