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第24話「新たな問題」

ー日本 総理官邸


鈴平は疲れきった思いで椅子に腰を下ろす。

ここ数日、国内で大陸渡航制限法について緩和要求デモが立て続けに起き、国会でも大きく取り上げられているからだ。

更に帰化を拒んだ外国籍の為に用意した自治区に対する支援要求が日本国内に残る多くの外国人によってなされている。

はっきり言って、日本にそんな余裕は無いのにである。

「要求は日増しに強くなっているな」

正直に言えば要求にはこたえられない。

大陸渡航制限を緩和すれば多くの日本人が入植するだろう。

それにより開発も爆発的に進むと思われた。

しかし、同時に未探査地域があり過ぎるため、入植者の安全を確保、保障できる状態には無い。

制限緩和を要求するものの多くは「自己責任」を主張するが、万が一の時は確実に政府に対処を求めるだろう。

それで解決すれば当たり前、だが、被害が出たら政府や対処に当たる事になるであろう自衛隊へ批判が向かう。

鈴平は政府に批判が向かうのは何時もの事であるので構いはしないのだが、流石に未曾有の国難に際し最前線で苦労している自衛隊にまで批判を向けさせるわけにはいかなかった。

「連中は何時も口先だけだ。いざ事になれば自分達で何もしないで誰が悪い、彼が悪いと騒ぎ出す」

鈴平の愚痴を聞いた伊達が書類に目を通しながら答える。

「それは仕方ない。戦後教育とそれらを放置してきた歴代の政府の責任だ」

半場自嘲気味に言った鈴平はそう言ってため息をついた。

このままでは来年を目処に成立したばかりの大陸渡航制限法を見直す必要が出てくる。

それは構わないのだが、万難を排することは現状不可能だ。

それにどう対処するか?というのが未だに定まっていない。

「渡航制限はまだいいさ、自治区に対する支援要求のほうが問題だ」

伊達は書類を鈴平に手渡す。

そこには多くの市民団体、外国人団体からの要求が事細かく書かれていた。

ある意味厄介払いした後ろめたさはあるので、多少なら何とか融通もやむをえない。

しかし、日本の状況はそれを許すわけにはいかないのが現状だ。

食料はホードラー、資源はアルトリアから入ってくるようになり、元通りには程遠いが大分活気を取り戻しつつある。

それでも他所にそれらを回すだけの余裕が無いのだ。

「いっそ、強制的に自治区に押し込んで黙殺するか?」

過激な案だが確実な手段を伊達は提案した。

しかし、鈴平はそれに対し首を横に振る。

「反発がありすぎる。将来に禍根を残すぞ」

流石に次世代に問題を先送りするわけには行かなかった。

その上、強行すれば国内で暴動も起こりかねない。

そうなれば維持できてる治安が崩壊するのは眼に見えていた。

「今は少しづつ移民させながら国内状況の安定をはかるしかない」

あくまでも時間稼ぎではある。

将来的に独立しようが何をしようが、日本国内から自治区に移民してくれていれば幾らでも対応しようがある。

その上でリスクを減らす、そう言う計画なのだ。

むしろ、問題は市民団体のほうだ。

日本人が数多くいるので弾圧もできない。

「本当に無責任かつ、現実を無視する奴らだな。あれだけ騒げる元気があるなら配給減らしてもいいんじゃないか?」

官邸前に集まってシュプレヒコールを挙げてる市民団体がそこから見えていた。

手にしたプラカードや横断幕には「政府の横暴に断固抗議する!」「在日外国人を差別するな!」「大陸渡航制限法反対!」などなど、様々な文言が書かれている。

もっとも、その文言は多岐に渡っていても内容に変化はない。

「むしろ、資源の無駄をするなと言いたいね」

プラカードや横断幕も貴重な資源を使っているのだ。

そんな事に使うぐらいならその分を自治区へ回したいぐらいだった。

「野党も具体的な案を出さずに要求ばかり、どちらも現実が見えないのか見ないのか・・・」

最早阿部は手の付けようが無い、と言った感じだった。

「まだ不足してる資源は多いが少しづつ状況も良くなっている。それに協力する気にはならないのかねぇ」

伊達はそう呟くと窓の外に見える集団から目を離した。

何時までも見てると怒鳴り込みたくなるからだ。

「愚痴を言っても始まらない。取り合えず仕事だ」

そう言って阿部より渡されていた取るに足らない書類を脇に置いた。

「閣僚を集めてくれ。状況を整理したい」

鈴平はそう伊達に言うと、伊達は即座に閣僚を集めに行った。



約30分後、総理官邸の会議室でそれぞれの分野の閣僚より、現在の状況の報告が始まった。

大半は大きな変化が見られなかったが、それでも徐々に日本の問題が良くなっているのが数字で表されている。

特に危ぶまれていた原油などのエネルギー資源や、自給がほとんど望めなかった食料分野では大きく前進しているといえる。

しかし、それ以外の資源、例えば電子技術に使われるレアメタルや、食用の肉が圧倒的に不足していた。

一応、ホードラー地区で牧畜を広めようとしているのだが、農業が基盤であり畜産物は一部の特権階級向けの以外は発展してなかったのでしばらくは解決しそうにない。

もちろん、ホードラーが健在の時でも市民は肉類を口にしていただろう。

しかし、その頻度は限りなく低く、口にするにしても労働力としての牛が労働力にならなくなったものを流用すると言った形で、食用としての畜産は殆ど行っていなかった。

極一部でわずかにしてはいたようだが、数も質も圧倒的に劣っている。

これは食文化や技術の発展がなかったり、程度が低かったわけではなく、単に文化そのものの違いの結果だ。

