表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/82

第26話「支援到着」

ーベサリウス国コンスタンティ


ベサリウスは目の前で行われた戦闘に恐怖を覚えていた。

以前、難民の集落で起きた戦いではニホンの兵士は皆殺しにされていたのだ。

それ故に従来の兵より強力であるのは確かであるものの、決して勝てない相手ではないと思っていたからだ。

今回と同じく、馬なしで動くもの(車両と田辺から聞いている)も見てはいるが、不意を突いての攻撃だったのでその能力までは知らなかった。

しかし、眼前で行われた物は最早戦闘とは呼べない。

武装した大人に幼児が素手で掴み掛かるのと同じ行為に等しい。

それだけの力の差を見せ付けられたといえる。

「・・・は、ははは・・・これは・・・」

思わず笑いが込み上げてくる。

あのままバジル軍が侵攻してこなければ、タラスクの脅威が増さなければ、恐らくベサリウスはニホンから差し伸べられた手を振り払っていたであろう。

それは、そのままあの力が自分に向く事になりかねなかったのだ。


運がいい。


そうとしか表現のしようが無い。

状況の変化、そして自分に手を差し向けてくれたニホン、そして己の決断・・・。

どれもが天により定められた運命の様にも思える。

「あれが、敵に回らなくてよかったな・・・」

バジル軍の攻撃を意図もたやすく跳ね返したニホン。

手勢ともいえる少数でそれなのに、本腰を入れてきたならどうなるのだろうか?

そう思うと身震いさえ覚える。

そして、自分達の戦いの常識が崩壊した事実が突き付けられている。


新しい時代が、新しい世界の在りかたが示されているとさえ錯覚してしまっていた。



昼前に起きた戦闘が終わり、夕刻が迫る中、日本国陸上自衛隊がコンスタンティに到着していた。

「初めて御意を得ます。自分は日本国陸上自衛隊所属特設旅団司令坂上浩一郎さかがみ こういちろう少将です」

日本からの支援部隊を率いる坂上がベサリウスに敬礼を捧げる。

如何に力の差があろうと、ベサリウスは今や一国の王とも言うべき立場だ。

故に力関係など無視して礼儀を尽くすのは自衛官として当然である。

坂上の敬礼にベサリウスは感謝の言葉を述べた。

「早速ではありますが今後の事を含め対策を練ろうと思います。宜しければ情報交換を兼ねて会議を行いたいのですが?」

休むまもなく次の行動に出ようとする坂上の態度に規律正しい日本の軍人の姿を見た。

「結構ですな。では、屋敷に案内しましょう」

そういってベサリウスは坂上を含む幕僚を屋敷まで案内した。



ベサリウスの屋敷の庭には負傷者が所狭しと並んでいた。

それを横目に坂上はどれだけ厳しい戦況であるかが手に取る様に分っていた。

(如何に防衛戦とは言え、兵力差を跳ね返し続けた代償は少なくない・・・か)

