第0話「序章」
やってきました新章。
日本の止まらない歩みは世界に如何なる変化を起こすのか?
日本に立ちふさがる新たな困難とは?
先ずは序章です。
お楽しみください。
西暦201X年9月18日
日本が異世界に転移してから4ヶ月が経っていた。
当初の国内の混乱も落ち着き、アルトリア、ホードラー両地区も少しずつだが開発が進み出している。
旧王国のホードラー地区は王国滅亡後、日本が納める中央、東部、北部と西方諸侯が相次いで独立した西方国家群、そして南方の南方貴族連合に別れたままになっていた。
また、アルトリア地域では大森林地帯を領域にエルフが大森林連邦と言う名前で正式に国家として宣言、日本と国交樹立交渉を開始していた。
とはいえ、国家を名乗ったものの主だった体裁だけのものであり実情はなんら今までと変わっていない。
せいぜい大森林との国境(便宜上の設定でしかない)を跨ぐ形で交流の為の都市建設が行われている程度だ。
これには先日、日本で可決した「大陸渡航制限法」により渡航を許可された人々が関わり道の整備や住居、その他インフラ整備を行っている。
また、アルトリア西方の山に飲料水確保と発電を兼ねたダムの建設が始まっていた。
アルトリアの治安を守る日本国自衛隊アルトリア基地は新たに日本国自衛隊ホードラー基地を城塞都市レノンに建設、ホードラー西方に睨みを効かすと同時にホードラー地域の治安維持を行っていた。
その代わりアルトリア基地に駐屯する自衛隊は規模を縮小し、大規模な空港設備、港湾設備は一部を除き民間にそのまま譲渡されている。
これにより新たに渡航してくる日本人や物資の流入が広く行われ出していた。
そして、日本が最大の懸念としていた石油も、比較的深度が浅いところから採掘出来たため、まだ量は極めて少ないが本格的にパイプラインを通ってアルトリアへと運び込まれ出した。
とは言え、パイプラインを使うまでもない量でしかないので本当に微々たるものだ。
これではまだ燃料不足は続くだろう。
そのためアルトリアでは馬を使った移動手段が広まっているぐらいだ。
そう言った状況の変化が多数あったが、実のところ大きな変化もあった。
日本にいた在日外国人の一部勢力が日本からの移住を開始したのだ。
中国、韓国、北朝鮮系を中心にホードラー東部の海岸付近に移住した彼等は日本政府の支援の下に開発を開始しだしていた。
これは、夏の総選挙で圧勝した内閣総理大臣、鈴木友平の「日本に住みたくないなら土地を用意する」の発言の下に行われた移住計画の結果だ。
元々権利を主張するだけで何ら日本に寄与しようとしない外国人勢力を厄介払いする目的だったが、多分上手く行かないと言った当初の目論見を外れ意外と多くの人々が集まった。
とは言え燃料の問題もあり大規模な移住を一度に行えはしない。
その為、第一陣3000名、第ニ陣5000名と少しずつ増やす形で行われている。
ホードラー東部の海岸付近は人口が極めて少なく、移住しても何ら軋轢が無かったからだ。
だが、弊害もある。
移住地域は基本的に自治区となるのを良いことに、渡航制限法を迂回する経路になっていたのだ。
一応山岳地帯がわずかばかりだがあったので、移住地域からホードラー東部の他の地域に入り込み道は限られるが、一部マスコミなどが移住地域に入り込みホードラーに侵入しようとしたりと問題が起きていた。
その話を少し痩せた鈴木が聞かされた時、鈴木はこう言った。
「移住地域に行けるのは移住目的の人々だけだ。マスコミが行くならそこに移住しろ」
この苛烈な発言は物議を醸し出したが、マスコミの強引かつ、法を無視した行為に非難が集中したのは当然だったかもしれない。
ちなみに移住地域は元の名前をイースタと言っていたが、特定アジア出身者が多かった事もあり移住者の中では東果(東の果て)と言われている。
はっきり言えば将来的な独立を夢見てるかも知れないが、鈴木たちからすれば勝手にどうぞ、と言った具合だ。
ただし、日本の足を引っ張ったり邪魔をする様なら容赦する気はない。
そんな状況の中ではあったが、日本は着実に地盤を固め出していた。
しかし、同じ頃、その日本に不法入国するファマティー教宣教師が問題になりだす。
正式に国交もない国からの流入は基本的に門前払い(西方や南方ホードラーの難民は別)だが、何せ相手は宗教家だ。
何だかんだと理屈をつけて来るのには参っていた。
―――日本 内閣総理大臣官邸
この日、鈴木は新しく就任したばかりの外務大臣である加藤友道の訪問を受けていた。
「・・・つまり、ファマティー教から正式に会談の要請があったと?」
予想外の事態に鈴木は呆気にとられていた。
まさかファマティー教が日本政府に正式な会談を要請してくるとは思っていなかったのだ。
「恐らく、此方の宗教の自由を逆手に取っての布教目的でしょう」
加藤が大方そんなものだ。と言う分析の元に告げる。
「にしたって・・・なぁ?」
官房長官の伊達正行も正直困惑していた。
散々ホードラーでテロに走ったファマティー教と何を会談するのか?
