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第32話「グラナリア強襲~前編」

ーバジル王国首都グラナリア


バジル軍の十数人程度の部隊がベサリウスの動向を監視するために国境警備を厳重にさせていた。

ベサリウスが先の侵攻に対し報復に出る事が考えられたからだ。

元々国家同士ではなかった事もあり、国境を守備する砦などはない。

その為に国境に駐留する部隊は無かったのだが、ザハンが逃げるための準備中ということもあり編成されていた。

最悪、時間稼ぎを行うのが仕事だ。

勿論その事は伏せられていたのだが、噂と言う形で既に漏れていた。

そんな状態でまともな働きなどできはしない。

しかもバジル軍はベサリウス軍と違い一般市民を徴兵してしての兵である。

士気は著しく低く、間違いなく敵と出会えば四散して逃亡となるだろう。

そんな状態の幾つかの部隊から連絡が途絶えたと報が入ったのは、バジルが逃げ出す準備を始めて3日目の事だった。

「・・・ついに来たか」

予想より遅かったとは思うが、レオナルドはベサリウスの侵攻が始まったと考えた。

しかし、連絡が途絶えようとも軍の動きを見たと言う報告が無い。

軍が動くときはどうしても大所帯だ。

どうしても目に付くもののはずなのだが、その報告は無い。

警備部隊も、わざわざ黙って撃破もされないはずだ。

される前に逃亡するだろうし、最悪、伝令だけでも報告には帰ってくるものだ。

それが無いのはどう言うことなのか?