そう思いながらも、坂上は敢えて黙っていた。

と、言うのも、坂上は此方からアレコレと言ってはベサリウスの面目を潰しかねないと思ったからだ。

必要があるなら、ベサリウスの側から具体的支援を提示してもらわねばならない。

もちろん、事態がより深刻であれば此方からの提言もありだろう。

会議室に到着するとそれぞれが向かい合うような形で着席し、現在までの状況などが交換された。

ベサリウスの戦力は当初の半数以下にまで低下しており戦闘に参加できるものは1000人程度しかいない。

元もとの戦力が2400程度だったのを考えれば壊滅的損害だ。

現代の常識から考えれば戦闘能力を完全に喪失しているとみなされる。

それに対しバジル軍の損害は3000以上はある見込みだ。

此方も約3割の損害を与えており、現代の常識に照らし合わせれば全滅となり、戦闘能力喪失状態になる。

だが、ここは現代ではない。

戦力が低下しようと戦闘可能な兵がいる限り損害の度合いで戦闘可能かどうかを判定する事はしないのだ。

いかなる損害を受けようと戦闘継続の意思がある限り負けではないのだ。

そう言う意味では制圧は容易くは無いだろう。

何せ殲滅、文字通り戦える兵を0にしない限り終わらないのだ。

ハッキリ言って相手したくない手合いだ。


それに対し日本は思い切ってホードラー、アルトリア内の戦力の大半を動員した旅団規模での支援だ。

総人数約3500名。

これでアルトリアに残る戦力は1000名も居ない上、ホードラー南部や警備に残った戦力は2000人いるかいないかだ。

日本本土からの派遣拡大が行われる予定だが、それまでは現有戦力で凌ぐ必要がある。

また、旅団規模での派遣は状況に対するに各部隊を統合し対応する必要があるからになる。

と言うのも、連隊や大隊規模ではそれぞれの兵科を細かく混成することになり、事態の変化に対応できない可能性が合ったからだ。

それに対し旅団規模ならば、元から混成を前提に組まれる編成になる。

一つの作戦を行う最小単位は師団だが、今回のような場合は旅団でも行えるという判断もあったが、要は師団を派遣できるだけの余力が無く、かつ一つの作戦行動する能力を有する編成となると旅団しかないのだ。

もっとも、その旅団規模でもバジル軍侵攻前のベサリウスの総兵力を上回っているのだが・・・。


そして支援旅団は幾つかの兵科が指揮下にある。

旅団本部、つまり司令部とそれに付随する普通科連隊。

そして、それとは別に4個普通科連隊、戦車中隊、2個野戦特化部隊(砲兵大隊)、施設中隊、通信中隊、偵察隊、飛行隊(ヘリ航空隊)そして後方支援隊(2個整備中隊、補給中隊、輸送隊、衛生隊)である。

これだけ見ると相当な規模に見えるが、この場にいない部隊もある、

それは戦車中隊と輸送隊とその護衛に着いている1個普通科中隊だ。

戦車中隊は早急な支援を必要な今回に限っては置いてきている。

一応後から遅れて合流の予定である。

普通科中隊は司令部付き以外の各普通科より1個小隊づつ抽出して編成されている。

これは、道中の安全の確保できる見通しが立たない事と、空港が無いため空輸も困難であり、陸路しか手段がなかったためだ。

また、本来は1個野戦特化部隊は高射特化中隊だったのだが、現状空中の脅威が確認されないために野戦特化が増強されている。

一応、補給については許可を得られ次第に施設中隊の一部が簡易でも作る予定ではあるが、大規模輸送を行う必要が出た場合は大型機の離着陸が可能なものを設置するにはやや時間がかかる。