むしろテロに走ったファマティー教を糾弾する物にしかなり得ない。
ましてや、ファマティー教は異教を認めていない。
そんな宗教はいくら宗教の自由があっても認められないのが本音だ。
「ようやく安定したのにテロの目をいくら布教目的としたって入れられんよ」
伊達の言葉に加藤も同意見だった。
そもそも、手に入れたファマティー教の教典、つまり聖書にはっきりと「異教徒や異端者を神の名の下に罰せよ」と書かれているのだ。
これを彼等がどうにかしない限り入国は不可能と言えた。
しかも最近では日本で布教しても中々広まらない為にキリスト教やイスラム教等がホードラーで布教している。
しかもファマティー教と違い比較的おおらか(イスラム教はそうとも言えないが)な宗教がホードラーやアルトリアに入っているため、民衆もそちらに走る傾向がある。
今更来ても布教なんぞ無駄になりかねない。
「彼等は現実が見えて無いのかも知れませよ?」
ファマティー教の会談要請に防衛大臣の伊庭亮治が自分の考えを言う。
「現実が見えてない、とは?」
伊庭の発言に興味を持った鈴木は、伊原の考えを詳しく聞きたくなった。
「いえ、言葉通りです。彼等ファマティー教は自分たちの教えを絶対と考え、民衆に説けば直ぐにファマティー教に鞍替えすると思っているのでしょう。現実はファマティー教による王族の統治より今の生活が保証されてるなら気にしないのにね」
そうなのだ。
実際、ファマティー教の下に王族が統治していた時はファマティー教に不満があっても従う他は無かった。
しかし、今では色々な宗教が入り込み、ファマティー教でなくても自分たちの意思で信じる神を選べるのだ。
しかもそれらは異教、異端と言う理由で人を罰しない。
中には日本の八百万神の内の一神だ。と言い出す人さえいる。
「つまり、ファマティー教の人はファマティー教を民衆が求めていると勘違いしてる事になるな」
思わず笑い出してしまいたくなる。
実際、伊達は豪快に笑い出していた。
「丁度いい、現実を見てもらえば良いじゃないか」
笑いながら伊達が主張したが鈴木と加藤、伊庭の三人は冗談じゃない。と言う表情だ。
「それでまたテロをやられても迷惑ですよ」
とは伊庭だ。
現地人による治安警備隊がようやく軌道に乗りだし、日本の様な警察機構が形を整えて来たのにまたテロなんかされては堪らない。
「そりゃそうだな。だが会談を撥ね付ける訳には行かんから、一応やらねばならんな」
伊達がそう言ったが加藤が苦虫を噛み潰した表情を見せた。
どうやらそれで済まない話らしい。
「・・・会談場所がファマティー教の総本山で総理を名指しでも?」
この一言に伊達の表情は凍り付いた。
冗談ではない。
わざわざそんな所に行くのは自殺行為に他ならない。
「・・・一体なんの冗談だ?」
伊庭は苛立ちを隠せずに吐き捨てた。
「恐らく、日本の統治者がファマティー教を直々に訪ねて膝を屈した。と言う体裁をとりたいのでしょう」
宗教家は面子を大事にしますから。と加藤が繋げる。
そこにドンッ!と言う机を叩く鈍い音が響いた。
「ふざけるな!鈴木を死地に送れと言うのか!」
怒りの為に顔が真っ赤に染まった伊達が怒鳴り散らした。
「伊達、落ち着け。少なくとも私は行く気はない。会談したければシバリアに来いと伝えるつもりだ」
冷静に自身の立場を理解する鈴木はそう言って伊達を宥めるが、伊達は腸が煮え繰り返る思いだった。
「一応、ホードラーの自衛隊は日本から新たに派遣して増強してますから、不埒な真似をしても鎮圧可能です」
伊庭はそう言って伊達に落ち着く様に告げる。
「外務省としても総理に出席されては困りますからね。ここは一つ、シバリアでしかも次官クラスに行って頂きますよ」
加藤の頭の中に北野武が思い浮かぶ。
彼奴なら上手くやるだろう。
「・・・わかった。たしかに冷静さを失っていたな」
伊達はそう言うと冷めた茶を一気に飲み干した。
「さて、こちらの返答に向こうはどうでるかな?」
鈴木は見ず知らずのファマティー教の人間に挑戦する者の様な心境になっていた。
私はいつでも鬼にでも悪魔にでもなるぞ?
前作の続きの話になり、ちょっと時間が飛んでましたが如何だったでしょうか?
ご意見ご感想、いつでもお待ちしています。