「まさか、国境を荒らして終わり、などと言うことはあるまいと思うが・・・」

嫌な予感を覚えた、そのときだった。

窓の外から聞いた事の無い音と共に城内が俄かに騒がしくなったのに気付く。

何があったのか、と思い廊下に出ると誰もが空を唖然としてみていた。

「?」

レオナルドも同じく空を見る。

そこにあったのは巨大な鳥の集団だった。

「な、何なのだあれは?」

レオナルドの声に反応するものは誰もいない。

誰にも答えられないからだ。

やがてその鳥は市街地まで降下すると、体内から紐のようなものを何本も垂らす。

そして、これを伝って人のようなものが一気に飛び出してきた。

「て、敵襲!」

誰かが叫ぶ。

敵、それは間違いない。

だが、飛竜などを使っても、空からこんな大規模な兵の展開など考えられない。

その為、対応は後手に回ることになる。



「目標上空!対空砲の心配はない!全員降下開始!」

首都強襲部隊の指揮を執るバーン・イェーガー中佐がヘリの騒音の中、部下達に大声を上げる。

それに反応したかの様に元在日米軍第3海兵師団のCH-46シーナイト、及びCH-53Eスーパースタリオンから歴戦の猛者達が市街地に降下を始める。

「GO!GO!GO!GO!」

映画のワンシーンの様に次々と降下していく歴戦の猛者たちは着地と同時に戦闘態勢に入っていく。

いや、彼等海兵隊にとっては降下中から戦闘態勢なのだ。

突然の事にグラナリアの一般市民たちは恐慌に陥るが、空から一気に現れた海兵隊に悲鳴を上げて逃げ惑うしかない。

一部警備隊が果敢にも挑むが碌な抵抗も出来ずに血を噴出し地面に転がっていく。

その光景に市民達は近くの建物に逃げ込みだす。

「市民への犠牲は止むを得ん場合を除いて最小限にせよ!」

バーンは地上に降り立つと周囲を固める頼もしき部下達に命令を出す。

迷彩柄の軍服に軍帽、そして愛銃たるM1911A1コルトガバメントを片手に颯爽と歩く姿はとても戦場にその身を置くものの姿ではない。

しかし、これは彼なりの流儀なのだ。

自らの部下がいる限りそこは戦場であると同時に安全地帯である。と言う・・・。

部下に対する絶大な信頼がそこにある。

そして、彼は部下の安全のためならば一般市民を盾にした敵を一般市民ごと葬るのに躊躇いは無い。

故に先の発言があった。

「出てくるな!じっとしていろ!」

民家のドアの隙間から彼等海兵隊を覗き込む子供にクリス・マッカラン軍曹が怒鳴りつける。

子供は驚いてドアを閉めてしまう。

それを見てクリスはほっとしていた。

彼には妻子がいた。

祖国アメリカに残して日本に来ていたのだ。

しかし、日本の転移により最早永久に会えなくなっている。

たしかに離婚秒読み状態の夫婦仲だったが、自分の子供と同じくらいの子供が戦火に倒れる姿は見たくない。

その一心での言葉だった。

「中佐、降下地点周辺確保、これより残敵掃討に移ります」

クリスがバーンに状況とこれからの行動を報告する。

バーンはそれに頷くと手近な建物に入っていく。

元々商店だったそこは比較的広い建物だ。

当然逃げ込んだ民衆もいたが構わず入っていく。

「うわぁぁぁ!」

「きゃぁぁぁ!」

男性女性の悲鳴が入り混じる中、おびえた民衆にバーンは告げる。

「この建物を一時的に接収する。安全は保障するので明け渡してもらいたい」

バーンの落ち着いた言葉に怯えながらも非難していた人々は我先にと建物の外へと逃げ出していく。

その後姿に見向きもせず臨時指揮所の設営が始まっていた。

「よし、バードスーパースタリオンは上空より情報収集を開始せよ」

近くにあった倒れた椅子を起こしそれに座ると、その彼の前にテーブルなどが設置されていく。

何度もやってきたような手際の良さだ。

「本隊に連絡、強襲に成功、作戦第2段階へ」

連絡員が無線でバーンの言葉を本隊に送る姿を横目に部隊全体の状況を確認する。

さしたる抵抗もなく順調に作戦は推移していた。

『無秩序に建物が建てられているので道が狭いですね』

上空のバード隊からの報告を聞き、白兵戦が起こりえる状況と判断できる。

しかし、如何に白兵戦が敵の得意分野でも臆する事は無い。

彼の部下にその程度で後れを取る者はいない、と信じていたからだ。

「上からの戦況把握を密に、各隊にはクリアリングをしっかり行うように連絡せよ」

以前のシバリア動乱のときと同じようにすればいい、とバーンは考えていた。

あのときに僅かながらの犠牲は出たが、お陰でしっかりクリアリングするだけで相手の抵抗力を排除できる。

「さて、この糞ったれな王様の面を拝みに行くとしよう」

軽口を言いながら状況を見極めるバーンの姿は如何にもアメリカ的指揮官の姿だった。



首都に対する強襲が成功した事により本隊である攻略部隊、海兵遠征旅団はグラナリア近郊の森の中より一気にその姿を現した。

バジル王国は山岳地帯にあるだけあって森が多い。

グラナリアもその例に漏れず森に囲まれた都市だ。

それ故に今までは周辺監視所などもあり、敵襲に対しての守備力は大きい。

しかし、その監視所も動くものがいなければ意味が無い。

その掃除を偉大なる少数精鋭ことアメリカ海兵隊武装偵察部隊(United States Marine Corps Force Reconnaissance)、通称フォース・リコンが行っていた。

彼らの迅速かつ、完璧な掃除を前に国境警備、監視所問わず無力化されていた。

その為にバジル王国側は首都近郊まで接近されていた事に全く気付いていなかった。

「中将、部隊の配置は終了、何時でも攻略に動けます」

参謀の報告にハウザー・ロビンソン海兵隊中将が森中に設営した指揮所で宜しい、と言った。

「もっとも、相手には抵抗する力もなさそうだな」

前線から送られてくる各種情報から、組織的抵抗を行っている様には見えない。

その事からバジル軍の抵抗力は緒戦からそがれていることを示唆していた。

それら状況を後方にいながらも把握できる事、そして空中から兵力を展開できる事などを目の当たりにしたベサリウスやその旗下の将たちは驚き以外のものが無かった。

侵攻を開始して僅か2日、しかも首都強襲がこうもあっさり行える彼等を前にしては、同じく少数精鋭を自負してきた彼等の働きは児戯にさえ思える。

「いやはや、日本でも最強の分類にはいる部隊とは聞いてましたが・・・」

これほどとは思っても見なかった、とベサリウスは言った。

その言葉にハウザーはにやりと笑うと、こう付け加えた。

「私どもの居た世界では我等海兵隊が世界最強ですよ」

自信に満ち溢れたハウザーにベサリウスたちも思わず信じ込んでいた。

そもそも、それだけの事を見せ付けられたのだ。

信じるな、というほうが無理らしからぬことだろう。

だが、実はハウザーの言葉は間違っている。

確かに海兵隊は強力無比であるのは間違いないが、それぞれに与えられた役割というものがる。

その専門分野の中で戦えば海兵隊とて勝てない相手はいるのだ。

真の世界最強は存在しないのだ。

だが、海兵隊はそれ単独で特殊部隊と同等のことが出来る。

故に一時期特殊部隊の様に言われた時期もあったが、彼らにとってそれは屈辱だったであろう。

彼等海兵隊は合衆国軍最強を自認しているのもあるが、部隊単独で各種任務をこなせる部隊など彼等以外に居ないからだ。

それが特殊部隊と同列では誇りが許さない。

それが海兵隊なのだ。

とは言え、現状比べるべき相手が自衛隊以外いないのでは現状、確かに世界最強かもしれない。

そんな海兵隊を相手にさせられ、しかも奇襲というべき状況に晒されたバジル王国が哀れに思えてきたベサリウスだった。

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