日本人は昔から食に関しての向上心は半端ではないから発展しているのであって、この世界の一般市民の常識から言えば食えればいい、程度の認識しかない。

そこに味や流通の向上が入る余地はないのだ。

何より、現代の日本と違い特権階級がその他大勢を統治する世界である以上、この意識の差は如何ともし難いといえた。

もっとも、日本とて、そう言った時代がなかったわけではないが、それでもあくなき探究心で進歩させてきたのだから恐れ入る。


結局、食肉の生産は農業の様には行かないことから、価格は上昇するのは避けられないが国内自給で賄う事になった。

もっとも、元々国産が大勢を占めていたので特別問題視する必要はない。

ここで問題点となったのは食を提供する飲食サービスや、加工食品を作る生産業に大打撃を与える事になるからだ。

流石にそれは今後を考えると拙い事態だ。

なので、取り合えず保障を与えつつ、ホードラー、アルトリア地区での牧畜拡大を目指す事になった。


次の問題は資源だ。

エネルギー資源は原油の採掘が上手く行き、生産量はかなり良くなりエネルギー問題はほぼ解決しつつある。

ただし、原子力発電に必要なウランなどは未だ採掘されるに至っていないので、早急な解決が必要だった。

国内備蓄でかなり持たせられるが、やはり安定供給を目指す必要がある。

また、産業に必要な銅や錫、ポーキサイド、鉛や鉄等といった基本的金属資源も大分アルトリアで採掘されるようになったので、これも大きく改善された。

だが、希少金属を中心として、一部金属資源が不足気味である。

特に希少金属は電子技術に使われるのだが、これがアルトリアではまだ発見にいたっていない。

また、もっとも不足しているのがゴムだ。

ゴムは生活には欠かせない製品であると同時に、ありとあらゆる工業機械、製品、衣服など多岐に渡って使用されている。

だが、それが全くないのだ。

ホードラー南部に原料たるラテックスが採取できるゴムの木に酷似した植物が自生しているのだが、生憎そこは南部貴族連合の支配地域だ。

一応、日本の支配領域内にもあるにはあるが、数は少なく、しかも南部と接している地域なので危なくて調査もできない状況だった。

「・・・ゴムか・・・ゴムは、正直言って備蓄対象にいれてなかったな」

鈴平にとって移転直前、直後通しての痛恨のミスだった。

「いや、原油や金属資源、食料は確かに重要度が高かった。だが逆にありふれ過ぎてそこまでは考えてなかったな」

日ごろからその恩恵を受けていると、その価値は分らないものだ。

それが今になってその有難さが分るのは皮肉としか言いようがない。

「現状、国内備蓄は底を漬きかけています。早急に対策を行わないと・・・」

経済産業大臣の阿部が深刻であると言った雰囲気で言う。

当の本人も見落としていた事案だったのだ。

経済界からの要望意見として先日の会合で知らされて初めて知ったぐらいだった。

「一応、原油を原料とした合成ゴムもありますが、エネルギーに回してますので不足気味です」

他の石油製品も不足しがちな中で更に追加されてもどうにもならない。

「これは・・・石油の採掘を拡大すべきかな?」

伊達はそう言ったが、流石に事故があっては元も子もない。

アルトリアでも現在一箇所でしか採掘されていない原油を急に拡大生産しろ、と言うのはリスクがありすぎる。

「天然ゴムは意外とかなり幅広く使われます。衣類はもちろん工業製品にも・・・。それに原油の生産が追いついていない以上は天然ゴムに頼らざる得ないのですが・・・」

全くの盲点が浮き彫りになり、閣僚も浮き足立つ。

しかし、ここで議論してばかりも居られない。

議論して解決するなら何時までだって議論するが、行動しなければ解決しないのが現実だ。

しばらく考える様子を見せた鈴平は驚くべき事を口にした。

「・・・伊庭君、ホードラーとアルトリアの自衛隊の状態は?」

意を決した表情の鈴平に、誰もが何をしようとしているのかが分ってしまった。

それは転移前の備蓄拡大政策、アルトリア進出、ホードラーとの戦争を決断したときの表情だった。

「アルトリアはホードラーへの増強に伴い、戦力的に不足しています。また、ホードラーも先日のベサリウス国支援、並びに南部防衛のためその動きは制限されます」

伊庭は躊躇うことなく現状を告げる。

選択肢は他にない。

互いに敵視しあっている上、元の世界のように民間での経済交流などと言った考えがないこの世界で確保など望めない。

ならどうするか?

ある所から持ってくるしかない。

つまりは、南部領域の確保だ。

「この世界は、無いものを得るための侵略は常識だ。かつての世界の過去の様にな・・・」

辺りが沈黙する中、鈴平は決断を下した。

「ならば日本の為に、敢えてその常識にのっとり、やってやろうではないか」

その言葉を聴いた伊達は即座に日本国内の自衛隊をホードラーに派遣し南部攻略に当たらせることを提案した。

それには難色示す閣僚もいたが、具体的方策がない以上は決行するしかない。

幸い、法務大臣の渡瀬わたせ とおるが、南部貴族連合は国家ではなく、テロ集団だと発言した事により動揺は最小限に抑えられた。

しかし、ホードラーのときと違いなし崩し的な戦闘ではなく、意図的な戦闘は初めてである。

しばらくは眠れないかもしれないな。

と、鈴平は考えていた。


なお、今回の会議により不足している物が他にはないか、各方面と綿密に、そして徹底的に洗い出す事になったのは言うまでも無い。

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