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第34話「バジル王国の滅亡」

ーバジル王国グラナリア


グラナリア市街の攻防は海兵隊とベサリウスの勝利により、残すところは城のみになってた。

そしてその城は包囲されつつあり、攻撃の開始を待つばかりとなっている。

元々地方の領主の住まいと言うより、山賊や他国の侵略に備える意味で作られていたために防御力を考慮されている城だ。

しかし、それも今や過去のものとなっている。

日本が転移してきた事により、火砲がこの世界に持ち込まれる事になった。

それにより城砦がその本来の役割を果たす事はなくなった。

これは、日本は元々いた世界の歴史でも同じことが起きている、

その再現がこの世界で起きていた。

海兵隊の保有する火砲、M777 155mm榴弾砲が長大な射程距離を持ってその照準をバジル王国最後の頼みの綱である城へと向けられている。

榴弾砲とは爆風と破片で人体のみならず、ありとあらゆる物を粉砕する力がある。

それは城砦相手でも同じだ。

石を積み重ねて作られた城砦は堅牢な建築物であるが、現代の火砲たる榴弾砲の前にはその堅牢さは意味が無い。

一度火を噴けば1時間経たずに瓦礫の山へと姿を変えてしまうだろう。

勿論バジル王国側はそんな事実など知る由も無い。

しかし、それを知らずとも国は終わりを迎えているのは分っていた。

だからこそ、せめて犠牲はこれで最後にせねばならない。

その一念でレオナルドは玉座の間へと足を向けていた。


玉座の間ではザハンが脱出の時を今か今かと待ちわびていた。

そのザハンの前にレオナルドが姿を現したことから、遂にそのときが来たと思い表情を明るくする。

レオナルドは吐き気を覚えた。

自分がこれからやることは決して褒められた事ではない。

むしろ汚名を被ることになるだろう。

しかも、幾ら無能だ何だと言っても自分を信用する主君に対する裏切りだ。

幾らこの国に住む民のため、と理由をつけても自分の行いは人のそれに反したものだ。

その事実を目の前にして決心が揺らぐ。

だが、ここまで来て引くわけには行かない。

やらねばならぬのだ。

「おお!レオナルド!脱出の準備が出来たのか!」

実に嬉しそうなザハンにレオナルドは冷たい現実を突きつける。

「いえ、最早脱出は無理かと存じます」

ただ一言の返答だが、ザハンに現実を突きつけるには十分だった。

しばしの間、場は沈黙に包まれる。

言葉の意味を理解し、受け入れるまでの時間だ。

だが、ザハンがそんなに物分りのいい男であればこんな事態にはなっていない。

この期に及んで現実を認めたくないザハンはレオナルドにつかみかかる。

「それをどうにかする為に動いていたのではないのか!?お前は何をやっていたのだ!?」

レオナルドに向けられた罵声を前に、ただ「何もかも遅すぎたのです」と返答する。

レオナルドの告げる言葉の前に、ザハンは力なく床に崩れ落ちる。

「・・・私は・・・どうなる?」

目の前に広がる絶望は深く、その目はどこまでも空ろだった。

「・・・降伏し身命を得る他ありませんが、王となった以上は王としての責務を果たしてください」

王としての責務、それすなわち国と共にあれだ。

国が興された時に王は始まり、国の繁栄と共に王は繁栄し、国の終焉と共に王は終わる。

落ち延びて再起を果たせぬなら、国と共に終われといっているのだ。

つまり、死ね、と・・・。


それを突きつけられた時、ザハンの心中を知る術はレオナルドにはない。

ただ、ザハンは理解できないような様子だった。

「今一度、せめて最後は王らしく振舞い、王としての誤差以後を・・・」

彼は愚かで、強欲で、残酷な人物であったろう。

だが、それでも最後はその名誉を保って迎えさせたい。

それがレオナルドの下した決断だった。

「・や・・い・だ・・・・嫌だ!」

絶叫に似た叫びを上げて、見た目とは裏腹にザハンは機敏にレオナルドの側をはなれる。

もはや彼にとってレオナルドは彼自身の命を狙う敵でしかないのだ。

ザハンは腰の剣を抜き放ち狂気に犯された目でレオナルドを見る。

「お、お前は、この・・・私を裏切ったなぁ!」

正気ではなくなっているザハンの絶叫を合図に玉座の間の外で待機していた兵士達がなだれ込む。

己にとって頼みとすべき兵が玉座の間に入ってきた事によりザハンの心に余裕が生まれる。

「兵共よ!裏切り者を殺せ!」

ザハンはそう兵士達に命令する、が、兵たちは誰も動こうとはしなかった。

その様子にザハンは再度命令を下すが、やはり兵たちは一向に動こうとはしない。

「よ、余の命令が、き、きき、聞こえないのか!」

半狂乱となって三度命令を下すが、兵たちはレオナルドの背後で動こうとはしない。

何が起きているのか?と言った様子のザハンの前で、レオナルドが兵たちに命令した。

「・・・せめて苦しまぬように・・・」

レオナルドの言葉に兵たちがザハンににじり寄る。

自分の命令を聞かずに、レオナルドの命令で動く兵たちを前にザハンは兵権を預けたままだったからか、と思ったが、そうではない。

兵権は全軍の状況と、その意思確認のために必要だっただけで、実際に命令するために欲したのではないからだ。