また、空中に脅威が確認された場合は別途用意した地対空誘導弾ならびに地対空砲で対応することになっている。


ベサリウスにはその兵科がどういった物かは分らないが、日本でも中々見られない大規模派遣と判断していた。

実際、それは間違いではない。

現在まではだが・・・。

「3500名全員が戦闘員ではありませんが、単純に戦闘を行うとするならば約3000名が従事できます」

坂上の説明に、ベサリウスはそれだけでもかなりの戦力だと思った。

それと同時に、いざとなれば此方に刃を向けられかねないのを実感した。

ひとたび刃を向けられれば抗う術は無いだろう。

力量差もあるが、兵力差もある。

とは言うものの、その心配をしても始まらない。

取り合えずは彼等を信じた上で防衛に専念せねばならない。

だが、その考えに坂上は逆に攻めるべきときだ。と主張した。

これには歴戦のベサリウスも驚いた。

たしかにその力は圧倒的かもしれない。

しかし、攻められているのは自分たちなのだ。

逆ではないのか?とさえ考えてしまう。

「いえ、同じ防衛でも主導権を握るか握らないかで状況は変わります」

坂上はそう言って作戦を説明した。


基本的に日本が今まで蓄積、研究してきた戦い方は過去の先例に従っているにすぎない。

それはベサリウスも同じだが、蓄積してきた年月が違う。

この世界では戦い方はそれぞれの経験を生かす程度で、それ以前の戦術などはあまり研究されていない。

今まで劇的な変化が無かった故なのだが、日本は違う。

古代より伝わる戦術や戦略という物の蓄積と研究が、机上のものであっても経験として生きているのだ。

それはどちらが優れているかの優劣ではなく、その必要があったかどうか?の差でしかない。

もしも、この世界でも劇的変化をもたらす事案があったとするならば、今がその始まりなのだろう。

「・・・と、言うわけで、我々が行う戦争の形の一つである火力戦をお見せしようと思います」

ベサリウスには坂上の自信の笑みが、獰猛な猛獣の獲物を前にしての舌なめずりに見えた。




ーバジル王国ベサリウス領侵攻軍野戦陣


自分の天幕で損害報告を聞きヘルマンは酒でも飲んで寝てしまいたい気分だった。

数的な損害はまだ軽微といえたが、重装歩兵以外の兵士に恐怖が蔓延しつつあったからだ。

正直、士気の低下が著しい。

目の前で、横で仲間が前列にいた重装歩兵ごと吹き飛ばされる様を見せ付けられては仕方ないかもしれない。

しかし、だからといってここで撤退は難しい。

ベサリウスの軍は消耗が激しいはずな上、あの存在が援軍であるなら数的にはそれ程でもない。

更にまだ実利を得ていないのだ。

このまま撤退、帰還でもしようものならザハン王に処刑されてしまうだろう。

それだけは避けねばならない。

「何かいい方法はないものかな?」

ヘルマンが天幕内で独り言を呟いたとき、人影が天幕に入り込んできた。

重装歩兵の維持に来ていたテレサだ。

重装歩兵は基本的に奴隷を使っている。

その奴隷を魔法の力のこもった薬物で精神を破壊し、肉体を増強して運用される。

そのためには定期的な薬物投与が必要で、それを怠ると発狂して無闇やたらと暴れるのだ。

ある種の麻薬と言えるのだが、麻薬と違い特別な調合を施された解除薬を投与しない限り治ることは無い。

また、一度投与すれば微量を与える限りでいい。

麻薬ならば徐々に投薬量を増やさねばならなくなるがそれがないのだ。

実に経済的な薬物である。

もっとも、フェイなどはそのやり方を大いに嫌っているが、ヘルマンはそこまでは嫌っていない。

役に立つなら何でもいいのだ。

「いい方法がございますわ」

天幕に入ってきたテレサは妖艶な笑みを浮かべていた。

ゆったりとしたフードのない赤いローブに身を包み、その豊満な身体を覆い隠している。

だが、その美しいと言わざる得ない妖艶な雰囲気はまるで誘惑しているようだ。

「来たか。いい方法とは士気を回復させてアレに対抗できるようにする事が出来るということかね?」

現在抱える問題をそのままテレサにぶつける。

そのために呼び出したのだ。

「問題ありませんわ将軍。幸いにも私のお人形達の数が減っておりますので・・・」

自身の管理する兵を人形と呼び捨てる姿は、その見た目と裏腹に残酷な素顔を如実に表していた。

「ふむ、聞かせてもらおうか?」

状況を打開できるならどんな手段でも構わない。

ヘルマンのその考えは、この世界における一般的な特権階級の意識そのものだ。

腕を組みながらテレサの提案を聞きに入るヘルマンは、にやりと笑みを浮かべた。

「なるほど、恐怖が無ければ士気の低下も無いし、相手への接近も可能か・・・」

頷きながらこれならいける。と考えていた。

相手は接近されないよう原理こそ分らないが見えない攻撃をしているのだろう。

つまりは飛び道具だ。

逆に考えれば接近されたが最後という事になる。

「今回は野戦でしたので接近も容易ではなかったでしょう。ですが次は攻城戦です。否応無く接近戦ですわ」

それならば兵士の恐怖を押さえ込んでしまえばいい。

と、テレサは言ったのだ。

そして、その方法に魔法薬を使うのだ、と・・・。

「幸いにもお人形が半減しましたので薬は余っております。兵士の食事に混ぜれば恐怖心だけを取り除けます」

増強の魔法薬の方は混ぜると変質して効果が失われてしまう。

だから今回は諦めねばならなかった。

だが、テレサはこれが上手くいけば増強の魔法薬の改良を考えていた。

最悪、短時間で投薬された者が壊れようといい。

より多数に効果のある魔法薬の研究をしたかったのだ。

そのためにも勝てばいい、それ以外ではダメだ。

と考えていた。

「よかろう。今夜の食事と、明日の食事に混ぜればいいはずだ。やってくれ」

何のためらいも無く指示を出すヘルマンに、食事係が抵抗したらどうするのか?とテレサが聞いた。

「抵抗するならばその者にも飲ませてやれ。そうすれば言う事を聞くのだろう?」

満足いく答えを聞いたテレサは恭しく頭を下げて礼を取ると、天幕を退出し魔法薬の元に向かっていった。

(これで更なる研究ができるわね)

自分の研究が成功すれば更に予算がもらえる。

予算があれば政治的にも権限を獲得しやすい。

彼女の頭にはそれで占められていた。


勝てるかどうかの結果さえ出ていないうちから・・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