第1話「それぞれの現在」
と言う訳で新章と言うか第2部の始まりですw
とは家大きな変更点もないのでまったり進行ですけどねw
え?更新速度がまったりじゃない?
気 の せ い で す w
―――アルトリア地区 アリスト村
畑へ水を供給する水路が本格的に活動を開始すると同時に、下水道を施設された事はこの村の状態を一変させていた。
いまやプレハブ仮設住居は木材を使った立派な住居になっている。
初期の頃に比べたら格段の進歩だろう。
また、村人たちは日本から派遣されてきた技師などから教育を受け、様々な耕作機械を使える様にまでなっていた。
とは言え、流石に燃料の問題は今なおあるため、あくまでも人力で動かす程度のものではある。
だが、今までの標準的なやり方に比べたら雲泥の差だ。
収穫はまだまだ先だが、収穫時が楽しみなぐらい実りがある。
「日本の技術は凄いなぁ」
これが村人の感想だ。
ここら辺りの気候は比較的温暖であるため作物の実りも良い。
代わりに降雨量が少ないのだが、まだ名前も着いてない西の大山脈から流れてくる川や地下水が豊富な為、水に悩む事はない。
おかげで村は明るい表情で一杯だ。
ただし、一部ではそうでもない。
「暇だ」
アインが原っぱに寝そべり呟いた。
始めは子供たちの相手に駆り出されたが、子供たちが義務教育と言う活動に入った後はやることがなくなっていた。
シャインは子供たちに勉強を教えているし、ミューリはアルトリア基地に行ったり畑仕事を手伝っている。
「またどっか行くかなぁ」
昔から落ち着きがない性分でもあるが、各地を転々と旅をしてきた以前が懐かしく思えてきた。
「どっか、て何処だよ?」
声のした方を寝そべったまま見るとアルトリア基地の施設科でアリスト村に度々来ていた波多野拓也がいた。
波多野は馬が会うのかちょくちょくアインとつるんでいた。
しかもアインが剣士と聞いて波多野は一手お相手を、と頼んで勝負した間柄だ。
その時の勝負を観戦していた人たちから「人間じゃない」呼ばわりされた事は記憶に新しい。
「はたさんか、いや、俺ここじゃする事なくてさ」
アインの呟きに波多野が横に座りながら答える。
「アインは何がしたいんだ?」
唐突に投げ掛けられた問いにアインは答えられなかった。
ただ漠然と旅をしてきたが、そう言えば目的らしい目的がなかった。
「・・・分かんね。考えた事もないや」
日々生きるのに必死だったとも言えるが、何も考えてなかった自分にアインは愕然としていた。
「目標を持てばやることは自然に見付かるぞ?」
たった三年だけの差だが、波多野の言葉はアインに響く。
だが、何を目標にすべきかがわからない。
「もし、良かったらアルトリア基地に来いよ。お前なら歓迎するぜ?」
波多野はそう言って一枚の紙を渡した。
そこに書いてある文字は読めないが、紹介状か何かだと思った。
「漢として生まれたんだから大望ぐらい持った方がいい」
そう言って波多野はその場を離れた。
まだ用水路の水量調節を村人に教えねばならないからだ。
アインは波多野の後ろ姿を見送ると上半身を起こし、波多野から受け取った紙を眺めた。
アインには読めなかったが、そこには日本語で「アストリア(ホードラー含む)防衛軍創設説明会」と書かれていた。
北野はアルトリアとホードラーを行ったり来たりの忙しい日々を送っていた。
「やれやれ、仕事を任せて良い人材育成を進めないと・・・私が潰れそうだ」
最近始めたばかりのアルトリア、ホードラー市民の政治参加の為の教育が早く実を結ぶ事を本気で願っていた。
「彼等が育てば、いずれホードラーに関しては自治区に出来ますからね」
北野の秘書官がそう言ってコーヒーを差し出す。
普段なら秘書官なんぞ不要と思っていたが、流石に全部一人で管理しきれない。
仕方なく、今後北野の代わりになれる人材育成の一貫で秘書官を使うことにした。
「自治区になる前に私が倒れるよ」
まだ軽口を叩くぐらいの余裕はあるが、流石に疲労感があり正直厳しいとも思う。
しかし、本土の外務省にいる人材の多くはチャイナスクール出で日本の国益を理解出来ない阿呆の集まりだ。
本土からの派遣組には期待出来ないのが北野の負担になっている。
とは言え、まさかまともに使える人材を引っ張ったら今度は日本本土での人材が不足する。
これでは意味がない。
「取り敢えず形になった者を中心に現場で教育させるべきですかね」
北野はそう言いながらデスク上の書類の山を見てため息をついた。
―――ホードラー地区レノン方面隊基地
昇進して正式にアルトリア基地司令となった森の推薦でレノン方面隊の総指揮を任された伊藤重信は新しく作られたばかりのレノン方面基地からホードラー西方に睨みを効かせていた。
とは言った物の、西方諸国(元ホードラー西方諸侯)は縄張り争いに忙しくその地域だけで群雄割拠していた。
毎日の様に起こる争いから西方諸国の住人が難民となりレノンに押し寄せてくる。
伊藤はそれら難民を管理する仕事も請け負っていた。
何せ数百、数千と日増しに増えていくのだ。
中に工作員が紛れ込んで無いとも言えない。
その為、心労の重なる日々を送っていた。
「難民たちが川を渡ろうとしても渡らせるな。無理矢理通ろうとするなら威嚇射撃を行い、それでも駄目なら直接射撃を行ってもいい」
かなり過激な事を言っているのは自覚しているが、万が一にも安定してきたホードラーに破壊工作員などを侵入させる訳には行かない。