「へ、兵権はそやつから取り上げる!だ、だから余の命令を聞けぇ!」

これで、命令を聞くと思ったのだろう。

しかし、最早彼らはザハンの命令を聞く気はない。

生き延びるためにはこうするより他は無いと考えての行動なのだ。

「な、何故だ!」

一向に彼の命令を聞こうとしない兵たちから、レオナルドから返答は返って来ない。

ザハンは徐々に後ろへと逃げるが、所詮は地方領の城の城主の間だったところだ。

然程広くない玉座の間で、逃げ場を失っていく状況に絶望の色が濃くなっていく。

「や、やめろ・・・来るな・・・来るなぁぁぁ!」

それが、ザハンの上げた最後の言葉だった。



一方の海兵隊は攻撃準備が終わり、さあ攻撃だ、と言う段階にあった。

しかし、その彼等の前で閉じられた門が開いていく。

海兵隊の兵士達は打って出てくるか、と思い身構えるが、出てきたのはたった一人の初老の男性だけだった。

手には青一色の旗を持っている。

それが何を意味するのか海兵隊には分らない。

実はこれは降伏の証で、抵抗しない事を示しているのだが、彼等の常識では白旗になる。

文化の違いと言えばそうなのだが、それを分れというほうが無理な話だろう。

そんな状態の海兵隊を前に男が大声をあげた。

「私はレオナルド・フリーマン内務卿!責任者と話がしたい!」

レオナルドと名乗った男の様子から、海兵隊員は「そこで待て」と命じて司令部と連絡を取る。

責任者と話、と言われても取り次ぐべきか判断できない。

最悪、自爆テロの様な真似でもされたら事だからだ。

彼等海兵隊は元居た世界で、アフガニスタン、イラクとで痛い目を見ている。

それは海兵隊だけに留まった話ではないが、その経験から常に慎重なのだ。


バーンは部下の報告を前に肩透かしを食らったような気分だった。

これから総攻撃、と言う時点での軍使なのだ。

まさか無視して攻撃するわけにも行かない。

そこで司令部のハウザーに連絡すると、ベサリウスとも協議してから出なければ軽々しく受け入れられないとなった。

そのため、本日中の攻略は難しくなったと思われていた。

『・・・と、言うわけなのですが、如何お考えになられますか?』

画面越しにハウザーと協議するベサリウスは、そう持ちかけられるとしばらく考えた。

青旗を持っていることから降伏の使者だとは思うが、ザハンがその様な考えをするとは思えなかったからだ。

まさかこの時点でザハンが死んでいようとは露ほどに思っていない。

「降伏の使者ではあるようですが・・・。取り合えず会わないわけにはいきませんな」

ベサリウスの返答にハウザーはどうしたものか判断に迷っていた。

交渉、となればあくまでも一軍を率いる指揮官であるハウザーたち外人部隊は口を出せなくなる。

それはベサリウスの要請で派遣されているため、戦闘での指揮権はハウザーにあったが交渉ではベサリウスにその権限があったからだ。

ハウザーとしては戦闘だけで蹴りを着けたかったというのが本音だ。

そうすれば実績を示せるので日本での自分達の地位が上がり、影響力を持てると考えたからだ。

だが、ここに来て交渉で決着が着いてしまうとベサリウスの実績となってしまい、彼等海兵隊はその手伝いにしかならなくなる。

それでは然程の地位向上はないだろう。

あくまでも実力の一端を示せたに過ぎなくなる。

しかし、こうなった以上は受け入れない訳には行かなくなってしまった。

それに今回が駄目でも次がある。

今焦る必要はないのだ。

「分りました。どちらにせよ、交渉の権限はそちらにありますので任せます。ただし、身の安全を考慮して我が隊の者を付けます」

ハウザーは交渉いかんによっては即時攻撃が出来る態勢を取るためにバーンを同席させる事にした。

万が一、降伏交渉が決裂した場合は、今度こそ有無を言わさずに叩き潰すためだ。

できれば、決裂してもらいたいと願う。

だが、その願いは誰にも聞き遂げられなかった。



ベサリウスとレオナルドは城の中庭で交渉する事になった。

そして互いに自己紹介すると、本題へと入っていく。

その中で国民と兵士たちの身の安全を条件に降伏するとのレオナルドからの提案に、ベサリウスは特に条件をつけることなく受け入れる事にした。

何故ならばザハンが既に亡き者となっているのだ。

ベサリウスも死人に鞭打つ気は更々ないのだ。

身柄引き渡しを要求しても意味が無い。

ただし、遺体の確認だけはする必要があったので、それだけは認めてもらう。

レオナルドは感謝します、と答えて城に合図を送る。

すると兵士達が城から出て来て整列を始める。

全面降伏による武装解除のためだ。

当然、武装解除ともなれば海兵隊の監視下で行われた。

残った懸念は首都に居なかった兵士達だが、それは降伏すればよし、しなければ賊として討つだけだ。

それを考えるとベサリウスは日本に丸投げしてしまえば良いと考えた。

戦力の回復が出来るまではどの道それしかないのだが・・・。


だが、こうしてバジル王国はザハンの死と共に終焉を迎える。

後にこの地を日本、ベサリウスどちらが統治するかで協議がもたれるが、それはまた後の話になる。

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