結果、川の対岸には難民キャンプが出来上がっていた。
既に難民キャンプは1万に届こうとしている。
正直このままでは遠からずに暴動になりかねない危うさがある。
「アルトリア管理官の北野さんに報告を出しとけよ」
また北野の仕事が増えるがこれも致し方ない。
一自衛官の伊藤に出来るのは難民の一斉渡河を防ぐのと難民の暴動などを鎮圧するしかないのだ。
「仮設浮橋は何時でも撤去出来る様にします」
部下の言葉に今はそれしかない。と伊藤は思う。
「取り敢えず北野さんの判断が降るまでは現状を維持する。その為に取れるあらゆる行動を許可する」
伊藤は苦虫を噛み潰した様な表情で命令した。
ここにも、日本の抱える問題が今まさに起きていたのだ。
ホードラー地区の治安を守る治安警備隊(ホードラーの警察組織)はシバリアに本部を置き、ホードラー各地に展開していた。
ホードラーは幾つかに別れているので北部は人口1万程度の街でアルトリアに一番近い都市テノリスに、東部は人口があまり多くないが海岸付近に新しく移住者の街が作られたばかりなので、境界を越えて来ない様に東部最大の都市サンバールに東部警備隊をそれぞれ配置している。
これにより全ての地域をカバーする見通しになっている。
ただし現在はまだ治安警備隊の総数が少ないため、あまり広範囲に展開しても何も出来ない。
そこで日本の自衛隊や日本の警察から派遣したホードラー警備隊が一時的に足りない分を補っている。
その治安警備隊は主要部を日本人の警察組織から派遣された人員が占めていたが、最高指揮官にラーク・カドミック元子爵がいた。
ラークは開戦間もない頃から日本との戦争は間違っている事に気付き、積極的に日本を学ぼうとしてきた。
それ故にかつての栄光を忘れられないものたちからは「売国奴」やら「権力に尻尾を振る犬」などと言われて来たが、彼自身は自分の選択が間違っていないと思っていた。
現に王国は滅び、だが民衆の生活は良くなっていた。
ラーク自身は所領を取り上げられたが、日頃から良く領地を治めていたために領民の評判もよかった故に金銭的財産は認められていた。
その上、元から軍にいたことから地理に明るく治安維持に才能を見いだされ現在の地位につけたのだ。
それ故に妬みと嫉妬を買ったが、市民からは「何処の人かは関係なく能力により地位を築ける」として尊敬の的にもなっている。
だが、そんなラークも間違いを犯した事がある。
治安警備隊の装備が貧弱過ぎるのが問題だと思ったのだ。
銃が無いのは良いが鎧もなく、武器も剣や槍ではなく長い棒(日本のさすまた)と警棒と呼ばれる短く細い棍棒だけなのだ。
これでは万が一に対処出来ない。
日本は「現代の刀狩り」と言われるホードラーの市民の武装を認めず、そう言った武器は即座に提出しなければ銃刀法という新しい法律に違反し罰せられるとした。
がだ、やはり隠し持つ市民や犯罪組織はあるわけで、それらを相手にするには無理がある。と思っていた。
しかし、技術指導に来ていた安藤泰久警視正が簡単に武装した犯罪者を素手で捕らえたのを見た。
「装備云々ではない。己を捨てて公の為に尽くす気構え無くて警察官(本当なら治安警備隊なのだが、警察と言ってしまっていた)が務まるか!」
と叱責された。
その時から装備の質ではなく、職務に当たる者の心構えが問題だと感じていた。
とは言え、安藤もこの話をされると「いや、せめて拳銃でもあれば良いが、実際渡せないなら剣や槍もありじゃないかな?」と言ったのだが、この話は現地では広まってない。
むしろ公僕とは己を捨てて公に尽くす、と言う概念だけが伝わったのだ。
だが、間違いではない。
公に尽くす信念無くして公僕たりえない。
そして志願して入った治安警備隊は公僕なのだ。
当然、この信念無い甘い輩は尽く辞めていった。
下手な軍より厳しい訓練は信念無い、もしくは意志の弱いものを駆逐し強固な組織を作り上げていた。
それはさておき、ラークは自身の執務室で新人の教育計画や今後の治安警備隊の役割を議論していた。
「・・・である以上、東部移民地域の警備は自衛隊に任せ、我々は治安そのもののみに関わるべきです」
ラークの元配下で治安警備隊の幹部に抜擢された魔術師、アルバート・サムスビーンが発言する。
周りにはアルバートとラーク以外は日本から派遣された警察幹部ばかりだが、皆ラークの部下に当たる。
「・・・ふむ、治安に専念できれば効率は上がりますな」
日本の警察OBである神野信也がアルバートの意見に賛同する。
彼は警察OBと言うが、その影響力はかなり高い。
何せ内閣安全保障室長にあった立場だからだ。
しかし、彼自身はホードラー人(地域毎にこう言う言い方をする)の自主性を尊重するだけで異論、反論があってもそれを言わないのだ。
だが、本当に間違ってない限りは基本的に賛同するだけだが、その影響力故に他の意見を封じる役割を演じている。
だからラークは神野がそう言ったと言う事は少なくともアルバートの提案は的を得て無くとも外れてもいない、と判断した。
ラーク自身も現在の治安警備隊の力は理解している。
ならば尚更、反対する理由もなかった。
追加完了。
取りあえず前作で出た人の一部の現在を書いてみました。
まだ出てきてない人もたくさんいますが、それは次話以降になりますね。
では今回はここまでです。
次回でお会いしましょう。